□ルルーシュ□
俺が持つ絶対遵守の能力を持つギアスを使い、アッシュフォード学園へ視察に訪れたユーフェミアとの遭遇をなんとか何事もなく済ませることが出来たのだが、ギアスの解除条件であったライとの再会にてフラッシュバックした記憶の中で、彼はとんでもないことを仕出かしていた。
「ハイウェイを走る車から車へ飛び移りながら移動し、バスジャック犯によって占拠されたバスの窓を蹴破って中に入って、人質に被害を出さずに犯人を半殺しにして解決したって、いくら何でも無茶苦茶すぎるだろ」
「助けを求める子供たちを見捨てられなかったんだ」
「……被害にあった子供たちを無視してゼロを取り囲もうとしたマスコミと、犯人を引き受けにきた警察に説教をしたのはこの際、目を瞑る。だが、『ゼロ』を捕らえるという功績に目を眩ませながら殺到した、武装したブリタニア軍人たちを素手で無力化するって、お前。おまえ……」
「いや、あいつら放っておいたら民間人まで巻き込みそうな雰囲気だったから、即急に対処しないといけないと思って……」
「これから『ゼロ』として活動する俺がライみたいに動けるはずがないだろぉおおおお!!」
「正直、すまんかった」
ライは申し訳無さそうに目尻を下げているが、すまんと謝られて済む問題じゃないんだよ!
◇
翌日、ライを伴って教室へ向かう。すると先に登校していたクラスメイトたちの話題は昨日のゼロが起こした騒ぎで一色に染まっていた。ユーフェミアという皇族が視察に訪れた翌日にも関わらず。クラスメイトたちは各グループで話をしている。
少し耳を傾ければ『ゼロの正体はエリア11に古くから存在するニンジャだ』とか、『子供たちを狙った犯人たちを見逃さない正義の味方だ』とか、『民間人がいるのに武器を発砲しようとしたブリタニア軍人を無力化できるって凄い』とか、ブリタニア帝国に対し弓引く存在であるにも関わらず、悪い印象は持たれていないようだ。
それによって、以前寝ぼけて『黒の騎士団』発言をかましてしまったカレンが『トレンドの最先端を行く者』として生徒たちに囲まれている。時折、救助を求めるような視線が寄越されるが俺はそっと視線を逸らし、実行犯のライはリヴァルを見つけて駆け寄り、助け舟を出すことはしなかった。
結果。昼休みに屋上へと呼び出された俺とライに対し、怒り心頭のカレンによる文句のオンパレードがなされる。俺とライは特に反論せず、カレンの鬱憤が晴れるまで聞き、落ち着いたのを見計らって声を掛けた。
「で、あのお姫さまに関してはもう大丈夫なの?」
機嫌伺に購買で購入してきたメロンパンをカレンに献上しつつ、俺とライはそれぞれ咲世子が作ったサンドウィッチを口にしている。そんな中、不意にカレンが俺に質問をしてくる。俺は食べ掛けだったサンドウィッチを詰め込むとよく咀嚼して飲み込んだ後で返事を行う。
「ユーフェミアは俺とナナリーが皇族としての記憶を持ち合わせていないと結論づけたようだ。会長もうまい具合にフォローしてくれたし、不本意ながらライによる『ゼロ』の大立ち回りで視察時間が大幅に削られたのも大きい」
「その大立ち回りの結果、うちのクラスでは、ゼロは『悪の組織によって改造された善良な人間が復讐に走った存在』ということになったんだけれど?」
「二度と、ライにゼロの影武者は頼まん」
「……あのさ、そのことについて一つ報告し忘れていたんだが」
そう言ってライからキョウトの代表である桐原公、そして皇神楽耶との会合の際の話を説明される。ブリタニア人と日本人のハーフの件でカレンがライに親近感を持ったようだが、彼が日本の皇族の血を継いでいる可能性があることを聞いて頬を引き攣らせた。ライは血液を桐原たちに渡しており、現在キョウト傘下の遺伝子工学研究所にて調査されているとのこと。
「神楽耶嬢が確実視していたから、恐らく……」
「え、でもそんなことって有り得るの?」
「俺たちだけでは判断しようがない。もし、ライがそういう血筋でも黒の騎士団の仲間という事実は覆らない。そうだろう?」
「それもそうね。ふふっ、まさかブリタニアの皇子さまと、日本の皇族に連なる人物が横に並ぶなんて、後にも先にもないんじゃないかしら?」
カレンの言葉を聞いて顔を見合わせる俺とライ。
後々、この事実を使える日が来るかもしれないと俺が思っているとライの目がカッと見開いた。次の瞬間にはライの手が俺の胸元へ伸びていて、すぐさまカレンの方へ放るカレンは最小の動きで俺が倒れてこない位置へ逃げたため、俺は屋上の床に身体を打ちつけ悶絶する羽目に。
打ち付けた顎を擦りながら涙目で起き上がると、険しい目でとある一点を睨みつけるライの姿があった。彼の視線の先には屋上に出るための扉がある。その扉が少しずつ開け放たれ、現れたのはアッシュフォード学園の女子の制服を身につけた緑色の髪をポニーテールにした魔女の姿。
「おお、怖い怖い。そんな視線を、女に向けるものではないぞ」
C.C.の言葉により一層の警戒の視線を送るライは俺とカレンを自分の背に隠すように移動する。カレンもいつも持参しているポーチに手を当てて、動きがあればすぐに行動できるように整えている雰囲気だ。俺はそこでようやく、彼女が何者なのかを知っているのが自分だけであることを思い出した。
「ライ、カレン。警戒する必要はない、彼女は俺の協力者だ」
俺がそう言うとカレンはポーチに当てていた手を離した。しかし、ライは警戒を解かず、扉を閉めてこちらへ歩み寄ってくるC.C.をじっと見据えている。魔女はライの視線を気に留めることもなく近寄り、俺が食べずに残していた咲世子のサンドウィッチを口に運ぶ。
「仮入学の身分である俺が言えることではないが、彼女はアッシュフォード学園の生徒ではないだろう?それに、この独特の気配はクラブハウスで何度か感じたことがある。近づこうとした瞬間、煙のように微かな残り香だけを置いて消えていたが」
「お前はルルーシュとは違って敏感だったからな、気配を消すのは苦労したぞ」
不遜な態度と言葉。魔女の調子は絶好調か。そう呆れながら振り向いてライに放り投げられたことによって打ちつけた顎や手の平を擦る。
すると、背後から男女の激しい叫び声が響き渡った。ギョッとしながら振り向けば、ライとC.C.の2人が気を失って倒れ伏していた。
「な、何が起きた。カレン!」
「私だって分からないわよ!この女がライに触れた瞬間、2人ともいきなり硬直して……」
「今の叫び声を聞いて、誰かが来るかもしれない。……カレンは彼女を連れて給水塔の裏に隠れてくれ。彼女を他の人間に見られるのは都合が悪いんだ」
「……仕方がないわね!」
カレンがC.C.を連れて行くのを見届けた俺は扉に耳を当てて、誰かが階段を上がってくる音が聞こえたと同時に扉を開けて大きな声で叫ぶ。
「誰か、手を貸してくれ!ライが倒れたんだ!!」
□ライ□
屋上でルルーシュとカレンと会話している際に訪れた闖入者は緑髪の魔女だった。
感慨深く思いつつも、一応初対面の体で警戒する視線だけを送っていた。ルルーシュの紹介で協力者という情報だけを得て、カレンが警戒を解いたので、相反するように俺は警戒心を無くさなかった。
その姿に興味を持ったのか、C.C.は俺の肩に手を置こうと手を伸ばしてきたのだが、彼女が俺に触れた瞬間、凄い量の情報量が頭に流れ込んできた。
気付けば俺は白亜の石畳が敷かれた不思議な回廊に立っていた。
壁や緑色の空にはいくつもの金色の額縁に収められた様々な心象風景の絵が飾られており、誰かの記憶を垣間見ているようだ。俺は周囲を見渡し、足を進める。
大輪の向日葵、広大な自然、化石といった当たり障りのないもの。
優しい修道女、己を崇める民たち、狂った嗤い顔で死んだ女性。
凛々しい表情の少年と、少しひ弱そうな雰囲気の少年。
自身の左右にいる息子と娘と共に穏やかな笑みを浮かべている黒髪の女性。
白亜の回廊を進んでいく途中で俺は様々なものを見た。そして、これが誰の心象風景であるのかを思い出した。
「さてと、もうそろそろ姿を現したらどうだ?」
俺がスッと視線を向けると、蜜柑色のドレスを身に纏った黒髪の女性が現れる。その女性は俺を見て首を少し傾げ、口元を扇で隠しながら話し始める。
「C.C.の意識が暗転するほどのショックイメージがCの世界に駆け巡ったようだけれど、貴方は一体何者なのかしら」
「それは応える必要があるのか、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア?」
「あら……。私のことを知っているのね。……そっか、C.C.の言っていたイレギュラーとは貴方のことね。困ったわ、私たちの計画に貴方は必要ないし、さっさと退場してもらいましょう」
そう言って口元を隠していた扇を捨てたマリアンヌの手に握られていたのは鈍い光を放つレイピア。
一足で懐に踏み込んできたマリアンヌの動きを完全に捉えることが出来ていた俺は身体を翻して、必殺の突きを避けると彼女の横面に思い切り拳をぶち込んだ。錐もみ回転しながら白亜の回廊を転がっていき、仰向けで倒れてしまったマリアンヌに止めをさそうと俺は近づいていく。
「初対面の女性の顔を殴るなんて、どんな教育を受けてきたのかしら?」
レイピアを床に付きたてて、それに頼るようにしながら立ち上がったマリアンヌに向かって、俺は鼻で笑う。
「はっ。どの口でそんなことを言うのやら。……死人が今更しゃしゃり出てきて『明日』に向かって一所懸命に生きている者たちの邪魔をするな」
俺は右の手をギュッと握り締める。何もない所からレイピアを出現させたマリアンヌに倣って、俺は銀色の光を放つ銃を創り出した。その銃口をまっすぐマリアンヌへ向ける。彼女は銃口を向けられているにも関わらず余裕の笑みを崩すことはない。
「撃ったところで何も変わらないわ。私はすでに精神体となっていて、この世界と同化している。あと少しで私とシャルルが望み、人々の誰もが求める人に優しい世界が訪れる」
「違うな。間違っているぞ、マリアンヌ。お前が言う優しい世界は、“自分に優しい世界”だ。人々が本当に求める優しい世界は、“他人に優しくなれる世界”だ。お前たちの押し付けの善意など、悪意となんら変わらない。……理想を抱いて、冥府に沈め」
俺は右手に持った銀色の銃の引き金に指を掛ける。そして、躊躇うことなく引き金を引いた。マリアンヌに向かって、まっすぐに飛んだ銀色の弾丸は彼女の胸を貫き、その勢いを殺すことなく飛び続ける。身体の真ん中に黒い穴が開いたにも関わらず、マリアンヌの笑みは消えない。
「言ったでしょう?私は精神体、肉体はすでになく、この世界で私が死ぬことはない」
「……ふっ、それはどうかな。俺が撃ったのはお前を殺すための物ではない。人々の願いという名のギアスを届けるための物だ」
「な、なんですって」
わなわなと身体を震わせながら恐る恐る振り返ったマリアンヌの視線の先にあったのは、ガラガラと大きな音を立てながら崩れ落ちていく『アーカーシャの剣』だったもの。
Cの世界は強く思い描くことによって、どんな場所へも行ける。前回、両親と対峙した際のことは鮮明に覚えている。俺は彼らの考えを否定し、そして『未来』を願った。
「貴方はいったい、何者なのよっ!」
俺と対峙しても自分の優位を全く疑わなかったマリアンヌであったが、自分たちの計画の要であった『アーカーシャの剣』が崩壊していく姿を見て完全に取り乱した。
結果、マリアンヌは前回と同じようにCの世界に飲み込まれるように手足の先の方から消滅していっている。
「お前がそれを知ったところで何も変わらない。……何故ならお前はすでに過去の人間だからな」
俺はマリアンヌの声にならない叫びを聞きながら、Cの世界を眺める。
この世界のC.C.との接触で意図せずに後顧の憂いを絶つ事が出来た。さすがは俺の魔女だなと苦笑いをしていると、『誰がお前のモノだ』と大胆不敵な魔女の声が聞こえたような気がして、すぐに視界が真っ白に染まる。
その真っ白な世界で俺をこの世界に送り込んだ張本人が『またね』と手を振る姿が見えたような気がした。
◇
目覚めるとクラブハウスの自室だった。
部屋には俺以外に誰の姿もなく、窓の外は月明かりで照らされる幻想的な世界だった。
喉の渇きを感じて部屋から出ると、そこには緑色の髪を揺らす少女が立っていた。俺はひとつだけ溜め息を吐くと、彼女の横を通り過ぎようとしたのだが、ぎゅっと手首を掴まれる。
「お前は、何者なんだ?」
下から覗き込むような金色の瞳が揺れ動く。その瞳に篭められているのは、希望か不安かそれとも恐怖なのか。俺には推し測ることが出来ない。どう答えるのが一番良いのか検討つかなかった俺は率直な気持ちを伝えることにした。
「俺はルルーシュの味方で、君の理解者ってところかな」
「私の、理解者……だと?」
C.C.の手が自分の手首から離れたのを感じ取った俺はそのまま食堂へと向かう。彼女は俺の言葉を理解するために何度も、何度も反芻するように呟いていた。