レミリア提督   作:さいふぁ

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赤城さんは、仕事にはシビアで無茶苦茶デキる人で後輩からは畏怖を含んだ目で見られるし先輩や上司から厚い信頼を置かれているけれど趣味というほどのものでもないけど学生時代にやっていた弓道を月一で公立体育館に併設されている射場に打ちに行くのと日々の食事を仕事の合間の楽しみにしている来年三十を迎える彼氏のいないそこそこ大きくて名の知れた企業に勤めるOL、的なところは正直言ってあると思います。


レミリア提督10 Qeen of Siesta

 

 

 

 その日、赤城は概ねいつも通りな朝食をとった後、いつも通りの時間に秘書室に入り、いつも通りに真っ先にパソコンを起動させて仕事に取り掛かった。朝食の「概ねいつも通り」というのは、何故か今日に限っていつも同じ時間に起きて同じ時間に食堂に行く同室の加賀の姿がなかったことで、それ以外はごく普通のいつも通りの朝食の風景であった。ほぼ毎日朝の行動を共にしている同僚の姿がないのは結構な異変と言えば異変だが、決して今までなかったわけではない。ごくたまに、彼女は朝早くから弓道場に行っていることがあって、それは前日の訓練で思い通りにいかなかったことが翌朝まで彼女の心の中でわだかまっていてそれを解消するためであるとか、あるいはもっと単純に大規模作戦の直前で打ち込みをしていたいとか、そういった理由である。

 

 だから、赤城も朝起きた時点から寝床に加賀の姿がなかったとしても、それをさほど気にしたりはしなかった。加賀は加賀でやることがあるのだし、秘書艦や同僚という立場であっても何でも首を突っ込んでいいものでもない。珍しく一人で黙々と質素かつ栄養バランスが熟考された朝食を食べながら今日の午前中の仕事のおおよその段取りを頭の中で組み上げ、午後からの予定を反芻しながら赤城はいつものルーチンとして秘書室までやって来たわけである。

 

 そしてルーチンはさらに続き、パソコンのデスクトップ画面が立ち上がると真っ先にメールボックスを開いて中身のチェックをする。目上の者からや急ぎの内容のメールはその場で即座に何らかの返事を行い、それから次々とアイコンをクリックして必要なソフトを起こしていく。その様はまるで兵舎で寝こけている兵士たちをラッパで一斉に叩き起こすかのようで、あっという間にツールバーには起動中のソフトアイコンが並んだ。

 

 これも何の変哲もない日々繰り返していること。赤城は何も思うことなく、正確には何の違和感も抱くことなくただ機械的に作業を進める。そうして今日という一日は、これまで赤城が幾度となく繰り返してきた日々と同質の変わらぬ平凡な一日で終わるはずだった。

 

 

 

 変化が訪れたのは、赤城が仕事を始めて間もなくである。時計の針が九時を回った頃で、ルーチンで言えばレミリアが大体朝司令室にやって来る時間だ。果たして、今日も今日とて彼女は九時過ぎに司令室に入って来て、そしてそのまま司令室と秘書室を繋ぐ扉を豪快に開け放った。あまりにもレミリアが勢いよく扉を開いたので、押し出された空気によって机に置いてある書類がいくつかひらひらと舞い上がる。音と勢いに驚いて赤城が振り向くと、そこには小さな上官が仁王立ちしていた。

 

 誰が見ても、レミリアは怒っていると瞬時に分かったであろう。普段から感情の発露は割とはっきりしているが常に冷静沈着な彼女にして珍しい。というか赤城にとっても初めて見るくらい猛烈に怒っているのである。言うまでもなく非常に良くない何かがあったに違いない。しかし、何か彼女をここまで激怒させるような事案があっただろうかと頭を巡らせてみても、とんと心当たりがあることは思い浮かばなかった。ここ半月余りは素晴らしいことに、軍隊では閑古鳥が鳴くくらい平和な日々であったはずだ。

 

 となれば、レミリアが怒っている原因は赤城の与り知らぬ事件が発生したことに違いない。当然、その事実自体が赤城にとってもここ最近の平和を台無しにするような好ましからざるものである。ならば、心して憤怒にまみれたレミリアから聞かなければならない。聞き方次第によっては、この上官をさらに過熱させかねないからだ。そして、ここまで怒ったレミリアを初めて見る以上、さらに怒らせた場合どうなるかは当然未知の事柄であり、赤城は固唾を飲んで彼女が口を開くのを待った。レミリアが扉を開いてから赤城が状況を思慮し慎重な対応を決定するまで、わずかゼロコンマ五秒である。

 

「おはよう、赤城」

 

 フランス人形のように真っ白な頬を紅色に染め上げながらも、レミリアは普段と変わらない落ち着き払った口調でまず挨拶をした。「おはようございます」と赤城も返してから、

 

「何があったのですか」

 

 と神妙に尋ねた。このタイミングではこちらから問い掛けた方が自然だと思ったからだ。決して、対応を間違ったわけではない。

 

 そのはずなのだが、レミリアの反応は赤城の予想外であった。

 

「『何があったのですか』って……。聞きたいのは私の方。何で貴女、ここにいるのよ?」

 

 赤城は自分の眉がハの字になるのを自覚したけれど、きっとその気持ちは万人に共感されてもいいと思う。

 

 レミリアが言っていることの意味が何一つ理解出来なかった。何故赤城が秘書室にいるのかと彼女は尋ねているのだろう。答えは言わずもがな、赤城が秘書艦で、秘書室が仕事場だからである。

 

 もちろん、レミリアも分かっているはずなのだが、あるいは何か一時的な健忘のような症状を患ってしまい、赤城の立場を忘れているのだろうか。

 

 あまりにも意味不明なことを言われたので、赤城は返す言葉を失ってしまっていた。何か言おうと思っても言葉が出て来ず、結果口は魚のようにむなしく開閉するだけ。

 

「……分からない?」

 

 絶句する赤城に対し、さらに悪いことにレミリアの怒りのボルテージは急激に上昇していっているようだった。どうやら赤城が理解出来ていないことによってそうなっているようだが、そんなことを言われても分からないのだからしょうがない。だが、とてもまずい状況に追い込まれてしまったということだけは考えるまでもなかった。何よりも悪いのは、何故こんなことになっているのか見当もつかないということだ。

 

 一体何が彼女をここまで怒らせたのか。

 

 その理由は赤城にあるようだが、本当に何の心当たりもない。いくら頭を回しても分かりそうになかったので、赤城は意を決して正直に尋ねることにした。これ以上黙っていても、きっと何も良くはならない。

 

「あの、すみません提督。私が何かまずいことを仕出かしてしまったというのは分かるのですが、恥ずかしいことにそれに心当たりがありません。恐縮極まりないのですが、ご指摘頂ければと……」

 

「……そう」

 

 相変わらずレミリアは怒りの表情のままだったが、幸い感情を爆発させることなくそのまま司令室に引っ込んでしまう。安堵するものではないが、それで間が出来て赤城は肺に詰まっていた空気を吐き出した。

 

 まずいことになったと思う。正直、自分がやったことで上官をここまで怒らせたのは初めてで、しかもその理由が思い当たらないときた。レミリアの勘違いであってくれればいいと思うが、どうもそんな気配はしないし、やっぱり原因は自分であるらしい。とはいえ、それが何であれまず平謝りして、それから対処に移り、場合によってはそれ相応の罰も覚悟しなければならないだろう。事情はどうあれ、人ひとりがここまで激怒するというのは余程の事態である。

 

 赤城がそんな覚悟を決めた時、レミリアが秘書室に再び入って来た。手には一枚の紙。それを赤城の目の前に突き出す。

 

「これよ」

 

 彼女の小さな手に乱雑に握られて皺寄ったそれは、艦娘の勤務計画表である。今月の、だ。

 

 今日の日付を見る。そこには、

 

「貴女、今日は休みなのよ!」

 

「……は、はい」

 

「『はい』じゃなくて!」

 

 勤務計画表は無残にもくしゃくしゃに丸められ、代わって真っ赤に燃える瞳が赤城を睨み上げる。

 

「何で非番の貴女が出て来ているのよ!」

 

「えっ。それは、仕事がありまして」

 

「明日からでいいでしょッ! 今日は休み! 休みよ。休みなさい!」

 

 レミリアはキンキンと高い声で繰り返すと、紙くず同然になった勤務計画表を握っていない方の手でまっすぐ秘書室の出入り口を、廊下の方を指す。

 

 しかし、赤城が戸惑い黙っていると、ついに彼女は大声で「早く出て行きなさいッ‼」と怒鳴った。

 

 

 

 

 

 

 かくて赤城は自らの牙城であるはずの秘書室から叩き出されてしまい、することもなくなってとぼとぼと寮の自室に戻って来た。こんな日は初めてである。

 

 結局、レミリアが怒っていたのは赤城が休日出勤したからだった。

 

 艦娘は、どこの鎮守府でもそうだが、月毎に勤務計画が策定され、それによって休日――すなわち非番が決定される。非番は月に四日であり、どんな艦娘にも必ず毎月与えられるもので、規則の上ではその日は出勤してはならず、手順に則って外出許可を得れば外に出てもいいし、公序良俗や法規則に反することでなければ基本的に何をしても自由。艦娘といえど労働基準法の偉大なる庇護の下にあるというわけだ。

 

 もちろん、軍隊であるから急な作戦や活動というのはあるもので、非番が潰れることも珍しくはないのだが、その場合も必ず振り替え休日が用意される。翌月に振り替えるのでなければ、四日は立場など関係なく艦娘は誰しも休みを取れるというわけだ。事実、今までもこの鎮守府においても赤城を含め、すべての艦娘に非番は与えられ続けてきた。

 

 だから、赤城にとってはますます腑に落ちないのである。レミリアがあれほど怒っていたことについて。

 

 

 手持無沙汰で自室に入ると、当たり前だが中は無人で、赤城以外の艦娘は普段通り訓練中だから寮の建物自体が静けさに包まれていた。同僚の加賀が朝からいなかったのはどうやら彼女が今日一日赤城の代わりに秘書艦業務を担うかららしく、それだけは唯一合点出来た。赤城を追い出す間際にレミリアがそう零したのだ。

 

 どうやら話は事前に出来上がっていたらしい。当の赤城がそんなことなど一言も聞いていないのは「ホウレンソウ」がなってないんじゃないかと思うが、よくよく記憶を探ってみればここ最近は夜更けまで残業していたので加賀と会話する機会が朝しかなかったし、加賀は朝に極端に弱い質であるからきっと赤城に非番のことを言い損ねてしまったのだろう。

 

 ただ、それはもういい。済んだことだ。問題は、手ぶらになった今日一日、果たしてどのように過ごすかということだった。

 

 何せ非番の日に仕事をするなど、赤城は今まで毎月そうしてきていたし、だからまともに休みらしい休みなど過ごしたことがない。デスクワークの多い赤城は、必然的に平日に海に出る時間がかなり限定されてしまう。だから休日は感覚を忘れないために海に出る貴重な時間だった。戦闘用の本艤装はともかく、訓練艤装なら工廠で名前を書けば数時間持ち出せる。あるいは、海に出なければ一日弓の打ち込みをしている。これももちろん、空母として当然積んでおかなければならない鍛錬の一つだ。

 

 とすれば、赤城の法定休日というのは、平日に処理し切れなかったデスクワークか、海上訓練か、弓の打ち込みかに費やされているわけで、休日らしい休日というのは全くない。確かに規則に照らして言えば休日出勤は違反行為であるが、こうした平日には出来ない、あるいはやり切れない業務をこなすのに非番の日はたいへん重宝した。というのも、普段の秘書艦の仕事というのは、その大方七割八割が急なものばかりであり、思うように仕事を進められないことも珍しくないからだ。

 

 逆を言えば、残っている仕事はさっさと終わらせていかないと後から後からやることが増えていってその内身動きが取れなくなってしまう。そうした意味ででもやはり休日出勤は赤城に欠かせないものであったし、周囲も「多忙であるから仕方がない。それどころか休みを潰してまで働いてくれて感謝しないといけない」と目を瞑ってくれていた。

 

 そして、赤城自身、休日出勤を繰り返してきたからか、もはやそういう働き方しか出来なくなってしまっていたのだ。出撃も含め、年がら年中365日無休で働くことになっていても、苦痛とは思わないし、休んでいるとかえって仕事のことで頭が一杯になってしまい、他のことに手が付かなくなるのだ。

 

 だから、今更「休日には休め」と言われたところで、ではどうすればいいのか皆目見当もつかない。もちろん、秘書艦になる前、それはだいぶ昔のことだが、その頃はごく普通の休日を過ごしていたように思う。何せもう何年も以前のことだから、どんな風に休みを潰していたか記憶があやふやである。この鎮守府に来る前は都会の港に居たから、確か街に繰り出していた。栄えていたから色んな物を買いに行った覚えがある。

 

しかし、この鎮守府に異動してからというもの、秘書艦に命じられ仕事に忙殺されていつの間にやら休出が当たり前となり、今となってはもはやまともな休日というのがどういうものであったかさえ思い出せない。うら若い女性なら街へ買い物に出掛けたり、グルメを漁ったり、映画を見に行ったりするのだろう。あるいは意中の誰かと観光地を訪れるというのもあるかもしれないが、生憎赤城には男っ気というものがからっきしである。そもそも出会いすらないし(この男社会において)、また誰かと親しくなりたいという願望もない。ついでに言えば物欲も乏しいし、行きたいお店や見たい映画などはどこに何があって、今どんな作品が上映中なのかという知識すら持たないのだから行きようがないのである。

 

 それを自覚すると、自分が恐ろしいほど世相に疎くなってしまっていることに愕然とする。一応新聞を読んだり、食堂のテレビでニュースを見たりするので社会を賑わせる事件や、政治・経済の主な話題は把握しているつもりであるが、世俗、特に娯楽面においてはおよそ他人とは比較にならないほど無知であった。

 

 これでは仕事人間ならぬ“仕事艦娘”である。いつの間にやら、自分は自分で思っている以上につまらない存在に成り下がってしまっているようで、そのことが一番ショックであった。

 

 

 

 

 赤城はのそりと部屋の中を移動し、タンスの一番下を開ける。そこには前の都会の鎮守府に居た頃によく着ていた私服が丁寧に仕舞われてある。虫に食われないよう防虫剤は四カ月に一度必ず入れ替えているし、防虫シートも半年毎に交換するのを忘れたことはない。服に濃く防虫剤の匂いが付いているのを除けば、今すぐにでも十分身に着けられる状態にある。

 

 しかしだ。この服自体相当前の物だし、今更着ても型落ちもいいところ。有り体に言えばセンスがもう「古い」。

 

 “色気より仕事”だった赤城とはいえ、自分が若い女であるという自覚はあるし、正直古い服を着て街を出歩くのは恥ずかしい。その辺りのことなら、鎮守府で一番詳しいのは間違いなく金剛だ。非番の度に外出する彼女なら、様々なアパレルショップを知っているだろうし、小洒落たアクセサリーショップやら和洋中の美味しい名店も聞けば教えてくれることだろう。ただ問題は、当然のことながら彼女は現在公務中であり、赤城にそんなことを教える暇はないということ。

 

 いや、別に街を知っているのは何も金剛だけではない。同室の加賀だって時折お洒落をして街へ出ることがあるのだから、きっといろんなお店を知っているに違いない。ついでに言えば、加賀は赤城と体格がほぼ変わらないはずだから、いざとなったら彼女の服を借りてもいい。その融通が利くくらいには加賀と親しいつもりである。

 

 だが、その加賀だって赤城に代わって秘書艦業務に従業しているわけで、つまるところ赤城は一人でこの休日を過ごさなければならないのだ。

 

 いやいや、一人が寂しいというのではない。結論として行きつくのは、どういう過程であれ「今日何すればいいか」である。街に出ないというのであれば、一日を鎮守府内で過ごすことになるのだが、果たしてすることがあるかと言えば……。

 

「ああ、そっか」

 

 滅多に出さない独り言を呟き、赤城はタンスを閉めて立ち上がる。

 

 思い出す必要もない。自分の趣味というのは当たり前にすることの一つで、休日を潰すならこれ以上ふさわしいものもないだろう。加えて、この趣味は実益を兼ねているから無駄な時間にもならない。

 

そう、弓道が赤城の唯一の趣味であった。

 

 

 

 

 

 

 弓道場に立っていざ弓を引いてみると、意外なほどに精神が集中出来なかった。本来は的に向かわなければならない意識が、これは鍛錬ではないと必死に自分に言い聞かせることに割かれてしまう。しかも、いろいろと雑念が湧いてくるのだ。今まで見せたことのないような怒り方をしたレミリア、自分が相当な世間知らずになってしまっていたことへの衝撃で、まったく集中出来ない。もし彼女に見つかったら、今度はあれ以上の剣幕で叱られるんじゃないかという懸念も頭をもたげ始めていた。

 

 それでも最初の何射かは気合で的へ命中させたのだから、それだけでも大したものだと自画自賛してもいいだろう。しかし、そうは言ってもこの雑念だらけの今の精神状態では射続けても大した意味はないし、気分も晴れないに違いない。気が散っていい加減な矢を放つくらいならと思い、早々に弓道場から引き揚げた。

 

 そして、いよいよ赤城は手持無沙汰になったのである。時間も十時台と非常に中途半端だ。

 

 することが思い付かない。暇だ暇だと嘆いても、妙案は浮かんで来ない。

 

 自らのあまりの仕事中毒っぷりに打ちひしがれ、赤城は半ば前後不覚の状態でふらふらと鎮守府内をさ迷い歩いた。途中、訓練中の艦娘を海の上に見掛けたが、彼女たちは当然赤城に気付くこともなく、一心不乱に打ち込んでいるようだった。

 

 何でも一途にやればいいというものでもないし、メリハリというのは様々な口からそう言われるように、やはり大切なものだった。「休む時にしっかり休む」という簡単なことさえ、今の赤城には出来ない。

 

 そして、そこまでして赤城が仕事に没頭してしまったのは、実は自覚していないけれど「自分がいなければ鎮守府は回らない」という意識があったのではないだろうかと思う。否、ただ目の前の仕事を言い訳に自覚するのを避けていただけだ。

 

 

 

 

 これこそまさに傲り。慢心。思い上がり。

 

 あれ程海上で慢心を他者に諫め続けてきた自分が、逆にこんなところで驕り高ぶっていたのだ。一体何様のつもりなのだろう。現実は、赤城が何もしなくても鎮守府はいつも通りに運営されているし、特にトラブルも起きていないようではないか。

 

 だからと言って自分がこの鎮守府に必要ないとは思わないが、馬鹿みたいに無休で働き続けてきたのは一体何のためだったのかと思わずにはいられない。赤城一人が居なくても案外何とかなるものだし、そこで妙な見栄を張って自分の必要性を強調しても、傲りは現実に跳ね返されるだけ。

 

 それどころか、今までそうしてきたことの弊害が、見えていなかっただけで、たった一日の休みを貰っただけで簡単に露呈し、今更ながら赤城は無様にも落ち込んでいるのである。

 

 赤城だって一人の女で、それが自分の時間のほとんどを犠牲にし、なけなしの自由時間をすべて趣味の弓道に充て、弓以外に楽しみを持つこともなく、ひたすらに仕事打ち込んできた結果は、見返りに見合わない代償の大きさを認識したことだけ。ファッションも、グルメも、あるいは恋愛も、赤城には何一つなく、どれもがいつの間にやら遠い存在になっていた。

 

 

 ダサい女。仕事オタク。つまらない人間性。売れ残り。

 

 12月26日のクリスマスケーキみたいな存在。味も落ち、魅力も落ち、ゴミ袋に放り込まれるか動物の餌になるだけの惨めな残飯。

 

 

 赤城の中で、自身を罵倒する様々な言葉が生み出され、それが脳内に響く度に心は鞭で打たれたように悲鳴を上げる。しかし自己嫌悪は止まるところを知らず、がっくりと項垂れたまま赤城は鎮守府庁舎の建物内を歩いた。

 

 すれ違う職員たちが挨拶をするが、意識が完全に内向きになっていた赤城は、体に染みついた敬礼の所作を条件反射のように繰り返すだけ。上の空で歩き続ける彼女を誰もが不審な目で見たが、普段淑やかで知性的な彼女が見せる異様な様子に誰も声を掛けられなかった。

 

 

 

 

 ――気付けば、休憩所に来ていた。

 

 立ち並ぶ数台の自販機の内の一台が開けられ、そこから缶飲料を補充するがこん、がこんという音がしている。

 

 どこかで見たことがある光景だ。デジャブだろうか。

 

 いや、そんな大したものではない。日常的に飲料会社の従業員が自販機の補充とメンテナンスにやって来るのだから、さして珍しい光景でもない。

 

 赤城は何を買うでもなく、据え付けられているベンチにトンと腰を下ろした。何となく、歩き疲れた気がする。しかし、それがどうしてかは分からない。そんなに歩き回っていたのだろうか。

 

「あ、こんにちは!」

 

 赤城に気付いたのか、それまで補充をしていたつなぎを着た女が元気よく挨拶する。赤い髪が目を引く背の高い女で、確かこの夏以降そのつなぎの飲料会社の自販機を管理している。夏でもいつも爽やかに挨拶して、清々しい笑顔を見せていた印象が強く残っていた。話すと気持ちのいい人物だ。

 

「お疲れですね」

 

 女が新しい缶飲料のカートンを開けながらにこやかに話し掛けてくる。

 

 首を微かに動かし、赤城はぼそぼそと肯定した。

 

「ええ。まあ」

 

「国を守ってらっしゃるんですから。大変ですよね」

 

 がこん、がこんと、また女は補充を始める。冷えていない炭酸飲料のアルミ缶が斜め上を向いた投入口に次々と落とし込まれていく。

 

 

 

 

 

「本当に。休む暇もなく働いていました」

 

 彼女の不快感を感じさせないさっぱりとした口調と表情に、赤城は自分でも珍しいと思うくらいに会話に乗った。人恋しさもあったのかもしれない。

 

「今日気付いたんですけど、私はここ何年か、まったく一日も休みを取っていなかったんですよね」

 

「それは、また……」

 

「どうかしてますよ」

 

 赤城は自嘲する。本当に、心底自分はどうかしていると思う。きっと、頭の中の大切なネジが何本かなくなってしまっているに違いない。

 

 けれど、女の方は笑ったりせず、しゃがんでから持って来た台車上の新しいカートンを開封する。

 

「だけど、今日は休みなんです。一日空いてしまったんです」

 

 自分は何を言っているのだろうか。いくら相手が顔見知りで、性格も人当たりが良くて接しやすいといっても、まるで赤の他人である。挨拶以外まともにコミュニケーションを図った覚えすらないないのに、どうして自分は心の内に溜まっているものをぶちまけているのだろう。

 

 けれど、いくら赤城がそう思っても口は止まらなかった。あるいは、理性も本気で吐露を遮ろうとはしていないようだった。

 

「今まで働き詰めだったから、かえって何をすればいいのか分かりません。弓道場に行っても身が入らないし、街に出ても何があるのかさっぱりで。私はこんな仕事一徹なだけの存在だったのかって思ってしまうんですよ。だから、もう休日の過ごし方なんか覚えていなくて……」

 

 

 そこまで言ってふとと思い出した。目の前の彼女は、今まさに仕事中だ。

 

 どうして気付かなかったのだろう。働いている人間に対して、「休みが暇で仕方ありません」と言うのはどう聞いても嫌味にしかならない。相手が相手なら激怒することだろう。

 

 幸いにして彼女は温厚そうだから感情を爆発させることはなさそうだが、それでも不愉快なはずだ。

 

 何てことをしてしまったのだろう。何でそんな簡単なことにも気付かなかったのだろう。

 

 本当にどうかしている。

 

「すみません! 他意はないんです」

 

 慌てて謝罪と釈明を述べる。女は無言で背を向けたまま、相変わらず補充を続けた。

 

 

 やはり、怒ってしまったのだろうか。それもそうだろう。

 

 赤城はいたたまれなくなってベンチから立ち上がった。これ以上この場にいて、気まずい空気を吸い続ける気は到底起きなかった。

 

「すみません」

 

 もう一度謝罪を口にして去ろうとした時、

 

 

「私で良かったですよね」

 

 

 と女が言った。

 

 足が、止まる。何を言われるのかとびくびくしながら振り返ると、意外なことに女は穏やかな笑みを浮かべていた。彼女は補充が終わったのか自販機を閉じ、空き箱を開いていく。慣れた手つきでさっささっさと段ボールを片しながら、彼女は続きを口にした。

 

「暇な時はね、寝ればいいんです」

 

「寝る、ですか?」

 

「そうです。お昼寝ですよ。特に昼食後が最適です。今日は天気もいいから海辺で横になるとさぞかし気持ちの良いことでしょう」

 

 女の口調は快活だ。そこに嫌味など全く含まれていない。

 

「私なんかもね、眠くなった時は休憩時間によく寝るんですよ。十分とか十五分とか。車の中でね」

 

 彼女は少し顎を後ろに向けた。指し示したのはいつも乗っている飲料会社のトラックだ。

 

「この間なんか、十分寝るつもりが目覚まし掛け忘れて一時間寝ちゃいまして。後で上司にばれてたっぷり絞られちゃいましたよ」

 

 女は「あっはっは」と景気よく笑う。赤城はつられて笑っていいのか分からなかった。

 

 そうしながらも、女はてきぱきと片づけを終え、使わなかった未開封のカートンと畳んだ段ボールを台車に乗せる。

 

「休みの日なんかは特にね。普段生産的な活動をしているんだから、休日ぐらい非生産的な過ごし方をしてもいいんじゃないですか?」

 

「非生産的な……」

 

 彼女はもう行くのだろう。それで結論が出たと思ったけれど、予想に反して女は手を止めた。

 

「私事なんですけど」と彼女は前置きして、さらに語る。

 

「以前、あるお金持ちの家の警備員のような仕事をしていましてね。まあ、警備と言っても平和なもので、田舎だからか特に何もないんです。それでいいのか悪いのか、暇で暇で仕方のないような仕事で、ほとんど一人だから好き放題に出来ました。昼寝をしたり、本を読んだり。近所の子供たちの遊び相手にもなったりしました。しかも、賄いのご飯が美味しくてですね。年下の上司がちょっと神経質なくらいで、総じていい職場でしたよ」

 

「……そうだったんですか。でも、ご転職されたと?」

 

「いろいろありましてね。ただ、だから何だという話ですけど、その仕事での楽しみはシエスタと食事でしたから、長いこと続けられていたんです。褒められた勤務態度じゃないのかもしれないですけど、私には肩肘張って働くっていうのが出来なくて。

 

もちろん、貴女は立派なご使命をお持ちなんだと思いますよ。責任も人一倍重いのでしょう。年中無休でなんて、相当な覚悟がなければそんな働き方は普通出来ませんよ。それはすごいことだし、私たちみたいなのからすれば国を守るために戦って下さるんだから感謝しないといけない。

 

でも、どんな人にだって休息っていうのは必要だと思いますよ。

 

寝ててもいいじゃないですか。休みなんですから。仕事中はやることやらないといけないでしょう。けど、休みの時まで“何かやらなきゃいけない”なんていうことはないと思います。それこそ休みだから“何もしない”のも、別にそれでいいんじゃないですか。休んでばっかりの私が偉そうに言えたことじゃないんですけどね」

 

 

 

 

 目から鱗、というのはこういうことを言うのだろう。

 

 それこそまさに顔から何かが剥がれ落ちていくような気がした。

 

 

 休みだから何もしない。

 

 休日も何かして、休日らしい休日を過ごすものだと考えていた赤城にとってはこの上ないほど新鮮な価値観。そうか、別に惰眠をむさぼっていても、無為で無駄な時間潰しをしてもいいんだ。

 

 新たな光明が差した気がした。

 

 

「そうですね! アドバイスいただきありがとうございますっ!」

 

 

 赤城は勢い良く、深々と頭を下げる。

 

 嫌味なことを言ってしまったのに、まさかこんな真摯な助言が返って来るとは思わなかった。彼女は赤城の失言を額面通りに受け取らず、悩みを見抜いてああ言ってくれたのだ。聡い女性だと思う。何より、その人格者っぷりに脱帽である。

 

「いやあ、大したことじゃないですよ。そんなに頭を下げられるとこっちが恐縮してしまいます」

 

「そんなことありませんよ。お陰様で助かりました」

 

「あはは。同慶です」

 

 赤城は跳ねるような足取りで休憩所から出た。

 

 次の予定、と言うほどのものでもないが、やることは決定した。休憩所のある鎮守府庁舎から飛び出し、そのまま急ぎ足で広々とした基地の中を縦断する。目指すは艦娘寮の自室。

 

 部屋に入ると、当然誰もいない。加賀が戻ってきた痕跡もない。そりゃそうだ。彼女は今秘書艦として働いているのだから。

 

 そんな彼女を差し置いて、こうして昼寝するのは少し胸が痛んだ。けれど、きっと彼女なら「うん」と言うに違いない。

 

 寝巻にきちんと着替えてから赤城はベッドで横になった。すると、まるで休眠を待っていたかのようにあっという間に瞼が重くなり、ほどなくして赤城の意識は途切れたのだった。

 

 

 

 

****

 

 

 

「あっははははっ‼ 何それ!? 貴女、最高ねぇ‼」

 

 

 甲高いレミリアの笑い声が司令室に木霊する。

 

 ここまで豪快に笑われると、かえって羞恥心などなくなって戸惑いが胸を占めるようになるらしい。無邪気に破顔するだけのレミリアを見ていると、一体今の話のどこにそんな可笑しな要素があったのかと勘繰り始める。が、とんと分からない。何がレミリアの琴線に触れたのやら。

 

 あっけにとられて目を丸くする赤城と、なおもクスクス楽しそうに声を漏らすレミリア。彼女はいつもの如く、朝のコーヒーブレイクを始めようと食器棚(家からの持参品だそうだ)の戸に手を掛けていたのだが、笑いのせいで完全に動作が中断されていた。一方、彼女の貴族趣味を無視して書類の山を目の前に置こうとした赤城も、戸惑いで動きが止まってしまっていた。

 

「えっと、どういうことでしょう」

 

「どういうことでしょうって! もう、面白すぎるじゃない。しかも自分じゃ気付いていないっていう」

 

「……分かりません」

 

 

 

 話題は昨日の赤城の休みのこと。

 

 実に数年ぶりのまともな休日は、総括すれば「散々な一日」であった。というのも、朝はレミリアに怒られてから世俗にすっかり疎くなってしまったり無意識の内に思い上がっていたことにショックを受け、お昼前は鎮守府内をふらふらと徘徊してそれを多数に目撃されていた(今朝、艦娘や職員たちに心配されてそれが分かった)。さらに、昼寝をしたのだがその後が問題で、目が覚めたのはなんと午後の九時過ぎ。もう消灯まで一時間もないという時間で、当然のことながら食堂も売店も閉まってしまっている。昼と夜の食事を抜くことになったツケは耐え難い空腹と冴えに冴えた意識のせいで不眠に陥るという地獄の如き苦痛として支払うハメになった。

 

 加賀が見かねて隠していたお菓子(規則違反だがこの際不問にする)を出してくれてそれを食べ漁ったが、そんなものでは到底胃袋を満たすことなど出来ず、結局赤城は朝まで空腹に苦しみ続けたのだった。

 

 本当にもう信じられないほど踏んだり蹴ったりである。

 

 

 

「種明かしをするとね」

 

 笑い過ぎて目尻に溜まり始めた涙をぬぐいながらレミリアは少し枯れた声で話し出した。

 

「加賀が言って来たのよ。貴女が今までずっと非番の日も働いていて、まともな休みを取っていないんだって。昨日の非番も出て来るだろうから、自分じゃ言っても聞かないから何とかして欲しい。でないと、いつか倒れてしまうってね」

 

 

 ああ、やはりそうなのか。

 

 

 薄々感じてはいたが、急にレミリアが命令を出してまで休みを取らせたのは、加賀からの懇願があったからだった。直接言わず、遠回しに気を遣うあたりが実に彼女らしく、一方でやはり加賀の思う通り彼女から休むように言われても昨日までの自分なら何だかんだ言い訳して休まなかったっだろう。

 

 結果は確かに「散々な一日」ではあったが、しかし不思議と心は軽く、肩の凝りも取れている気がする。今朝初めて顔を合わせたレミリアからは、「顔色が良くなったわね」と言われた。今のやり取りはそこからの続きである。

 

 休みを取ったことは、自分にとってプラスに働いたのだろうか。結果の評価を、未だ赤城は決めあぐねている。

 

 

「まあでも、良かったじゃない」

 

「そうでしょうか。酷い目にあった気がします」

 

「出来事だけを見ればそうだけどね。でも、昼前に寝て、そのまま夜更けまで起きないって、貴女相当疲れが溜まっていたのよ。今はそれが抜けていい顔しているわ」

 

「全然眠れなかったんですけど」

 

 そっと頬に指をあててみる。心なしか肌に張りが戻っているような。

 

「それね。ホント、面白いわぁ」

 

「何も面白いことありませんよ! 大変だったんですから」

 

「でしょうね。朝食も、一杯食べたのでしょう?」

 

「ええ。普段の三倍は入りました。二食抜いていますからね」

 

 今度はレミリアがあっけにとられる番だった。

 

 部屋の真ん中で足を止めたままの赤城を振り返って、彼女は大きな目を丸くする。

 

「三倍? よく食べられるわね」

 

「それくらい、胃が空っぽだったんです」

 

「貴女、結構食べるのが好きなタイプじゃない?」

 

「さあ? 腹が減っては戦が出来ぬと言いますし」

 

 言ってから、自分がやりかけていたことを思い出し、秘書室から持って入った書類をレミリアのテーブルの上に置く。元々あった仕事机を彼女が勝手に片付けてしまったので、今はソファに挟まれた低いテーブルがその代わりを務めていた。

 

 それらは取り急ぎレミリアのサインが必要な申請書の束だ。今から彼女がコーヒーブレイクするのだが、そんなことに構いはしない。赤城は少しレミリアに対して怒っていた。

 

「いやいや。よく食べる方だと思うわよ」

 

「何ですかそれ? 色気より食い気と仰りたいんですか?」

 

「うーん。確かに貴女、女にしては花が足りない気がする」

 

 グサリ。思わぬ言葉の刃は無防備な赤城の胸に深々と刺さる。

 

 これは、彼女の反撃なのだろうか。

 

「あの、提督……。あんまりストレートに言わないで下さい」

 

「突き刺さるってことは、自覚してるっていうことなのよね。なら、いいじゃない。花なんてこれから咲かせば。貴女ならすぐに綺麗な花を咲かせられるわ」

 

 

 ――まったく、この人はまたそういうことを言う。

 

 レミリアは酔っているわけじゃない。素で、平然と、こういうことをさらりと言ってのけるのだ。

 

 顔が熱くなるのを自覚した。食器棚を開けてコーヒーカップを取り出す提督の背中を睨み付け、赤城は言葉を投げる。

 

 

「提督がそういうことを仰っても、似合っていませんよ」

 

「あらそう。それは残念」

 

 レミリアはコーヒーカップを二つ取り出した。

 

「ところで、一杯いかが?」

 

「……仕事、始めませんか」

 

「いらないの?」

 

「頂戴します」

 

 赤城はソファに腰を下ろし、置いたばかりの書類をテーブルから自分の脇に移した。レミリアはその間、食器棚の上に乗せられているコーヒーメーカーに粉を入れ、隣に並べて置いてあったケトルから湯を注ぐ。濃厚な豆の匂いがふっと部屋中に広がった。

 

 それから彼女はおもむろに懐から懐中時計を取り出す。品のいいレトロな小物で、レミリアの雰囲気にはよく似合っていた。前にそのことを褒めると、「これは借り物よ」と返って来た。何のためかと言えば、コーヒーや紅茶の蒸らし時間を計るための物らしい。コーヒーの場合、きっかり三分である。

 

 

「肩肘張ってもしょうがないわ。気楽にいきましょう」

 

 ね? とレミリアは片目を閉じ、ペロッと舌を出す。

 

 そういう仕草を彼女がやるのはつくづく反則的だと思った。

 

 すっかり毒気を抜かれて赤城は笑うしかなかった。口元がだらしなく緩んでいるのを自覚する。

 

 彼女の台詞は昨日飲料会社の女が言っていたのと同じことだ思い出した。まるで示し合わせたように赤城を諭す、というのはさすがにいぶかりすぎだろう。けれど、別々の二人から同じことを言われるくらい、やっぱり自分は根を詰めていたのだ。

 

 気楽に。肩の力を抜いて。

 

 うん、たまにはそういうのもいいかもしれない。

 

 

「提督」

 

「ん?」

 

「お昼寝、してもいいですか?」

 

 

 レミリアはにっこりした。

 

 

「もちろんよ。ここなら眉間にナイフが刺さることもないからね」

 

 

 

 


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