銀色に憑依した悪逆皇帝   作:甲斐太郎

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09.【ブリタニアとキョウトからの使者】

□ルルーシュ□

 

事の発端は今にも死にそうな程の青白い顔色で土下座しながら俺へと謝罪の言葉を紡ぐスザクとのやり取りから始まった。

 

 

 

ナリタ連山での攻防戦でキョウトが日本解放戦線を見放し、黒の騎士団と接触を図ろうとしている旨の情報を経て、どういった風にアプローチをするかを俺はカレンとライの3人で話し合っていたのだが、軍の任務で連日休んでいたスザクから連絡があった。

 

その時のスザクはひどく混乱しているようで電話口から聞こえてきた彼の言葉からは内容を察することが出来なかった。放課後にはアッシュフォード学園へ来るというのでクラブハウスで待った。

 

 

 

来訪を歓迎するナナリーとライに申し訳なさそうな表情を浮かべるスザクをとりあえず自室へ引っ張り込んだ俺は、どうして彼がこんなにも取り乱していたのかを知った。その後、スザクは肩を落とした上にすっかりと意気消沈し、『一緒に夕食を』と引き留めようとするナナリーに『ごめん』と一言だけ告げて去って行った。

 

深夜、ナナリーが寝静まったのを確認した俺はライを自室へと呼び出し、スザクから告げられた内容を告白した。

 

「はぁっ!?ユーフェミア副総督がアッシュフォード学園の視察に来る!?しかも、目的はルルーシュとナナリーって、どういうことなんだ?」

 

「スザクとユーフェミアにどんな繋がりがあるのか知らないが、スザクがアッシュフォード学園に通えるようにしたのはユーフェミアらしい。それで学園のことを調べている内に通っている生徒たちがインターネット上にアップしているブログに俺とナナリーのことが書かれているのを見つけた、と。無論、名前は伏せられていたが、ユーフェミアは何らかの確信を持った上で、スザクに『学園生活において貴方を助けてくれる親友にも会いたい』と告げたようだ」

 

「俺がルルーシュに成りすますのはどうだ?妹役は中等部の子に頼めばいいだろう?」

 

「……不可能だ。学園に通う生徒全員の口を塞ぐ方法が無い。俺とナナリーの幼少期の写真か何かを見せられながら、学園の生徒に生徒会副会長は誰と尋ねられれば、一発で俺だと分かる。芋づる式でナナリーの特徴も伝わるだろう。……詰みだ」

 

俺は両手で顔を覆う。幸い、新生している最中の黒の騎士団はライとカレンと扇が核となれば再建することは出来る。だが、俺はもうそれに関わることは出来なくなる。……俺はいったい何のために。

 

「副総督の狙いは何だ?ルルーシュたちを見つけて何をしようとしている?」

 

「分からない。だが、皇帝に俺たちが生きているという情報が渡れば、また別の国へと人質として利用されるだろう。さながら使い捨ての道具のように」

 

俺はベッドに寝転がり、ぼんやりと天井を眺める。俺とナナリーを捨てたあいつを倒すために、強大なブリタニアに反旗を翻すために、俺だけの軍隊を作り上げたのに、ただの思いつきによる行動で俺たちの未来はこんなにも呆気なく潰されてしまうのか。

 

「なぁ、ルルーシュ。なんでもソツなく出来るルルーシュなら、『皇子の身分を隠しながら生きているルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』ではなくて、『ただのルルーシュ・ランペルージという名前の少年』として演技はできないのか?」

 

「……演技?……そうか、その手があったか!」

 

ライは俺の喜色の返事を聞いて色々な設定を口にしていく。

 

俺はその設定の数々を聞き流しながら、絶対遵守のギアスを自身に掻けることを思いついた。手っ取り早いのはユフィにギアスを掻けて、『俺たちのことを気にせずに帰れ』とでも命じることなのだろうが、恐らく実際に彼女を前にしたらギアスを掻けることなど不可能だろう。ならば、自分自身に掻ける他に方法はない。

 

「ルルーシュが皇族だって知っている学園の関係者は?」

 

「アッシュフォード家に連なる者だな。今のところは会長や学園長に話を通せばいいと思う。あと、演技することはナナリーにも伝えなければな」

 

「ナナリーは聡い子だ。外に存在がバレれば、ルルーシュと一緒に過ごす事が出来なくなることくらい理解していると思う。そこまで心配はいらないと思うが、副総督が来るのはいつだ?」

 

「3日後。……キョウトとの会合が行われる日でもある。俺とカレンは副総督の受け入れ準備に生徒会メンバーとして借り出されるだろうから、抜け出すことは出来ない。キョウトとの接触はライと扇に任せる」

 

「……当然、ゼロに扮するのは俺だよな?」

 

「お前以外で俺の影武者が務まるとは思えないよ」

 

俺はゼロのコスチュームが入ったトランクを渡すのだった。

 

 

 

□ライ□

 

日本解放戦線の本拠地があったナリタ連山におけるコーネリア率いるブリタニア軍との攻防戦後、黒の騎士団の実績が認められキョウトから資金援助を検討している旨の連絡を受けた。当初はルルーシュたちも一緒に来るはずだったのだが、諸事情があり俺がゼロに扮して扇と共に指定された施設に赴く形となった。

 

手土産にランスロットの右脚とヴァリス付きで。

 

先に連絡がついていたのか、俺たちが到着した時点でゲートの方に技術者たちが殺到しており、ランスロットの右脚とヴァリスが搭載されたトレーラーのキーを扇から受け取ると『月下のパイロットにくれぐれもよろしく頼む』と伝言を預かるくらい、彼らはひどく興奮した様子だった。

 

『……行くか、扇』

 

「中々、熱烈な歓迎だったな。……ゼロ」

 

『緊張しているのか、扇?日本解放戦線がコーネリア相手に敗走した今、これからこの国においてブリタニアに対し銃を向けることが出来るのは我々『黒の騎士団』だけだ。そこを痛いくらい理解しているキョウトが私たちに手を出すはずがなかろう?』

 

「……分かっている。“慣れない”だけだ」

 

『これから、“こういうことは増える”。扇、君は黒の騎士団の『No.2』としての自覚を持ち、より一層励んで欲しいものだな』

 

扇はげんなりとした表情を浮かべている。それを見て俺たちを先導している人間がクスリと笑みを零した。彼女にはカリスマ性の高い正体不明のリーダーと、素朴で真面目だけが取り得そうな青年のやり取りに見えたのだろう。

 

だが、俺と扇の内情は違う。急遽キョウトとの会合に行けなくなってしまったルルーシュの影武者となった“ゼロに扮する俺”が、初対面の藤堂に喧嘩を売るような言動を取ることがあることを扇は知っている。故にいざとなったら自分がフォローしなければならないと意気込むと同時に胃を痛めているのだ。

 

『トウキョウ租界へ帰ったら、いい女がいる店に連れて行ってやろう』

 

「いや、いい。遠慮しておく」

 

『そう遠慮するな。私は頑張っている部下を労わない無能とは違う。結果に応じて報酬を与えるのは当然のことだ。扇も美味い日本食が恋しいのではないか?私の行きつけの店の女将が作る揚げ出し豆腐は絶品だぞ』

 

「いい女ってそっちか!?」

 

『どうした、扇?……どんなことを考えていたのか、私は追求しないが。……あまり溜め込むなよ。クックック……』

 

「ぐぅおおお……」

 

両手で頭を抱えてその場で悶える扇。俺がそれを見て肩を揺らしながら笑っていると、先導していた女性が小型携帯端末を使ってどこかへ連絡を入れる。

 

扇にも正体をばらしたとはいえ、こんな会話は絶対にルルーシュならしない。猥談を会話に取り込むなんて真似は童貞の高校生にはキツイからな。ある程度、落ち着いた様子の扇を伴い先導する女性の後を追う。

 

そして、通された部屋からはサクラダイトを搾取され続ける、かつて日本国民から霊峰と呼ばれた富士山が見える。美しき山の面影はすでになく、土色の山肌に金属の板が被せられ痛々しい。

 

「お主が、『ゼロ』か」

 

しわがれた老人特有の低い声色に導かれるように視線を部屋の奥へと向ける。そこには仕切りが設けられ、中にいる人物の顔を見る事は出来ないが、前回とは違い無頼が護衛としてついていない。

 

『ああ。私が黒の騎士団を率いる『ゼロ』だ。先日のナリタでは、貴様たちが寄越した紅蓮と月下を有効に使わせてもらった。手土産の方は喜んでもらえただろうか?』

 

「無論じゃ。今頃、技術者たちが目を血走らせながら解析をしておるはずだ。して、ゼロよ。お主、酒はいける口かの?」

 

『「は?」』

 

桐原公と思われる老人が放った言葉の意味が理解できず、俺と扇は同じタイミングで呆けた声を漏らした。

 

 

 

部屋の奥で踏ん反り返って『仮面を外せ』と言ってくると思われたのだが、桐原公はあっさりと仕切りから顔を出し部下たちに向かって手を鳴らした。側に仕えていた部下たちがそれぞれ慌しく動き出したのを見計らい、俺たちの下へ杖をつきながら歩み寄ってきた桐原公は、自ら俺と扇を先導して移動を始める。

 

「ゼロよ、わしが何者かは知っておるな」

 

『勿論だ。ブリタニア侵略前は枢木政権を影から支えるフィクサーであり、ブリタニアの日本占領後はサクラダイト採掘の権利を独占し、この国の植民化政策を推し進める結果となった『売国奴の桐原』。一方で、各地の反政府勢力に対して経済的な支援を行っているスポンサーであるキョウトの代表』

 

「その通りじゃ。しかし、それもこの国の未来のため」

 

俺と扇は桐原公に案内される形で移動しているため、彼がどんな表情で『未来』の話をしているのか分からないが、少なくとも俺が経験した世界ではユーフェミアが提唱した特区日本でのサクラダイト採掘権保護が承認されて、その恩に預かれなかったキョウト他家から疎んじられていたはず。

 

とはいえ、ルルーシュにはルルーシュの。俺には俺の思惑があるように、桐原公には彼なりの考えがある。上手い様に利用されないようにしながら、こちらが利用していけばいいだけの話だ。

 

『ところで、桐原公。どこへ向かっている?』

 

「ふむ。お主たちとは酒を酌み交わしながら話をした方が有益と考えてな。抱えている料理人たちに腕を振るわせておる。扇とやらは久しく日本食を口にしておらんというではないか」

 

顔を覗かせた桐原公はにこやかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

俺と扇が通された部屋は奥行きのある和室で、障子に仕切られた向こう側には青々とした葉を茂らせる木々と巨石で作られた日本庭園のような中庭が見える。上座に腰を下ろした桐原公が自分の正面に俺、俺の左隣に扇が座るように促してくる。

 

『郷に入れば郷に従え、か。扇、どうやら桐原公が『おもてなし』をしてくれるようだ。ご同伴に預かろうじゃないか』

 

「まじかっ!?」

 

扇の驚きはどちらの意味だろうか。その判断は後にすることにして、俺はふかふかの座布団の上に胡坐を掻く様に座る。扇は緊張してか正座したが、長い時間は保つまい。

 

「カッカッカ!ゼロは肝が座っておるのぅ。扇よ、お主もこの者のような剛毅な人間を主にするとは運がいいのか、それとも悪いのか。しかし、扇。先日のナリタでの民間人の避難誘導の手際は実に見事であった。“鶴”も感心しておったぞ」

 

「い、いえ!戦いに関係のない人たちを助けるなんて、俺は当然のことをしただけです」

 

扇は頬を赤らめ後頭部を手で掻きながら照れる。それを見て好々爺のように桐原公は笑うが、これは前哨戦だろう。酒が入ることで俺、いや扇の口が滑るのをひたすら待つつもりなのかもしれない。

 

そうこうしている内に俺たちがいる和室へ、彩り鮮やかな料理の数々、そして艶やかな着物を身に纏った女性たちが入ってくる。

 

『なぁ、扇。あれがキョウトの舞妓という奴か?』

 

「ああ。ニュアンスが違うと思うが、たぶんそうだと思う。俺も生で見るのは初めてなんだ」

 

笛や太鼓の奏者たちが奏でる音楽に合わせて踊りを披露する舞妓たちを眺めながら、桐原公は食事を勧めてくる。俺がゼロの仮面を被っていて食べられないこともあり、扇が料理を口にし、ホロリと涙を流す。桐原公はそんな扇を見ながら自身も料理を口にし、使用人を呼んで酌をさせはじめる。気付けば扇にも専属の者がおり、トクトクと酒を勧めている。

 

何か嫌な予感がすると思いながら視線を右隣に移すと、濡れたような黒髪と翡翠のような輝きを放つ瞳を持つ少女が映った。高貴な雰囲気を纏う小柄な少女は白魚のようなほっそりとした手で陶器のとっくりを持ち構えている。

 

「お酒は嗜まれますか、ゼロさま?」

 

鈴振るような声で花が咲いたような笑顔を向ける皇神楽耶の登場にどうしたものかと頭を悩ませる。

 

彼女は河口湖におけるホテルジャック事件から黒の騎士団に注目しており、紅蓮と月下が俺たちに渡されることになったことにも一枚噛んでいる。今でこそ、キョウトにおいてお飾り的な立ち位置であるものの十代前半の少女にしては頭の回転が早く、先を見据えた行動が取れる逸材だ。彼女に顔を見せるのは、『アリ』だと俺は判断した。

 

『桐原公。彼女を残して、あとの者は人払いを』

 

俺がそう告げると桐原公はニヤリと笑う。そして、手を叩いて合図を送ると舞妓や奏者たち、桐原公や扇に酌をしていた使用人も下がった。

 

気配が遠ざかったのを確認し、俺は左手を仮面に当ててもったいぶる真似もせず、一思いに顔を晒す。2人は俺を見てどんな反応をするのかと瞼を開けると桐原公は俺の行動に感心しているが、神楽耶の方は目を見開き両手を口に添えて驚いている。

 

その反応はあれだ。

 

俺たちに日本解放戦線の居住区に繋がる廃坑の存在を教えた高齢の女性が見せた表情に良く似ている。

 

「ゼ、ゼロさま!貴方さまは、もしや我が日ノ本の皇族の血筋の御方ではございませんか?」

 

「「(@´ω`):;*.':;ブッ」」

 

神楽耶の衝撃的な発言に俺と扇は同時に噴出し、桐原公はもんどり打って倒れ後頭部を床に敷き詰められた畳に強打。ただ単にゼロの中の人を晒そうとしただけなのに、どうしてこうなる!

 

ブリタニア皇族かつ日本の皇族って、地雷にも程があるだろ、集合無意識ぃいいいい!!

 

「歴代の皇族の方々の姿絵や写真を拝見したことがございます。中でもゼロさまは大国の王の妃として迎え入れられた皇女さまと良く似ていらっしゃいます。特にこの透き通った翠玉のような瞳は紛れも無く、日ノ本の高貴な身分の証です!」

 

俺の右腕を絡め取りながら力説する神楽耶。こんなことになるくらいなら、アッシュフォード学園にて厄介な見学者を招く形になって身動きの取れなくなったルルーシュに変装してやり過ごす方がマシだった。

 

これ、どうやったら収拾がつく?

 

2回目の俺でさえも全く分からなくなってしまった。

 

 

 

嗚呼、今すぐにでもアッシュフォード学園のクラブハウスに帰ってナナリーに癒されたい。

 

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