レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝)   作:岸本 案

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第7章「西風の神器」

「君がアンジェリナだね。助かったよ」

 愛剣を腰に戻してエイミーがアンジェリナに近づく。戦闘の時より遥かに子供っぽい仕草と言葉遣いにアンジェリナは一瞬戸惑ったが、すぐに当たり前の疑問が浮かんだ。

「自分のことを知っているのでありますか」

 ごく普通の疑問なのだが、このときのアンジェリナの表情はまるで、自分を知っている人間を探しているような口振りであった。

「いや、名前くらいしかしらないよ。この冒険手帳の百傑に名前のある人だろうなと予想していたくらいで」

「そうでありましたか。……光栄であります」

 言葉とは裏腹にエイミーの答えに対するアンジェリナの落胆は明らかであった。美しい口唇から漏れた嘆息は咽(むせ)返る血の匂いにかき消されたようで、遠い目をした髪と同じ色のアンジェリナの紅い瞳は憂いを含んでいた。

「本当に感謝します。怪我をした仲間に成り代わりお礼申し上げます。あなたがたのご助力がなければ、我々もどうなっていたか分かりませんから」

 ジレディーヌが深々と頭を下げる。どのような経緯であれエイミーたちが助けられたのは事実であり、感謝しても感謝しきれないほどであった。この二人が居あわせなかったらと思うと、ジレディーヌは背筋に冷たいものが走る思いだった。併せて、エイミーの策が破綻していたことにも驚きを隠せなかった。今まで共に戦ってきたなかで、エイミーの立てた戦術が根本から崩れた事は一度もなかった筈だ。それほど敵の力は強大になりつつあるのかとジレディーヌは自問したが、答えは得られなかった。

「なんですの。さっきから皆様アンジェリナばかり気に掛けて。大剣遣いさんを回復したのもわたくし、サイクロプスを倒したのもわたくしの咄嗟の指示があったからですわよ。このリィナを無視して話を進めるなど言語同断でしてよ」

 矜持を著しく傷つけられたリィナが金切り声を上げて割って入る。確かにルルの回復を担い、サイクロプスを倒す策の指示を出したのはリィナだった。

「これは失礼。……リィナ。リィナとはあのディアス家のリィナ嬢のことですか」

「左様であります。お嬢は紛れもなく、レスタニア有数の富豪。ディアス家のご令嬢であります」

 ジレディーヌの疑問にアンジェリナが応えると、リィナは細い顎をやや上方に傾けて鼻から息を大きく吐き出した。したり顔で一行を見渡すが、エイミーたちから家柄を羨むような反応はなかった。リィナの予想に反して、みな一様に他の覚者と接するのと同じように礼を述べるにとどまった。

「あ、あら。それだけ。ディアス家の令嬢のわたくしが助けたと言うのに」

「勿論、助けてくれたことは感謝するよ。それと君がディアス家のご令嬢であることは話が別だよ。でも、君の魔力はすごいね。ボク、少し驚いたよ」

 今まで見てきた人間たちと違う反応にリィナは戸惑った。ディアス家の名を出せば、どんな人間もその偉大さを褒め称え羨望の眼差しを送ってきたのに、目の前の覚者たちは自分を一人の覚者として他の人間と分け隔てなく接している。

 あるいはそれは、家柄に囚われていたリィナ自身がどこかで求めて止まなかった存在かもしれなかった。

「ボクたちはこれで失礼するよ。本当はもうちょっと話したかったけど、仲間の治療に戻らないといけないから。覚者として戦っていれば、また君たちと一緒に戦う事もあるかも知れない。その時を楽しみにしてるよ」

 本来アンジェリナとリィナを仲間に迎えると言う目的はあったが、エイミーたちには、ルルとマルスの回復が優先されるのは仕方のない所であった。

 言い終えて振り返るエイミーの腰に挿した細身の剣を見て、リィナの動きが止まる。

「お待ちになって。その腰に挿している剣……」

 それ以上言えずにリィナは眼が釘付けになった。僅かに黄色味を帯びた稀少金属ヒヒイロカネで拵えられた、この世に四本しか存在しない幻の四風神器と言われる剣を前にリィナは完全に心奪われていた。武器商人として生きている間に見られることがあれば幸運と言われる剣がまさに目の前にあった。

「ああ、これはゼピュロス。ボクの愛剣さ。死んだ師匠から譲り受けた業物(わざもの)だよ」

 予想通りの答えに卒倒しそうになりながら、リィナは生唾をのんで、エイミーの腰を覗き込んだ。細い刀身は淡い光を放ち、作り手の魂が込められたその剣は、持ち手の技量と志を吸収し静謐とさえ言える佇まいで腰に収まっていた。

「良かったら触ってみるかい。命の恩人にこれくらいのお礼しかできないのは心苦しいけど」

「良いんですの」

 目を輝かせて、恐る恐る差し出された柄を握ろうとしたリィナにアンジェリナが声を掛ける。

「お嬢。この方たちはお仲間の治療に戻らねばならないであります。引き留めては大事に触るであります」

「それならわたくしたちもご一緒すれば良いだけのことですわ。剣の鑑賞はそれからでも遅くはありませんでしてよ」

 嬉々とした声で宣言するリィナとその答えに嘆息するアンジェリナを交互に見ながら、エイミーは苦笑した。

「そうしてくれると有難い。腕の良い術士と盾遣いは、いくらいても足りないからね」

 村に走りだしたエイミーたちの後を追って、リィナとアンジェリナも静けさを取り戻したテルの村へと向かった。




もうちょい掘り下げて書きたかった章です。

後で加筆、修正を入れる可能性があります。
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