寂しい夜は月を観よう。   作:土岐宙

1 / 2
第1話

世間一般的に過疎と言われるはずの山村には、人で溢れていた。しかし、自然を必要以上に破壊していない。人が集まるということは、住宅が建ち並ぶし、コンビニエンスストアや、デパートなどが建築される。もはや都市と言えるほどの居住区。そこでは、自然と科学、人類と動物など、それが共存しているという何とも可笑しな山村。その様に、自然に配慮した建物が建ち並ぶなかで、一つだけ、自然を配慮せずに建てられた物がある。それが非常に違和感を感じさせる。しかし、本来ならばその建物しかその区域にはなかったのだ。何故なら、ある少年が幼少の期にその土地一帯を買い取り、つい数年前まではその建物のみだった。その建物の名は、蓬莱(ほうらい)道場。

その道場には、一人の少年が住んでいる。少年の名は、(かがり) 麗慈(れいじ)。この山村の長と言っても過言ではない人物である。

この少年が居るからこそ、人が溢れるほど山村が開発されたのだ。だからこそ、自然と科学、人類と動物が共存できるように山村が開発されたのだ。

 

******

 

篝麗慈の朝は早い。

午前四時半に起床し、自らの肉体を基礎を重点的に二時間ほど鍛える。

六時半から七時までの三十分間瞑想し、精神を統一する。

七時から朝食を用意し始め、七時二十分には朝食を片付ける。

それから学校の準備をし、七時半には家を出立する。

しかし、今日は休日なので、瞑想の時間が一時間に延長される。朝食の用意は数年前、つまり土地の公開時からの付き合いのある人物から作ってもらっている。

しかし、今朝は瞑想に集中できず、武術の基礎鍛練を行うことにした。

型を五回くらい反復を繰り返したところで、終了時間が来た。

ある程度汗を拭いたところで、居間へと向かう。

 

「萩野さーん」

 

「はいはい」

 

樫原(かしはら)萩野(はぎの)。数年前に起きた、とある事故の時から料理を作ってくれる、優しいけど適当な幼馴染み。五六年程度で幼馴染みと言えるかどうかはわからないけど、多分言えるんじゃないだろうか?

 

「今日は出汁巻きと肉じゃが、鮭の塩焼きに滑子の味噌汁って感じな気分だったから、そんな感じに作ったよ」

 

「ありがとう。毎回言ってると思うんだけど、ご飯代受け取って欲しいんだけど………」

 

「私も毎回言ってると思うけど、お父さんとお母さん、私含めて麗慈には助けられっぱなしは嫌なの。本当なら、麗慈を家に招きたいけど、どうせこの家から離れないんでしょ。だから、家族を代表して年の近い私がご飯作りに来てるの。余計な気遣いはダメだよ」

 

今日も駄目か。

朝食と夕食を作って貰ってるが、代金は払えていない。何時だったか無理矢理代金を押し付けたら、次の食事が豪華になっただけで、樫原家には一文も入っていない。

最初の方はそのことで毎回言い合っていた。しかし、最近では若干諦めてきてある。

 

「早くご飯食べてね。片付けるの遅くなるから」

 

「………わかった」

 

片付けを手伝おうとすると、台所から蹴り出されるので、今では大人しく鍛練している。

毎度毎度のことながら、萩野の作る料理は美味しい。どの程度かというと、下手なファミレスよりも数段は上だと断言できる。

家で食事をするときは、大抵喋ることはない。学校や外食だと喋ることはあるが、家で食べるときは喋らないし、テレビもつけない。

 

「ご馳走様でした」

 

「流し台のところに置いてね」

 

「了解」

 

休日にやることは少ない。

約五つの武術の型を、適度に休憩を挟み反復練習をする。

それ以外だと、武術の複合や最適化、アレンジを加えるなどをするが、そう言ったものは日曜日にやる。

武術の鍛練なんて色のないモノを書くわけにはいかないから、今日のところは筆を終えることにする。

明日はなんだか良い予感しないので、筆を持つかどうかはわからない。

 

******

 

暗い。真っ暗だ。

自分の手足すら可視出来ないほど闇が深い空間。

光の欠片もない空間の中に居る。

だというのに、恐怖の欠片も湧かない。

 

「はあ。やっぱりか」

 

やっぱりだ。

自分は闇を、死を恐れていない。

むしろ、死を求めている。

前々から心のどこかで死を望んでいた。

当たり前だ。

13歳で世界最強になれる化け物なんだから。

僕は自分の力を疎んでいる。それと同時に認めてもいた。

守ることの出来る力。しかし、簡単に人を害せる力。

僕が欲しいのは守れる力だけだった。

僕は守りたかったから。家族を。

僕はただ死なせたくなかっただけだった。友達を。

それだけのことで求めてはいけなかった。

覚悟もなしに力は求めるものじゃない。

その結果が僕。

ただただ強いだけの、いつ爆発するかもわからない爆弾。

最近の僕は強い破壊衝動と殺人衝動に苛まれていた。

覚悟なく求めた力が暴走し始めていたんだ。

人は力を持てば変わる。それが僕に表れた結果、強い衝動が発生した。

僕の根底は復讐だったらしい。人類への。

 

「チャンスをあげましょうか?」

 

どうやら、この空間は死の瀬戸際では無いらしい。

明らかに人間の気配じゃない。神々しいものだ。

 

「そうだね、もし可能ならば欲しいかな。それで、対価は何?」

 

「簡単です。死後、私の部下になりなさい」

 

まさか。

神様からスカウトされるとは思わなかった。

しかし、僕だけが逝くわけにはいけない。

 

「じゃあさ、ボクの家と誰か一人を連れてって良い」

 

「いいでしょう。それと、出来る限りあなたの生をサポートすることになってます。他にも何かあったら言いなさい」

 

明らかに可笑しい。

何故こんな要求を飲むのだろうか? 普通ならば飲む必要もないし、サポートなんてしないだろう。

神様(仮)は皆温厚な人なのだろうか? それとも、僕を騙すつもりなのだろうか?

 

「………厚待遇過ぎない?」

 

「あなたは私たちの長に認められました。それこそ、私たちと同族になることすらも」

 

「………そう」

 

神々の長に認められた、か。

僕の存在は矢張異常だったということの裏付けかな。

 

「それでは、また今度。あなたが目覚めた後、暫くしてから会いましょう」

 

「用件だけ伝えて終わりって酷くないかな?」

 

「それだけではありませんよ。目が覚めてからを、楽しみにしていてください」

 

神々しい気配が溶けていった。

暗黒の空間から、意識が浮上する感覚を覚える。

 

「麗慈君、起きて! もしかして、風邪でも引いたの?」

 

「萩野さん!?」

 

目が覚めたと思ったら、目の前には萩野が立っていた。しかし、その顔には驚愕の色が浮かんでいたが。

 

「どうしました?」

 

「麗慈君で良いんだよね?」

 

「…………良いと思いますが?」

 

「これを見て」

 

目の前に出された手鏡の中には、見覚えのない少女が写っていた。腰くらいまである黒い長髪に、碧眼なうえ、鍾乳石のような肌、地面が見えないんじゃないかと思うほどの胸部装甲。これは確かに見惚れるほどの女性であるが、本来なら手鏡に映る光景ではない。つまり、あの神と思われる存在が言ってた発言はこの事であろう。

 

「…………」

 

「大丈夫?」

 

「そうだね、うん。取り合えず神様しばいてくる」

 

「落ち着きなよ!!」

 

そうだ。武術において、冷静さを欠くことが最も忌むべき行為。わかってる。わかってたとしても許せない。

…………あれ? 可笑しい。衝動が無くなってる。

ああ。そう言えば、サポートするって言ってたっけ。

だとしたら嬉しいかな。

あの衝動は参ってたからなぁ。

そんなことよりも、萩野の言葉に答えなきゃ。

 

「もう大丈夫。それよりも、学生手帳持ってきてくれると嬉しいかな」

 

「良いけど、休日なのに何に使うの?」

 

「確認したいことがあるから」

 

萩野に学生手帳をを持ってきてもらって、確認すると……

 

 

東山(あずまやま)高等学校所属

3年2組8番

(かがり)麗邏(れいら)

 

 

「やっぱり。あの人(?)今度あったら腕菱木十字固め極めようかな」

 

「この状況の原因でも知ってるの?」

 

「知ってる。というか、こんな状況になる原因と会ってきたところだから」

 

「説明して」

 

「わかったよ」

 

この状況を説明するとなると、一緒に衝動についても説明した方がいいかな? どっちにしろ、今日は鍛練休みにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。