レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝) 作:岸本 案
庭園の奥に聳える円筒の建物の扉を潜ると、視界の果てまで続く細い昇り階段が覚者たちを迎え、その階段の脇には亜空間が広がっていた。縦にも横にも建物の外観からは収まる筈もない空間が広がっており、下には奈落に続くとも思われる底が見えない闇が広がり、一瞬毎に闇の奥から星の瞬きが溢れ網膜を焼き付くす程の光が視覚を襲う。その光は恒星が己の命を燃やし尽くす瞬間の超新星爆発によって産み出されるものであり、ここは錬金術と竜の力によって創られた数万年、数億年と言われる星の寿命を凝縮した空間を擬似的に現した場所かもしれないと判断するのに、それほど時間はかからなかった。
竜の寿命は千年単位だ。永遠を求めるゴルゴランはここで星の瞬きを見つめながら、人間では到底正気を保てない三百年という気が遠くなる時間を自らの命の末路について想いを巡らせていたのではないか。
「クラン長。下を見てはいけないであります。目的地を見据えて視点を固定させれば怖くないであります」
とりとめもない感傷に浸っていたエイミーにアンジェリナが声をかける。どうやら一歩を踏み出さない理由が高所による恐怖の為と思った故の言葉であったのだろう。確かに足がすくむ程の光景だが、遅れをとるわけにはいかない。無言で頷くとエイミーは全速力で階段を駆け上がり始めた。
幾千、幾万の星が産まれては消える輪廻を繰り返す暗闇と閃光の中を、仮初めの不死を授かった覚者たちは今にも朽ち果てそうな長い階段を無心に昇っていった。
「何故、闘うのか」
その疑問は覚者になりたての頃には微塵も感じはしなかった。剣を取り闘う事は力を与えられた者の責務であり誇りであると感じることさえあった。それは間違いではない。迫り来るオークから民を守り、力を与えてくれた竜に奉仕する。その見返りとして功績を収めた覚者の身体は竜の力により、より強力なものとなる。国防とは本来そういうものだ。
極めて単純な図式であるが、血に飢えた悪魔でない以上、いずれ己の闘いに意味を見いだそうとするのは至極当然の事である。他者の命を奪う事を生業とする者が、その業を背負い血塗られた剣を捧げるに足る大義を神殿の奥で横たわる竜は持っているのか。権力争いに勤しむ神殿の人間たちの思惑を怪しまずには居られない現状で、無為に時間を浪費してしまっているのではないかと言う疑念がいつしか脳裏から離れないようになってしまっていた。闘いには勝ち続けているが、その度に大事なものを失っているのではないかと言う不安感と焦燥感は日を追う毎に増していくばかりだった。
闘いに勝った者が正しいと言う事は、単に力が強いものが正しいと言う事の裏返しであり、人類の歴史の中で、支配者による欲を満たす為だけに行われた武力に任せた赦しようがない侵略や争いは枚挙に切りがない。そして歴史は勝者が綴る者であり、その中で勝者によって行われた愚行は人の道に反するような事でも揉み消され、敗者は永遠に悪であり続ける。
今の軍事力があれば、レスタニアが勝ち続けるのは間違いない。
ここ数年でレスタニアは、国土に飛来したアークの驚異を取り除き、錬金術師と言う新たな戦闘様式を得て、フィンダム遠征では竜の後継者選びと言う他国の国政にも関与し、精霊槍術をレスタニアに持ち帰る事ができた。
その他諸々の国内で生じる不測の事態や度重なる他国からの驚異に晒されながらも、国庫の損失は最低限で済み、お釣りがつく程の軍事的発展がもたらされた。
今、精鋭部隊によって行われているアッカーシェランへの遠征もレスタニア本国に影響が出るような話は一切聞いていない。いつもより遠征に時間がかかっているが、元々が敗戦が濃厚な争乱地帯に向かったのだ。簡単に事が収束するわけがないのは当然である。それに、国内の平定はほぼ済んでおり、戦後処理にまでレスタニアが首を突っ込んでいるのではないかと言う噂さえ立っている。
メルゴダ、フィンダム、そして、アッカーシェラン。白竜の覚者は国土レスタニアの平和だけでは飽きたらず、血の臭いと戦場を求めて、その勢力と影響力を他国にまで拡大させようとしていた。
それならば、自分たちは勝者による歪んだ歴史を創る手助けをしてしまっている可能性があるのではないか。二十万と言う数の不老の覚者隊には歴史を創り変えてしまう程の力がある。
本来あるべきだった世界の未来さえ変えてしまう力が。
「奪われた」心臓が嘗てあった筈の胸に手をやり、エイミーは鼓動を確かめる。心臓を「捧げた」ではなく「奪われた」と思うようになったのはいつからだったかと思いエイミーは自嘲した。
「大丈夫。ボクはまだ死んでいない。生きているなら、この眼で見て自分が信じた道を選ぶ」
誰にも聞こえない言葉でそう呟くと、堂々巡りの思考から抜け出して上へ続く階段を見上げる。石材が馬蹄型に積み上げられた迫持(アーチの事)が階段の終わりを告げているようだった。
竜と覚者、二つの顔を持つゴルゴランは遥か上空からレスタニアを見下ろし、本土から隔絶されてから三百余年経った今、何を思うのか。会って確かめる価値は充分にあった。
星雲の中を一行は更に速度を上げて最上部へ向かった。
今週は何も無いから更新できました。
いつの間にかこのお話を始めてから1年が経っており、月日の早さを感じています。
書きたい話はまだまだありますが、ここに来ていろいろな問題が併発しております。
一番の問題は登場人物がインしなくなっていること(@_@)
これは非常に困った事で、登場人物の中の人の性格や癖、発言などもお話に関与することが多いんで、情報ソースがなくなると拙い自分の発想力では行き詰まる事があります。
どうにかエタる事なく終わらせようと思いますが、最悪人物の入れ換えなども考え、これからも執筆していく所存です(@_@)