青年士官苦労記 〜帝国陸海軍奮闘ス〜 灼熱のノモンハン編 作:休日ぐーたら暇人
旧年は余り更新出来ずにすみませんでした。
今年もよろしくお願いいたします。
2日後 7月5日 ハルハ河西岸
晴天下の中、遊撃支隊は進んでいた。
とりあえず、今のところはなにもない。
「前回の空襲で前線部隊にも痛手を負ったと聞いたが?」
砲手ハッチに居る松平が松塚に訊く。
「野戦飛行場と駐留機は徹底的に破壊したが、前線地上部隊への効果は微妙らしい。まあ、それが空襲の難しいところだろうけど」
「なるほどな……で、ソ連は前線部隊に攻勢を仕掛けろ、と」
「それだけ向こうは苦しいって事かもね…誰が苦しいかは別として」
「どちらにしても、敵味方問わずに面倒だな」
「……松平も変わったな。入学した時は正に堅物だったのに」
「うるさい、黙れ。殴り倒すぞ、馬鹿野朗」
「そこまで言わなくても…」
そんな会話をしていた時、ふと、松塚の耳に虫の羽音の様な音が微かに聞こえてきた。
「航空機の飛来音接近! 四時の方向!」
「総員、対空警戒!!」
それが間違い無い事を示すかの様に勝中尉が馬上から叫び、松塚は命令をだす。
やはり、普段からこの野を馬と共に駆けている為か、耳やらの感覚は良いようだ。
「自走高射機関砲用意! 但し、まだ敵味方の判別がつかない、発砲は待て!」
4輌の99式自走四連装20㎜高射機関砲へ指示を出す堂島。
歩兵、戦車も重機・軽機・車載車長ハッチ機銃の仰角を上げる。
「勝中尉、機体が見えたら教えてくれ!」
「わかった!」
ここはモンゴル側なので飛来すると言えば敵のソ連軍機…ではあるが、こちら側の偵察機や彷徨いの友軍機とも限らない。
「見えた! 単葉の固定脚単発機!」
「撃つな! 味方の可能性が高い!」
勝中尉の報告に松塚は改めて注意を促す。
更に勝中尉の報告が正しければそれは味方の機体である可能性が高かった。
「あれは…間違いありません! 我が方の97司偵です!」
機体を見た堂島が叫ぶ。
「偵察から戻ったのか。ご苦労様だな」
そう呟いた松塚はふと気付いた……何かがおかしい事に。
「根岸、通信隊の能力であの偵察機と交信出来ないか?」
「可能だと思いますが…少しお待ち…」
そう言って根岸は麾下の通信隊員達と話し始めた時にそれはおきた。
97司偵がいきなり機首を下げ降下すると、水平飛行時の未来位置に機銃弾の曳光弾がはしった。
そして、その主であろう短躯の単発単葉機2機が降下態勢で97司偵を追尾していく。
「あれはソ連のI-16戦闘機です!」
「ちっ、やっぱり、網か何か張ってたのか!」
「早く繋げ! 撃墜されてしまうぞ!」
「後は周波数を合わせるだけです!!」
堂島の言葉に見物していた隊員達も騒ぎ始め、松塚も舌打ちをする。
そんな中、松平は根岸を急かし、根岸も最後の周波数ダイヤルを合わせる。
「はい! 繋がりました!」
「よし、貸してくれ! こちら、友軍地上部隊! そちらの97司偵、聴こえるか!?」
操縦と唯一の対抗手段である後部機銃を撃ちながらI-16の攻撃を避ける97司偵を見ながら松塚は総受話器に向かって叫ぶ。
『こ#ら、司令#付き偵#機隊632号機! 感度良好!』
「そのまま低空を全速で飛び続けろ! 後はこちらで何とかする!」
『了解です!』
「堂島! 対空射撃の指揮を執れ! 野戦高射の意地を見してみろ!」
「了解! 我れ、指揮を執ります!」
97司偵との会話を終え、松塚は堂島の方を向くと指揮を委託する。
「97司偵の尾翼末端に照準合わせ! 合図と共に発砲!」
「しくじるな! しくじると色んな意味で面倒だ!」
「射撃用意!!」
各指揮官達が自らの言葉で隊を統制しながら射撃態勢に入る。
高射砲、高射機関砲、車載機関銃、歩兵に至っては38式小銃を構えて狙う。
全員、意識を集中している為か喋らない。
シーンとする中なので自身の心臓の音すら普段より大きく聞こえる程である。
「まだまだ…そうそう…いいぞ…来い来い」
高射照準機を自ら覗きながら敵機の近付く具合を見る堂島。
そして……
「撃て!!!」
この声に向けられていた全ての火器が火を噴いた。
たちまち周囲は空薬莢で足の踏み場も無い様な状況になる。
だが、その弾幕に追尾していた2機のI-16は頭から突っ込む事になり、執拗に追尾していた先頭機は高射砲の破片で損傷し、その直後、20㎜機関砲の直撃も受けて爆散、後続の2番機は少し距離があった為か避けようとしたが20㎜機関砲と地上からの銃撃が追尾し、被弾・黒煙を吹いた。
「落ちるぞ!」
「あの様子だとパイロットは生きてるな。誰か確認しに行け!」
「一個分隊付いて来い! 敵パイロットを捕らえに行くぞ」
柳田の声に鈴木は指揮下の歩兵隊に指示を出すと1人の将校が一個分隊を率いて墜落場所に向かう。
そして、97司偵は感謝を示すかの様に数回旋回すると元の進路を取り、飛んで行った。
「さて、俺達も移動しよう。このまま居ても危ないしな」
「そうだな。ここは敵中、一部始終を敵の別部隊が見ていた可能性もあるしな」
「わかりました。高射砲撤収・移動用意! 直ぐにここを離れるぞ。急げ!」
松塚、松平の会話に堂島は指揮下の高射砲の撤収を促し、他部隊もサッサと移動を始めた。
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