銀色に憑依した悪逆皇帝   作:甲斐太郎

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00.【Cの世界で】

□ルルーシュ□

 

最愛の妹であるナナリーの『愛しています、お兄さま』というトリップ成分たっぷりの発言を頭の中で何度もリピートさせながら、夢心地で瞼を閉じた俺であったが、誰かに揺さぶられる感覚に襲われ渋々目を覚ます。すると暖かな光が差し込む白い空間に立たされていることに気付いた。背後に気配を感じた俺がその場で振り返ると、不気味な白い仮面をつけたナニカが殴りかかってきたところだった。

 

【僕たちに明日を望んでおいて早速自殺するとか、何をやっているんだぁあああ!!】

 

鳩尾に突き刺さる拳。

 

“運動神経を母胎に置いて生まれてきたのではないか”と揶揄され笑われるほど貧弱な俺の身体では到底耐え切れない一撃。

 

身体は“く”の字に曲り、足先が地面から離れる。

 

一瞬の浮遊感の後、地面の上に崩れ落ちた。内蔵が体内で暴れ狂う感覚に身悶えして地面をのた打ち回る。

 

スザクが扮するゼロに剣で心臓を一突きされた時は痛さよりも熱さや息苦しさが先行したので、こんな痛みは久しぶりの感覚である。

 

【僕たちに明日を望んだ君だからこそ、光ある未来を見せてくれると期待したのに、何この結末!ふざけんなしっ!】

 

白い仮面をつけたナニカは俺の身体を掴んで持ち上げると逆さにした。そして両脚を掴んで俺の首を肩口で支える。白い仮面をつけたナニカの息遣いが傍で感じられるが、自身が強制されているこの体勢に不安しか感じることが出来ない。

 

もしもこんな状態でジャンプされて空中から尻餅をつくように着地されたら……。

 

【僕たちの思いを踏みにじった悪逆皇帝に裁きをっ!くらえ、キン○バスター!!】

 

「おい、馬鹿、やめっ!?」

 

俺の制止の言葉を無視して白い仮面をつけたナニカは飛び上がった。細いモヤシ体型とはいえ、成人男性を抱えたまま一足で飛び上がれるジャンプ力ではないだろうと現実逃避する俺。上へ上へと向かっていたのが、地面に吸い込まれるように落ちて行く。

 

俺は思わず目を瞑る。

 

その直後、首と背骨と股間が引き裂かれるような激痛を感じると同時に俺は意識を手放した。

 

 

 

 

目覚めて早々に自身の体がどこも壊れていないことを確認した俺の前に、白い仮面をつけたナニカが現れた。俺は思わず身構えたが、白い仮面をつけたナニカはどこからともなく机と椅子を引っ張り出すと腰掛けた。そして、俺に自身の向かいに用意した椅子に座るように無言で促してくる。ガラスの様に透き通った机と椅子だなと思いつつ、ちゃんと座れるかを確認して腰掛けた。

 

【出会い頭にすまなかったね、悪逆皇帝】

 

「まさか死んだ後に死ぬことになるなんて思いもよらなかったぞ」

 

【僕たちに明日を望んでおいて、自殺する悪逆皇帝が悪い】

 

「“僕たちに明日を望んで”か。つまり、お前は俺がギアスという名の願いを掛けた無意識集合という認識でいいのか?」

 

【その認識で問題ないよ。今、君が見ている僕たちの姿は君の記憶に基づいて構成されている】

 

俺は無言で無意識集合の姿を見る。不気味な白い仮面をつけていること以外は、偽りの記憶を与えられた頃の俺の弟を演じていた少年の姿だ。ただ妹も目的も自分の軍隊も何もかも失い自暴自棄になっていた俺の命を救うために、自分の命をかけて守ってくれた『ルルーシュ・ランペルージ』という男の唯一の家族で頼りになる弟の姿。確かに彼が生きていたら、『どうして死を選ぶの!』って怒っていたかもしれない。

 

【さてと、悪逆皇帝。僕たちは君が示した明日が見たいんだ。君のいない明日が来る世界に興味はない。君がいなくなったあっちの世界は『時空の管理者』に世話するように丸投げしたからさ、気にしなくてもいいよ】

 

見ればどこか遠い目をした長身の女性が立っていた。毛先に行くにつれて薄紫色へと変色している黒髪は肩口で切り揃えられている。首元にはギアスの紋章が浮かびあがり、その表情はどこか達観しているようにも見える。

 

【さすがに君を君のまま、並行世界に放り込むと厄介なことにしかならないから、“器”を用意させてもらったよ】

 

無意識集合が指を鳴らすと同時に瞳に生気が感じられない少年が素っ裸で突然現れた。

 

目視で確認する限りであるが身長は俺とほぼ変わらないが、筋肉のつき方が半端ではない。俺はまさに吹けば倒れるモヤシ体型であるが、無意識集合が用意した少年は細く引き締まった筋肉という名の鎧を全身に渡って纏っている。容姿は銀髪碧眼で、顔の輪郭や目鼻の位置は俺に良く似ているが、股間にそそり立つモノは俺のとは比べ物にならない。

 

【とある並行世界で君を補佐する立場となって世界を護ったり、敵として立ちはだかったりする君のご先祖さまさ】

 

「は?ご先祖さま?」

 

【初代皇帝の子供で第2代ブリタニア皇帝。『狂王』として親兄弟を皆殺しにしたり、『賢帝』として民の暮らしを良くしたり、国外の敵を叩きのめしたりして、後に強大な国となるブリタニアの礎を築いた偉大な王様さ。聴覚に作用するギアスも持っているよ】

 

俺は無意識集合の話を聞いて頭が痛くなる。

 

どう考えても『ボクの考えた強いオリジナルキャラクター』でしかない。

 

しかも設定を盛り過ぎだ。俺は魂が入っていない等身大の人形でしかない少年を見る。そして、無意識集合を見ると一枚のプリントを差し出される。俺は何も言わずに受け取って、書かれている内容を読む。

 

名前は『幻の美形』。

 

年齢は『君と同い年』。

 

性別は『君と一緒』。

 

父親はブリタニアの建国の当事者であるリカルド・ヴァン・ブリタニアで、母親は嫁いで来た極東の島国出身の皇族の女性。つまりブリタニア人と日本人のハーフ。

 

ちなみに母親と同じ黒髪の妹がいた。大和撫子な妹がいたらしい。大事なことだから2回言った。

 

俺はプリントを裏返したり、無意識集合に写真はないのかと視線を送ったりしたが色よい返事はもらえなかった。気を取り直して資料を読み進める。

 

少年の設定では『君並みの知性』、『スザク並の運動神経』、さらに『聴覚に作用する絶対遵守のギアスを持っている』という破格の待遇。

 

こんな優良物件をその世界の俺が見逃すはずがない。スザクと一緒にいるところなんて見たら『何故だっ!』と歯軋りしながら世界を呪うこと間違いなしだ。

 

 

 

「“彼”のスペックは理解した。だが、無意識集合。お前たちは“彼になった俺”に何を望むんだ?彼が自分の意思で俺の側にいたり、スザクたちと世界を創ったりする様子は見たことがあるのだろう?……だから、俺を彼の器に憑依させるのか」

 

【理解してくれたようで、僕たちは嬉しいよ、悪逆皇帝。そうさ、バッドエンドで終わらせたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとしての記憶を持つ君なら、色々な悲劇を喜劇に変えて、『未来ある明日』を創ってくれるよね?】

 

白い仮面をつけた無意識集合の口ぶりはお願いの形ではあったが、1人の人間でしかない俺に拒否する権利も抵抗する力もない。どうせやるなら徹底的にやってみるかと俺は椅子から立ち上がって、銀髪碧眼の少年の器の側に移動する。

 

そして、軽く彼の肩に触れた。

 

 

 

 

誰かの声に導かれるように、ふいに目を覚ます。

 

上半身を起こして、ベッドの木枠に寄りかかりながら立ち上がるが、うまく身体を動かせずにその場に倒れこんだ。全身を床に打ち付けた痛みで涙が浮かび上がる。

 

すると突然、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。俺が部屋の中で倒れた物音を廊下で聞いて飛んできたようだ。

 

俺はその人物に手伝ってもらってうまく動かない自分の体をベッドに座らせてもらう。たったそれだけの動作で汗だくとなった少年に感謝の言葉を述べようとした俺は言葉を失った。

 

「はぁはぁ……。ここに運ぶ時も思ったけれど、見掛けによらず筋肉質だよな。お前」

 

「…………」

 

「うん、どうしたんだ?」

 

そこにいたのは黒髪と紫の瞳を持つ、記憶にある自分の姿よりも幼い容姿の『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』だった。

 

 

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