最後に、今回も見て下さった方々に感謝を。
「 金剛はどうだ?何か悩みとかある?」
金剛が深刻に考えすぎないよう、努めて優しく問いかけた。
金剛は少し俯き、やがて顔を上げた。
金剛の目には、光るものが溜まっていた。
涙だった。金剛は、泣いていた。
「 金剛……無理にいわなくてもいいんだ……」
「 大丈夫ネ……私もこれに向かい合わなきゃいけないネ……」
金剛の紡ぎ出す言葉は弱々しいものだったが、その瞳は確かに、彼女の過去と、正面、恐らく俺を見つめていた。
「 私は日本の戦艦の中で唯一潜水艦の雷撃で 沈め
られてしまいまシタ。見えない水中から来る魚雷
に、私達戦艦は無力ネ…今でも潜水艦は少し怖い
ネ……
でも、私はこうしてまた、生まれ直すことが
出来たネ ー!そしてまたこの国を守ってるネー!
私達は戦わないといけないネー!
この国と提督と、私達自身のために、ネ……」
そう言って金剛は笑った。いや、一生懸命に笑顔をつくった。胸が締め付けられる様だった。
俺は金剛に二度とこの笑顔をさせてはいけないのだと、そう悟った。
どう考えてもこれ以上この話をするのは
無理だろうな……
俺は金剛に寄り添っている榛名に耳打ちした。
「 今夜フタサンマルマル、執務室に来てくれ。
少しだけ話がある」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は執務室のドアの前で固まっていた。
金剛のあの顔を見てから、どうもドアというドアが重い。
きっと申し訳なさというか、彼女の心のトラウマを、無遠慮に荒らし回ってしまったという罪悪感が、俺の体を縛り付けているんだろう。
ゆっくりと執務室の木製のドアを開ける。
やはりこのドアも重かった。
「 遅かったのね。榛名から話は聞けたのかしら」
秘書艦である加賀さんは既に執務を始めていた。
昼休み中に帰ってきたと思ったのだが……
執務室の時計をみると、なんと短針は一と二の間
を指し、 長針は七の位置でくつろいでいた。
「 そんな……バカな……」
「 そのセリフ、言いたかっただけでしょう。」
「 そ、そうです……すみません……」
加賀さんにたしなめられ、もう一度時計を確認する。針たちは確かに、ヒトサンサンゴーを指している。昼の休憩はヒトサンニーマルまでだから、普通に遅刻だ。
「 遅刻のぶんは、まあよしとしておくわ……。
それより、榛名から話は聞けたのかしら?」
「それがかくかくしかじかで……」
俺はあの茶会であったことを、洗いざらい加賀さんに話した。榛名は悩みは特に無いと、空を見つめて言ったこと、金剛の心のキズになっている、彼女の最後のこと。それと、結局大淀のことは、全く聞けなかったこと。
………………………………
……………………
…………………
……………
「 はあぁぁぁぁぁぁ」
長い沈黙の後に待っていたのは、長い長いため息だった。その鋭い目を閉じてため息をつく様は、本当に綺麗で、怒られているというのに、違う意味でこちらもため息が出そうだった。
「 本当にすみませんでした!
執務迄には戻ろうと思ってたんだけど……」
「 言い訳は要らないわ。さっさと仕事をして
ちょうだい。」
やっぱり加賀さんは厳しい。
「 フタサンマルマルから榛名と話すのでしょう。
それまでにはておきましょう。」
そう言って加賀さんは筆を取り、執務の続きを始めた。見れば、俺の机の上の書類は、判を押すだけでいいようになっている。なんか涙滲んできた。
「 提督、ぼさっとしてないで執務をしてください。」
机の上の書類を見れば、こんなキツく言われても不思議と愛に感じられる。俺もうヤバいな……
「分かったよ、ありがとう、加賀さん」
「 礼を言う暇があるなら執務してください。」
加賀さんはこちらに脇目も振らず筆を走らせる。
ツンとした態度を取る加賀さんだったが、あの時のように耳を真っ赤に染めていたのは、本人には黙っておいた。