銀色に憑依した悪逆皇帝   作:甲斐太郎

4 / 12
03.【魔王、魔神の真似をする】

□ルルーシュ□

 

冷たい風に身体を撫でられ、『寒いな』と身震いしながら目を覚ますと俺はトウキョウ租界にある自然公園のベンチに座らせられていた。身体の左側には人の温もりがあり、そっとそちらへ視線を移すとカレンが静かな寝息を立てつつ俺に凭れ掛かっていた。

 

人の気配を感じて、視線をそちらに寄越すと目尻を下げ申し訳無さそうに俺たちを見るライの姿。彼の手元には缶コーヒーは3本。

 

「ごめん、ルルーシュ。もう少し加減できればよかったのだけれど……」

 

ライはそう言いながら無糖のブラックコーヒーを俺に差し出す。それを手にとって俺はプルタブを開け、寒風に当てられて冷え切った身体に暖かなコーヒーを流し込む。胃に到達したのか、そこから身体の芯がポカポカと温まってくるのを感じ取る。その間にライはカレンを起し、俺と同じように缶コーヒーのカフェオレを渡していた。

 

「気にするな、ライ。あの場面ではアレがベストだった。失神したのは俺やカレンの落ち度だから気にすることはない」

 

「……そ、そうよ。元々は私がイ…イレブンに連れて行かれたのが悪いんだし」

 

罰が悪そうに呟くカレン。

 

彼女に関してはそれなりにKMFを使いこなせている訳だから、少し激しい程度の動きでは失神するなんて無様なことは起きるはずが無かった。しかし、ライのKMF操縦技術はカレンの常識を上回った。

 

きっとカレンは『ゼロ』に今日のことを報告してくるだろう。型落ちの機体でブリタニアの機体を29機、黒の騎士団を騙ったテロリストの機体10数機を単騎で倒せる能力を持つ人材を、人材不足が否めない黒の騎士団のリーダーである『ゼロ』ならばみすみす見逃すなんて真似は絶対にしない。

 

むしろ話をはぐらかす方が危険だ。

 

「もう時間も遅いし家まで送っていくよ、カレン。ルルーシュはどうする?」

 

「いや、ここで俺だけ先に帰るのはおかしいだろ」

 

カレンは俺とライの顔を交互に見て、悩む仕草を見せているがライがいる現状で断るのは悪手でしかない。そう、病弱でイレブンに攫われそうになったブリタニアの子女であるカレン・シュタットフェルトにとっては。

 

「まぁ、送ると言っておいてなんだけれど、カレンの家がどこにあるか知らないのだけれどね」

 

そう言って苦笑いを浮かべるライに毒気が抜かれたのか、カレンはベンチからスッと立ち上がり、『こっちよ』と先導を始める。俺も立ち上がり、ナナリーや咲世子さんに『遅くなること』を伝えるために連絡を入れようとポケットから携帯端末を取り出す。

 

しかし、それは『ゼロ』として使っているもので思わず眉を顰めたが、着信履歴を一応確認する。思ったとおり扇から何件か連絡が来ている。恐らくゲットーでのテロリスト騒動とライが駆る無頼のことだろうなと中りをつけ、携帯端末をもとのポケットに入れ直すのだった。

 

 

 

「お兄さま!ライさんと男色に走られたというのは本当ですかっ!?」

 

「(@´ω`):;*.':;ブッ」

 

翌日の朝食の席で頬を紅潮させてモジモジしている妹のナナリーに何か気になることでもあるのかを問うて返ってきた答えがコレだ。

 

優雅に飲んでいた紅茶を俺は思わず噴出してしまった。ナナリーの件のことを吹聴したと思われるメイドの姿はもうない。俺は席から立ち上がって雑巾で床に飛び散ってしまった紅茶を拭き取っていく。

 

「お兄さまがまさか男色の道を歩んでしまうなんて……私の所為ですよね。ごめんなさい、お兄さま……」

 

最愛の妹の口から『男色』なんていう言葉が飛び出てくるとは思いもよらなかった俺はショックを受けつつ、なんとか否定の言葉を紡いでいく。

 

「ちょっと待て、ナナリー。断じて俺は男色ではない。その話はいったいどこの誰から聞いた話なんだ?」

 

「えっと……でも、シーツーさんがアレは男同士の友情ではない。あれはまさに愛だ、とおっしゃって」

 

妹に大法螺を吹聴した犯人はメイドではなく魔女であった事実を聞き、俺はナナリーを置いて駆けた。クラブハウスのどこかに潜伏している魔女を探し回り、俺の部屋のベッドでピザを頬張っていた奴に向かって飛び蹴りをかます。『グエッ!?』とカエルが潰されたような声を上げつつ、ベッドの上から転がり落ちる魔女。彼女が持っていたピザはベッドのシーツの上に落ち、トマトベースのピザソースで赤い染みが広がるが、そんなこと今はどうでもいい。

 

「おい魔女、一体どういうつもりだ」

 

「なんだ。ちょっとしたお茶目ではないか。そんなに慌てるのは心にゆとりがない証拠だぞ、童貞坊や」

 

そう言いながらC.C.は無事なピザを手元に手繰り寄せる。その後、彼女はベッドに顎を乗せただらしない格好でピザを食べ進める。目の前に腕を組んで仁王立ちしている俺がいるのに、本当にふてぶてしい女だ。煮ても焼いても食えそうにない。

 

「ライ、だったかあの男の名は」

 

「ああ、そうだ。言っておくがあれは俺たちが好き合ったからあんな抱き方になった訳ではなく、宙から落ちてくる俺を抱きとめた格好があれだっただけだ。変な憶測でナナリーに嘘を吹き込むな!」

 

「そんなこと知っているに決まっているだろう。お前をからかうのは妹を巻き込んだ方が面白い反応をしてくれるのを知っているだけだ」

 

ドヤ顔でそんなことを言ってくるC.C.に毒気を抜かれた俺はナナリーの誤解を解くためにリビングへ向かう。その途中、制服姿のライと擦れ違い心配をされたのだが、何も問題はないと告げて別れるのだった。

 

 

 

□ライ□

 

どんよりとした影を背負い、トボトボとした足取りで歩いていくルルーシュと廊下で擦れ違うことになったのだが、俺の心配を余所に力なく笑う彼を見送った後、クラブハウスから出て直ぐにググッと背伸びをする。

 

全身の筋肉をほぐすつもりで軽くストレッチをするが、身体のどこも痛みを発していない。前世の自分の身体であれば筋肉痛で動けなくなりそうなほど、昨日は激しい運動量であったにも関わらず、馬鹿げた回復力だと恐れつつも頼もしくもある今世の身体を感慨深く思いながら校舎へ向かう。

 

 

 

教室には先客がいた。

 

腕を枕にして歳相応のあどけない寝顔を晒している茶髪の少年・枢木スザク。日本最後の内閣総理大臣の息子であり、日本をブリタニアの侵攻から守るためにその父親を殺害した当人。自分が起こした行為によって敗戦国となった日本の惨状を見て『間違ったやり方で得た結果には意味はない』という考えに至り、結果を重視するこの頃のルルーシュとは絶対に相容れることの出来ない相手になっていた。

 

そのことに気付いた時には引き返せないところまで行ってしまった後だった。

 

俺はちらりと教室に備え付けられている時計に視線をやり、直に他の生徒たちも登校してくる頃合だと寝ているスザクを起こすことにした。しかし、ただ起こすのは面白くないなと考えた俺はルルーシュの真似をして起こすことにした。喉に手を当てて声の高さを調整し、歩幅や息遣いに細心の注意を払い、スザクに近づき軽く握った拳で彼の脳天を『コツン』と叩く。

 

「スザク、いい加減に起きないと先生に怒られるぞ」

 

「ご、ごめん。ありがとう、ルルーシュ。……あれ?」

 

「どうしたんだ、スザク。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているぞ?」

 

「え……いや、えぇ……もしかして僕はまだ、寝ぼけているのかな?ルルーシュがライに見えるよ」

 

スザクは起きて感謝の言葉を述べながら俺を見て目を丸くした。そして何度も目を擦っては俺を見て困惑している。こんなにも大人しいスザクを見るのは久しぶりだなと俺は内心でほくそ笑み、彼の言葉に傷ついた体で話を進める。

 

「ひどい奴だな、親友の顔も分からないのか?」

 

「いや、えっと……その……ごめん、ルルーシュ」

 

スザクは立ち上がって俺に向かって頭を下げる。そろそろネタ晴らしをした方が無難かなと思ったのだが、それよりも先に俺たちに話しかける存在がいた。

 

朝早くからどんよりとした影を背負っていたはずのルルーシュだ。その表情は晴れやかで、今朝の鬱蒼とした雰囲気は微塵もない。

 

「何をやっているんだ?スザク、ライ」

 

「あ、本物が来た」

 

「え、本物?」

 

顔を上げたスザクは教室の入り口に立つルルーシュを見て合点が行ったのか、頬をプクッと膨らませて抗議してくる。

 

「なんだ、やっぱりライだったんじゃないか」

 

「いやいや、声色と態度で騙されてしまうスザクも悪いだろ?」

 

「状況が分からない。ちゃんと説明しろ」

 

教室に来たばかりで事情が全く分かっていないルルーシュに俺がスザクに仕掛けたドッキリについて話すと、どこで聞いていたのか分からないがミレイさんがやってきて、放課後に生徒会メンバーだけでゲームをすることになった。

 

 

 

□カレン□

 

昨日の出来事を成し遂げたライのことをゼロに報告しなければならないのに、教室から出ようとしたところでミレイさんに捕まってしまい生徒会室まで連れて来られたのだが、普段とは様子が違っていた。何故か部屋の一角が衝立で仕切られているのである。

 

生徒会室にはシャーリーやリヴァル、中等部でルルーシュの妹であるナナリーちゃんの姿もあるのだが、そのルルーシュとライの姿だけがない。

 

「ミレイさん、これは一体……」

 

「カレン。貴女だけが頼りなの、お願い!このゲームに勝ってちょうだい!!」

 

「はぁ……」

 

発端は朝早くに登校したスザクをライがルルーシュの真似をして起こしたことに起因する。あまりに似ていたため、容姿が全く違うライのことをルルーシュであるとスザクは認識し頭を下げて謝ったのだという。

 

そんな馬鹿な、と説明を聞きつつ、このゲームに参加した面々の話を聞いたのだが正解したのはナナリーちゃんだけであとの全員は敗北しているのだという。

 

特にルルーシュに対し好意を向けているシャーリーは悩んで、悩み抜いた挙句に選んだルルーシュが、申し訳無さそうにしていたライであったことに大変なショックを受けて部屋の隅で真っ白に燃え尽きている。

 

「さて2人とも、次はカレンよ。準備はいいかしら?」

 

ミレイさんが衝立の向こう側にいるルルーシュとライに話しかけると左右2枚の衝立から手と足が出される。ルルーシュが無意識にしている組んだ足の膝の上に手を置くスタイルだ。マジマジと彼らの手足を見てきた訳ではないのでアレだけではどちらかを判別することは出来ない。

 

「では、今まで通り会話スタイルでいくわよ!じゃあ、右から~」

 

『はぁ、まだ続けるんですか会長?付き合いの長い生徒会メンバーも分からなかったのに、生徒会に入ったばかりで休みがちなカレンが分かる訳がないじゃないですか?』

 

《いや、付き合いが浅いからこそ分かることもあるだろう。まぁ、俺としてはナナリーに分かってもらえただけで満足なのだが……》

 

『今朝のことがあったばかりなのに、スザクはまんまと引っ掛かってしまったがな』

 

《ああ。そのことについては失望したぞ、スザク》

 

視界の端でスザクが崩れ落ちる。

 

両手で顔を覆って肩を震わせているところを見るに、本当に堪えているようだ。そんな彼をナナリーちゃんが慰めているのだが、彼女の穏やかな笑みの裏に【私は正解しました】という雰囲気を纏っている気がする。

 

私は思わず隣にいるミレイさんをじっと見ながら話しかける。

 

「ルルーシュくんが1人2役している訳ではないんですか?」

 

「残念ながら片方はライが喋っているわ。向こう側にいるニーナが不正をしていないかをちゃんと判定しているし」

 

衝立と衝立の間に椅子を置いて座っている緑髪でメガネを掛けた後輩の女の子は私たちの視線に気付くと大きく頷いた。不正はしてないらしい。

 

『どうする、ルルーシュ?この様子では確信を持った答えではなく、当てずっぽうの解答になりそうだが?』

 

《そうだな、ルルーシュ。こんなゲームは早く終わらせるに限る。時間の無駄だ》

 

『何か考えがありそうだな』

 

《以前、カレンが居眠りをした際に【黒の騎士団発言】をしただろう?》

 

私は思わず両手で顔を覆った。あの時のことは今でも夢に見るほどのトラウマである。あの時は何とか誤魔化せたが暫くの間、話に尾ひれがついて大変だったのだ。

 

?ルルーシュ許すまじと衝立の奥にいるであろう人物を睨む。

 

《ネットでも流れているゼロの動画くらい、ルルーシュも見たことがあるだろう?俺は河口湖での演説が好きなのだが、カレンの琴線に触れそうなセリフを一言ずつ言って決めてもらってはどうだ?》

 

『お前もそんなものを見るんだな。意外だよ、ルルーシュ』

 

《では、俺から言おう。コホン……人々よ、我らを恐れ、求めるがいい。我らの名は、黒の騎士団!》

 

『仕方がない。俺はゼロが表舞台に現れた時のセリフだ。……いいのか、公表するぞ、オレンジを』

 

「右がルルーシュくんね。そのセリフをチョイスするところが君らしいわ」

 

左右の衝立の脇からそれぞれ現れるルルーシュとライ。当然、私の解答通り右の衝立から出てきたのがルルーシュであり、左側の衝立から出てきたのがライだった。

 

「さすがに黒の騎士団の話題は“無い”だろう、ライ」

 

「そうかな、時事ネタだと思うのだけれどね。スザクもブリタニア軍所属とはいえ技術班って言っていたし、特に問題はないかなって思ってね。本当は振り付けまでバッチリ再現できるのだけれど、これ以上は怒られそうだからやめておくよ」

 

と、言いつつライはゼロが時折するポーズをビシッと決めている。

 

それを見たルルーシュは呆れ、リヴァルやシャーリーたちはここに来た頃よりも随分と明るい性格になったねと苦笑いしながら近づいていく。そんな中、スザクだけはキッとした視線をライに向けながら声を掛けた。

 

「ライ、君は黒の騎士団。……いや、ゼロのことをどう思う?」

 

「結果的に救われている人がいるならば、彼らの行為を咎めることもない……かな。ただその過程で無実の人が犠牲になっているというのであれば、話は別だけれどね」

 

ライの言葉に黒の騎士団のメンバーとして活動している私はすこしジーンと来てしまった。私たちの活動は、表向きには報道されていない。けれど、ライのように理解してくれている人がいると知れたのは凄く心強い。

 

対してスザクはライの言葉の前半を聞いて悩むような仕草を見せた後、付け加えられた後半の言葉を聞いてあからさまにほっとした様子だった。

 

「……ありがとう。変な質問をしてごめん」

 

「いや、黒の騎士団の話をネタにしたのはこっちだから。ブリタニア軍人であるスザクに対して無神経だったな、此方こそ本当にごめん」

 

男2人が頭を下げあっている。話が先に進まないなぁと思って周囲を見渡していると、ルルーシュが嬉しそうな表情を浮かべていた。しかし、私の視線に気付いたのか、彼は何を考えているのか分からない、いつものポーカーフェイスに。

 

「はーい、これにて今回の『本物のルルーシュはどっちだ?』を終わりまーす。正解者はナナちゃんとカレンの2人だけかー。私もまだまだねぇ。リヴァルとシャーリー、スザクくんとニーナも次回は当てられる様に2人の違いをちゃんと見つけておくこと!いいわね?」

 

「「「はーい」」」

 

え、ミレイさん?このゲームって今後もやっていくつもりなの?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。