「≪ブラッド・ヴォルス≫でプレイヤーにダイレクトアタックッ!」
重厚な両斧を持った筋肉質な獣人はその身に似合わぬ素早い動きで駆け出し、対峙する黒の学生服を纏った少年へと肉迫すると同時、その手に握る斧でその少年を斬り伏せた。
「グ、ァアああああああああああああッッッ!」
受験生 LP200→-2700 LOSE
「残念だったね。惜しいところまでは行けていたのに少し、焦り過ぎたね。もう少し冷静に伏せカードを警戒しておけば、結果は解らなかったと思うよ。……解ってはいるだろうけれど試験結果は追って通知されるから覚えておいてね」
「クソッ、ブラフだと思い込んでいた俺のミスか……ありがとうございました。」
「此方こそ。慰めのつもりではないが、何も≪デュエルアカデミア≫の卒業生だけがプロデュエリストに成れる訳ではない。……むしろ、成れない生徒の方が多いくらいだ。もし、例え受からなかったとしても夢を諦めるなよ?80番君」
「ハイっ、俺、頑張ります。対戦ありがとうございましたッ!」
九十度に腰を曲げ、試験官に礼をして足早にその場を後にする少年を見送る。彼らが先ほど行っていた物事に関して軽く説明を入れよう。
デュエルモンスターズ。ペガサス・J・クロフォードが考案し、世界へと公表したカードゲームであり、この世界に於いて最も人気を誇るゲームだ。余りの人気故に、子どもから大人まで幅広い層に愛されている。
当初、卓上型(テーブル)ゲームとして登場したデュエルモンスターズであったが、ペガサス氏が経営する≪インダストリアル・イリュージョン社≫と≪海馬コーポレーション≫の事業提携を始めとした公式大会の開催等によりその人気は爆発的に広まり、世界で知らぬ者は居ないと言っても過言ではないだろう。
デュエルモンスターズの公表後、数年が経つと≪ソリッドビジョン≫と呼ばれる仮想映像を現実に投影する技術が両会社から公開され、従来のテーブル型のステージタイプと腕に取り付けてプレイする≪デュエルディスク≫の二つのスタイルが確立され、宣伝として大きな大会がこの≪ドミノ町≫で開かれた。
優勝者は、≪武藤遊戯≫という童実野高校に通う少年だった。彼はその類稀なるタクティクスと臨機応変に戦うことが出来るデッキを作り上げ、大会を順調に勝ち上がった。そうして彼のライバルであり大会の主催者である海馬コーポレーション社長≪海馬瀬戸≫とのトーナメント最終デュエルで見事勝利を収め、名実ともに≪デュエルキング≫の称号をその手にしたのだ。
その大会映像は世界中に大々的に放映されており彼らの勇ましい姿に憧れた嘗ての少年少女がデュエルの聖地であるドミノ町。ひいてはデュエルモンスターズに関する本格的な勉強をすることが出来るデュエルアカデミアに入学したいと考えることは自然な事であろう。
此処まで云えば解るであろう……そう、ここはデュエルアカデミア本校、入試試験会場である海馬ランドだ。先述したとおりデュエルアカデミアとはデュエルモンスターズと呼ばれるカードゲームのプロフェッショナルを育成する機関であり、中等部と高等部からなる十二歳から十八歳までの少年少女を主に、一般教養とデュエルモンスターズに関する知識を勉強することが出来る学校なのだ。
デュエルアカデミア自体は至るところに有るのだが、今回この場において行われている試験は≪本校≫に受験する生徒が各地から集まってきているのだ。
当然、筆記試験並びに実技試験が行われ厳正なる審査の下アカデミアへの入学が決定される。筆記試験で四十パーセント実技試験で六十パーセントとアカデミアの後ろ盾である海馬社長の実力主義が遺憾なく発揮されている入試試験だ。
さて、長々とした説明は此れ位にしておくとして本編に移ろうと思う。
「受験番号五番から十番はそれぞれ割り振られた試験官の下へ移動をお願いします」
(漸く、オレの番っスか。しかし、試験官のデッキは殆ど似偏った低級高ステータスモンスターによる装備ビート。これなら実技試験は楽勝っスかね?)
先ほどまで行われていた試験官のデュエルを思い起こしながらに複数種あるデッキの内から一つ選びデュエルディスクにセットする。上手く回ってくれるように願いつつ自身を待つ試験官の下へと会場内を移動する。
「始めまして、君は受験番号十番、小波遊人君で有っているかな?」
「はいっス、試験よろしくお願いしますっス」
「元気が良いのは結構。それでは始めよう」
『デュエルッ!……っス』
小波遊人 LP4000
試験官 LP4000
「先行は受験生からだ。どんな動きを見せてくれるのか楽しみだよ」
「それでは、お言葉に甘えて……ドローっス!」
小波の手札が初期手札である五枚からデッキトップから一枚引き六枚に増える。このドローフェイズは必ずデッキ(山札)の一番上から一枚引かなくてはならない。(カードが引けない場合はその時点で敗北する。)当然ながらデッキから好きなカードを引くことは(カードの効果処理を除いて)禁じ手なのでやってはいけない。
ドローフェイズが終わるとスタンバイフェイズへと移行する。このフェイズは特別な効果を発動したりしない場合は殆どスルーされ次のメインフェイズ1へと移行する。メインフェイズは主にモンスターの召喚。並びにマジック(魔法)カード、トラップ(罠)カードを伏せたり発動させたりといった戦略を練るフェイズとなっている。
このメインフェイズは重要な作戦準備期間であるので冷静な判断を持って行動に移らないと後に大変なことに成る為よく考える必要がある。
「(よし、これは貰ったっスね)オレはモンスターをセット、リバースカードを三枚セットしてターンエンドっス」
小波遊人 LP4000 手札2枚
場 セットモンスター1
伏せカード3
「どうした。守りに入っていては勝てはせんぞッ私のターンドローッ!」
試験官 LP4000 手札6枚
場 なし
伏せカード なし
「よし、私は手札から≪ジェネティック・ワーウルフ≫を攻撃表示で召喚ッ!続いてマジックカード発動っ≪デーモンの斧≫をワーウルフに装備する」
≪ジェネティック・ワーウルフ≫
通常モンスター
星4 地属性 獣戦士族
ATK2000 DEF100
試験官の右手が手札へと素早く動き目的のカードを掴むと左腕に装着した円盤(デュエルディスク)のモンスターカードゾーンへと叩きつける。そうして現れたのが白い体毛を全身に纏った獣人。ジェネティック・ワーウルフであった。その後、再び流れる動作でもう一枚のカードをマジック、トラップカードゾーンへと挿入する。今度はワーウルフの眼前に空間の歪みが生まれ、そこからゆっくりと緑色をした鬼の顔が付いた巨大な斧が露になり、迷うことなくワーウルフはソレを右手に装備する。
≪デーモンの斧≫
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分フィールド上に存在するモンスター1体を
リリースする事でこのカードをデッキの一番上に戻す。
ジェネティック・ワーウルフ
ATK2000+1000→3000
「更に更にっ≪団結の力≫と≪一角獣のホーン≫を装備させるッ!」
≪団結の力≫
装備魔法
装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体につき800ポイントアップする。
≪一角獣のホーン≫
装備魔法
装備モンスターの攻撃力・守備力は700ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、このカードをデッキの一番上に戻す。
ジェネティック・ワーウルフ
ATK3000+800→3800+700→4500
「攻撃力4000超えッ!?」
「あんなの勝ち目がないよッ!」
「あーあ、あの受験生終わったなぁ」
小波のデュエルを見ていた観客側から勝負あったなと小波が完封される光景を想像した声が聞こえ始める。
「どうだ。あの≪オベリスクの巨神兵≫を上回ったぞッ君にコイツを止められるかな?」
「(随分とまぁ軽く見られたもんっスね。……親父や海馬さん、遊戯さん達とデュエルしたら4000なんて眼じゃない位にぶっ飛んだのが飛んでくるっスけどね)御託はいいからさっさと攻撃するならするといいっス」
「ふむ、では攻撃する前にもう一枚マジックカードを使わせてもらおう。≪サイクロン≫を発動し私から見て右のカードを破壊してもらおうか?」
「右で良いんっスね?了解っス。セットカードは≪聖なるバリアミラーフォース≫っスよ」
≪オベリスクの巨神兵≫
効果モンスター
星10/神属性/幻神獣族/攻4000/守4000
このカードを通常召喚する場合、自分フィールド上の
モンスター3体をリリースして召喚しなければならない。
このカードの召喚は無効化されない。
このカードが召喚に成功した時、魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。
このカードは魔法・罠・効果モンスターの効果の対象にできない。
このカードは特殊召喚した場合エンドフェイズ時に墓地へ送られる。
自分フィールド上のモンスター2体をリリースする事で、
相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。
この効果を発動する場合、このターンこのカードは攻撃宣言できない。
≪サイクロン≫
速攻魔法
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
≪聖なるバリア-ミラーフォース-≫
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
相手フィールド上に攻撃表示で存在するモンスターを全て破壊する。
「おおっと危ない危ない、今日の私はついている様だ。ピンポイントで厄介な罠を片づけられたのだからね。それじゃあ、バトルフェイズに移行させて貰うよ?……私はジェネティック・ワーウルフで十番君のセットモンスターに攻撃ッ!」
バトルフェイズは主にモンスターの攻撃を行うフェイズである。カードの表示形式が縦に成っているモンスターは攻撃することが出来る。ただし、このフェイズは一方的に攻撃を仕掛けられる訳ではない。相手が先述したメインフェイズにおいて伏せたカードを使用し攻撃側の妨害をする事も可能である。
なお、先行を取ったプレイヤーは公平なプレイをするため開始一ターン目は攻撃することが出来ない。
試験官の命令に従い白き獣が動き出す。その身に凶悪な武器を持ち、長く捩じれた角を生やした異形のワーウルフは小波の下へと脇目も振らず一目散に駆け寄りその身を妨害する伏せられたモンスターにデーモンの斧を扱い渾身の一撃を与える。
セットモンスターが軽々とやられ、小波が二枚もある伏せカードを扱わない事から観戦する殆どの人々は諦めムードになり、やるせない言葉を不躾に投げかける。
「(嗚呼っ!だの終わっただの五月蠅いっスよ。観客共は黙って見ていられないんっスか?)セットモンスターは≪ジャイアントウイルス≫っス。戦闘破壊された為、相手に500ポイントのダメージを与えるっス」
試験官 LP4000-500→3500
「ふむ、しかしたったの500ポイントではな……此方には攻撃力4500のワーウルフが存在している。バーンデッキでもない限り君の勝ち筋は、限りなく零に近いと思うよ」
一瞬、バーンという言葉に口に出すのも嫌そうな苦虫を噛み潰したような顔をした試験官は、会場の観戦客と同様に言外に諦めろと言う。
「……知っているっスか?かのデュエルキングはどんなに絶望的な状況下に於いても絶対に諦めなかったと。それに倣う訳ではないっスけど、高々4500程度でビビッてちゃ男が廃るってなもんっスよ」
「そうか、であれば君の全力を見せてくれ」
「言われなくてもそうするっスよッ!ジャイアントウイルスが戦闘により破壊された時に発動できる効果は二つあるっス。という訳で、デッキから二体のジャイアントウイルスを攻撃表示で特殊召喚するっスよ」
≪ジャイアントウイルス≫
効果モンスター
星2/闇属性/悪魔族/攻1000/守 100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。
さらに自分のデッキから「ジャイアントウィルス」を任意の数だけ
表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
「生贄素材を集めたか。次で仕掛けてくるつもりかな?私はこのままターンエンド。君がどんな手を使って私のワーウルフを倒すのか実に楽しみだよ」
「そいつはどーもっス。オレのターン、ドローっス!」
小波遊人 LP4000 手札3枚
場 ジャイアントウイルス×2
伏せカード2枚
試験官 LP3500 手札1枚
場 ジェネティック・ワーウルフ
伏せカード0枚
装備カード3枚 デーモンの斧 一角獣のホーン 団結の力
「先ず、リバースカードをオープン永続罠≪マクロコスモス≫を発動させるっス。効果によりデッキから≪原始太陽ヘリオス≫を一体特殊召喚するっス。そして、マジックカード強欲な壺を発動するっス。デッキからカードを2枚ドローするっス」
≪マクロコスモス≫
永続罠
このカードの発動時に、手札・デッキから「原始太陽ヘリオス」1体を特殊召喚できる。
また、このカードがフィールド上に存在する限り、
墓地へ送られるカードは墓地へは行かずゲームから除外される。
≪原始太陽ヘリオス≫
効果モンスター
星4/光属性/炎族/攻 ?/守 ?
このカードの攻撃力・守備力は、
ゲームから除外されているモンスターの数×100ポイントになる。
≪強欲な壺≫
通常魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
「攻撃力0?そんなモンスターを出してどうするつもりだい?」
「まぁ、見ていれば解るっスよ。続けてリバースオープン。ウイルスカード≪死のデッキ破壊≫を発動するっスッ!対象は勿論ジャイアントウイルスっスよ!」
≪死のデッキ破壊≫
ウイルスカード
闇属性で攻撃力1000以下の生贄を媒体にウイルスカードは発動する。
相手の手札・及びデッキ内の攻撃力1500以上のしもべは全て死滅する。
「なっ!?まさか、そのカードはッ!」
「そう、皆さん御存じの通り、かの海馬瀬戸が愛用したウイルスカードの一枚。死のデッキ破壊っス」
「信じられん……余りの強力さにあのデュエルキングですら苦戦したカード。それも超絶レアカードのウイルスカードを所持している者がこんな所に」
「無駄話しはその位にしておくっスよ。死のデッキ破壊の効果を処理して貰うっス。手札とデッキから1500以上の攻撃力を持ったモンスターは墓地……ではなくゲームから除外して貰うっス」
「嗚呼、此れでいいだろう?除外する枚数は17枚だ」
「案外多かったっスね。そしてモンスターがゲームから除外されたことによりヘリオスの攻撃力と守備力は1800に上昇するっス」
「ははは、何だ。その程度の攻撃力じゃあとてもではないが私のワーウルフには届かないよ。いくらウイルスカードが強力だからと言っても肝心の効果が枚数掛ける100程度では、ね」
「くくっ誰が、これで終わりと言ったっスか?オレのメインフェイズはまだ終了していないっスよッ!もう一体のジャイアントウイルスを生贄に捧げ、手札からマジックカードを発動っス!≪モンスターゲート≫効果により、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキトップのカードを捲るっス」
≪モンスターゲート≫
通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体をリリースして発動する。
通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキをめくり、
そのモンスターを特殊召喚する。
それ以外のめくったカードは全て墓地へ送る。
一枚目、グランドクロス二枚目、名推理三枚目、マクロコスモス四枚目、和睦の使者五枚目、D・D・Rそして六枚目。
「来たっスよ!……現れよッ金色(こんじき)の巨人!≪黄金のホムンクルス≫ッ!」
≪黄金のホムンクルス≫
効果モンスター
星6/光属性/戦士族/攻1500/守1500
このカードの攻撃力・守備力は、
ゲームから除外されている自分のカードの数×300ポイントアップする。
「コイツもヘリオスと同じ様な効果を持っているっス。元々の攻撃力1500に除外されている自分のカードの数掛ける300ポイントが加算されるっス。つまり、ホムンクルスの攻撃力はッ!」
「なッ、私のワーウルフと並んだッ!?」
黄金のホムンクルス
ATK&DEF1500+3000→4500
「未だっスよッ!手札より≪ヘリオス・デュオ・メギストス≫の効果を発動させるっス!自分フィールド上に存在する原始太陽ヘリオスを生贄に特殊召喚ッス!そしてヘリオスは墓地へは行かず除外されるっス!新たなモンスターが増えた事によりホムンクルスの攻撃力は更に300プラスされるッス!また、メギストスの攻守もゲームから除外されているカードの数掛ける200ポイントされるッス」
黄金のホムンクルス
ATK&DEF4500+300→4800
≪ヘリオス・デュオ・メギストス≫
効果モンスター
星6/光属性/炎族/攻 ?/守 ?
このカードは自分フィールド上の「原始太陽ヘリオス」1体を
生け贄に捧げる事で特殊召喚する事ができる。
このカードの攻撃力と守備力は、
ゲームから除外されているモンスターカードの数×200ポイントになる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた場合、
エンドフェイズ時に攻撃力・守備力を300ポイントアップさせて特殊召喚される。
ヘリオス・デュオ・メギストス
ATK&DEF0+3800→3800
「なぁッ!?私のワーウルフを超えた……だと?伏せも無い。私の負けか」
「楽しかったッス。それじゃあ、さよならッス!黄金のホムンクルスでジェネティック・ワーウルフへ攻撃ッス!唸れッゴールデン・ハーヴェストッッッ!」
黄金の巨人が異形のワーウルフへと殴りかかる。巨体の割に素速い巨人の軽やかな動きに翻弄されたワーウルフは大した抵抗も出来ずに、その身に剛腕を受け錐揉みしながら弾き飛ばされ、消失する。そしてワーウルフが破壊され除外されたことによりメギストスの攻撃力が更に200上昇する。
ヘリオス・デュオ・メギストス
ATK&DEF3800+200→4000
「ぐッッッ!」
試験官 LP3500-300→3200
「これで、止めっスよッ!ヘリオス・デュオ・メギストスでプレイヤーにダイレクトアタックっス!爛れろッウルカヌスの炎!」
全身包帯姿の膨よかな女性の形を取った太陽が両の手を頭上に掲げ上げるとそこに拳大の大きさの炎の玉が生まれる。それは次第に大きくなり、直径十メートルを超す大きさとなる。そうして完成された小型の太陽を敵対者である試験官へと大きく振りかぶり、投げつけた。
試験官はその圧倒的なまでの大きさの炎の塊に身動きすら取れなくなるほどに見惚れていた。直後、投げつけられた太陽が直撃する。巨大な爆発と黒煙が立ち上る。
「ぐっ、ぅううううううううううううッッッ!」
試験官 LP3200-4000→-800 LOSE
太陽の爆発の煽りを諸に受けた試験官はソリッドビジョンシステムの機能の一つである擬似的なショックダメージをその身に受け、衝撃と爆風によりその場から後方に吹き飛ばされることとなった。吹き飛ばされ、転がり地面に倒れ伏した試験官は暫くしてよろよろと覚束ない足取りで立ち上がり、小波の下へと歩き出す。
「良いデュエルだった。久々に完膚なきまでに負けたよ。君の今後の健闘に期待しているよ」
「ありがとうございましたっス!それじゃあオレは帰ります」
「嗚呼それと、もし良ければ次会った時にもデュエルしてくれるかい?」
「モチのロンっス!対戦は何時でも引き受けるっスよ!」
「そうか、ではその時を楽しみにしているよ。試験お疲れ様」
まさかの逆転勝利。会場内のほぼすべての人間が予想だにしなかったその出来事に会場は俄かに騒がしくなっていった。伝説と云っても良いレアカードであるウイルスカードの使用。並びに攻撃力4000超えのモンスター同士による戦闘。そして巻き起こした逆転勝利。これで湧き上がらない≪デュエリスト≫は居ないだろう。
「さ、面倒な事になる前にさっさと退場するッスよ」
斯くして、見事勝利を収めた小波は試験会場からそそくさと逃げるように脱出し、自宅までの道のりを歩いてゆく。その最中、ふと見知った顔が有る事に気が付いた。
「ああっ遊戯さんッス!お久しぶりッス!」
「ん?嗚呼。遊人か、久しぶりだな。元気にしていたか?」
「モチのロンっスよ!今日は、デュエルアカデミア本校の入試試験を受けて来た所っす!」
「そうだったのか……受かると良いな」
「ハイっス!」
「ああーッ!遅刻遅刻遅刻だぁーッ!」
遅刻、遅刻と言って小波らの居る方向へと駆ける学生服姿の少年。その目は海馬ランドに向けられており、前方は殆ど見ていなかった。その結果、ドンっと勢い良く小波に体当たりを喰らわせてしまったのは仕方がないことであった。少年と小波は互いにぶつかり合い、倒れてしまう。その際、走ってきた少年のデッキと思わしきカードが舞散らばる事となる。
「ぐぅっ!?」
「あっすまねぇッ!大丈夫かッ!?」
「何処を見てるッスか!?ちゃんと前を向いて走れッスよ!全く、む。カードが散らばって居るッス。君のカードッスか?」
「ホント、すまねぇっ!ってああーッ!オレのデッキィー!?」
小波がカードが散らばっていることを指摘すると少年は声を大にして自身のデッキだったカードを集め始める。そんな少年を放って置けない遊戯と呼ばれた青年と小波は散らばったカードを集めることを手伝い始める。
「いや、悪(わり)ぃな。ぶつかっちまって更にデッキまで集めて貰って、感謝してるぜッ!」
「……それは良いっスけど、お前時間大丈夫っスか?」
「ぇ?時間?ってああーッ!?ヤバいッ!遅刻してたんだったーッ!」
ヤバいヤバいと連呼してその場で足踏みをする少年は再度礼を二人に言うとその場を足早に去ろうとする。しかし、以外にもその少年を引き留めようとする者が一人。それは遊戯と呼ばれた青年であった。
「少し、待ってくれ。コイツが君の下へと行きたがっているんだ。受け取ってくれるか?」
コイツと呼んで一枚のカードを取り出す遊戯。カード名は≪ハネクリボー≫であった。そんな遊戯に良いのか?と聞きながらもちゃっかりと受け取る少年。
≪ハネクリボー≫
効果モンスター
星1/光属性/天使族/攻 300/守 200
フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動する。
発動後、このターンこのカードのコントローラーが
受ける戦闘ダメージは全て0になる。
「嗚呼。受け取ってくれるとコイツも喜ぶだろう。それにそのカードは君にとってのラッキーカードとなるだろう」
「くぅーッ!アンタ良い人だなっ!ありがとうっ大切にさせて貰うぜッ!」
「そうしてやってくれ。……引き留めて悪かった。試験、頑張ってくると良い」
「え?どうしてソレを……?」
「いや何、今日はデュエルアカデミア本校の入試試験なんだろう?そして、その試験は既に始まっている。つまり、遅刻だと言う君は受験生なんじゃないかと当たりを付けた訳だ」
「な、成程。……っとそろそろ本気でヤバい。カードありがとうッ!それとぶつかって悪かったっ!また今度会ったらその時ちゃんと謝るから今は許してくれっ!」
「分かったからさっさと行くッス!試験に遅刻して失格扱いにされるとこっちが悪いみたいになるッス!だから、さっさと行けっス!」
「ありがとー」と間延びした声を残して、少年は海馬ランドへと走り去っていく。そんな彼を見送る二人は今し方の少年について話し合う。
「遊戯さん。アイツ、無時に試験受けられるッスかね?」
「さて、それは俺にも解らないかな」
「あの、オレ海馬さんに電話しても……良いっスか?」
「いや、俺が電話しよう。彼を引き留めてしまったのは俺のせいだ。いくらハネクリボーがあの少年の下に行きたがっていると言っても少々、強引だったからな」
それに、と続けて「あの少年は特別な何かを持っている気がする」と誰にともなく呟いた。そうして、遊戯は懐から黒の携帯電話を取り出し、ボタンをプッシュする。電子音が暫く鳴り響くと受話器から不遜な声が聞こえ始める。
「ふぅん、遊戯。こんな時間に一体何の用だ。オレは今忙しいのだがな?」
「相変わらず、不機嫌そうな声をしているな、海馬。少し頼みたいことがある。」
「ほう……お前が、オレに?良いだろう。言ってみろ」
「ありがとう。今し方、デュエルアカデミアの受験生と思わしき少年と出会った。話しを聞く限りではどうやら、電車の事故で遅刻したそうなのだが……試験を受けさせることは出来るか?」
「ふぅん……貴様が気に掛ける程のデュエリストか。少し待て、その電車の事故とやらが本当かどうか確かめる。…………そうか、解った。どうやら、本当の事の様だな。良いだろう、試験は受けさせてやる。だが、それでソイツが合格しなければ、分かって居るだろうな?」
「嗚呼。その時はお前の望み通りにしてやる。だから、頼むぞ海馬」
「フンッ、精々そいつが合格することを祈っているのだなッ!」
「いや、その必要はない。彼は必ず合格するさ」
「ぬぅ……オレは忙しい、用件がそれだけなら切るぞ」
そう最後に言い残し、一方的に通話を切る海馬。スピーカーから聞こえていた声に安堵する小波はホッと一息を付いた。遊戯はというと楽しげな表情を浮かべ、勝てよと小さく呟くと小波と今日行われた実技試験について話し合い始めたのであった。