「 今回は深海棲艦側の拠点としてこの鎮守府を
設定した。この海図を見てくれ欲しい」
「あちら側のスタート地点は大黒神島になってる。
対するこちらは、輸送部隊が似島から出発後、
拠点の鎮守府に来ることになっている。
対してそれ以外の部隊はあらかじめ配置できる
ことになっている。待ち伏せがあるかもしれない
からな。それに対応する訓練にもなる。」
提督はそこで指揮棒を取り出し、大黒神島から伸びる黒い線をなぞった。
「 あちらは恐らくこのように二部隊に別れて各個
撃破を狙ってくるはずだ。俺の予想では輸送部隊
の鎮圧には駆逐艦と軽巡がメインで来る。
そこでここの強襲部隊を戦艦を含む挟撃部隊で
殲滅する。撃破が終わった部隊は二手に別れて
敵主力をこれまた挟撃、撃退する。まぁこちらにも
時間稼ぎ用の挟撃部隊を用意するつもりだから、
案外来るまでに終わってるかもしれないな。
とりあえずここまでで質問は?」
「 提督ゥ、一ついいデスか?」
「 金剛か。なんだい?」
「 もし敵が主力と強襲部隊を分けないで一つで
来たらどうするデスか?佐世保には長門と日向が
いるデース!連合艦隊でこられたらとてもじゃない
ケド止められないネ」
金剛はムリムリという感じで手を振る。それはそうだ。呉の最大戦力は金剛型と赤城加賀。四十一センチ砲を装備する長門や扶桑型の改良型の日向にはとてもかなわない。しかし、その点も提督は考えていた。
「 その可能性はあまり高くはないが……万が一
そうなった場合、輸送側に行けばこちらの主力と
強襲部隊で挟撃、主力に行っても基本的には同じ
流れになるはずだ。」
「 輸送部隊を敢えて主力で撃破してくる可能性
も否定出来ないデース。そのあたりも考慮して
くださいネー。」
「 実はそれが一番厳しくなるパターンなんだよな。
海軍兵学校出身の人間がそんなことをすることは
あまり無いとは思うが、輸送部隊の挟撃部隊は戦艦
を含む三隻で構成する予定だ。主力をそちらに送り
込んで、こちらの主力を撃破できなければ逆に
攻められる可能性もあるから、輸送部隊に送る艦娘
は主力ではないだろう」
提督と普段は見られない主力艦らしい知性を見せる金剛との舌戦?に、その場の艦娘達は飲み込まれていた。聡明な大淀や加賀すら口を出さないほどにその舌戦はこの作戦の緻密性を物語っている。
「 なるほどネー!分かりマシター。Verygoodな
作戦デース。問題は編成と当日の作戦指揮だけ
ネー。これが提督の初戦になるんだよネー?」
「 まぁそうなるな。当日はある程度現場の指揮に
任せたい。その方が臨機応変に動ける。あぁ、
俺が何もしないわけじゃないよ。
あと、編成なんだが……一応考えてきてる。異論が
あれば変更も受付けるから、少し聞いてくれ」
提督が一枚の紙切れを取り出す。そしてすうっと深呼吸すると、それを読み上げた。
「 まずは主力部隊、鎮守府防衛艦隊から。
旗艦は加賀さん。随伴艦に扶桑、熊野、鈴谷、
陽炎、不知火だ。
次に主力挟撃部隊 。金剛、赤城、雪風。
次は輸送部隊。旗艦は大淀さん、輸送艦として
速吸、護衛艦として第六駆逐隊、暁、響、電、雷。
強襲挟撃部隊に榛名、青葉、龍驤だ。
ここまでで呼ばれなかった艦娘は審判と救護を
割り振るから、しっかり頼むぞ。最後に編成に
ついて何か質問はあるかな?」
提督が艦娘達を見渡す。呼ばれなかった艦娘達も自分が呼ばれなかった理由は理解出来ている。例えば鹿島。彼女の普段の仕事は教育艦としてのものであるから。浜風達や天津風と川内型は練度不足。摩耶は普段荒々しい所もあるが、贔屓のない適切な判断が出来るため、審判として期待されているのだ。しかし、一人呼ばれたにも関わらず不満げな顔をする艦娘もいた。
「提督、今の編成に関して一つお聞きしたい事が
あるのですが」
輸送部隊の旗艦に選ばれた大淀がその右手をあげた。五十六の瞳が大淀を見つめる。皆この編成に違和感は無かったから、見つめる目は大きく見開かれている。しかし提督はわかっているというに笑って見せた。
「 なんだい?大淀さんが輸送部隊の旗艦だって事
かい?」
「はい、そうです。」
大淀が力強く頷く。
「 本当に輸送部隊を想定しているならほかにも適任
が居るはずです。私はどちらかというと主力防衛
の方が適任だと思うのですが……」
大淀の口調は軟らかいものの、確かに提督の編成を否定した。
「 大淀さん、後で司令室に来てくれないかな」
提督は至って普通に言った。怒っているとか、煩わしいとか、そんな感情は感じられない。しかし、意見した艦娘に提督が個人的な呼び出しをしたのだから、みんな慌てた。
「 提督、それはいけません」
「 司令官さん、大淀さんを怒らないであげて欲しい
のです。」
「 提督……それは良くねえぞ!」
……なんのこっちゃ?提督は上手く状況を読み込めなかった。ただ、加賀の言葉と電の言葉から一つ加賀の発言を思い出した。
『その他にも解体というものもありますが……』
「 いやいや、解体するとかじゃないよ?!
大淀さんにはめっちゃお世話になってるし……
ただただ輸送部隊の旗艦に大淀さんしか選べない
訳を説明しようと思っただけで……」
「 提督、私も一緒に話を聞けばいいのでは
ないでしょうか」
一歩前へ進み出たのは加賀だった。彼女は普段から提督と執務を共にしていたので、彼を信じていた。そしてみんなにも提督を疑って欲しくないと、そう思っていた。
「 分かった。加賀さんも一緒に来てくれ。
そうすればみんなも安心できるだろ。」
提督が艦娘達の方に振り向く。皆うなずいていた。
「 という訳で、後で執務室の方に二人できてくれ。
では解散っ!」
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提督に名指しで呼びだされる、ということは、こういう場合殆どが解体でした。事実上の抗命罪、という事です。仕方ありません。どうしても我慢出来なかったんです。連合艦隊旗艦ですらあった私が輸送部隊の旗艦だっていうことに。主力は来ないと思うからと、駆逐艦を引連れて輸送というのは、許せなかったんです。私は思わず反抗しました。その結果が呼び出しです。提督は話し合いだとおっしゃってますが、気が気ではありません。
「 大丈夫よ。提督はこんな事で解体する様な
愚鈍な人間じゃないわ。」
加賀さんはそう言われるのですが、私の中の不安はあまり晴れません。そうこう考えているうちに、執務室の扉が目の前に来ていました。不安でいっぱいだからでしょう。その扉が私たちを飲み込まんとする深海棲艦の口に見えました。加賀さんがノックをします。いつもならコンコンと軽快な音をたてるのに、今日はごぉんごぉんと深海棲艦の砲撃のように聞こえました。
「入っていいよ」
中から提督の声が聞こえました。しかしその声も私には怨霊の怨嗟の様にしか聞こえませんでした。加賀さんは扉を開け、入っていきます。私も意を決して足を踏み入れます。
「 加賀、参りました。」
「 大淀、同じく参りました。」
「加賀さんに大淀さん、立ってないで座って
ください」
何故か提督は笑っていた。それどころか、台所でお茶を入れ始めました。加賀さんが慌てて立ち上がりました。
「 提督……私が……」
「 いいんだいいんだ。俺の戦いはこれからだから」
提督がカップを三つテーブルに置きました。お茶菓子も一緒です。カップからは湯気が立ちのぼっています。いい香りが漂ってきますが、紅茶では無い様です。
「 カモミールティーだよ。これでも飲みながら
ゆっくり話そうと思って」
「 話、ですか……」
提督は大きく頷きました。
「 そうだ。何故俺が君を旗艦に、それも輸送部隊
の旗艦に選んだのか。まぁ簡単なことだよ。
君の通信能力は恐らく全艦娘でトップ だ。
その上、軽巡最大の航空機運用が可能だ。
輸送部隊はいつ襲撃を受けるか分からない。
だからこそ、索敵機を沢山搭載できる君が必要だ。
また敵の編成を確実に他艦隊に伝えられる能力も
旗艦には必要だ。金剛の言う通り、万が一連合艦隊
で君たちを攻めた時、それを事前に察知し、通達
することは君にしか出来ないんだよ、大淀さん」
「 君が輸送部隊にいるかいないかで、輸送部隊が
主力部隊の応援に行けるかどうかが決まるんだ。」
私は柄にも無く泣きました。目頭が熱くなるくらいのものでしたが、私は嬉しかったのです。私は提督に笑いかけ、敬礼しました。
「 輸送部隊の旗艦、確かに承りました!
この大淀、ご期待に添えるよう、がんばらせて
頂きます!」
そして私は今、この日記にこう書き残したいと思います。ありがとうございます、提督。そして改めて、よろしくお願いします。
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「おーい 天津風ー」
艦娘達の寮に押しかけるわけにもいかず、かといって呼び出すのも申し訳なく思った俺は、阿呆にも天津風が通りかかるのをここでじっと待っていた。まだ一時間と経っていないから、とても有難い。
「 あらあなた、どうしたの?」
「 いや、演習の日の事なんだけどさ、天津風に
お願いがあってさ……秘書艦になって欲しいんだ」
天津風はポカンとしている。何か変なことを言っただろうか?
「ちょっとあなた!それ本気?加賀さん怒るわよ」
「 大丈夫だよ。あの日は加賀さんも演習に参加する
し、その代わりに秘書艦をやってもらうだけだから」
「なんだ……そういう……」
「 引き受けてくれるか?」
「 分かったわよ……本当にその日だけでいいの?」
「それは分からない。けども秘書艦をずっと加賀
さんに任せっぱなしにするのも良くないからね。
いろんな娘に経験してほしいんだ。」
「 分かったわ。じゃあ演習の日の朝執務室に行く
から」
「 ああ頼んだよ」
天津風は髪をたなびかせ、早足に戻っていった。いったい彼女は何のためにここを歩いていたんだろうか。この先に用事があったから歩いてたんだと思うんだけどなあ。
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「おおー、見えてきた見えてきた。あれが佐世保の
艦隊かあ!」
内海の静かな波を蹴ってこちらに向かってきているのは、綺麗に二つの単縦陣に並んだ佐世保の艦隊だった。先頭に大きな艤装を背負った戦艦長門、戦艦ながら多くの水上機を運用できる日向が進み、そのあとに重巡軽巡駆逐艦、最後尾に空母が並んでいた。方向転換の際も全くその編隊は崩れず、目測ではあるが間隔も一定に保たれていることから、相当な練度が見て取れる。
やがて彼女らは接舷、上陸し、佐世保の提督の乗った船も接舷した。佐世保の提督が船の中から出てきた。ピッチリと軍服を着込み、表情は堅く、いかにも海兵学校出身の将校という感じだ。しかし、相手は大佐。ご挨拶とご案内に行かねばならない。
「 ようこそいらっしゃいました。本日は呉まで
わざわざありがとうございます。」
天津風と敬礼をしたのだが、彼はこちらを一瞥するなり言い放った。
「 貴様が呉のか。フンッ、形だけは綺麗な敬礼を
するのだな。さぞ練習した事だろう。本日の演習、
練度差故にそちらの艦娘に怪我をさせてしまうかも
しれんが、訓練にはなるようにしてくれよ。」
そして締めに嘲るように薄く笑った。
「 ちょっとあなたね…………!ちょっとあなた!」
頭から湯気を出さんばかりに、仲間への侮辱に憤る天津風を俺は手で制した。残念なことに、先に手を出した方の負けなのだ。
「 怒っているのはお前だけじゃない。まぁ任せて
くれ。」
俺も正直腹が立った。ここにいるみんなを見もせず、再興したばかりだと言うだけで、見下す。そのお高くまとまった態度、気に食わない。天津風から佐世保の提督に向き直る。
「 いえいえ、慢心から正規軍人としてのプライドを
傷つけることのないよう、くれぐれもご注意
ください。傷付くのは彼女たちですから」
「 貴様ッッッ!言わせておけば!!!」
「 怒りは判断力を鈍らせますよ。
おっと、もうすぐ開始予定時刻です。失礼致します
ね」
俺はそう言い残すと、天津風の手を引いて自陣指揮所へと戻った。
感想ご要望ありましたら、よろしくお願いします。次回からやっと演習の中身に入ります。長々と失礼しました。これからもよろしくお願いします。