レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝)   作:岸本 案

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第6章「無情の戦場」

「クック。ルル。マルス、無事ですか」

 村の中心から通常の大きさのサイクロプスを討伐した四人の覚者が走り寄ってくる。みな一様に返り血を浴び、携えた武器は赤く染まっていた。どうやらマルスで超大型を引き付けると言う策は破綻したようだ。クックとマルスの消耗具合と瀕死のルルを見れば、それは誰の眼にも明らかだった。同時に、クックの傍らで魔道弓による回復を担っている青い髪の覚者と、サイクロプスと対峙している紅い髪の覚者がその危機を救ってくれた事も自明であった。

「謝罪も礼も後です。まずはあいつを討伐します。ルル、もう少しだけ我慢して下さい」

 エイミーは屈み込むと、クックに抱き抱えられているルルの亜麻色の肩までの髪を優しく擦った。流れ出たばかりのルルの血がエイミーの手に赤い染みを作る。瞬間息が詰まり立ち尽くしたエイミーにジレデイーヌが声をかける。

「エイミー隊長。戦闘は続いております。お早く」

 我に還ったエイミーはゼピュロスを抜刀し川に向かおうとしているサイクロプスに向かって走り出した。

「村の中の魔物は全て片付けたで。お前ら三人は転移が使えるようになるまで、宿屋で休ませてもらえ。ええな」

「わたくしもお手伝い致しますわ。連れが戦っているんですもの。わたくしだけここに留まることはわたくし自身の矜持が赦しませんわ」

 走り去ろうとする四人にリィナが立ち上がり魔道弓を放つ。通常のサイクロプスとの戦闘で削がれた四人の体力が少しずつ癒えていくのが分かる。

「おおきに。クックは前線から下げるんで、回復役がいないよってな。よろしゅう頼んますわ。ほな、ついてきてくれ」

 リィナは無言で頷くと、最後尾を川へ向けて走り出した。不思議とたった今知り合った覚者と行動を共にすることに違和感はなかった。

 三人が前線を退き二人が部隊に加わった。まだ戦力はそこまで落ち込んでいない。サイクロプスを討伐することは充分可能であるとエイミーは考えた。ならば討伐に向けて戦闘を続行するまでである。

 

「盾僧兵。すまない。サイクロプスを川の中に誘い込んでください」

 エイミーは全く気圧されずに超大型サイクロプスと渡り合っているアンジェリナに叫んだ。アンジェリナも相手の攻撃をかわしながら隙をみてロッドから魔法を射出しているが、その大きさ故攻撃はどうしても脚部にしか届いておらず効いているようには到底見えない。やはり討伐するには頭部を狙う必要があった。アンジェリナから返事はないがエイミーの方を一瞥すると力強く一つ頷いた。アンジェリナが声を出さなかったのは、大型との接近戦闘中は舌を噛む可能性があったからだろう。

 川の深さは人間の腰程度まで、丁度一メートルと言ったところである。アンジェリナは絶妙な位置取りで、自分は川の中に入らずサイクロプスを川の一番深い所に誘導していく。その様子を見てエイミーたち一行はその手際の良さに一様に感心した。

「上出来ですね。あの覚者が件のアンジェリナであることは間違いなさそうですね」

 エイミーは満足気に口角を上げると、川の上流にいるシェリーに合図を出した。

「シェリー。魔力を解放して、可能な限り川の水を塞き止めてください」

 エイミーの声と同時に大魔法が発動し、大地に浮かび上がった魔方陣から夥しい数の氷の柱が連なって壁を作り、川の流れを塞き止めた。水位はみるみる下がり、上流の氷の壁は決壊寸前になる。

「恐らくあいつの腰くらいまでの濁流が来ます。体勢を崩したところを橋から飛び移って揺さぶりましょう」

 大型の魔物は総じて三半規管が弱い。激しい振動を繰り返し与え続けると平衡感覚が麻痺して立っていられなくなる。膂力(りょりょく)で劣る覚者が大型の魔物に勝つには大地に横倒しにして頭部を狙うことが定石であった。万が一振り落とされても水の上ならまだ傷も軽いはずだ。もっとも川は濁流となっている。全くの無事と言うわけにも行かない可能性はある。

「ディビット。橋に残ってあなたは弓で威嚇して。あの盾僧兵が逃げる暇(いとま)を稼いで下さい」

 返事を待たずにエイミーとジレディーヌ、ファッツ、リィナは橋から跳躍して超大型のサイクロプスに飛び移った。程なくして氷の壁が決壊し、轟音と共に濁流が上流から押し寄せる。ディビットが矢を放ちサイクロプスの注意を引き付ける間にアンジェリナが川原を駆け上がり退避する。ここまではエイミーが想像した通りだった。

「こいつ、しぶといな。はやく倒れろ」

 サイクロプスに捕まらないように、しがみつく場所を変えながら四人は動きを合わせて体重をかけサイクロプスの体を揺さぶる。装備が重いファッツが耐えきれず一度橋に戻って息を整え再度跳躍する。濁流はサイクロプスの動きを停めてくれているが、もう勢いは減衰し始めていた。一刻の猶予もないのは明らかだ。

「くっ、時間切れですか」

 エイミーも歯を喰い縛って必死で体重をかけるがサイクロプスはなかなか崩れ落ちない。

「どうする。エイミー。もう一度流れを塞き止めて濁流を待つだけの体力は俺たちにはないで」

 ディビットはアンジェリナの安全が確保されてからも矢を射つづけ、体に張り付いた覚者たちの援護をしている。

 エイミーが退却も視野に入れ、次の手を考えていたその時、リィナが声をあげる。

「アンジェリナ。雷のエンチャントを。私が良いと言ったら、ロッドの魔力を放出しなさい」

「了解であります。お嬢」

 リィナの叫び声に、橋の上に駆け上がって来たアンジェリナが息を切らせながら応答する。全員の武器にサイクロプスの弱点である雷の属性が付与され、その魔力が武器を煌めかせた。

「弓遣いさん。わたくしがサイクロプスの弱点を看破しますわ。一点集中で撃ち抜いてくださいませ」

 リィナは勢いを付けてサイクロプスの体から手を放すと空中で魔道弓を番える構えをし、相手の巨体を凝視した。すると、魔道弓が己の意思があるように自然とサイクロプスのある一点の部位に引き付けられるように照準をあわせる。

 瞬間、サイクロプスの右腕の肘が妖しい光を放った。

「いただきやで。そこやっ」

 狙いすましたディビットの矢が、高い弓弦の音を響かせて飛翔すると、寸分違わぬ正確さで揺れ動くサイクロプスの右肘に吸い込まれるように命中した。どうにか倒れないよに踏ん張っていたサイクロプスは大きく体勢を崩した。

「みなさん。感電しますわ。サイクロプスからお離れになって」

 自身も空中にいたリィナは着地すると川から離れる。その声に驚いた三人が大慌てでサイクロプスの体から橋へ飛び移った。

「アンジェリナ。今でしてよ」

 勝ち誇ったリィナの声が響き渡ると、アンジェリナのロッドから雷の属性の魔力が解放されサイクロプスを感電させた。ついに、三十メートルある巨体が大きな水柱を立てて仰向けに倒れこんだ。

 

 

 そこから先は、一方的な戦いであった。

 エイミーの突きが頭蓋を貫通し、振り下ろされたジレディーヌの大剣が鼻柱を粉砕し、大きく振り払ったファッツの剣が牙を叩き割り、ディビットの矢が一つしかない眼球に突き刺さる。なんとか動き出そうとするところへ、アンジェリナとシェリーの魔法が体を凍結させて、その動きを封じる。

 倒れた魔物に覚者が手加減をすることはない。魔物が動かなくなるまで徹底的に攻撃は続けられる。手負いのまま立ち上がらせれば、どんな捨て身の反撃が待っているか判らないのだ。狩る者と狩られる者の立場が瞬時に入れ替わる。それが、彼ら覚者が命を賭して立つ戦場なのだ。

 

 数分後、川に残ったのは規格外のサイクロプスだったものの死骸と、感電して水面に浮かぶ魚の群れだった。遥か下流まで川はサイクロプスの血で赤く染まり、川原には血の臭いが満ち溢れた。




社員旅行で、2日インできない腹いせに投稿。
ああ、こうやって皆との差が広がっていくのね(@_@)

ただでさえ、こっちの執筆に1話で三時間くらい取られていると言うのに。
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