レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝) 作:岸本 案
テルの村のすぐ近く、鬱蒼と茂る広葉樹の木立の中を二つの人影が魔物に追われながら駆けている。一人は魔道弓と呼ばれる特殊な弓を持ち、術士が身に付ける全身を覆うクローク(マントのようなもの)を纏った青い巻き毛を束ねた女性。もう一人は己の身の丈ほどの大きな楕円形の盾を携えた、僧侶が着用する法衣を靡かせる長く紅い髪の女性。
「アンジェリナ。そっちにもう一匹行きましたわ」
青い髪の女性が矢を番(つが)えるように弦のない弓を構えると、手にした魔道弓が輝きを放ち魔力の充填が始まる。ほどなくして放たれた不思議な輝きの魔法の矢が光の尾を引いて、アンジェリナと呼ばれた紅い髪の女性の体に吸い込まれる。重い盾を振り回しながら魔物の攻撃を耐え、消耗しかけていた体に活力が戻るのをアンジェリナは実感した。
「ありがたき幸せであります。リィナお嬢」
アンジェリナは追いついてきた複数の魔犬の攻撃に晒されていたが、盾から発する大気の幕が全方位からの攻撃を遮断していた。そして、一匹の魔犬の攻撃に合わせて盾に蓄えられた魔力を解放する。大地を揺さぶるような衝撃波がアンジェリナを中心に広がり、群がっていた魔犬は悉く吹き飛ばされた。
「炎の属性をエンチャントするであります」
アンジェリナは腰に下げたロッドと呼ばれる短い杖を抜くと、詠唱や印を結ぶことなく天に掲げた。するとロッドの先端にあしらわれた煌めく水晶が燃えるような赤い光を放ち、アンジェリナの盾と青い髪のリィナの魔道弓もロッドと同じような赤い光に包まれた。放出された魔力が周りの空気の密度を歪めて、武器から蜃気楼のような揺らめきが発生する。エンチャントとは任意で氷・炎・雷・光・闇の五つの属性から一つを選び一定時間魔力を武器に付与する魔法のことだ。当然のことながら、魔力で属性が付与された攻撃は通常の攻撃より明らかに一撃の重さが増す。相手の弱点となる属性であれば猶更だ。また、四本足の獣の姿をした魔物は総じて炎の属性に弱いことは覚者として常識と言える範囲の事である。
流れるような身ごなしで、次の瞬間アンジェリナは重い盾を持っているとは思えない高さまで跳躍しロッドに魔力を込めた。衝撃波を喰らい伏していた魔犬が起き上がり、殺意も新たに頭上のアンジェリナ目掛けて殺到する。
アンジェリナがロッドを下から上へ振り上げると人間の頭蓋ほどの大きさの炎の玉がロッドの水晶から放たれ、射線上にいた魔犬をまとめて火だるまにした。
「わたくしには炎の属性は不要でしてよ」
魔犬が倒れている間に魔力を貯めたリィナの魔道弓から放たれた禍々しい光を帯びた矢は、魔犬に命中すると人間の腕ほどもある数えられない触手を一時的に魔界から召喚し命中点に発生させた。その触手の先端に開かれた鋭い牙を持った口が矢が命中した魔犬の肉を貪り始めた。眼球や頬の肉を触手に食い荒らされた犬が地べたをのたうち回る。
「相変わらず、お嬢は趣味の悪い攻撃をお遣いになられるでありますな」
アンジェリナは苦笑したが、魔道弓は攻撃に向いた武器ではない。古の里に住む絶滅寸前のハイエルフが伝承してきた魔道弓は、本来体力の回復や魔物の弱点部位の看破などに用いられる。その魔道弓で魔物を一撃で倒せると言うのは、使い手の魔力が高いことの何よりの証明であった。
周りにいた魔物を粗方片付けると二人は視線を合わせて一つ頷いた。戦闘の最中から大きな地響きを感じていたからだ。どうやらその地響きを引き起こしている大型の魔物が、礎のあるテルの村の中心に向かっていることは間違いないようで、アンジェリナとリィナは礎から離れてしまったことを悔いた。
「あなたの新しいロッド、ロンバルディアの試運転でしてよ。わたくの自信作のお披露目ですもの、まだまだ疲れたなんて言わせなくてよ」
リィナは魔道弓を引くと、体力回復の光の矢をアンジェリナに打ち込んだ。大型の魔物との対峙は、心臓を竜に捧げ仮初めの不死を手に入れた覚者でも、場合によっては命を落とす可能性すらある危険なものだ。それを前にしてリィナが楽しそうであることにアンジェリナは嘆息した。
「お嬢、我々はお弁当を持って遠乗りに行くわけではないのであります。もう少し緊張感を持って欲しいであります」
「あら、わたくしにとってこんなの遠乗りよりも容易い事ですわ。それに魔物が何匹来ようが、あなたが守ってくださるのではなくって」
アンジェリナがリィナを「お嬢」と呼ぶのは、リィナがレスタニアに武具を流通させている富豪として名高いディアス家の令嬢だからだ。小さな町の武器屋から成り上がったディアス家が無ければ、レスタニアの覚者にこれほど潤沢に武具は行き渡らなかったと言われている。今は戦徒による生成で、より高度な武具が作れるようになったが、その生成に必要な素材の売買の仲介もディアス家が取り仕切っている。覚者や騎士団が武器を買う度、武具の生成に必要な素材を店頭で取引する度、ディアス家には料金の一部が手数料として流れ込む。その富がどれほどのものになるのか、アンジェリナには想像もできなかった。
クランに所属していなかったアンジェリナは、偶然としか言い表せない経緯によって、レスタニアでも有数の富豪の娘であるリィナを個人的に守る覚者として今は仕えているのだ。またリィナは覚者になる前に武器職人に弟子入りし、生成は出来ないまでも自分で武具の強化・改造までは行えるようになっていた。
満面の笑みで答えるリィナの破顔を見て、アンジェリナは再び大きな息の塊を肺から吐き出した。この我儘お嬢様が言い出したら聞かない事をアンジェリナは良く知っていた。
「さあ、そうと決まれば早速、テルの村を襲う悪趣味な魔物の顔を拝みに参りましょう。きっと驚くほど不細工な顔の魔物に決まっていますわ」
「驚くほど不細工な魔物の顔を拝みたい」と言うのも客観的に見れば充分悪趣味であるとアンジェリナは思ったが、口に出しては何も言わなかった。明らかに何か言いたそうなアンジェリナの返事を待たずに、嬉々とした表情でリィナは魔道弓を手に走り出した。つい数ヵ月前に覚者になったばかりのリィナには、まだ戦場の本当の怖さが解っていないのかも知れない。それでも(富豪であるディアス家の経済的後ろ楯があり、経験が浅いうちから最新の武具を使用して戦っていたことを差し引いても)驚くべき早さで成長した彼女は、今では立派に覚者として魔物に立ち向かえる力を有していた。
リィナが走り出した先にアンジェリナが目をやると二体の大型と十体程度の小型の魔物を相手にしている覚者の姿が幽かに見て取れる。ここからでははっきりと戦況は確認できないが、大型の魔物によるものであろう不吉な地響きも治まっていないので、勝敗が決した訳でもなさそうだった。覚者として、戦っているものに加勢することに一縷の否もなかった。
大きく息をして肺の空気を入れ替えたアンジェリナは、手にしていたロッドを腰に戻し盾を背負うと、リィナの後を追って走り始めた。
竜の礎のある村の中心へと。
まだ己すら知らぬ新たな仲間が待つ戦場へと。
その先に運命の出会いと、運命の戦いが待っているとも知らずに……。
やっともう一人の主人公である作者のアバターが登場。
口調や性格、ジョブなどがなるべく被らないようにするのは素人には大変でありますな(@_@)
既に被っている大剣遣いの席をどうするか…。
ここからみんなで世界を救ったり救わなかったりします。
なんか、このくらいで「本編に続く」的な感じで終わっても良い気もしたりしますが、お話はまだ終わりません。
他の場所でも触れていきますが、出てくる覚者は自分のクランの仲間で、ちゃんと中の人のモデルがいます。勝手に設定つけてるのはご容赦ください。名前もちょっとずつ変えてあるけど、もう誰のことだか当人達は読めば解ると思いますが…。
女性覚者が多い理由もちゃんと自分の中で設定してるんで、機会があれば書こうと思います。決して一人の男性覚者がモテモテになってハーレムを作ることはありませんので、ご安心下さい。
単に戦う美女を書くのが好きな訳では、好きな訳では……。ぐはっ。
ちゃんと冒険譚が主軸となる、古き良きファンタジーを目指して書いてきます。