レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝)   作:岸本 案

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第3章「終焉の戦端」

 テルの村はレーゼ神殿から半日ほど歩いた距離に位置する長閑な村だ。川向こうの丘の上に寂れてしまったハイデル教会を見上げるテルは、覚者となった者が必ず最初に訪れる村としても有名である。白竜の奉られたレーゼ神殿に近く、見習い覚者が周辺の魔物を定期的に討伐することにより、村は大規模な魔物の襲来を受けたことがないまま今に到る。

 

「無事つきましたね。……相変わらず、転移の後は気分が優れませんね」

 不快そうな声を口から絞り出して、エイミーがこめかみの辺りを押さえながら頭を振る。

 異空間を渡り、大地に張り巡らされた竜の血脈を伝い瞬時に任意の場所に転移することが出来る竜の礎だが、その利便性と引き換えに覚者は身体的負担を強いられる。軽い息切れと眩暈程度だが、普通の人間には利用できない瞬間移動を可能にしていると思えば安い代償であると言えた。

 また、礎は使用後半日ほど経たないと再度利用できない。覚者の体内に残留する竜力が足りなくなるからだと言うのが神殿からの説明であった。

 片膝を付いて着地したエイミー、ディビット、シェリー、ジレディーヌの四人は立ち上がると辺りを見渡した。どうやら小規模な戦闘は既には始まっているらしく剣戟の音が遠くで鳴っているのが幽かに聞こえる。それでもまだ村は恐慌状態に陥っているわけではないようだった。村人たちの避難も戦闘と同時に行われている事が予想された。

「エイミー隊長、こちらです」

 礎の直ぐ傍に控えていた仲間が声を掛けてきて合流する。両手剣遣いのファッツとルル、神官のクック、そしてジレディーヌの戦徒であるマルスが身長ほどもある盾を背負って控えている。戦徒とは覚者に遣わされた従者で、主人である覚者のあらゆる命令に従う、人型の魂のない入れ物の事である。

 レスタニアの白竜は覚者を多く産み出すためにその力の大部分を使っており、それと引き換えに戦徒の完成度は著しく落ちる。一般にレスタニアの戦徒は戦闘に向いているとは言い難く、武具の生成や覚者の自室の管理が彼らの主な仕事となっていた。

 レスタニアの言葉で戦徒の事は「ポーン」と表され、ポーン郷と呼ばれるミスリウ森林の奥にひっそりと佇む教会の扉と繋がる異空間から覚者は戦徒を連れ帰る。連れ帰ったポーンは性別、名前、容姿、性格に至るまで、覚者の好みで自由に決めることができるのである。

「盾僧兵の候補が居なかったので、私の戦徒を連れて参りました。また、先行隊には村人の避難誘導も指示してあります」

 ジレディーヌが畏まって説明する。格下の相手であればレスタニアの戦徒でも魔物との戦闘に耐えうる。覚者の不得手の武器を戦徒が補うのは、それほど珍しいことではなかった。

 部隊の構成は近接物理攻撃を主体とするエイミー、ジレディーヌ、ファッツ、ルル。後方から援護する弓使いのディビット。魔力を貯めて魔法を唱える術士のシェリー。回復を担う神官のクック。そして敵の注意を引き付け受け止める盾僧兵のマルスと言う、どんな魔物が相手であろうと前衛に立つ覚者の武勇に任せて、ある程度相手を押し込むことができる教科書通りの布陣だ。

「やはり、この前の新人覚者の盾僧兵が賞金首に釣られて居なくなってしまったのは大きいですね」

 エイミーのクランの構成員は五十人を越えるが、その中でも盾を遣える覚者の数は限られている。エイミー自身は「十刀遣い」の称号を得ているので勿論盾も使えるが、クランの長たる者、前線で剣を振るわなければ示しがつかないと言う自負から剣士として戦闘に臨んでいた。明らかな格下の魔物が相手の戦闘では盾僧兵は必要とされない。しかし、同格や格上の魔物と対峙するときは相手の戦力の分散、こちらの武器の強化を担う不可欠な存在であり、戦闘の流れを左右する大きな役割を盾僧兵は持っていた。

 盾僧兵が居なくなった原因を作った賞金首討伐と言う理解不能な神殿のやり方をエイミーは恨んだが、それで現実が変わるわけではない。それでも、自分を含め覚者は皆手練れ揃いだ。どんな相手でも今の戦力で充分太刀打ちできる自信はあるが、盾僧兵が戦徒であると言うのは明らかに見劣りするところであった。だからエイミーは、是が非でも腕の良い盾遣いが欲しかったのだ。

 

「敵、接近。警戒を要します」

 戦徒のマルスがいち早く魔物の気配に気付き、盾を構えて魔物の注意を集める為にロッドに魔力で光を灯す。

 その直後に地軸を揺るがすような不気味な地響きが複数続き、覚者たちはその異様さに肌を粟立たせた。

「気をつけろ、デカイ奴がくる。しかも一体じゃあない」

「敵は複数の大型であることが予想されます。マルスを中心に散開し、一体ずつ処理します。どんな事が有っても大型に単独で挑まないように。勇敢と無謀は、同じ意味を持ち合わせません」

 ディビットが声を張り上げて注意を促すと、続いてエイミーが部隊全体に指示を飛ばす。

「出世欲に目が眩んで、我先に突進するような阿呆はこのクランにはいませんぜ」

 大柄なファッツが大剣を構えながら豪胆に笑う。全身を稀少種の魔物の毛皮で包んだ大剣遣いのこの闘士は根っからの戦闘好きだが、引き際を見誤るようなことはしない冷静な判断力を有している。頭をすっぽりと覆う兜の奥の表情は読み取れないが、魔物を狙う眼光の鋭さは隠しようがなかった。

「ウチはルルに守ってもらうから、みんな好きなだけ暴れてちょうだい。怪我したら優しく介抱してあげるわ」

 悩ましげに身悶えしながらクックが前線の仲間に声をかける。

「クックの猫臭い回復魔法を喰らいたくなければ、諸卿、奮起して敵を殲滅せよ」

 ジレデイーヌが大剣を掲げると、戦徒のマルス以外の全員がそれに倣い己の武器を天に向け鬨の声を上げた。各々磨き上げた武器の刃先に木漏れ日が反射し、七色の光が覚者たちの姿を照らし出した。

 皆、気負わずに戦いに臨む準備ができた。「良い緊張感だ」と一人心に囁き、エイミーは戦闘開始を告げるため掲げたゼピュロスを振り下ろした。切っ先から溢れた光が一際大きく輝いた。

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