戦女神×魔導巧殻 外伝 ~ディアンのリア充生活~ 作:Hermes_0724
ディル=リフィーナ世界においては、薬品類などの化学においてはそれ程進んではいない。その大きな理由としては、文明が進んでいる西方諸国においては光神殿の影響が強く、「旧世界の科学」は忌避される傾向があったためである。そのため、石鹸や整髪剤、女性の化粧品類においてはそれ程進んでおらず、化粧をするのは一部の特権階級層の貴婦人に限られていた。一般庶民では、女性であっても何日も風呂に入ることが無く、濡れた布で拭くのがせいぜいであった。脛や脇の毛の処理もしていないため、中には「ケジラミ」などが湧き、性病の原因になる場合もあった。国家形世紀以降、主要都市には「公衆浴場」が設けられ、衛生環境も改善していったが、成熟国家が各地にあった新七古神戦争時代においても、女性の美容という点においては、旧世界イアス=ステリナには遠く及んでいない。
ソフィア・ノア=エディカーヌは、心地よさに恍惚の表情を浮かべて瞳を閉じた。普段は女王として多忙な毎日を過ごし、神経を使っている彼女にとって、週に一度のこの時間は至福である。自宅の風呂場にある石台に分厚い羊毛布を敷いてうつ伏せ横たわる。男の手が背中に伸びてきた。ホホバ油にラベンダーの精油を混ぜた「マッサージ・オイル」を塗り、背骨から肩、脚までを丹念に揉み解す。脇腹などには無駄な肉は一切無い。自分の使徒の美しさに、男は満足していた。掌に雷系魔術を込める。背中や脚にチリチリとした痺れが走る。
『ソフィアは元々が薄毛だからな。脱毛処理も対して痛みは無いだろう?』
ディアンの問いかけに、気怠く返事をする。もう数百年前から受けている処理だ。腕、脇、下半身、脚には毛など殆ど無い。使徒になった当初は、はじめはこうした処理に戸惑っていた。数百年の時の中で、そうしたムダ毛は完全に抜け落ちている。今受けている処理も、毛の処理というよりは筋肉を解すためのものに近い。足の裏を揉まれる。最初に受けた時は激痛で泣きそうだったが、いまでは痛みは微かにある程度で、むしろ心地よかった。
『使徒といっても、代謝活動が永遠に衰えないというだけで、肉体は人間だからな。神族の肉体と比べれば、血行や気の滞りも起きやすい。痛みはあるか?』
『ありません… 気持ちいい…』
足の指を一本ずつ解す。首筋、肩、背中、脚まで時間を掛けて丹念に揉まれ、ようやくソフィアは仰向けになった。男なら誰もが欲情するであろう美しい裸体だが、ディアンの表情は真面目そのものだ。
『よし、次は顔だ。新しい香油を使おう』
濡らした厚手の木綿布を固く絞って、水系魔術で一瞬で熱くする。程よい温度に調整して顔に掛ける。その間にオイルの準備をする。ホホバ油に数滴を垂らす。仄かに甘く、バラとミントの香りが立つ。ゼラニウムの香油だ。蒸し終えた顔を解していく。首筋、頬を中指と薬指で持ち上げるように揉む。目元、額、コメカミまでを解す。その後に「
『…仕上げをして下さい』
瞳を潤ませ、ソフィアが誘ってくる。二人は湯船に浸かり、向き合うように繋がった。一週間ぶりに満たされ、ソフィアは背中を仰け反らせた。
ディアン・ケヒトは、とにかく食事にこだわっている。安い食材でも手間を掛けることで驚くほどの料理に仕上がる。無論、ただ旨いものを食べたいという理由だけではない。魔神である自分は、神核が生み出す魔力によって肉体が維持され、何も食べずとも生きていける。だが使徒たちは人間である。食べることで栄養素を取り込み、肉体を維持する。二十歳前で老化が止まり、高い代謝機能を維持し続けているとは言え、栄養素が偏れば影響が出る。全ての栄養素を満遍なく取り込むには、それなりの料理が必要であった。
『今夜の料理は「ナマズの唐揚げ タルタルソース添」「
そう言うと、ディアンは準備に取り掛かった。清水を引いた生簀に三日間入れて泥抜きをしたナマズを捌く。包丁の背で頭を叩いて気絶させ、錐でまな板に固定する。胸ビレから包丁を入れて骨に沿って割く。頭と骨、内臓と卵を取り除く。卵は湯通しして醤油や生姜と煮ると酒のツマミになる。腹骨を鋤いて皮引きをする。適当な大きさに切り、塩を振って暫く置く。その間にタルタルを作る。固茹でした卵、玉葱、酢漬けにした胡瓜、オリーブの実を刻む。卵黄、葡萄酢、オリーブ油で作ったアリオリに加えれば、タルタルソースの完成である。続いて冷製スープを用意する。玉葱と茸を微塵切りにし、
『お姉ちゃん、この「胡椒」って初めてみたよ・・・』
『村では塩を振った獣の肉と野菜の丸齧り程度だったから、とても驚きだわ。料理って、こんなに幅があるのね』
太陽の民であった二人は外の食材を知らない。「発酵食」は酒ぐらいしか無かったのである。ディアンは仕上げに取り掛かった。ナマズに胡椒を振り、小麦粉を付けて低温のオリーブ油で揚げる。一度引き揚げ、高温にして再び揚げることで、外はカリッとし中はふっくらとする。更に盛り付け、麺麭を添えた。
『よし、完成だ。サーヤもレオンも、手伝ってくれてありがとう』
二人は笑顔で、料理を食卓に運んだ。
『
食事中、ディアンが話題にした「ある道具」に、使徒三人も弟子たちも首を傾げた。干した盃を手に持って説明する。
『この盃の底にS字型の薄刃を固定し、高速で水平回転をさせる。すると、盃に入っていた野菜などは粉々に切り刻まれ、汁と混合される。このスープの味を更に上げるには、こうした「魔導道具」が必要になる』
『十分に美味しいと思うけど?』
レイナの疑問にディアンは首を振った。
『料理は、文化であり芸術だ。より美味くする方法があるのなら、それを追求すべきだろう。薄刃だけを回転させる術式、起動と停止の制御機能などが必要だな。今度、サーヤとレオンを連れてレミに行く予定だ。その時、ドワーフたちに相談をしてみよう』
『完成したとしても、使える人が少ない以上、殆ど売れなそうですね。ディアン一人が使う「趣味の道具」になりそうです。国王としては、あまり公私混同をして欲しくないのですが?』
ディアンは肩を竦め、皆が笑った。
【あと書き】
ディル=リフィーナ世界での料理って結構大変ですね。中世ヨーロッパの食文化は色々と調べているのですが、当時は「唐辛子」は無かったそうですね。また内陸国では魚は高価なものだったようです。「フィレオフィッシュ」は物凄い贅沢品になるんでしょうね。
今回から、このシリーズは「深夜0時」に投稿するようにしました。料理場面をもう少し「美味しそう」に書けるようになれば「飯テロ」になるのかな?
これからも応援、宜しくお願い申し上げます。