もうエグゼイド46話目の放送でいいんじゃないかな?
黒ウサギに追いつくために走り出した永夢は、気づけば黒ウサギを追い抜き彼女の到着を待つ程であった。
その後行われた治療行為については、実は永夢の出番はなく――というのも、工房にある治療用のギフトを使用することで治療を完了させてしまったのである。
しかも扱いが難しく、昨日ギフトの存在を知った永夢では到底扱いきれないものだった。
けれど、耀の怪我は確かに治った。
永夢やパラドからすれば、自分が手を出せないことよりも、一人の少女が助かったことこそがなによりも喜ばしい事実だったのだ。
「ところで永夢さん、先ほど話し方が変わっていた気がしたのですが……?」
治療行為を終え一息ついていた黒ウサギが、ベッドに寝る耀の寝顔を微笑ましそうに眺めていた永夢に問いかける。
戻ってくる直前、永夢の話し方はこれまでのものと違っていたのは事実だ。
「気のせいではないですよ」
永夢も、ここで隠すことはしない。
「あのときの僕は、僕であって僕ではありません」
「どういうことでしょか?」
「……僕は、一人ではありません。厳密には、僕の中にはもう一人の僕とでも言うべき人がいるんです。さっきはその彼が力を貸してくれたからエナジーアイテムを取ることもできたんです」
その言葉を受け、永夢の中で話を聞いてるパラドが笑顔を見せる。
だが、黒ウサギは対照的に心配そうに永夢を見つめていた。そして、彼の額に自分の手のひらを当てる。
「あの、黒ウサギ?」
「熱はないみたいですが……永夢さんは疲れているんでしょうか? 医者の不養生はよくないと聞きますよ?」
「えっと……」
「まさか精神的に疲弊していただなんて。問題児さま方の相手で消耗していたのですね」
うんうん、と一人納得したように頷く黒ウサギ。
残念ながら、永夢の話は微塵も信じていない様子である。それどころか、昨日からずっと問題児たちの相手をしてきた黒ウサギは通じるものがあるとでも思ったのか、苦労している永夢のためになろうと張り切りだす始末。
「ひとまず永夢さんもゆっくり休んでください。黒ウサギは十六夜さんたちの様子を確認してきますので」
「え? あ、ちょっと!」
止める暇もなく出かけて行ってしまうので誤解を解く暇もない。
結局、口調が変わった理由も、自分の秘密も説明できないまま話は終了することとなった。
残された永夢は、出血が酷かったので増血の処置を施されぐっすりと眠る耀の近くに椅子を置き、そこに座りながらみんなが帰ってくるのを待つしかなかった。
「せっかちな奴だな、黒ウサギも」
彼女がいなくなったのを確認したのか、永夢の体から粒子が飛び出し、人の形を作っていく。
「信じてもいなかったけどね」
「それもそうか。事情を知らなければ俺の存在を認めるのは難しいことだしな」
粒子は集まり、パラドへとなる。
「俺のしたことに、意味はあったのか?」
パラドは永夢の隣で寝込む耀を眺めながら独り言のように言葉を発する。
今回は、ただ黒ウサギについてきただけだ。永夢を送り届けただけだ。誰かを救えたとは言い難い。ましてや必要あったのかと。そんな思いが、彼の中で例えようもないうねりとなる。
「パラドの力も、十分に人を救うための力になってるよ」
そんな彼に、永夢が話しかける。
思い出すのは、多くの仲間と共に戦ってきた日々。
最初は敵対していたパラド。
やっと知ることのできた彼の本当の正体。
自分たちの繋がり。
パラドの意思。
「間違えてきたことだって、無意味なことじゃない。いまそう思えているのなら、必ず誰かを救えるさ」
「永夢……」
「第一、パラドはもう多くの人の危機を救ったじゃないか。あの二人が手を組んだことによって起きた最悪のゲームを止めるために一緒に戦ってくれた。世界進出する直前のすべての計画を壊してくれたじゃないか」
あってはならない二人の男の邂逅。
彼らが手を組んだことにより、永夢たちが終わらせるはずだったゲーム――「仮面ライダークロニクル」は、たった二人の男たちのせいで難易度が遥かに高まったのだ。
「エンディングに漕ぎ着けないと人間が消える。そう思っただけだ」
「思えることが大事なんだよ。パラド、人を思う気持ちがすべての行動を決めるときだってある。そうして動いたときこそ、きっとおまえが自分の意思で人を守りたいと思ったときだ」
「仮面ライダークロニクル」のラスボスを抑え込むために、一時はその身をかけたパラドを、永夢はよく覚えている。
伝説の仮面ライダーとラスボスを一度に敵に回したあのとき。
CRのドクターでも、ゲーマドライバーを所持しているわけでもない、けれど仮面ライダーとして人々を守ると言ってくれた人たちと共に挑んだ最終決戦。
全員で立ち向かっても、一撃の元に変身解除まで追い込まれた最中。
パラドが身を呈してなければ、きっとゲームクリアまで至れなかっただろう。
「これまでみんなと戦ってきたことも、今日のことも。意味がないなんてことは絶対にないんだ」
繋がっている二人だからこそ、互いの想いがすんなりと入ってくる。
自らの隠しようのない言葉が聞こえる。
「そうか。なら、俺はこの先も人間のためにこの力を使わないとな」
薄い笑みを浮かばせながら自分のガシャットを握るパラド。
「そういえば、あのときの無茶でハイパームテキが壊れたんだよな」
声音に気力が戻り、笑いながら過去の話をしだす。
自分たちすべての仮面ライダーの中での最強戦力。その力の大元が壊れたときのことを。
「あ、あのときはそうでもしないと勝てなかったじゃないか」
「ガシャットが出力に耐え切れずに壊れるとか過去にも未来にもあれっきりだろうぜ。しかも同時にふたつだもんな」
本来ならありえない、ガシャットの破損。元の世界にいる檀黎斗神ですら予想できなかった出来事は、いまなら笑い話にもできるものだ。
「だったらパラドこそ! なにが『これを使え』だよ。まさか分身化を投げてくるとは思わなかった!」
「最高だったよな、ハイパームテキが二人だぜ?」
「そのあと『俺も行くぜ!』とか言って自分だけ八人になってただろ」
「十人での超キョウリョクプレーは熱かったな。心が躍ったぜ!」
二人になったエグゼイドに対して八人のパラドクス。超キョウリョクプレーにしても度が過ぎているのだが、あのときの状況を鑑みれば過剰戦力と言うには足りないのかもしれない。
クロノスとゲムデウスマキナの共闘などという、危うい状態にあったのだから。
本当の本当に、ギリギリだったのだ。
それこそ、ガシャットの限界を超えての力を引き出したために、決戦後にはガシャットが同時にふたつも破損するほどには。これまでのどの戦闘であってもありえなかったことだからこそ、当時の最終決戦がどれほどの激戦だったのかが伺える。
「ところで永夢、おまえは十六夜たちのところに行かなくていいのか?」
いまだ耀の側で座っている彼に問いかけると、
「向こうには黒ウサギが付いている。むしろ、いまここで僕までいなくなる方がよくないと思うんだ。意識がなくなったあとに起きてすぐで誰もいなかったら不安になるだろ?」
「そういうものなのか?」
「人によって違うかもしれないけど、だいたいはそうだと思うよ。パラドだって、周りに仲間がいなくなると寂しいでしょ?」
「……ああ。なら、起きるまでいてやるか」
永夢が座る位置とは反対側に自分用の椅子を持ってきたパラドは、嬉しそうにその椅子に座った。
自分にできることは小さなことでも、人のためになることの喜びを噛み締めながら。
永夢とパラドは、耀が目覚めるのを待っている間は箱庭のゲームがどんなものか、どんなゲームなら楽しそうだとか、こんなゲームは不利かもしれない、自分たちの仲間なら誰が適任かなどと多くのことを話し合っていた。
そんなときだ。
「……ここ、は?」
眠っていた耀の意識が戻ったのは。
「耀ちゃん!」
「お、やっとお目覚めか」
ゆっくりと上半身を起こした彼女を待っていたのは、先生と呼んでいる永夢と、まったく知らない男の二人だった。
「…………だれ?」
彼女の口にした疑問はもっともなもので、視線もパラドに固定して外さない。
随分と警戒されたものだ。
「耀ちゃん、あのね」
「待てって永夢。自己紹介くらい自分でさせろよ」
やけに永夢と仲良さげに話すパラドの姿に警戒心を緩めた耀だが、次の言葉によって思考が止まる。
「初めまして、パラドだ。永夢から生まれたMとしての人格だ。よろしくな」
盛大に正体をはぐらかした自己紹介だが永夢は黙認した。
一応言っていることは真実なわけだし。とは本人の弁。
「………………つまり先生は子持ち?」
しばらく黙り込んでいた耀が今度は永夢に視線を動かし、やっとのことで口を開いた。
「え? 子持ち!?」
「まあ、確かに俺は永夢から生まれたようなものだからな」
「いったいいくつで……」
「永夢がこどもの頃だったから、だいたい――」
「パラドは黙ってて!!」
バグスターのことやその他すべてを話すにはまだ早い。かと言って決して子持ちではないことを証明しなければならない。もっとも、永夢の年齢でパラドほど大きなこどもがいるなど考えられない。
考えられないのだが、パラドの偽りのない発言がある意味でいらぬ誤解を招いている。
耀は耀で、少しばかり思考が彼方へと飛んでしまっているのも危険だ。かなり危険だ。
「パラドが決して僕の子というわけじゃなくて、どちらかいうと僕自身なんだ」
「先生、自身……?」
「そう。俺はお前、お前は俺。そういう関係なんだ。だからパラドはもう一人の僕なんだよ」
「そういうこと。俺は永夢の中にある天才ゲーマーMとしての本来の人格そのものなんだからな。完全に一人の人間ってわけにはいかないが、それに近いようなものだ」
永夢とパラド。それぞれの説明は寝起きの耀には情報量が多すぎたのか、
「双子?」
曲解される形で処理されることになった。
「間違いではないような気もするけど……」
「下手に解釈されるよりはわかりやすいかもな」
この際それでもいいかと思い出す二人は、耀を挟んで互いに笑みを浮かべた。
真ん中に座る耀は、その光景を不思議そうに眺めていたが、いつしか彼女の中でパラドに対する警戒心はまったくなくなっていた。
「実際に見せた方が早いかもしれないけどな」
「見せる?」
パラドの言葉に耀は首をかしげるが、なにをしたいのか察した永夢は困ったような顔を見せる。確かにそれをすれば話は早く済むだろう。
幸いにも、彼らのいた世界と違って、ここは摩訶不思議なことが罷り通る世界なのだ。同時に、目の前にいる耀自身も、そうした力を持つ少女である。覚悟を決めるように、息をひとつ吐き出す。
「耀ちゃん、僕のギフトカードに”天才ゲーマーM”ってあったのは覚えてる?」
永夢が尋ねると、耀は首を縦に振る。
それなら、とパラドとアイコンタクトを取ると、パラドは粒子状になって永夢の中へと入っていった。
「消え、た?」
「いいや、消えてないよ。パラドは僕の中にしっかりといる。なんだろう、体内に宿っているって言えばいいのかな?」
「えっと、つまりパラドは先生のギフトってこと?」
「箱庭の世界だとそうなるのかな」
「不思議……変わってるね、先生は」
ここで初めて、永夢の前で笑みを見せた耀。
つられるようにして、永夢の顔にも笑みが浮かぶ。
「さて、これで俺のことも理解してもらえたな」
「うん、もうだいじょうぶ。よろしくね、パラド」
「ああ。そのうち楽しいゲームをしようぜ」
パラドと耀が手を握る中、永夢は微笑ましそうに二人を眺め、そのあとは耀の体調を気遣ったり経過の説明をしたりと、いまできることをするのだった。
黒ウサギたちが帰ってくるまで、三人の談笑は続いたとか。
しかし、黒ウサギたちがこの部屋を訪れる頃には、パラドは二人に「お楽しみは取っておいた方が面白いだろ?」と自分のことを話さないようと頼みながら永夢の体に戻っていった。
月明かりが照らす湖のほとり。
アロハシャツの上に白衣をまとった一人の男性が水の中から陸地へと上がってきていた。
「くそっ、神の野郎どこに落としてくれちゃってんだよ……ああ、つめてぇ。まさかいきなり湖に落とされるとはねぇ……中々過激なゲームじゃないの」
とはいえ、立ち止まっているわけにもいかない。
この世界には、自分の仲間がいるのだから。
「ノリノリでいっちゃうぜ」
もう一人の白衣を着た男は黄色のガシャットを取り出すと、そのガシャットを起動させた。