提督。それは異世界から来た高校生   作:屋守 竜

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演習の脳

「提督、手が止まっていますよ。」

 

こちらを見ることも無く、やや冷たい言葉を掛けてくれたのは、本日の秘書艦、いや、いつも秘書艦の加賀さん。ぶっちゃけ手が止まっていることは自分でも分かっている。しかしながら朝の一件が頭を巡りに巡ってなんにも考えられないんだから、仕方の無いことではないだろうか。いや、そんなことは無いな。

 

「 いやぁ、なんと言うか……

悩みみたいな事があって……」

 

加賀さんはこちらを向いてはくれないが、それは冷たい態度をとっているのではなく、仕事にそれだけ集中しているからだと最近分かってきた(と言っても着任からまだ3日しか経っていないのだが)。冷たそうな言葉ばかり口にするのも彼女の寡黙な、と言うよりクールな性格故だということも分かった(青葉曰く)。でも本当は優しいことは、その心遣いや眼差しからよく伝わってくる。その上素晴らしく察しがいい。

 

「 鈴谷さんとの情事の事の事かしら。」

 

ペキッ!!!

どこかでペンの折れる音がした。手になんだか少し暖かくどこかねっとりとした感触。色は……黒い。

 

「 提督…凄い音がしたけれど……大丈夫ですか

提督!?手を怪我してませんか?!」

 

「 ん?なんだ急に……おはっ!!!!」

 

音の発生源は紛れも無く俺だった。手に握られていたペンはプラスチックの部分が砕け散り、インクがこぼれ出て俺の手を石炭のごとく真っ黒に染めている。その黒にまぎれて分かりにくいが、確かに指が痛む。恐らく切っているだろう。

 

「 提督、手を洗って来てください」

 

確かにこのままでは書類仕事は出来ない。俺は黙って手洗いに行き、丁寧にインクを流しとる。……やはりプラスチックの破片で手を切ったらしく、少し血が出ている。救急箱は執務机の引き出しの中にあるから、一旦戻る。

 

「手はどうでしたか」

 

いつも表情をあまり表に出さない加賀さんが少し慌てた感じで寄ってくる。

 

「 まぁちょっと切っただけかな。大丈夫だよ」

 

あんまり心配かけると悪い。そう思って手を見せると、加賀さんはまじまじと俺の手を見たあと、引き出しから救急箱を取り出した。

 

「 私が急にあんなことを聞いたものだから

提督は怪我をしたのよ。簡単な手当だけでも

させてちょうだい。」

 

俺の返事を待つこと無く加賀さんは蓋を開け、カットバンとアルコール、綿を取り出した。アルコール消毒液を綿に染みこませて丁寧に傷口に当てる。そしてよくよく水気を拭き取って、優しくカットバンをはってくれた。加賀さんの指が触れるたびに、なんだか暑く感じるのは照れのせいだと思いたい。いやね、なんだか物理的に暑いんですよ。

 

「 ありがとう、大した怪我じゃないし、大丈夫だよ」

 

「そう……ならいいのだけれど……………………

ところで、鈴谷との件なのだけれ

 

「 その話はいいから!情事とかそんなんじゃない

から!」

 

あの一件ごときで情事と言われるのは余りにも厳しすぎる。まぁ仕事が手につかないのは確かにあれが原因だが。

 

「 では話して貰えるかしら」

 

「いや、それはさす……」

 

俺は見た。加賀さんの目がいつもの3倍増しで鋭くなり、美しささえ醸し出す切れ目が完全に兵器と化しているのを。身の危険さえ感じるほどの眼光が俺の体を貫いているようで、いよいよ言わないわけにはいかないという雰囲気が形成される。

 

「 いやその……かくかくしかじかで……」

 

俺は朝の一件についてあったままを話した。加賀さんはそれを表情を変えずに聞いていたが、俺が話し終わると大きなため息をついた。

 

「 はあ……あの娘は本当に…… 提督も……」

 

ん?なになに?聞こえない……

加賀さんが小声でぼそっと呟いたので、あんまり聞き取れなかった。聴き返そうかとも思ったけれど、加賀さんの眼光が鋭くなってきたから止めておこう。

 

「 とりあえず、提督が女の子慣れしていないこと

だけは分かりました。」

 

「 え?何でそうなる?おかしくない?」

 

「 おかしくありません。あの娘はそういう娘

なんです。行いが軽いと言いますか……いわゆる

"イマドキのJK"という人種よ。

一々気にしていたら提督、もたないわ。」

 

何よりも加賀さんから"イマドキのJK"という言葉を聞けることが凄いと思うんだけどどうだろう。まぁそれは置いといて。

 

「 つまり、もう少しこの環境に慣れないと

いけないってことか……」

 

「 大まかに言えば……そうね。もっと話をして

みたり、そう、交流を増やしてみてはどうかしら」

 

何故か加賀さんは耳を赤くして話す。どこに照れる要素があったん?まぁそれは置いといて、確かに俺が今までまともに話してきたのは加賀さん、大淀さん、金剛榛名くらいだな……ここには28人艦娘がいるらしいから、会ったことがある娘すら半分以下だ。

 

「確かに交流を増やすべきだな。」

「 ええ、私もそう思うわ。三日後に対外演習も

ある事ですし、お互いのことを知っておいても

損はないわ。」

 

「そうそう、演習もある事だし、とりあえず食堂

にでも行って……って演習!!!なにそれ!?

そんなんあった!?」

 

あわてて記憶と手帳を読み返してみるがその痕跡は見当たらない。

 

「 確かにあったわ。認可自体は前の提督が

やってしまっているから知らなかったのね。

確か南西海域攻略の訓練を兼ねて、この鎮守府の

具合を見たりするらしいわ。もっとも提督が民間

から来たあなたに変わってから佐世保の提督も気

になってはいたようだけれど。」

どうやら民間出の提督というのは、以前大淀さんが言っていた通り、相当珍しい存在らしい。そもそも軍人にあまり提督としての才能がある者が居なかったらしく、その為に民間から才能と教養のある者が選ばれているらしい。大湊の提督もそのクチだとか何とか。良くも悪くも目立つ存在なわけだ。

 

そんなことは今はよかった。それよりも演習のことだ。

 

「 加賀さん、演習の資料貰えるかな。あと、

今日の晩御飯の時、全員を食堂に集めて欲しい」

 

「 分かりました」

 

加賀さんが手渡してくれた資料は十枚近くに及ぶものだったがサッと目を通す。この演習の成功は俺の手腕だを示すことのみならず、、これからのこの鎮守府の存在も多少なれどもアピールできる。ここでアピール出来れば榛名との約束にも一歩近づける。これはやるしかない。

 

俺は久しぶりに頭をフル回転させた。この演習の意味、目的、参加艦艇、設定場面……それらを繋ぎ合わせて戦場を思い描く。大方の方針は、もう頭の中には出来上がっていた。あとは彼女たちが頑張るだけなんだな。夜が待ち遠しい。みんなは作戦に賛成してくれるだろうか?成功するだろうか。正直、ワクワクが止まらなかった。

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