「 あー……ええと、天津風、駆逐艦天津風、
執務室まで来てくれ。繰り返す、駆逐艦天津風、
執務室まで来てくれ。」
そんな放送がかかったのは天津風が寮にいた時だ。この日、陽炎型の陽炎、不知火、天津風、雪風は非番で、楽しく談笑していた時だった。非番の日というのは滅多なことでないと呼び出しがかかることは無い。そうだったことを覚えている彼女らは、その呼び出しの理由が分からなかった。
「 ええっ!?あたし!?あたし何かした!?」
当人の天津風は非番の時にわざわざ呼び出しを食らうようなことをした覚えはない。日々真面目に訓練に取り組み、遠征をこなし、この前は秘書艦代理まで務めた。褒められることはあっても呼び出しの上おしかりを受けることなどない。
「 天津風、落ち着いてください。まだあなたが
何かやらかしたと決まったわけではありません」
その場で一緒に談笑?していた不知火はそんな天津風の突然の呼び出しにも落ち着いていた。まぁ、彼女自身の性格だからこそ成し得るものだが。
「 ちょっとぉー。天津風なんかやらかしたの?
困ったことがあるなら言ってくれれば良かった
のに……」
「 ちょっと!?別にあたしは何もしてないわよ」
対照的に陽炎は全面有罪と見ている。
「 しれぇは何か頼みたいことがあるんだと
思いますっ!ほら、天津風この前秘書艦
やってたからじゃないでしょーか?」
「 それよ!きっとそれ!そうじゃないと困る」
雪風の素晴らしい考えに天津風は便乗した。むしろ、天津風自身もこうであって欲しいと考えている。雪風の優しい予想が当たることを信じて天津風は部屋のドアをくぐった。
ーーーーーーーーーーーー
コンコン、と控えめなノックが、執務室の扉を叩いた。
「 どうぞー」
「失礼します……天津風、参りました」
ノックをしたのは天津風だった。表情は少しこわばっている。雪風の幸運っぷりは信じているし、自身も変なことをしでかした覚えはないのだが、突然の呼び出しとあって、緊張しているのだ。
しかし、そんな様子に気付かないほど提督は鈍感でもない。
「 どうしたんだ、天津風。なんか改まって……
しかも顔少し青くないか?調子でも悪いのか?」
提督があまりにも心配そうにするものだから、天津風も逆に申し訳なくなってくる。
「 別に調子が悪いわけじゃ……
それより、あ、あたしを呼んだ理由を教えて
欲しいんだけど。」
提督は、そうだったとばかりに手をポンッと叩く。
「 えっ?ああ、実はなんだけど……
今日から出張で帝都に行かないといけなくなって
ね……その間大淀さんにここを任せることにした
んだけど……一人だと何かと大変だろうし、
その手伝いを君に頼みたいなと思って……
今君が非番だってのは重々承知してるんだけ
ど……頼めませんかね? 」
と、提督は微妙上目遣いで天津風を見据える。天津風はなんだかんだ言って世話焼きな性分で、下手に出て頼まれると断れない。結局彼女は溜息をひとつついて、腰に手を当てた。
「 しょうがないわね……分かったわよ……
それで?いつまでなの、その出張って。」
「 それがさぁ、書いてないんだよね。いつまでに
来いとしか……だから正直いつになるか分から
ない。だから君に頼むんだ。」
提督はさらりと、無意識にとても恥ずかしいセリフを吐いた。しかし、そのセリフが恥ずかしいものであることに気づいた天津風は頬を赤らめ、キッと彼を見据えた。
「 ちょっと!?何恥ずかしいこと言ってんのよ、
もう!やめてよね……」
残念ながら提督はなぜ彼女が恥ずかしがっているのか分からない。首を傾げるばかりだ。
「 あっ!そろそろ出ないと……それじゃ、
天津風。あとを、頼みます!」
そして、腕時計を見るなり、無駄に決まった表情を彼女に向けて出ていった。
「 ったく……何があとは、頼みます!よ……
しょうがないわね……」
天津風がぶつくさ言いながら窓から外を見ると、加賀さんと彼が駅に走っているのが見えた。
ーまだまだ新米。でも、一生懸命やってるのね……
でも、今日あたしは非番。後で休暇は追加で
もらわないとねー
そんな彼女の独り言と微笑みは、夏口の風のように柔らかかった。
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