□ルルーシュ□
1週間前、アッシュフォード学園の敷地内に迷い込んだ銀髪の少年ライ。
名前すら覚えていない記憶喪失なライをミレイ会長の思いつきと独断によって俺とナナリーが住んでいるクラブハウスに居候することになった彼は生徒会の仕事を手伝ったり、運動系のクラブ活動の助っ人として活躍したり、中等部の後輩たちに勉強を教えたりして過ごす内に、学園の生徒から『生徒会メンバーの中でも頼りに出来る人物』として認識されるようになった。
勿論、俺もライのことは信じているし、頼りにしている。
だが、それは時と場合による。何故かというと俺は現在、ライに俵担ぎされた状態で空を眺めている。
事の発端は記憶探しをするライと共にトウキョウ租界の散策に出かけた時のことだ。
他愛ない雑談をしながら歩いていたら、路地裏の暗いところで黒の騎士団のメンバーの男(イレブン)と会話するカレンを“ライ”が発見してしまったことだ。“イレブンの男に話し掛けられて困っているカレン”を心配したライが声を掛けた。ぎょっとした表情を浮かべた男を不審に思ったライが纏う雰囲気が少々険悪だったこともあったのだろうが、何の躊躇いもなくライが近づいて来たことに驚いた男が思わずカレンの腕を強く握ったことによって、意図せず漏れてしまった短い悲鳴。それを聞いた彼の目が瞬く間に据わる。その直後、ライから毛が逆立つような殺気がカレンの腕を握った男に向けられた。
「ひぃっ!?」
ライから放たれた殺気を受けた男は悲鳴を上げて逃げ出した。カレンの腕を掴んだまま。
カレンもまたライから放たれた殺気によって意識が軽く飛んでいたらしく、気付けば逃避行の真っ只中。カレン本来の力であれば振りほどくことは簡単であるが、俺とライという邪魔なファクターがいるため、病弱な女性徒という枷を外せない彼女は男と一緒に“銀髪の鬼”から逃げるしか方法がない。
当初、カレンを連れて逃げる男を単独で追おうとしたライであったが、思い出したように俺の下へ戻ってきて流れるような手付きで担ぎ上げる。はっと俺が気付いた時には、ライは暴漢から友人を救うための追跡者として走り出しており、俺を置いて追うように告げるには手遅れの状態であった。
カレンを連れて逃げている男は路地裏に置かれたゴミ箱や酒を入れるケースなどをなぎ倒しながら逃げているのだが、ライは壁を蹴って飛び越えたり、細かいステップで隙間を縫うように走ったりして、どんどんと距離を縮めていく。俺は臨場感たっぷりのジェットコースターに乗っているような感覚に吐き気を堪えながら為すがままにされている。
見える風景が租界からゲットーに変わった時点でヤバイと冷や汗を掻いていた。ゼロのコスチュームはクリーニング中で所持していない。そもそもゲットーに来る予定ではなかったから当然だ。どう収集をつければいいのかと俺が頭を悩ませていると
「ルルーシュ、すまない!」
「へ?……ほぁあああっ?」
ライに俵担ぎされていた俺であったが気付けば空に向かって放り投げられていた。
普通、取り乱すところなのかもしれないが俺は一週回って逆に冷静になりながら地表の方へ視線を向ける。その先ではカレンをつれた黒の騎士団のメンバーに追いついたライが男を叩きのめす姿が見えた。鳩尾に一発、首筋に手刀を振り下ろして意識を刈り取ったライがカレンの手を引いている。ちなみに俺はそんな2人に向かって落ちて行く。ガシッと力強く俺を抱き留めたのは勿論ライであったが、お姫さま抱っこってお前……。
地面に降ろされた俺は思わず膝に手を置いてがっくりと項垂れた。恨めしそうに顔を上げた俺は長い距離を全力で走ってきたにも関わらず息切れひとつしていないライとカレンを見て、同じ人間なのにどうしてこうも違うのだろうと頭を抱えそうになった。
「カレン、大丈夫だったか?怖くなかったか?」
「ええ、ありがとう。……正直、追いかけてくる貴方の方が怖かったわ」
カレンを気遣う声かけをしたライにした彼女の返事には物騒な続きがあったが、俺は華麗に聞き流した。ここにいる俺たちで事情を理解していないのはライだけだ。だが、俺こと『ルルーシュ・ランペルージ』がその事情を知っていることはおかしいことになるので、とりあえず2人に話しかける。
「2人で見詰め合っているところ申し訳ないのだが、早くゲットーから出ないとイレブンから謂れのない中傷を受けることになるぞ」
「……っ!そ、そうね」
「いや、2人とも。そう簡単にはいかないようだ」
ライの真剣な言葉を聞いて俺とカレンは顔を見合わせた。「どうしたんだ」と声を掛け様としたところで大きな爆発音と共に地響きが起きて俺は思わず尻餅をついてしまった。カレンも揺れに耐えられずに地面に膝をついている。ライだけはしっかりと地面を踏みしめていたこともあって、微動だせずに黒煙が立ち上っている箇所に視線を向けている。『ドンドン』と爆発音と黒煙がゲットーの至る箇所で上がっていく。初めは小さく聞こえていた声が大きくなりながら近づいて来た。
『我々は黒の騎士団である!これはブリタニアの支配に対する抵抗の炎だ!我々は拳を振り上げる!この拳がブリタニアの血で染まり真っ赤な日の丸に染まるその日まで!』
拡声器を通して放たれた言葉を聞いて俺は奥歯を噛み締め、苦々しい表情を浮かべてしまっているのを自覚する。
「何を言っているの……」
隣を見ればカッと見開いたカレンが怒気を隠さず、拳を握り締めているのが分かった。
本物の黒の騎士団のメンバーとして日夜アッシュフォード学園の生徒とテロリストの二足草鞋を履いて生活している彼女にとってすれば、彼らの行動はそれを踏みにじる行為以外の何者でもない。その時、黒煙を割って数機のKMFが現れた。ブリタニアのグラスゴーを改造して作った無頼であるが、黒の騎士団で使っている機体ではないことは一目瞭然であった。
『立ち上がれ日本人よ!犠牲を恐れるな!我々黒の騎士団とともに支配者を討て!ブリタニア人を殺せ!!』
先日のシンジュク事変によって強化されていたブリタニアのパトロール隊を襲撃するだけに留まらず、逃げ惑う同郷の住人すら巻き込んで無秩序に暴れる黒の騎士団を名乗った奴らの行動に俺は自身の腸が煮えくり返るのを自覚する。ガチガチと歯を鳴らして身体を震わせていたカレンが吠えた。
「あんなの黒の騎士団じゃない!黒の騎士団は弱い者の味方だ!ブリタニア人でも日本人でも無差別に巻き込んだりしない!絶対にしない!」
非常に熱くなっているカレンには悪いのだが、俺やライが側にいるのを忘れないでもらいたい。ヒートアップして犬歯を剥き出しにして吠える姿はご主人さまに手を出そうとしている敵を排除しようとしている忠犬に見えなくもないのだが、今の俺は彼女のご主人さまのゼロではない。
「ブリタニア軍も出張ってきたな」
ポツリと呟かれたライの言葉を聞いて戦場を見ると警察の白い装甲のナイトポリスの他にブリタニア軍の青い装甲を持つKMFサザーランドの姿が多くなってきていた。相手が黒の騎士団を騙っているため、軍もそれ相応の対応をしてきたということだが、ブリタニア軍はゲットーの住民やテロリストに関係なく銃弾をばら撒く。テロリストたちも負けずと撃ち返すが、時間が経つにつれて増えていくブリタニア軍に対してジリ貧になっていく。中には逃げ出す者も。
『テロリストは周囲のイレブンに紛れて逃げ込む可能性大。包囲網のイレブンは1人も逃がすな。繰り返す包囲網のイレブンは1人も逃がすな』
『了解した。イレブンは1匹残らず駆除する』
オープンチャンネルで放されるブリタニア軍人の会話を聞いてカレンが目尻に涙を堪えるのが分かった。黒煙が立ち上り、銃器の音が鳴り響き、断末魔が響き渡る。コンクリートが崩れ、アスファルトが弾け飛ぶ。こんな光景はもう見たくないと目を逸らすと、ライが俺とカレンを抱きかかえてその場から飛び退く。
俺たちがいた場所を被弾してバランスを崩した無頼が通り過ぎ、斜面に躓いて転倒した。倒れた衝撃なのか操縦席が開き、搭乗していたテロリストは何かを喚き散らしながら一目散に逃げていく。
俺とカレンを抱えた状態でも運動能力が落ちていないライの横顔を小脇に抱えられた状態で見ていると彼はじっと倒れたままの無頼を見ていた。そして周囲を確認して静かに頷く。ライは俺やカレンを抱えたまま倒れ伏した無頼に近づくと勢い付けて飛び上がり操縦席の上に音もなく着地して、操縦席を覗き込んだ。そして、何かを確認したのか俺たちを降ろして操縦席に入り込んだ。
「ライ、どうするつもりだ?」
俺とカレンが操縦席を覗き込むとライは無頼を起動させなおし設定を弄っていた。ライはゴキゴキと首を鳴らすと操縦席を覗き込んでいた俺とカレンを中に引きずり込む。間違いない、ライはこのテロリストの機体を使って包囲網を突破するつもりだ。
「ルルーシュとカレンをこんな所で死なせはしない!」
モニターに映し出された機体情報では頭部を損傷し、内蔵式対人機銃とアサルトライフルの弾はほとんど残されていない。使える武装はスタントンファとスラッシュハーケンのみだ。カレンもKMFの操縦は出来るのだが、俺とライという枷が邪魔となりそうすることも出来ない。
「ハッチが閉まらないから目視操縦で戦う。ルルーシュ、カレン、舌を噛まない様に気をつけてくれ!」
ライはそう言うとスラッシュハーケンを壁に打ち込んですぐに巻き取ると機体の姿勢を立て直す。そしてランドスピナーを高速回転させて移動する。その流れるように滑らかな機体制御にギョッとする俺とカレン。
被弾して倒れたはずのテロリストの機体が動き出したことに気付いたブリタニア軍のサザーランドがアサルトライフルを構える。ノズルフラッシュが焚かれ銃弾が迫ってくる。しかし、その銃弾がライの操縦する無頼を掠めることはなかった。俺が見たのは信じられない速さで操縦桿へのコマンド入力をするライの指と、インジェクションシートを発動させて崩れ落ちたサザーランドの後姿。
「冗談でしょ……放たれたアサルトライフルの弾の軌道をすべて読んだっていうの!?」
カレンの発言からするに、ライはサザーランドが放ったアサルトライフルの銃弾の中を最低限の回避行動で“まっすぐ突き進み”唖然とする相手の懐に入り込んで、悠々とスタントンファで戦闘不能に陥れたようだ。
こんな馬鹿げた芸当が出来る人物を俺は知らない。カレンもKMFを操縦するセンスがあると思っているけれど、ライはそれ以上だ。下手すればブリタニア本国で最強と呼ばれるナイトオブラウンズに匹敵する能力があるかもしれない。
「ルルーシュ、カレン。ブリタニアの包囲網を抜けたら君たちを安全圏に降ろす。俺のことは気にしないで逃げてくれ」
「ちょっと待って。それってどういう意味?」
「俺はこのゲットーにいる人たちをこのまま見捨てることは出来ない。展開しているブリタニア軍をすべて叩く。だから……」
「ちょっと待て。俺は降りないぞ。KMFの操縦に関しては門外漢だが、ライが凄いっていうのは分かる。俺たちを安全圏に連れて行く暇があるなら、ブリタニア軍の凶行を止めてくれ、ライ」
「そうよ。私たちのことは気にしないで、自分の意思を尊重して、ライ」
俺が自分の命を他人に預けるような真似をするとは思ってもいなかったと言いたい様子のカレンであったが、そういう風なやり取りをしている間が惜しいと判断したのか、ライに行動するよう促す言葉掛けする。
ライは俺たちに向かって大きく頷くと人間に対してアサルトライフルを放つブリタニア軍のKMFに向かって無頼を駆けさせた。ライは機体の武器である機銃とアサルトライフルが使えないというハンデを物ともせずにブリタニア軍、そして黒の騎士団を騙ったテロリストたちの機体を1機ずつ確実に仕留めていく。
そして、気付けばゲットーで動くKMFはライが操縦する無頼のみとなっていた。
「すごい。本当にやり遂げちゃった……」
カレンが率直な感想を呟いた。
ブリタニア軍にも慢心があったのだろうが、第4世代のグラスゴーの改造機でしかない無頼で、第5世代のサザーランド29機撃破は俺やカレンからしてみてもありえない戦果だ。
もしかしたら、ライは記憶を失う前は最前線でも名立たる兵士だったのかもしれない。このまま俺たちの近くに置いておくのは危険だ。しかし、だからといって手放すのはもっと危険だ。下手してコーネリアの目にライが留まるようなことがあれば、ブリタニア側に白兜に加えてライという強敵を生み出してしまって黒の騎士団の総力を持ってしても手も足も出ない可能性が出てくる。
……ライにギアスを使うか?『俺を裏切るな』と。
「ルルーシュ、カレン。出来るだけ“省エネ”でやってきたが、もうすぐエナジーが尽きる。租界に近いところへ2人を連れて行こうと思うが、テロリスト側に新手みたいだ。最短で租界に行くにはあの集団を蹴散らすしかない。形振り構っていられないから、舌を噛まないようにしっかりと身体を固定させていてくれ」
「ちょっと待って、ライ?もしかして、今までの動きは本気じゃなかったの?」
カレンが頬を引き攣らせながらライに告げた。彼はカレンの言葉に返事をせずにただ困ったような苦笑いを浮かべている。その反応で分かった。俺と病弱設定のカレンが同乗していたから、ライは態と自身の実力にセーブをかけながら戦っていたのだと。しかし、租界に戻るためのエナジーが尽きようとしていることや、テロリスト側に新手が来てしまったことでそう言っていられない判断を下したのだ。
「……あれ?もしかして、今来ているのって扇さんたち?」
ライの言う新手に目を向けたカレンが冷や汗を流しながら小声で呟いた。確かに戦場へやって来た無頼たちはゲットーの住民を助けたり、黒の騎士団を騙ったテロリストたちを捕縛していったりしている。その中でも好戦的な者たちは俺たちが乗っている無頼へ武器を構えて近づいてきている。
『黒の騎士団登場だ!俺たちが来たからには、もうお前らの勝手にはさせねーぜ!!』
馬鹿丸出しの発言をオープンチャンネルで話す玉城に俺は頭が痛くなった。
来るにしても遅すぎる上に、ゲットーの住民たちはブリタニア軍を壊滅させたのがライの操縦する無頼であることを知っているので、不用意に武器を構えたまま近づいて行っている玉城たちを止めろと救出活動をしている扇たちに身振り手振りで伝えている。
カレンは俺とライの顔を交互に見て、どうすればいいのかを悩んでいる。ちなみに俺も心の中ではカレンと同じ状態で浮かび上がった選択肢を前に『どーすんの?どーすんの俺?!どーすんのよ!!』と謎のワードが浮かび上がるくらい混乱している。
『ちょーっと強いみてぇだが、ゼロの親友であるこの玉城さまの相手じゃねぇぜ!!』
という謎のコメントを吐いた玉城がただ立っているだけで敵対行動を取っていなかった俺たちが乗っているかつライが操縦する無頼に向けて発砲してきた。
ロックオン警報と迫り来る銃弾の雨。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、どうしようもないくらい馬鹿だな、玉城ぃいいいい、ぐぅううう!?今までの人生で感じたことがないくらいの何か強大な力によって押し潰されるような感覚。それが上下左右と前後に連続して襲い掛かってくる。
時間にして5秒くらいだろうか、白く霞む視界の中で扇や玉城たちが乗っていた無頼からそれぞれインジェクションシートが発動して飛び立つ様を見届けた俺はそこで意識を手放したのだった。
○ネタ
ガンダム種運命のズラと子獅子の1話のやりとり
ライフカードのシーエム