「 提督、今日から執務が始まります。
基本的にはこのマニュアルに書いてある通りに
処理してくだされば問題ありません。
もし分からない事があれば秘書艦の加賀さんに
聞いて 下さい。私も普段は電信室におりますので
もし何かあれば呼んでください。では失礼します」
そう言って大淀さんは執務室を出ていった。
…………
「 加賀さん」
「 何かしら」
「 大淀さんはなんかさ、手伝いとかしてくれる
娘じゃないの?」
「 あの娘にはあの娘にしか出来ないことがあるわ。
だから電信室に行ったのよ。あの娘は電信の処理
が上手いし、あの娘自身も、あの頃から
それが仕事だったらしいから。」
隣で書類の処理をしている加賀さんが答える。
軽巡洋艦大淀。最後の連合艦隊旗艦にして最新の
航空施設と通信設備を備える日本海軍の技術の
結晶。そんな肩書きとは裏腹に彼女のたてた武勲
目立たない。そして最後は呉軍港で動かす油もな
く空襲で沈没した、んだったか。住んでいた呉は
あんまり好きでは無かったが、いつも船のいる海
は、やはり俺の幼い頃の心を掻き立てた。
その時知った知識がここで役立つとは夢にも
思わなかった。
しかし、知識を持ってしても、彼女が見せたあの
寂しげな笑顔は、よく分からない。何か悩みがあ
るのだろうか。
「 加賀さん、大淀さんはなんか悩みとかあるん
かな?」
一応聞いてみたが、加賀さんは申し訳なさそうに
目を伏せた。
「 私はあの娘が産まれる前に沈んでしまったから
あの娘の悩みは、残念ながら分からないわ。でも
一つあの娘について言えるのは、あの娘はあそこ
にいたがってるってことだけ。
きっと、それがあの娘の……誇りなのかもされない
わね。」
「 誇り……か……」
あれは彼女の矜恃、というかアイデンティティ
なのではないかと、俺は思う。自らがあの時務めた
それを、もう一度果たしたい、という。
「 もしあの娘の事を気にかけてあげるなら、
そうね……榛名に聞いてみるといいわ。
あの娘と榛名はあの時一緒だったから。」
加賀さんは少し遠くを見るように
窓の外を見上げる。彼女にも、ミッドウェー
という最後があるのだ。思い出したくないものを
思い出させてしまったかな。
「 榛名はいつも金剛と一緒にいるから、
中庭に行ってみたらどうかしら。きっと
"ティータイムの時間ネー!"って言ってるから。
もちろんお昼の休憩の間に、よ。」
「 あぁ、分かったよ。ありがとう。
加賀さんはなんだかんだで優しいんだな。」
俺は傍らで仕事している彼女に微笑みかけた。
すると、加賀さんは厳しい目付きはそのままで
でも耳を真っ赤にして俺を見据えた。
「 つっ、つまらない事を言ってないで職務を
早く片付けてください。」
照れているのか恥ずかしいのか。
加賀さんの可愛らしい一面が見れたなと、俺は
何故か感心していた。
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ふと見あげた蒼い空にカモメとトンビが輪を
描いて飛んでいた。彼らはまるで海と山のそれぞれ
の空の主の如く優雅に飛んでいた。
「今日も静かですね……」
「 本当に静かネー……私はもう少し賑やかでも
イイネー!」
金剛お姉様はいつもは明るい顔と大きな瞳に寂しさ
をたたえています……
「 金剛お姉様は榛名と二人はつまらないのです
ね……」
目に涙をたたえながらすすり泣くフリをする。
「 そういうことじゃナイヨ!?
私は姉妹そろってティータイムがしたいネー!
榛名は大事なシスターデース!」
「 榛名は……大丈夫です……」
お姉様をからかおうとしただけなんです。
ごめんなさい、お姉様。
「 でも……霧島と比叡に会いたいのは本当
デース……この鎮守府に来て欲しいデース……」
「 私もです……でも今の鎮守府の戦績では……
難しいです。せめて……南方海域に侵攻できる
位にならないと……」
「 それを言われると辛いデース……」
金剛お姉様もため息をつく。
この鎮守府は出来たばかりで、初代提督だった
方も、着任5ヶ月で去って行った。
青葉曰く、ここはポストだったとか……
「 新しい提督に期待するしかありませんね。
でも新しい提督は頭良さそうでしたし、
やってくれるかも知れません」
「 確かにテートクは賢そうでしたネー!
これは期待しとくネー!
ところで榛名はテートクと話した事ありますか?」
「 まだ無いです。そのうちに……とは思っている
のですが」
提督の顔を頭の中で描く。整った顔立ち、少し太
い眉、あどけなさ残る優しい目……
「 榛名たち、ここにいたのか……」
そうそう、こんな顔だった…
「テートクぅー!こんにちはデース!」
金剛お姉様の声に、もう一度あの顔を思い出す。
そこに居たのは間違いなく提督、そのひとだった。