レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝)   作:岸本 案

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第2章「覚者の資質」

 華美な装飾が施された神殿の廊下をエイミーとディビットが歩いている。いつになく陽気な表情のエイミーと対称的に、デイビットの顔には不安が滲み出ていた。ディビットは背が高く筋肉質な身体つきで、彫りの深い精悍な顔立ちが印象的だ。髪はエイミーと同じ銀色で、癖のある髪を無造作に伸ばしている。また、覚者になる前に右目を失ったため常に黒い眼帯を着けており、いかにも歴戦の戦士と言う雰囲気を醸し出している。

「エイミー。まさかさっきのなんちゃらって覚者を篭絡(ろうらく)して、仲間にでもしようって腹積もりじゃないやろうな」

「あら、正解。よくボクの考えている事がわかったね」

 先程までの謁見の間での慇懃な態度とは正反対の砕けた物腰でエイミーはディビットの問いに人差し指を立てて答えた。どうやら、こちらがエイミーの本来の姿らしい。

 絶世の美女が、少女のような笑顔を見せるその姿は一万人の男を一瞬で魅了してしまう可能性があるものだったが、戦場での鬼神のような強さと、敵対するものへの地獄の裁判官のような冷徹さを知っているので、ディビットはエイミーに惚れるような危険な真似はしなかった。

「正解、じゃないで。剣に命を捧げるモンが、ようそんなオナゴのような仕草が平然とできるな。いや、オレが言いたいのはそんな事ちゃうわ。どこの馬の骨とも解らん奴に背中を預けられるかってことや」

 クランの構成員の人選はクラン長が一任で行う。百人までならクラン長はどれだけ人員を増やしても良い権限を与えられている。互いの了解があり、正式な手続きを経れば移籍なども可能だ。ただし、覚者の本分は戦うことである。信用の置けない人間を仲間にするわけにはいかないと言うディビットの意見は至極当然と言えた。

「いや、失礼な。ボクはこれでも純然たる女の子だよ。それよりもこれ、よく見てご覧よ」

 エイミーが懐から取り出したのは、神殿が有料で提供している電子冒険手帳だ。神殿は有益な情報や告知をこの冒険手帳を媒介にして行っており、クラン長ともなればほぼ全ての覚者が代価を支払いその恩恵を享受していた。

 エイミーが手際よく電子手帳を操作して目的の頁(ページのこと)を開くと、そこには、先日行われた神殿主催の競技会の結果が掲載されていた。

「このアンジェリナって覚者、「神殿が認める覚者」百傑の七十位に入ってる。しかも扱いが難しくていつも人員不足が続いてる盾僧兵でだよ。実力はお墨付きが出ているようなもんさ。ボクなんてどうにか最後に入賞できたくらいなんだから、この人の実力も相当なものってことになるよね。ボクたちのクランからはクックとジレディーヌも入賞してるし、兵力の底上げは零細クランにはついて回る問題だからね」

「そないな適当な番付、当てになるかっちゅうもんやで。勿論、オレは参加すらしてないけどな」

「君の言うとおり、覚者の資質は神殿の順位付けで決まるものじゃない。でも戦闘技術は絶対必要だよ。無ければ大事なものを護れない」

 運による有利不利が結果に大きく影響する競技会では、デイビットのように参加を拒否する覚者も多かったのも事実だった。神殿としては覚者の士気を維持するために打った精一杯の策であったが、神殿と覚者の温度差は誰もが認めるところであった。

 レスタニアには二十万の覚者がいると言われている。その中で、使用される十の武器種の各々上位百人ずつ、合計千人を神殿が表彰したのが、先日行われた競技会だ。単純な計算式に当てはめれば、表彰されれば確率的に二百人に一人の逸材と言うことになる。武器による使用人数の片寄りがあるので、鵜呑みにはできないが、腕利きであるのはディビットにも理解はできた。

 エイミーの差し出した端末に興味なさげに渋々視線を送ったディビットだったが、確かに名前の記載は間違っていなかった。

「そやけどな、エイミー。知っとるで、自分競技会に利き腕じゃない左腕で参加しよったやろ。どこの世界にそないな不利な条件で参加する奴がおるんや。せやけど、それで入賞してまうんやもんなぁ……。レスタニアの覚者二十万の総合力もたかが知れてるっちゅうもんやな」

「あら、お見通しだった。だって、ボクが勝つって分かりきってる勝負って面白くないじゃない。ちょっと不利なくらいが一番面白いのさ」

 エイミーの屈託無い笑顔を見て、デイビットはそれ以上競技会について言及するのを諦めた。つまりエイミーは利き腕で参加すれば「優勝すら狙えた」と言外で自負しているようなものだ。確かにエイミーの剣の腕は言葉では言い表せないほど卓越してものである事はクランの誰もがよく知っているところである。

「あんなぁ、世の中には、言わぬが華って言葉もありよるねんで……」

 嘆息と共に口から零れたディビットの言葉は鼻唄混じりで歩く上機嫌のエイミーの耳には届くことはなかった。

 

 高台にある神殿に続く百五十段を越える階段を下りると、目的の二人の覚者の姿はなく、代わりにクラン構成員のシェリーとジレディーヌが待っていた。神殿の前だというのに二人とも武器を携え、どうにも落ち着かない素振りを見せていた。

「あら、べっぴんのお二人さん。お揃いで神殿見学かい。神殿内は許可の無い者の武器の持ち込みは禁止やで」

 ディビットが二人の様子を見てからかう。先程のようにジョゼフの前まで帯刀して、剰つさえ抜刀するようなことは普通の覚者には許されていない。

「そのような冗談を言ってる場合ではないぞ、ディビット」

「緊急依頼。アタシ、眠いのに叩き起こされた。エイミー、冒険手帳開いて」

 金髪の髪を紫色の髪止めで留めた大剣遣いのジレディーヌと眠そうに眼を擦る緑色の髪を両耳の上で結った童顔の術士のシェリーに促され、エイミーは先程の冒険手帳を開いた。

「テルの村が襲われてる。なんで今更テルが襲われるの」

 依頼をみたエイミーが声をあげる。オークとの小競り合いは続いているが、レーゼ神殿の目と鼻の先にあるテルの村が襲われる理由がエイミーには解らなかった。

「理由は不明。周りの覚者、皆救援に向かった」

 シェリーの言葉を聞いて、アンジェリナと言う覚者がいなかったのもそれが理由か、と得心してエイミーは腰に下げたゼピュロスの柄に手を掛けた。いずれにしても看過できる状況ではない。

「緊急ともなれば、報酬も弾んで貰えるかもな」

 軽口を叩きながら、ディビットは矢筒の中にある矢の数を確認する。シェリーとジレディーヌも各々武器を握りエイミーを見つめ、その口から指示が出るのを待った。既に全員、覚者としての戦闘本能に火が付いていた。

「解りました。我がクランはこれよりテルの村の救援にむかいます。一部隊を派遣、人員は私を入れて八人とします。ジレディーヌ、人選は」

 エイミーはクラン長としての表情と口調に戻り頼れる副官であるジレディーヌに視線を送る。

「既に出来ております。皆、礎を使い悉く転移は完了しております」

「よし。出撃します」

「はっ」

 構成員たちの短い返答のあと、四人はレーゼ神殿広場の中央にある竜の礎と呼ばれる覚者専用の転移装置に向かって走り出した。




まさかのエイミーがボクっ娘設定。
これは、口調や一人称が被らないように断腸の思いで決めた事であって、決してボクっ娘が好きな訳では、好きな訳では……。ぐはっ。
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