青年士官苦労記 〜帝国陸海軍奮闘ス〜 灼熱のノモンハン編 作:休日ぐーたら暇人
6月20日 ハルハ河西岸 遊撃支隊陣地
「やっぱ、警戒されてるよな」
将校斥候で道路を見る松塚は通ろうとする梯団を見ながら呟いた。
いま、対峙しているであろう前線は未だに睨み合いであり、上空は偵察機が飛び交い、戦闘機が牽制している。
後は遊撃支隊を含めた互いの偵察が互いを監視している以外は……多分、先日のトラック・自走砲の案件ぐらいしか無い。
そして、梯団は戦車が前後左右に張り付き、四周を警戒しながら進んでいる。
「あれは下手に襲うと危ないわね」
「あぁ、こりゃ、当分は襲わないで偵察に徹した方がいいな」
ザミーラ中尉の言葉に松塚はそう言うしかなかった。
その頃 将軍廟 三ヶ国軍総司令部
「どうやら、貴方の提唱は後輩達によってまだ続けられていたようですな、元帥」
机に並べられた数枚の報告書と写真…先日、松塚達が鹵獲した122㎜榴弾砲と76㎜自走砲の第一次調査報告書…に視線を向けながら石原次長は『元帥』に言葉を投げ掛けた。
「……皮肉にも敵として自らの提唱事の結果を見るとは思わなかった」
そう『元帥』ことミハイル・トハチェフスキー東ロシア帝国軍大将は恨めしそう言った。
「なお、御存知かもしれませんが、ソ連軍総指揮官はゲオルギー・ジューコフ大将との事です」
「ジューコフか…元騎兵の為かこう言った機械化部隊を使う戦いに研究熱心だった筈だ。上手くやらんと苦戦するな」
「なに、ウチには『遊撃支隊』があります。彼らと言う布石は何時か…直ぐに活きてきますよ」
ニヤリと笑う石原次長。
それを見てトハチェフスキー大将も頷く。
「ところで、なぜザミーラ中尉を? 満州軍は『勝琳中尉はあの地域を警備する機会が頻繁にあり、また、家柄も高貴な為、適任である』との回答でしたが…?」
石原次長の問いにトハチェフスキー大将は顎に手をあてて答えた。
「1番に彼女は若い。若い時は知識や経験を早く且つ多く吸収出来る。そして、若い時に苦労するものだ。2番目に先の戦闘で戦車1両を失ったが人員を失わず帰ってきた。兵を無闇に失わせなかった。3番目に彼女は救われたが故に遊撃支隊の実力を知っている。いざとなれば互いに背中を預ける事になる。顔見知り同士の方がよかろう。彼女の家柄が高貴なのは…また別の話だ」
「ふむ、なるほど」
「逆に…遊撃支隊の隊長、松塚大尉かな? なぜ、年若い大尉に部隊を任せたのかね? しかも、周りは同期ばかりではないか?」
「はっはっは、私も元帥と一緒ですよ。ただ、松塚を選んだのにはちょっと違い理由もありましてね」
「ほう、何かね?」
「彼奴の両親は『尼港の伝令』『尼港のナイチンゲール』ですからな」
「……ふむ、英雄に子か。しかし…」
「まあ、確かに験担ぎなところはあります。ですが、あれで有能な奴でもあるのも確かです」
石原次長はニヤリと笑いながら言った。
その頃
「イッキシン…くそ、誰か噂しやがったな。人の事言えねえし」
「やっぱり、誰か噂してるのかしら」
「ほぼ、3人連続だしね」
松塚、ザミーラ、琳の3人は互いのクシャミにそんな事を言っていた。
ノモンハンの大地で敵の動向を探っていた。
その頃 日本海海上
「『緊急につき、共同演習艦隊先遣隊は満州へ移動せよ』ってちょっと無理矢理感あるんだけどな…」
そんな事を呟きつつ、柵に顎を置き、海をボーと眺める海軍士官がいる。
彼の名は高澤博(たかさわひろし)大尉(21)。この『日本・東露海軍共同演習艦隊先遣隊』の一員である。
そして、彼を乗せる軽空母を周囲に巡洋艦、駆逐艦が点在して護衛している。
そして、この軽空母、東ロシア帝国海軍軽空母イーゴリ・シコールスキイは日本海軍軽空母鳳翔と共に満州へ向けて航行していた。
護衛するのも日本海軍は重巡洋艦青葉、衣笠、古鷹、加古、天龍、龍田に睦月型、東ロシア海軍は重巡洋艦ウラジオストク、軽巡洋艦5隻、駆逐艦12隻が周囲を厳重に固めていた。
艦隊は出しうる最速で満州へ向けて向かっている。
「やれやれ、波が高い日本海はこの古傷ばかりの身体に堪えるの」
そう言って高澤の隣に立ったのはイーゴリ・シコールスキイに派遣された『日本海軍演習連絡兼教導官団』の長、市丸利之助大佐。
「大丈夫ですか、市丸大佐? 航空機事故の傷に影響するなら、休まれては?」
「いや、よいよい。それにしても、まさか満州での一件が我々に直接くるとは思わなかった」
「ソ連が強硬姿勢を崩さずいましたが、まさかそのまま国境紛争に持ち込むとは思いませんでしたね。まあ、平地なら余計に制空権の確保が必要なので、動かせる部隊を動かすのはわかりますが」
「ほう、では、我々の相手はソ連空軍だな」
「噂ではヨーロッパ方面からテコ入れがあったとか…上層部も陸軍さんから要請受けて本腰入れた、って事でしょう」
「ふむ……案外、君を入れて来たのは上層部の意図かもしれんな」
「それはどうかと…こんな一士官に上層部が何の期待を持って就けたかなど本官の考える事では有りませんし、そもそも、そんな大器を持ち合わせているなど、本官自身が承知している事であります」
「そうか…まあ、世の中わからんからな」
次号へ
ご意見ご感想をお待ちしております。