金剛お姉様はあの後、泣き疲れたのか直ぐに部屋に戻って寝てしまいました。今日は出撃も演習も終わっていますから、無理に起こさずに、寝顔を眺めることにしました。
……昼間、提督は帰り際、榛名にこうおっしゃいました。
「今夜 フタサンマルマル、執務室に来てくれ。
少しだけ話がある。」
榛名と金剛お姉様に、あのことについて聞かれたのですが、その続きでしょうか……提督は金剛お姉様を気遣って下さったのでしょう。あの時続きが話せる状態じゃないと判断されたのでしょう。
気がつけば、時刻はフタフタヨンマルをまわっています。そろそろ提督のところへ行きましょう。
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消灯時間が近づき、榛名は既に静かになっている駆逐艦寮の前を静かに通る。この隣は軽巡洋艦寮だから、いつも夜になると騒ぎ出す軽巡Sが、さぞうるさい事だろう。しかし、今日は何故かうるさいあの娘の声は聞こえない。
「そう言えば……今日は夜間演習でしたね……」
だからこそもう静かになっていると言える。本来なら提督は演習を視察するものだが、夜間演習では見えない。だからこそ榛名は今夜呼ばれたのだ。静かな寮に榛名の小さな足音だけがひびいた。
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俺は加賀さんが執務室を後にした時、慌てた。この年ながら、あまり女の子と二人きりで話したことがない。いやね、全くないって訳では無いのだだけど、やっぱり緊張する。俺が呼び出したのにな。
あと五分ほどでフタサンマルマルだ。加賀さんによると、榛名は律儀な娘らしいからもう来るはず。その時だった。
ーーコンコンーー
控えめだが、確かに聞こえるダブルノック。
「 戦艦榛名です。提督、よろしいでしょうか?」
やはり榛名だった。てか、こんな時間に来る娘は普通いないか。
「 どうぞ、入って」
「 失礼致します。戦艦榛名、参りました。」
そう言って榛名は形の整った敬礼をする。女の子が敬礼するのってなんだかレアだな。
「 わざわざありがとう。ああっと……今日呼んだの
はね……」
「 その……大淀さんの事なんだよ 」
「え?」
榛名がキョトンとした顔をする。恐らく金剛の事だと思っていたんだろうな。
「 すまないな。金剛の事ではないんだ。大淀さん
について気になることがあって 」
榛名はまだ腑に落ちていないようだった。故を説明するべきか。
「 あまりこういうことをいうのは良くないのかも
しれないけど……榛名は呉で大淀さんと一緒だっ
たんだよ ね……あの時……」
榛名の顔が緊張で少し強ばる。あの時、という言葉が、きっと重くのしかかっているんだろう。しかし俺は大淀さんのことを聞かないといけない。俺は心を殺して続けた。
「 加賀さんから聞くとな、大淀さんはなんか
ずっと電信室に篭ってるらしいんだよ。
俺が来てからもずっとなんだ。ほかの艦娘との
交流も全くないらしい。あのままだと大淀さんは
孤立しかねない。"艦隊”として行動するのだから
それは避けたいんだ。きっと、大淀さんも
金剛や君のように、心に大きなトラウマか悩み
があるんだと思うんだけど……俺はまだあの娘
の心に踏み込めるだけの材料が無い。
もしかしたら君なら、最後を共に過ごした
君なら、あの娘の事を"知ってる"かもしれな
いってそう思ったんだ。榛名、自分の最後を語る
のは、最後の時を語るのが辛いだろう事は想像に
難くない。でも、俺は君たちの事を"知り"たい。
だから教えてくれないかな。あの時の事を、
大淀さんを蝕んでいる、その記憶を。」
俺は頭を下げた。事実上、榛名は部下にあたり、提督である俺が頭を下げる必要はないのかもしれない。だが、俺は頭を下げるのが、せめてもの誠意であると、そう感じていた。
「 提督、頭をあげてください。」
榛名が優しく俺の方に手を載せる。
頭をあげたその先には、目に涙を貯めた榛名がいた。
「 何か怒らせるようなことを言ったか!すまない……」
俺は慌てて頭を下げた。しかし榛名は一生懸命に手と頭を振った。
「 いえいえ、提督、違うんです……
榛名は嬉しくて泣いているのですよ。
前の提督も私たちのことを私達の事を大切にして
くださいましたけど、それはあくまでも、
兵器としてでした。深海棲艦と戦える、唯一の
兵器 としての私たちを。でも提督は、私達を
一人一人大切に、なんと言いいますか……
きちんと向き合って下さっています。
榛名は、それが嬉しいのです!」
榛名は泣きながら、しかし確かに俺に伝わる確かな声で言った。俺も頬に暖かなものを感じた。それは昼に握った、小さく柔らかな榛名の手だった。しかし、昼の時と違い、その手は俺を包み込むように優しい。俺は声が出なかった。
「 提督はそれを聞くことで榛名も傷付けてしまう
と思っていらしたのですね。でも、榛名は大丈夫
です。この榛名、提督のためなら、喜んでお相手
致しましょう。
提督の優しさはきっと、大淀さんに届きますよ」
榛名が俺を抱き寄せる。まるで自分の幼い子をあやす様に優しく。俺は我に戻った。
「 は、榛名……」
「……はッ!すみません、急に……」
「 いや、落ち着いたよ。ありがとう」
俺から離れてペコペコし始めた榛名は、さっきの凄まじい抱擁感はどこえやら。昼にみた榛名に戻っていた。少し残念。
「 で、では大淀さんの事をお話するんでしたよね。
少し長くなると思いますが、よろしいですか?」
「 ああ、構わない。加賀さんに頼んでかなりの量
の執務を片付けたからな!」
俺は机の上を指す。そこには処理済みの資料や書類がタワーを作っている。
「 わ……すごい量ですね……加賀さんの負担が
思いやれれます……」
「 食堂の一週間無料券あげたらああなったんだ」
榛名は、なるほど、という表情でうなづいた。
「 では気を取り直して、大淀さんと、
あの日についてお 話しますね」
榛名は静に目を閉じて、思い出すように語った。
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