□ライ□
ルルーシュとチェスをした後、俺は普段と同じ日常を過ごしていたのだがある日、神妙な様子の彼に都合の良い日を聞かれ約束通り赴いたアッシュフォード学園の敷地内にある教会で『実はブリタニアの皇子なんだ』とカミングアウトされ、昨今巷を騒がせている黒の騎士団のリーダーであるゼロでもあると告白された。ルルーシュのまさかの告白に唖然としたが、なんとか受け止めて詳しい話を聞いた。
父親であるブリタニア皇帝や皇族に対しての憎悪と復讐心を持っているというくだりは実際に俺も抱いていた感情なので理解しており聞き流す。肝心なのは「王が動かなければ部下がついてこない」という信念から自ら陣頭に立って作戦を遂行する行動力があり、結果を重視する合理的な考え方を持つはずのルルーシュが、親交を育んだとはいえ身元不明の不審者でしかない俺に『自分にとって絶対である秘密を打ち明ける』に至った理由だ。
確かに愛する妹であるナナリーをはじめとした自分の気に入った仲間には情に甘いことも知っている。そして、非情になり切れないところがあるところも。
「ライとチェスをしている時に話をしたよな。その話を参考にしていくつか実行してみたんだ。こちらが言うことに反論せず従う機械を相手にしている訳ではないということに、ようやく気付けたよ。ブリタニアと正面を切って戦うには今の黒の騎士団では駄目なんだ」
椅子に腰掛けて達観したように話をするルルーシュの言葉に、彼の部屋でチェスをした夜のことが脳裏に浮かぶ。
Cの世界で無意識集合体に言われたはずだ。俺のこの身体には聴覚に効果を及ぼす【絶対遵守】のギアスがあると。ルルーシュとの会話のタイミングでいつの間にか発動していたとしか思えないほどの性格改変に俺は思わず頭を抱えたくなった。
元々ゲットーでの戦い振りを見て黒の騎士団へ招待しようとしていたらしいが、俺を加入させるかどうかの賛否を団員たちに採ったところ、汚い言葉で応酬するほど荒れたとのこと。扇とカレンに任せたが、あの状況だと戦況は芳しくないという。
この頃の俺は正義の味方と称して黒の騎士団の団員たちのモチベーションを固持させていた。多少のことは目を瞑っていたが、黒の騎士団はお前たちが作り出したものではないだろうと忠告を何度したことか。この世界の俺は暴走しかけている彼らに忠告することを諦め、自分の信頼の置ける面々と新たにやり直そうとしている。
本来のルルーシュであれば絶対に取る事のなかったはずの選択をさせてしまったのは俺の責任。
元々『ゼロ・レクイエム』なんて馬鹿げた考えに達しないようにこの世界の自分を支えるつもりで行動してきたんだ。今更、彼が差し伸べて来た手を振り払うはずがない。
俺は椅子に腰掛けたままのルルーシュに手を差し延べ立ち上がらせると、今後の活動について考えるために話を聞かせて欲しいと告げるのだった。
□ルルーシュ□
自分が何者であるのか、何を目的として黒の騎士団を結成し、ブリタニアに反旗を翻したのかをカレンと扇の2人に話した。その後、2人は何も言わずにそれぞれがおぼつかない足取りで去って行く。その様子を思い出しながら最悪の場合、俺とライの2人だけで黒の騎士団の再出発か、と計画の練り直しが必要だとパソコンを起動した時、カレンから連絡が来た。
俺はゼロのコスチュームを身に纏い、ライには顔を隠すバイザーを渡して共にカレンは指定したゲットーの一角へ向かう。そこにはカレンと扇の姿があった。ライに確認させたが、他に気配はないらしい。俺はゼロの仮面を外し、素顔を晒す。
「やっぱり夢じゃないのね、ゼロ。いえ、ルルーシュ」
「ああ。俺がゼロだ」
カレンは言葉を紡ごうと口を開くが、何を言えばいいのか迷っているのかすぐに口を閉じてしまった。俺自身も彼女に何を話せばよいのか分からず、視線を逸らしてしまう。そこでようやくカレンの側にいた扇の姿がないことに気付き、視線をそのままスライドさせると彼はライとなにやら会話していた。
「君個人にキョウトの方から接触してきたのか!?」
「正確にいえば彼らが抱えている技術者から。“あの日の無頼”の戦闘ログをその技術者に直接送りつけたら食いついてきたよ」
「あの日の君の活躍はカレンから聞いて気になってはいたが、本当に驚いたな」
先日会ったばかりだというのに、すでに扇と腹を割って話をしているライの姿を見て俺は笑みを零す。見ればカレンも2人の打ち解けた様子を見て毒気が抜かれたように呆れており、視線が合うと同時に俺たちは吹きだしながら笑った。一頻り笑った後、俺たちはライと扇が話している場所に近寄って行き話に加わる。
「それで、あんたたちはこれからどうするつもりなの?」
そう言ってカレンが話を切り出す。
「……そうだな。当面の目標はエリア11、いや“日本の奪還”だな」
俺がそう言うとカレンと扇はほっと胸を撫で下ろす。俺は視線をライに向け、彼に秘密を明かした後に話し合ったことを彼女たちに説明するように促す。ライは思わずジト目で俺を見てきたが態と気付かない振りをする。
「あー……、そのためにはブリタニア帝国でも精強と名高いコーネリア総督率いる軍と正面を切って戦える部隊が必要になる。ルルーシュはそれを黒の騎士団に見出していたようだが、俺の所為でこんなことになってしまって扇さんやカレンには申し訳ないことをしたよ」
「いや、ライくんが気にする必要はないよ。ゼロがいなければ、シンジュク事変で俺たちはクロヴィスに殺されてしまっていた。玉城や吉田たちは現在の状況が自分たちの力だと自惚れてしまっている。ゼロ、いやルルーシュくんに見限られて当然だ。本当なら俺だって、見限られていてもおかしくない立場だった」
「つまり、本当の意味でブリタニアと戦う為の組織を作り直すってことで良いの?」
「概ね、そのような感じだ。ただし、これまでのような活動は自粛せざるを得なくなる。それに伴い、あいつらからカレンや扇に対して『ゼロの指示はどうなっている』という旨の文句が来るだろう」
「ええ。……ありありと思い浮かぶわ」
カレンは米神を押さえながら唸るように頷き、扇は苦笑いしながら肯定するように頷いた。2人は完全に今までの仲間を見限る覚悟を決めているように見えた。俺は2人の核心をつくための最後の質問を行う。
「カレン、扇。君たちは俺やライとブリタニアと正面を切って戦える新たな黒の騎士団の組織作りを共にやり直してくれると判断していいのか?」
「その質問、本当に今更ね。私はお母さんと約束をしたの。お母さんが当たり前に過ごせる世界を作ってみせるって、今それが出来るのはゼロである貴方だけ。貴方が私たちを利用するっていうのであれば、私も夢のために貴方たちを利用するまでよ」
鼻息を荒くしながら自分の意見を言い切るカレン。扇はカレンの覚悟を聞いて、ひとつ深呼吸をすると決意を話し始める。
「俺は大層なことは言えないが、今の日本には苦しんでいる人が大勢いる。ブリタニアを倒すために俺に何が出来るか分からないけれど、この国を取り戻したいという気持ちは君たちには負けないと思っている。……ああ、やっぱりうまく纏まらないなぁ、何を言っているんだろう俺は」
そう言って後頭部を手で掻きながら苦笑いを浮かべる扇。俺は罰が悪い表情を浮かべている扇をまっすぐ見据え、軽く首を横に振って話す。
「2人ともありがとう」
俺は2人に向かって頭を下げる。そして、顔を上げると同時に話し始める。
「では、早速これからの活動についての話し合いを行う。黒の騎士団への入団を求めるブリタニア人からのリークで、コーネリアがナリタを攻めるという情報を得た。それに伴いキョウトからKMFが数機送られてきている。これはキョウトが黒の騎士団を見極めるための試練と思われるが、俺たちだけではコーネリア軍と戦うことは出来ない。そこで、ナリタから離れて行動している日本解放戦線の藤堂と接触し、共闘を図ろうと考えている。今後、活動していく上で彼らに恩を売っておくのも悪くないという判断だ」
俺はそう言ってゼロの仮面を被るとライに先導させて歩き始める。
「2人に見せたいものがある」
2人はキョトンとした表情で顔を見合わせた後、俺たちの後をついてくる。会談の場所を指定したのはカレンであるが、先に準備が出来ないかといえばその限りではない。建物の地下に向かい、鎮座する赤と青の機体を見てカレンと扇が目を丸くする。
『キョウトから送られてきた日本製のKMF『紅蓮弐式』と『月下先行試作型』だ。紅蓮はカレンに、月下はライに任せる。扇は私と同じ無頼で我慢してくれ。恐らく、この組み合わせが今の私たちにとってベストな選択だ』
「いや、君の判断に異論はないよ。むしろ、カレンやライくんを差し置いて、ワンオフ機に俺が乗るビジョンが思い浮かばないしさ」
『そうか、感謝する。では、扇よ。ひとつ指令を下す。ライと共に藤堂たちと接触し、ナリタでの戦いで共闘する旨を伝えてきてくれ。現地での采配は扇に任せる』
「えっ!?」
□ライ□
ゼロの命令で藤堂と話をつけるために扇と急遽2人旅することになった訳なのだが、思っていたよりも快適な環境に置かれている。変に偽る必要もないので、他愛ない好物の話や恋愛観、日本を奪還した後の将来の話などをしながら藤堂が四聖剣と共に潜伏している地域に向かってトラックを走らせている。
「ところでライくん、カモフラージュ用に荷台に載せられている荷物が何かを聞いているかい?」
「ええ。何なら泥水の方が美味しいと思えるくらい、クソ不味いジュースですよ。けどブリタニア人の貴族の中には特異な方もいるらしく、これを飲むと身体の一部がギンギンになるらしいです。もし検問で止められたら兵士に飲ませてみろってルルーシュも言っていました」
トラックを運転している扇が小声で「ギンギン?」と呟いていたので、「夜の生活で使うところ」とぼそりと呟く。彼は頬を引き攣らせて乾いた笑いを零す。
「碌な物じゃないっていうことは分かったよ。……というか、飲んだのかい?」
「ルルーシュが口をつけた瞬間に吐き出して、残りを全部捨てていましたからまともで美味しいものではないのは察しが付きます」
「それもそうだな」
扇はそう言うと前方を見据える。そこには車による長蛇の列が出来ており、数キロ先にはサザーランドが2機立っているのが見える。
「俺は名誉ブリタニア人で雇われの運転手、ライくんは荷物がちゃんと引渡しされるかを確認する監視役という設定だったよな」
「そこまで緊張することないですよ。末端の兵士にとって、検問なんて仕事は面倒以外の何物でもない。下手に刺激して貴族の関係者だったら、平の兵士はすぐに首を切られるんですから、そこまで本気でする必要がないんです。それこそ、日本人だけで突破しようとする馬鹿でもいないとフラストレーションを溜まりそうだ」
その時、検問待ちの長蛇の車の列に並んでいる俺と扇が乗っているトラックの横を猛スピードで駆け抜ける銀色の乗用車。車はスピードを落とすどころか、どんどん加速して検問に向かっていく。
「もしかして、フラグ立てた?」
「いや、さすがにそれはないかな……」
銀色の乗用車は検問にて待機していたサザーランド2機からアサルトライフルによる銃弾の雨を受け、爆発四散した。流体サクラダイトを積んでいたのか、桃色の発光を放った後、検問のために並んでいた車を数台と検問所にいたブリタニア軍人に加えてアサルトライフルで攻撃したサザーランドを巻き込んで。
幸いにも道路が通れなくなるほど壊れることはなかったのだが、特攻というやり方を選んだ人間に対しては冷ややかな視線しか送る事が出来ない。
「他にもやりようはあったはずなのに、どうしてそんな手を」
「どこかの組織による作戦だったのならば、犯人の上にいる奴は無能だな。……扇さん、周囲が落ち着くまで待ちましょう。直にブリタニア軍の援軍が来ると思いますけれど、自分の車から降りて逃げ出したり、その場から離れようと動いたり方が危険です」
「……確かに。それじゃあ、少し車内で待とうか。ライくんは何か食べるかい?」
「いえ、まだ腹は空いていないので。席を倒して、少し眠ります」
「分かった。動きがあったら知らせるよ」
暫く休んでいると扇に起こされる。トラックに備え付けられているデジタル時計を確認すると時間にして30分ほど経過している。見れば、厳つい表情をした軍人がトラックから降りるようにハンドサインを出していた。俺は態と大きな欠伸をしながらトラックの助手席から降りる。
「はぁ……ただでさえ納品の時間が押しているのに、まだ時間が掛かるのかよ」
「納品?念のために荷台を検めろ!」
「「イエスマイロード」」
兵士が数人トラックの荷台に回る。残った軍人の中で偉そうにしている男に近づき声をかける。
「あと、どのくらい掛かりますか。トラックの荷台に載せている強力な精力剤……おっと強力な炭酸の入った清涼飲料水をチョウシに住んでいる貴族さまに届けないといけないのですが?」
「精力剤、だと?……うーむ、“それならば”検分が必要だな」
ワザとらしく告げる兵士に分からないように、俺は運転席に座ったままの扇にウインクするとトラックの後方に回り鍵を使って荷台を空ける。兵士たちが見ている前で荷台一杯に立ち並んだダンボールの中から一箱取り出し、封じているガムテープを乱暴に引き剥がした。そして、中に入っていた缶を取り出し、兵士たちに1本ずつ配る。彼らは意気揚々と口にして、あまりの不味さに顔を思い切り顰める。
「俺もそういうものだと聞いて、一本拝借したんですけれど、飲めたものじゃなかったんですよね。貴族さまの好みはまったく分かりません」
賄賂を要求した兵士も口に含んだ分を道路に吐き出し、眉を顰めた本当に嫌そうな表情を浮かべている。口元の何度も拭った兵士は俺たちに対して『さっさと行け』と言わんばかりに追い払うような仕草を見せるのだった。
「っ!?これは、なかなか……」
「だから、不味いって言っただろう、扇さん」
検問を越えた後、運転を交代してトラックを走らせている車内で件のジュースを口にした扇は顔を顰めながら、ジュースホルダーに飲みかけのそれを置く。
ただ、形容し辛いくらい不味いと聞いていても実際に口にするのとしないのでは興味具合が違う。人はどこか怖い物見たさなところがあるし、扇の行動も仕方の無いことなのかもしれない。
「もう少し行けば、藤堂たちの潜伏している町です。ここで藤堂は協力者から無頼の改造機を受け取る算段になっているようなので、それに合わせて接触するようですね。ルルーシュが立てたプランだと」
「……うぅ……」
「どうしました、扇さん?」
運転をしながら助手席に座る扇を見ると青白い顔色でしきりに腹の上辺りを手で擦っていた。かなり緊張しているらしい。
「これから『奇跡の藤堂』に会って話をしないといけないと思うと胃が……」
「扇さんたちは藤堂を神格化しすぎだと思いますよ。そうだなぁ、……扇さんの将来の夢が教師だったっていうのならば、授業参観に来た生徒の気難しいお父さんだと思って接すればいいのでは?話せば意外と分かってくれるかもしれませんよ」
「ライくん、さすがにそれは無理だと思う……」
「じゃあ、場の雰囲気が険悪になったら一旦リセットするために、お近づきの印ってことで、荷台のジュースを配りましょう!」
「……俺を気遣う冗談だよな?」
心配そうに俺を見てくる扇に対し、にっこりとした営業スマイルをプレゼントすると彼は『俺がしっかりしないと』と意気込み始める。扇は何でもかんでも難しく考え過ぎなんだ。
俺たちはブリタニアがナリタに攻撃をしかける正確な日付と戦力の情報を渡し、日本解放戦線の戦況が悪くなった場合、撤退をしやすくするために戦力を投じる。それだけを伝えればいい。あとはこの情報をどう判断し、活用するかは藤堂たちの自由。
俺たちはカレンの紅蓮と青色の月下をブリタニアにとって脅威的な存在であると認識させられれば良いのだ。これはルルーシュがコーネリアに執着しなくなったが故に難易度が軽くなっているのだが、それが俺のギアスの所為だと思うとなんともいえない。
これは何としてもコーネリアが操縦するグロースターに致命傷を与え、スザクが駆るランスロットにも傷を負ってもらい、キョウトに一目を置いてもらわないと割に合わない。
俺はポケットに入っている菱形の起動キーを一撫でするとハンドルを握りなおし、グッとアクセルを踏んでトラックを加速させたのだった。