レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝) 作:岸本 案
「エイミー隊長。先日ブリア海岸に出たとんでもなくデカイ奴がいます」
先陣を任されたファッツが絶叫に近い声で報告する。覚者たちを不安にさせていた大きな地響きの主は、レスタニアに棲息する「大型」と称される魔物の二倍以上ある三十メートル近いサイクロプスだった。通常、人間における力の大きさは筋肉の断面積に比例すると言われている。サイクロプスにもその法則が当てはまるのであれば、大きさが二倍になれば面積は四倍となる。単純に考えれば、破壊力が通常の四倍を誇る大型と対峙しなければならないということになる
「おい。お前ら。クランで来てるのか。一人じゃ怖くて何もできない雑魚覚者どもはあの大型と遊んでろ。俺たちは一人で好きにやらせてもらう」
「はっ。クランでくる連中なんているのかよ。随分と臆病だな。ま、せいぜい生き残れるように逃げ回ってろ。気が向いたら手伝ってやるよ。俺が何体魔犬を倒すか、お前らしっかり数えてろよ」
エイミーたちの近くに居た別の覚者から嘲笑が沸き起こる。テルの村に救援に来た他の覚者はみな単身であるようで、それぞれ思い思いに戦闘しているようだ。小型の魔物はそれで充分であるが、大型のサイクロプスはそうはいかない。となれば現れた大型はエイミーたちのクランで引き受けるのが妥当であった。とてもではないが、先ほどのような烏合の衆と戦線を組む気はエイミーには毛頭なかった。
部隊の編成をせずに勝手に出撃を許可すると統率の取れていない個人の武勇がものを言う戦闘になる。そんなことも分からず出撃を許す神殿と、我先に戦場に飛び込み自分より弱い相手を刈るだけに集中し、迫る大型には見向きもしない、装備している武具だけは立派な覚者たちに舌打ちしたい衝動をエイミーは辛うじで抑えた。レオがいなくなった弊害はこのような所にも綻びを産んでいるのだ。
幸い現れたもう一体は通常の大きさである。こちらを先に片付けて、各個撃破していくしかない。問題は戦徒のマルスに超大型のサイクロプスを任せておくことができるかと言う一点のみだった。
「少しくらい不利な方が面白い、とは良く言ったものです」
エイミーは大型サイクロプスを視認するとテルの村近辺の地形を頭に思い浮かべた。あの大きさの魔物とまともに力で張り合って勝てるわけがない。勝つためにはどうにかして頭部に致命傷を与える機会を作る必要があった。だが、体を伝って登ろうにもあの高さから振り落とされたら無事ではすまない。
エイミーは腹をくくった。
「マルス。五分で良いです。あいつを引き付けて、ハイデル教会に続く川へ誘導して下さい。クックとルルはマルスの援護を。シェリーは川の上流へ向かい魔力を可能な限り貯めて待機。いつでも氷の魔法を放出できるよう準備してください。マルスが倒れたら、私たちの部隊は崩壊します。その前に通常の大きさのサイクロプスを討伐してマルスの救援に向かいます」
「本気で言うとるんか。エイミー」
近づいてくる魔物から目を逸らさずにディビットが異議の声を上げる。戦力の分散は愚の骨頂だ。本来ならマルス一人で引き付けるのが定石であるが、戦徒であるマルスには荷が重いのは自明である。だが、八人を四対四に分ければ、戦力が当初の半分以下の部隊が二つできるだけだ。力は集中させてこそ効果を発揮するものである。それは、連携がものを言うクランでの戦闘であれば尚更の事だっだ。
「この状況を打破するにはこれしかありません」
エイミーの視線を受けて全員が動き出す。どんな策があるかは解らないが、今は従うしかないと言うのがクランの構成員たちの本音ではあった。
「間に合いましたわ。大型との戦闘は始まったばかりみたいですわ」
テルの村に自生している広葉樹の林から頭ひとつ飛び出ているサイクロプスを確認してリィナは声を弾ませた。村の中心までもう三百メートル程度と言うところであった。
「お嬢。大型は二体いるようであります。ぎこちないですが、ロッドから発する光の方向からみると、どうやらより大きなほうを隔離しようとしていると予想されるであります」
同じ盾僧兵のアンジェリナが超大型を誘導しているであろう他の部隊の戦況を予想してリィナに告げる。あの桁違いの大きさの魔物が地響きの正体かと確信したリィナは口角をつり上げた。令嬢の笑顔から武器商人の顔に変化する。
「目指すは超大型ただ一体ですわ。あれを沈めればわたくしの武器改良の素晴らしさを世に知らしめる事ができますわ。村も救えて一石二鳥と言うやつですわね」
これほどの富豪の家に生まれてもまだ名を売りたいのかとアンジェリナは嘆息したが、通常の大型は他の部隊が相手をしているようだったので、隔離されている超大型に向かうのは理に叶っている。
「なんだ。戦徒が隔離をしているのでありますか。あれじゃ戦場を広げるだけであります」
走りながら近づいてアンジェリナは遠目から盾僧兵の動きを観察し、覚者のそれでないと瞬時に理解した。確かにマルスが手に持ちサイクロプスを引き付けようとしているロッドの光は無駄に動き回っている。ロッドが発する光が動く度にサイクロプスは邪魔な木々をなぎ倒し、民家を踏み倒して進んでいく。戦徒は攻撃を受けない事を最優先で行動するため、そのような事が起こるのは仕方のないことであるが、近隣への被害は最小限に抑えるのが戦いの基本である。アンジェリナはもどかしげに唇を噛んだ。
「マルス。あんまり川から離れるんじゃないわよ。被害が広がるじゃない」
クックが回復魔法の印を結びながら金切り声を上げる。どうにか村を抜け、川が見える所までやってきたが、主人であるジレディーヌと離れたことによって、命令が行き届かなくなり始めているようであった。
「早くしてよね。エイミー。そんなに長く持ちそうにないわよ」
約束の五分までもう少しであるが、予想を越えるサイクロプスの攻撃の破壊力に晒されているマルス、クック、ルルの三人の体力は限界に近づいていた。
「ひゃっはー。ほんとにあの大型を相手にしてる正直者がいるぜぇ。おめでたいやつらだ」
「あんなのほっといて、適当に報酬を神殿からちょろまかしてやればいいのになぁ」
「ああ言う化け物は、英雄覚者様が退治してくれるって言うのに、何も知らねぇんだな」
「俺たちもちょっと遊んでやろうか。そのあとそっちのお姉さんにも遊んで欲しいけどなぁ」
小型の魔物を狩り終えた覚者が冷やかしに大型サイクロプスに近寄ってくる。女性覚者のルルの姿を確認すると下衆な笑いを浮かべて卑猥に腰を動かしている。
「馬鹿。あんたたちこっちに来るんじゃないわよ。危ないから下がってなさい」
クックは叫んだが男性覚者たちが忠告を聞く様子はなかった。そのときロッドに光を灯してサイクロプスを誘導していたマルスの魔力が限界に達し、息切れを起こしてその場に膝をついた。ロッドに引き付けられていた魔物の注意が辺りの覚者に分散する。
「マルス。起き上がりなさい」
クックは走りよって回復魔法を唱えるが、マルスは魔法で回復出来ないほどの損傷を負っていた。ポーン郷に預けて傷を癒さなければならない程、マルスの傷は深いものだったのだ。回避優先で行動する戦徒がここまでの傷を負うのは稀な事である。それほどサイクロプスの攻撃は熾烈を極めたと言う証明でもあった。「マルスが倒れたら部隊は崩壊する」と言うエイミー言葉が頭を過り、クックは肌を粟立たせた。サイクロプスは足元の覚者を凪ぎ払うため大きく腕を振り上げた。その視線の先には先程やって来た男性覚者たちの姿があった。
「まずい。標的はさっきの坊やたちか」
クックが気づいた時には間に合わずサイクロプスの腕が振り下ろされる。普通の覚者であれば粉々に砕け散る無慈悲な攻撃だ。標的にされた哀れな覚者たちは逃げることもできず、意味をなさない叫びをあげて最期の時を迎える筈であった。
その直前、一人の覚者の姿がサイクロプスの腕と男性覚者たちの間に割って入り、攻撃を受け止めようとした。大剣を扱う闘志は竜力を開放して全身の筋肉を硬直させることにより、僅かな間だけ通常の何倍もの耐久力を得ることができる体技を会得している。
「ルル。止めなさい。そんな奴ら助ける必要はないの」
しかし、闘士の鋼の肉体を以てしても超大型サイクロプスの攻撃を受けきることは能わず、ルルは木の葉の様に大きく吹き飛ばされ広葉樹の幹に体を打ち付けられた。全身の骨と内蔵が砕ける鈍い音が響き、ルルは致死量の血を口から溢れさせた。泣きながら駆け寄ったクックはルルの体を抱き抱えて血だらけの顔に耳を近づけた。
「ルル。ルル。ルルが息をしてない……。エイミー助けて。ルルが、ルルが死んじゃうわよぉ」
叫び声が虚しく響き、クックは死を覚悟した。サイクロプスの次の一撃で骨ごと砕かれ、只の肉塊となる自分と戦友の姿を想像し、固く眼を瞑った。
「諦めてはいけないであります。早く二人を連れて安全な所まで退避するであります」
眼を瞑ったままでも分かる程の光に気づきクックが瞼を開ける。見たこともないロッドを手にした紅い髪の盾僧兵がサイクロプスの攻撃を舞うようにかわしている姿がクックの目に飛び込んできた。
「覚者ですもの、まだその方の回復は間に合いますわ。さぁ、一刻も早く治療を。わたくしもお手伝い致しますわ」
声と共に飛来した光の矢がルルの体に吸い込まれる。駆けよってきた青い髪の魔道弓遣いが立て続けに弓を放ち、ルルの傷とクックの魔力を回復する。
「ありがとう、あんたたち。誰だか知らないけど、ありがとう」
クックは涙と鼻水を流しながら礼を言うと、ルルの体を後ろから抱き抱えるようにして岩の影に引きづりこんで、回復魔法を唱え続けた。青い髪の魔道弓遣いリィナがマルスに肩を貸しクックの所までつれてくる。
その様子を見ていた紅い髪の盾僧兵のアンジェリナが安堵の息を漏らす。どうにか戦況は振り出しに戻せたようだ。リィナの魔力があれば、恐らく先程の覚者は助かるだろう。
「さぁ、ここからが本番であります」
見たこともない巨大なサイクロプスを前にアンジェリナは不適に笑い、ロッドを持つ手に力を込めた。
その持ち主の魔力に呼応し、ロッドが妖しい光を溢れさせた。
アバター2歳記念に投稿。
アーリーアクセスなんで、数日早く誕生日を迎えました。累計スタンプも730日になりましたよ。
冒険の始まりは「テルサイ」さんでしょ?異論は認めません。
1話は2000から3000文字にしようと調整していたのに今回は4000文字になってしまった。まだまだ甘いですな(@_@)
本文は楽しく書かせてもらってます。先日2通目の感想も頂きまして、嬉しい限りです。
そんな中、作者を困らせているのがサブタイトル。
「⚪⚪の⚪⚪」って形を意図的につけてます。なんかクエストの名前っぽいでしょ?
このサブタイトル考えるのに時間がとられてるんですよ。ありきたりと中二病の中間くらいのテイストで考えるのが大変。既にボキャブラリーがキャパオーバーしてます。
あ、そう言えば、本文では敢えてカタカナを出来るだけ使わないようにしてるんですよ。「ハイファンタジー」感を出す為に敢えて漢字や和製の言葉を選んでます。
固有名詞や世界観を壊さないものは使ってますが、便利に遣い過ぎると安っぽくなると言うか、世の中にたくさんあるゲームの中に入り込んじゃった的な作品になることを嫌ったためです。
同じ理由で、擬音語や擬態語も使用しません。
あと「?」と「!」も使いません。便利だけどこの2つがなくても会話文が成り立つように人物の描写を書くのが、自分なりには好きだったりします。
また、ゲーム用語も使いません。火力とかタゲ取りとかDPSなんて言葉は今後出てくる可能性はほぼ0です。
変な拘りを持って書いてますが、完全自己満で書いてる作品になるので何卒ご容赦ください。
目指せ。古き良きファンタジー。