戦女神×魔導巧殻 外伝 ~ディアンのリア充生活~ 作:Hermes_0724
ディジェネール地方の広大な森を西に抜けると、白い海岸線がある。岩山と森に囲まれた砂浜にディアンたちはいた。生えている大きな椰子の木に丈夫な麻縄を編んで作ったハンモックの上で読書をする。遠浅の海では、三人の美女が燥いでいる。使徒でありエディカーヌ王国女王であるソフィアは、週に二日の休みを必ず取るようにしている。それに合わせてディアンと三人の使徒は、熱帯の砂浜に休暇に来ていた。西方諸国では露出の少ない水着が主流だが、三人は上下を隠すだけの大胆な水着を着ている。ディアンが絹織物の職人に注文した水着だ。最初は恥ずかしがっていた三人だが、やがてその開放感に慣れたようである。ディアンも上半身は裸で、黒で染めた七分丈の下穿きを履いているだけであった。大型の日傘を砂浜に刺して陰をつくり、木綿布を敷いて三人が横たわる。
『ディアンッ!オイル塗って~』
レイナの甘えた声に誘われ、ディアンも日傘に向かった。オリーブ油と
『鬼族から魚介類を仕入れいている。今夜はここで野外料理をしよう。オレが料理をする。お前たちは遊んでいていいぞ』
『じゃあ、お言葉に甘えて…』
オイルを塗り終わった三人は、再び海に向かった。ディアンは笑いながら食事の支度に向かった。
大型の焜炉の様子を見る。薪を焚べ、海獣の塊肉を燻焼にしている。低温で焼くため、時間が掛かる。その間に椰子の木で立てた平屋の家に向かう。海が近いため井戸を掘ると塩水が出てしまう。そこで、この別荘には小川から真水を引いている。別荘と言っても、それなりの広さがある。四人が一緒に寝るための寝台が置かれた主寝室が一つ、対面型の厨房とダイニング、ディアンの書斎のみである。風呂は無いが、屋外に真水を浴びるためのシャワーがある。窓はそれなりに大きく取っているが、蟲や小動物が入ることはない。窓や出入り口の四隅に結界印が描かれており、建物全体も結界で覆われている。新開発された「蓄魔焔」によって、魔力を補充するだけで半永久的に結界が維持できるようになった。天井扇を回す動力にもなっている。木桶に水を汲み、四人分にしては少し大きめの鉄鍋を持って再び外に出る。
『塩の確保は喫緊の課題だな。オレたちが使う分なら此処で確保できるが、国全体の必要量を確保するとなれば、ニース地方を吸収して「塩の道」を確保するしか無いだろう』
考え事をしながらも、手は勝手に動く。今朝揚がったばかりの新鮮な烏賊を取り出す。まだ生きた状態だ。海水で洗い、胴体に指を入れて内臓ごと脚を取り外す。小刀で軟骨を取り外し、皮をむく。内臓と墨袋は水系魔術で凍らせて密閉箱に入れる。持ち帰って別の料理に使うためだ。内部まで綺麗に洗い、ゲソも塩揉みをして汚れを落とす。胴体は輪切りにする。野菜類は赤茄子の果肉、玉葱、人参、芹、大蒜を微塵切りにし、茸も適当な大きさに切り分ける。平鍋を炭火に掛け、オリーブ油と輪切りにした烏賊を入れる。焦げ目が適度につくまで焼き、微塵切りにした野菜類、茸、赤茄子の果肉を入れる。水気を飛ばしたところで砂抜きをした貝類、頭の付いた海老、白身魚の切り身、水、塩、サフランを入れ、ひと煮立ちをさせる。魚介を取り出し、残ったスープに生米を入れる。蓋をせずにクツクツと炊く。火加減を見ていると、三人の美女がやってきた。シャワーを一浴びしたらしい。
『いい匂い。パエリアね?』
『海獣の肉もそろそろ良さそうだな』
『空腹でお腹と背中がくっつきそうです』
三人が椅子に腰掛ける。ディアンは仕上げに取り掛かった。魚介を戻し、火力を強くする。鍋を火から下ろし、くし切りにしたライムと香味野菜の葉を盛り付け、三人が待つ食卓に鍋ごと運ぶ。大型焜炉で焼いた海獣肉も出来上がっていた。塊をまな板に載せ、それも食卓に運んだ。三人の前で肉を薄切りにし、ハチミツや赤茄子、香辛料で作ったソースを掛ける。水で冷やした人参、胡瓜、芹を縦に切り、器に刺す。アボカド、玉葱、アリオリを混ぜたソースを器に入れる。
『さて、待たせたな。今夜の料理は新鮮魚介のパエリアと海獣肉のロースト、野菜のアボカドディップ添えだ。麦酒も冷えているぞ』
氷水で冷やしておいた緑色の硝子瓶を並べる。コルク栓を外し、皆が一本ずつ持った。
『では、ソフィアの誕生日を祝して…』
西に沈む綺麗な夕焼けの中で、カチャンと音が鳴った。
夜半、ディアンは寝台から起きた。日付は既に変わっている。二度つづ精を放たれ、数え切れないほどに絶頂を得た三人の美女は、全裸のまま幸せそうに眠っている。赤道に近いが海辺のため、夜は比較的過ごしやすい。三人に薄布を掛けてやり、ディアンは外に出た。蒼い月明かりを反射して白波が足元に打ち寄せる。満天の星空と月明かり以外には、一切の灯りはない。砂浜のデッキチェアに腰掛け、漫然と水平線を眺める。転生前からこれまでの人生を振り返る。歓びや哀しみが入り交じる。苦難、悲哀、安楽、歓喜… 転生前も転生後も、決して平坦ではなかった。怒りに我を忘れたこともあった。別れに涙したこともあった。それら全てが、人生という唯一無二の料理に欠かせない「調味料」なのだろう。塩だけ、砂糖だけの料理など味気ないものだ。
『「リア充」なんて、簡単だ。何かを追い求めれば、それだけで手に入る…』
『「リア充」って何?』
独り言を聞かれたのか、後ろから声が掛けられた。金色の髪が月明かりを反射し、眩く輝く。第一使徒はディアンの上に跨った。下半身を隠す布だけ巻いている。
『まぁ、簡単に言えば「充実した人生」ってことさ。何を持って充実とするかは、人それぞれだ』
『あなたの定義は何?』
『オレか?そうだな… オレは人間だ。人間の欲望は飽くことが無い。だが自分独りのために生きていれば、いつかは行き止まりに達する。オレは、オレの大事な人たちに幸福になって欲しい。生まれ変わっても、またオレの使徒になりたい… お前には、そう思える生涯を送って欲しい。そのために生きる。そのために時を費やす。それがオレの「充実」だな』
『じゃあ、私を幸せにして…』
ディアンの下半身が熱いもので包まれた。
翌朝、まだ薄暗い中でディアンは朝食の準備を始めた。アボカドの実を半分に切り、種を取り除く。中身をくり抜き、適当な大きさにスライスする。適当な大きさの土鍋に、薄切りにした塩漬けの海獣肉、タロイモ、アボカドを入れてオリーブ油を回しかけ、蓋をする。別の料理を始める。ディジェネール地方で栽培されている芋から作られた「タピオカパール」を使う。昨夜のうちに水に漬けていたため、茹で時間はそれほど必要ない。椰子乳に賽の目に切った複数の果実、茹で戻して冷水に晒したタピオカを入れる。使徒たちが伸びをしながら出てきた。全員が下半身を布で隠しているだけである。ディアンは頷いて三人と共に日課の体操を始めた。
『料理は出来たてが旨いからな。もう少し待っていてくれ…』
基礎魔力鍛錬の後、ディアンは仕上げに掛かった。土鍋の蓋を外して海鳥の卵を割り落とし、
『海と料理だけなのに、なんだかとっても贅沢に感じるわね』
『これが毎日であれば退屈かもしれないが、忙しい日々の中でこうした時間を持てば、贅沢に感じるのだろうな』
『良い気分転換になりました。明日から再び王宮での執務と思うと、少しだけ後ろ髪を引かれます』
『ターペ=エトフでは一週間のうち三日は休みであったが。年に二月ほど、連休日を設けていたな。祭りと合わせることで国内での民の移動が活発になり、相互理解の促進にも繋がっていた。エディカーヌ王国でも、そうした「暦の調整」はあっても良いと思う。毎月では困るが、年にニ、三は、そうした連休があっても良いのではないか?』
普段は生真面目で、過剰労働気味のソフィアも、その意見に賛成したようだ。食後は掃除を始める。使った鍋は綺麗に洗い、炭火なども後片付けをする。箒で室内を掃き清め、使用した炭から灰汁を作り、寝台の布などを洗う。石鹸を使えば楽だが、ここはディジェネール地方である。その地の文化に合わせるべきだろう。水系魔術を使って水分を半分ほど蒸発させ、天日に干す。昼前には、全ての片付けが終わる。洗濯物は綺麗に畳んで収める。別荘の戸締まりをし、守護結界を張る。最後に、砂浜に地脈魔術を走らせて綺麗に整える。この地は汚れてはならない。無垢のままでなければならない。それがエディカーヌ王国の基本方針である。森の中にある小屋に入る。四人まで同時転送が可能な「新型転送機」が設置されている。
『行こうか。サーヤとレオンも明日、帰ってくる予定だ』
『楽しかったわ。また、遊びに来ましょう』
四人は笑顔のまま、転送機に乗った…