青年士官苦労記 〜帝国陸海軍奮闘ス〜 灼熱のノモンハン編 作:休日ぐーたら暇人
翌日 6月14日 ハルハ河西岸 モンゴル領内
「……車列同士の間隔具合から見ても、大軍だな」
無事に渡河した三ヶ国混成遊撃支隊…混成実験中隊に満州軍・東露軍部隊が加入した為、出撃と共に名称を変更された(石原次長命名)…はソ連(とモンゴル)軍の移動車列を見ながら松塚が呟いた。
「既に一個師団以上は移動しているわ。先遣部隊と合わせても、本気ではやる気ね」
隣で同じく車列を見ていたザミーラ中尉が言った。
「まあ、この車列だから、もう数個師団…下手したら一個軍団くらいは持ってきそうだな。まあ、兵力はソ連流と言うべきだけど」
苦笑いを浮かべながら松塚も苦笑いを浮かべる。
「それで、この車列を襲う?」
ザミーラ中尉の隣で同じく観察していた勝中尉の言葉に松塚は首を左右に振った。
「いや、移動中とは言え、あの車列群を襲うなんて白昼の前線で敵師団相手に正面から喧嘩を売る様なものだ。1つ、2つの車列は潰せても後続が態勢を整えて逆襲してくるよ。こんなところですり潰されたら『遊撃』の意味合いがない」
そう言うと後ろを向き、無線機の送受話機を握り待機する根岸に顔を向けた。
「根岸、石原次長に通報。『敵一個師団程度通過。サレド増加中』以上だ」
「わかりました。伝えます」
そう返事を返して根岸は無線を使って更に後方にいる待機中の本隊と共に行動する通信部隊に先程の通報を送る。
「今はこうして敵情を送るのに徹しよう。どちらにしても、当分はこんな毎日だろうしな」
陽気ながら何処かに苦味を感じる言い草で松塚は言った。
4日後 6月18日 朝
「……まあ、いいだけどさ…」
缶詰朝食を終えた直後、補給路の監視に行ってい勝中尉達を出迎えに出た松塚が見たのは……トラックと拘束されたソ連兵2人が何故か居た。
理由を聞いたところ、夜に故障して止まっていたトラックを監視人員で夜襲、乗員2名とトラックを丸ごとパクって来たそうな。
そして、先程の発言になる。
「で、このトラックには何が乗ってたんだ? まあ、故障して止まってたところを見ると、緊急に必要って物でも無さそうだけど」
そう呟いて荷台に回る…前に牽引している物を見て転けた。
「火砲引っ張ってたのかよ!? なら、別車両で牽引しろよ!!」
「しかも、これ、ソ連が新しく配備し始めた新型の122㎜榴弾砲ですね」
わらわらと集まって来た人間の中に居た水谷が言った。
数人は荷台から砲弾を見付けて取り出してきた。
「ふーむ、分離式では無く、薬莢式か。装填手順が簡略化出来て発射速度が上がりますね」
「え、ウチの火砲って分離装薬式なの?」
「同クラスの火砲なら加農砲も榴弾砲も分離装薬式ですよ」
柳田の疑問に水谷はアッサリと答える。
「松塚大尉、捕虜を尋問したが機密や作戦などは知らないそうよ」
横で乗員を尋問していたザミーラ中尉が話し掛けてきた。
「まあ、ソ連の将校は兵隊に何も教えないからな」
「えぇ、でも、乗員の話だと牽引式の76㎜野砲4門、自分達が牽引していた榴弾砲2門とその牽引車両、数両の弾薬車で1個とした梯団2つで前線へ向かっていたそうよ。それで自分達は2つ目の梯団で、故障で後続を待っていた様ね」
「なら、今のところソ連はこのノモンハンにはそこにあるのを含めて12門の砲兵隊用火砲がある訳か」
「そうね。でもね、実は『第3の梯団』があるそうなの。火砲は76㎜野砲4門よ」
「第3の? なんで幽霊みたいな第3の梯団なんてあるんだ?」
「そう、そこ。それで何時もは口煩い政治将校がその第3梯団に居ついてるそうよ。理由は『自走野砲』だから」
「自走野砲…自走砲……水谷! 確か前にソ連は自走砲を開発してるって言ってたよな? どんなのか解るか?」
「情報だけで不明な部分が多いです。写真も何もありませんし」
「それは不味いぞ。第一次大戦でも野砲が戦車を仕留めた事例がある。野砲を搭載した自走砲なら動き回られるのは厄介だし、装甲が厚いなら動くトーチカになってしまうしな」
松塚の質問に水谷は困惑しながら答える中、元砲兵な松平が懸念を口にした。
「……余り動かないつもりだったが、そう言った事なら話は別だ。戦車、並びに歩兵1個小隊準備! 出るぞ!」
「で、なんでこうもアッサリ成功する?」
苦笑い全開で車長ハッチで呟く松塚。
道路に歩兵小隊の速射砲分隊を擬装して進行方向左右に歩兵と共に配置、松塚とザミーラ中尉の戦車を進行方向とは反対側に擬装配置して、包囲する形をとっていた。
そこに入り込んできた自走砲を勝中尉の騎兵隊がモンゴル騎兵に化けて停止させ、ノコノコ、且つグチグチと言いながら権限を振りかざす政治将校を勝中尉が羽交締めで拘束、他の乗員達が驚いている間に松塚・ザミーラ中尉の戦車で後ろを塞ぎ、擬装を捨てた歩兵隊と速射砲が包囲。
最後はザミーラ中尉が投降を呼びかけるとアッサリと投降・武装解除された……政治将校は簀巻にしたが。
「で、どうだ、自走砲?」
「こちらにある自走砲とは余り変わりありません」
「重装甲の自走砲でなくてよかった」
検分の為に来た水谷に訊くと苦笑いを浮かべながら答え、それを聞いて松塚はホッと安心する。
「さて、此奴を持って帰ろうか」
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