銀色に憑依した悪逆皇帝   作:甲斐太郎

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08.【ナリタ攻防戦・後】

□コーネリア□

 

エリア11の最大反政府勢力である日本解放戦線の本拠地であるナリタ連山を我々は攻めていた。日本解放戦線のモグラのように山を掘削し、一大拠点として作り変える労力は認めよう。

 

しかし、我々からしてみれば弱者の浅知恵に過ぎず、圧倒的な兵力の差で何事もなく反政府勢力を根絶やしに出来る……はずだった。ダールトン率いる部隊が日本解放戦線の使用している通用口を発見し、雪崩れ込んだという報告を受け制圧も時間の問題だと。

 

気分を高揚させる私へ冷や水を掛ける様な切羽詰った通信が寄越されたのはその時だった。ブリタニア軍の第4世代KMFグラスゴーの劣化コピーに毛が生えたような改造機を相手にしていた部隊が壊滅的なダメージを受けたと将校たちから連絡を受けた私は思わず悪態を吐く。

 

その行為自体は選任騎士であるギルフォードに咎められたが、通信を寄越してきた将校たちの使えなさに眩暈がしそうであった。

 

劣化コピーの改造機数機すら押さえられないなど、やはりエリア11の部隊は弛んでいる。一度本国に戻して、一から性根を正す必要もあると考え、ディスプレイに作戦区域のマップを映し、私たちがいる場所に向かって“味方を表す光点が次々とロストしていっている”のを確認し、私は咄嗟に怒号を上げる。

 

「ギル!隊列を組みなおせ、“何か”が来るぞ!」

 

指示を言い終わろうかした時、そいつは我々の前に降り立った。海のような深い青色の装甲を持つ一つ目の機体であった。

 

ブリタニア軍のKMFには全く似付かぬ鋭角なフォルム。右手には小振りな赤い剣が握られ、左腕の先には赤い爪がある。

 

「姫さま、恐らくイレブンが独自に開発した機体かと思われます」

 

「小癪な真似を……」

 

エリア11がブリタニア帝国に対し頭を垂れてから、もう数年の年月が経っている。政に疎いクロヴィス主導の下であったにしても、イレブンの反抗精神はほとほと手を焼かされる。だからこそ、このエリア11最大の反政府勢力である日本解放戦線を殲滅することは必要不可欠なのだ。徹底的に叩き潰すことで、イレブンの意識に希望など有り得ないことを叩き込むために。

 

「ギル、手を出すなよ。こいつは私が屠る」

 

私は操縦桿を操作しランスを構え悠然と佇む青い一つ目の機体に向かって疾走させる。ランドスピナーが地面を明確に捉え、土埃を上げつつ瞬く間に最大速力へ到達。

 

このナリタで日本解放戦線の塵滓たちの血を何百も吸ってきた我が必殺の一撃は、紙一重で避けられた上に左肩を撫でる様に斬られた。

 

スラッシュハーケンを用いて体勢を立て直そうとした時には青い一つ目は宙へ飛び上がっていて、私のグロースターが放ったスラッシュハーケンを自身のスラッシュハーケンを使ってワイヤーを断ち切っていた。

 

「ちぃっ!!」

 

最大速力まで達した自分の機体を立て直そうとランドスピナーを使うが減速させるよりも、戦場を大回りして再度突撃した方が有効と判断し、左に旋回しようとしたのだが、横殴りされたような衝撃を受け思わず下唇を噛む。

 

地面を削るような音とシートに身体が固定されているにも関わらず前後左右へと大きく揺さぶれる感覚に歯噛みする。衝撃と音が止んだのを見計らって、ランスを地面に突き立てて機体を立ち上がらせる。

 

泥と土に塗れたカメラによって映し出されたのは、縦横無尽に動き回る青い一つ目の機体によって次々と部下たちが殺されていく光景だった。青い一つ目の機体はあらゆる角度から放たれるアサルトライフルの銃弾の雨を掻い潜り、右手に持つ赤い剣をコックピットに突き立てていく。

 

包囲されれば、スラッシュハーケンを地面に放った反動で宙へと飛び上がり、ワイヤーの巻き取るスピードを左右で変えたり、操縦者が殺され動かなくなった機体を踏み台にしたりして戦場を支配している。

 

「姫さま、お下がりください!」

 

「……ギルフォード、何者だ。あれが、エリア11の英雄『トウドウ』なのか!?」

 

「分かりません。しかし、無闇に攻めたところで『一つ目』には通用しないことは確かです」

 

「……分かった」

 

私は戦闘が始まる前に最愛の妹であるユフィの“お願い”を使うことを決める。部下に指示を出し、信号弾を撃たせる。どうやって、ユフィに取り入ったのか知らないが、チャンスをくれてやろうではないか。

 

私は自分の機体の後方で白い煙が立ち昇るのを確認した後、付近にいる部隊を集める。ユフィのお願いとはいえ、イレブンをパイロットとしている『特派』を使いたくなどない。呼び出すだけ呼び出して、何の用事もなく帰すのも一興か、と考えた私はギルフォードを含めた部下たちに檄を飛ばす。

 

「精強なる我が兵たちよ。連携し、『一つ目』を討つ。ログナーとエイドマンは挟撃せよ。他の者たちはアサルトライフルで援護、ギルは私と共に来い!」

 

「「「イエスユアハイネス!」」」

 

息を合わせて距離を詰める2機のグロースターの動きを見ていた青い一つ目の機体の周囲に降り注ぐ銃弾の雨。先ほどは動き回る青い一つ目を追う様に無秩序に放たれていたが、今回は移動を制限するためのもの。

 

フェイントを織り交ぜ、着実に青い一つ目を追い込んでいくログナー機とエイドマン機。だったのだが、2機の動きに合わせて撃たれていた援護射撃の隙を縫うようにして包囲から抜け出した青い一つ目が我々の方へ向かってきた。

 

その一瞬の攻勢に気付いたギルが私の前に立ち、青い一つ目と相対する。ギルのグラスゴーのランスによる薙ぎ払いの攻撃を受けた青い一つ目の機体が左方向へと流れていくのを見て、私の頬は吊り上がるのが分かった。所詮イレブンなど、この程度と。

 

「姫さまっ!」

 

「なんだ、ギr」

 

私は次の瞬間には、世界がひっくり返ったような衝撃を受けた。

 

何が起きたのかを確認する前にディスプレイに映し出されたのは、左腕の爪を大きく開き、赤い迸りを発光させるナニカ。その青い一つ目の左腕がランスに当てられた直後、赤い閃光が走った。ぶくぶくと内側から気泡が立つように膨れていくランス、そしてそれを持つ両腕。

 

私は咄嗟に両腕をパージし、反動を利用してその場から離れた。その判断が正しかったことを、私はランスと両腕が爆発四散する様を見て悟った。ギルをはじめとした親衛隊の面々が私を守るために近寄ってくる。

 

『時間か……』

 

オープンチャンネルから聞こえてきた若い男の声。

 

その言葉の意味を察する前に、地面が揺れていることに気付く。直後にはブリタニア軍の回線は阿鼻叫喚の声で埋め尽くされた。日本解放戦線の拠点への入り口を攻めていたダールトン率いる正面部隊が地響きによる土砂によって流され、甚大な被害を負った事実を、G-1ベースから送られてきたデータを受け取った私は操縦桿を握る手にギリギリと力を篭める。

 

こんなやり方を日本解放戦線が思いつくとは思えなかった。青い一つ目の機体を操る人間も日本解放戦線の戦力であれば、私が赴任する以前からこのエリア11でブリタニア軍を相手に暴れていたはずだ。それが無かった時点で、この青い一つ目が所属している組織が何者であるかなど一目瞭然だ。

 

案の定、青い一つ目の機体と良く似た赤い機体と共に悠々と現れた角付きのグラスゴーの劣化コピー機に乗る人物が私に向かって語り掛けて来た。

 

『サイタマゲットーでは世話になったな、コーネリア』

 

「ゼロ、貴様ぁああああっ!!」

 

腹違いの弟であるクロヴィスを殺し、神聖ブリタニア帝国に対し宣戦布告を叩き付けた憎きテロリストである『ゼロ』。

 

そのゼロを守るように両脇を固める青い一つ目の機体と赤い機体。

 

黒の騎士団の戦力はたった3機しかいないにも関わらず、ほぼ無傷の状態。

 

対して私が率いる部隊は親衛隊とエリア11に常駐しているブリタニア兵士たち。数こそ多いが、親衛隊の機体は大なり小なり傷ついている。私など、青い一つ目との戦闘によって両腕とスラッシュハーケンを失ってしまっており、この戦場において完全なお荷物だ。

 

こんな屈辱は、今まで味わったことがない。

 

ギリギリと私が歯軋りを立てていると不意に影が差し込んだ。岸壁の上から飛び降りてきたのは白いKMFだった。

 

 

 

□ルルーシュ□

 

コーネリア率いる親衛隊とドンパチを勝手に始めていたライの説明で、彼女が操縦するグロースターの損傷具合を聞き、彼を味方に出来て本当に良かったと大きく頷く。日本解放戦線の戦力の撤退と彼らに保護されていた民間人の退避が大方済んでしまっている現在、目的は十二分に達成されたと見ていい。

 

俺にとってのイレギュラーの塊である白兜との戦闘はあくまで“おまけ”だ。

 

戦力として完全にお荷物状態のコーネリアを抱えている今、ギルバート・G・P・ギルフォード率いる親衛隊も迂闊に動けない。下手に動いて流れ弾がコーネリアの機体に当たったりすれば、ただではすまないのを理解している。

 

コーネリアの性格上、自分の所為で部隊が壊滅する憂き目にあった場合、自身を見捨てるように促すはずだが、これだけ揃っているとそう指示することは出来ない。

 

「ライ、周囲の状況はどうだ?」

 

『土砂崩れによる混乱はまだ収まっていないけれど、近くの基地に対し航空戦力への援護要請が出された。タイムリミットはあと8分といったところかな。退避ルートは29のパターンBが無難』

 

「カレン、聞いていたな?」

 

『了解っ!』

 

カレンが操縦する『紅蓮弐式』の最大の武器は右腕の輻射波導機構。たとえ強固な装甲を持つ白兜でも、あれに掴まれればタダではすまない。

 

ちなみに白兜は紅蓮との戦いの最中、時折俺に向けて銃を向けてくるのだが、その都度ライが亜光速で飛来する銃弾を切り裂いてくれるので頼もしい。

 

ただ、俺が乗っている無頼の後方は凄まじいことになっている。まるでモーゼが割った海のように、俺の真後ろだけが無事でそれ以外は見るも無残なほど、掘削されてボロボロの荒れ放題となっている。

 

『こいつっ!このっ!このぉおお!!』

 

ただカレンにとっては目の前にいる自分よりも『ゼロ』を倒すことを優先されているようで面白くないのだろう。

 

どんどんと目が据わり、獣染みた気配というか、殺気が漏れ出ている気がする。しかし、それによって攻撃が単調になり、冷静な白兜に翻弄されているようにも見える。恐らく潮時だ。

 

「カレン、航空戦力による援護が来るまで5分もない。ライと交代だ」

 

『……ぐぬぬ。ライ、拠点に戻ったら相手をしてよね!』

 

『いいよ。カレンが納得するまで相手になる』

 

今まで白兜と接近戦を繰り広げていた紅蓮がその場から飛び退き、俺の乗る無頼の傍まで下がってくる。通信を通してカレンの洗い息遣いが聞こえてくる。山頂部から下ってくる際にブリタニア軍のKMFを相手にしていた時は相手を寄せ付けることなく、圧倒的な強さを発揮していたが、カレンはまだ紅蓮を受領して間もない。まだ完全には使いこなせていないのだろう。

 

そういった意味ではライも月下を使いこなせていないはず、

 

『おい、白兜。紅蓮との戦いでは余裕があったのかゼロに銃を発砲していたが、俺の前でそんなことをしてみろ。跳ね返してコーネリアを狙うぞ』

 

って、おいぃいいいいい!?

 

オープンチャンネルでライがそんなことを言い放った。幸い声自体は変えられたものだったから良いものの、これを挑発されたと白兜が認識したらヤバイのではないか。

 

そう俺が考えていると案の定、白兜が銃をまっすぐ俺へと向ける。射線上にはライが駆る青い月下がいるが、白兜が銃を手元で操作すると“銃の形状が変わる”。今までが連射が出来る通常の状態であったとすれば、次に放たれるのは攻撃力に特化されたものとなる。

 

『えっ、ちょっ、嘘でしょ!?』

 

「そう言いながら、俺の後ろに隠れるな!カレン!!」

 

今まで白兜と熱戦を繰り広げていた紅蓮は無頼を盾にするように後方に回った。見ればコーネリアたちもヤバイと感じ取ったのか白兜の真後ろを陣取るように移動している。

 

これは一体、どうなるんだと思った俺たちの前で繰り広げられた戦いは一瞬だった。

 

お膳立てされた銃を捨て、左手に握った剣で斬りかかってきた白兜を右手に持った小刀でいなした月下の左脇に、その場で一回転して遠心力によって攻撃性を高めた白兜の右足が叩き込まれた。

 

『ライが負けた!?』と浮き足たった俺たちの前で、爆発したのは白兜の脚部。忘れていたが月下の左腕もまた簡易的とはいえ紅蓮と同じ輻射波導機構だ。つまり、誘いだったわけだ。

 

白兜は爆発の衝撃でコーネリアたちがいる方向へ弾き飛ばされ、その間にライは月下の左半身に思い切り叩き込まれた白兜の右足を左腕で抱え、勝負の前に白兜が落とした銃を拾い上げて戻ってきて、俺たちの横をさっと通り抜けた。

 

「『は?』」

 

『やべぇ、調子に乗りすぎた。……後は頼む』

 

目的は果たしたと言わんばかりにさっさと戦場から離れていくライが駆る月下。俺はちらりとコーネリアたちを見据え、咳払いをひとつする。

 

『最初に言ったはずだぞ、コーネリア。我々の目的はすでに果たされている。白兜との一戦はおまけに過ぎん。我々の戦場はこのナリタではない、もっと大きな舞台となるだろう。では、その時が訪れるまで首を洗って待っているといい。フハハハハハハッ!』

 

俺は精一杯格好つくようにそう言った後、ライの月下を追うように無頼を走らせる。カレンが操縦する紅蓮も続く。負ったダメージが余程大きかったのか、ブリタニア軍による追撃はほとんど起きずに俺たちは撤退することが出来たのだった。

 

 

 

□???□

 

「スザクが、……負けた?」

 

私の記憶によれば、このナリタでスザクはゼロをあと一歩のところまで追い詰めること出来ていたはず。解析された画像では緑色の髪を持つ女性との接触でスザクは取り乱し、ゼロを逃がした。

 

「今回は、この青い機体が邪魔を?」

 

コンソロールを触り映像を進める。

 

お姉さまやギルフォードさんの動きすら自身の掌の上と言わんばかりに翻弄し、赤い機体を引かせたスザクを挑発。そして、一瞬の攻防でランスロットの右足を奪い取った。

 

私と同じイレギュラーであるはずだが、一体……誰なのでしょう?

 

「とにかく、次の一手を考えなければなりません。……待っていてくださいね、【ルルーシュ】」

 

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