レミリア提督   作:さいふぁ

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レミリア提督24 A Fixer

 

 三月にもなると鎮守府もだいぶ落ち着いてきた。

 レミリアの騒動は年始の慌ただしさと相まって、今までにない忙しい年の暮れとなったが、気づけば正月を迎えていた。食堂では冬休みをもらった艦娘たちがテレビで箱根駅伝を見ながら「今年は早稲田だ」「青学だ」「東洋が三連覇する」などなど言い合い、餅を賭けてはわいわいと騒いでいた。赤城もその喧騒の中に加わっており、早稲田にベットしたので三日には山ほど餅を貰うことが出来た。

 

 レミリアの事件に対する捜査は年が明けてもしばらく続いていたが、前代未聞の不祥事となるはずの本件は、誰かがどこかで上手に情報操作をしているらしく報道には出なかった。テレビ局や新聞社が群れを成して押し寄せて来るのではないかと恐れていたのが杞憂となってとりあえずのところは安心した。

 そうして年明けが過ぎれば、新しい(本来の)提督、加藤の指揮の下、鎮守府は平常を取り戻し以前のように回り出す。彼の采配は彼らしく無難なものが多いが、さほど悪いというものでもない。むしろ、鎮守府での経験は彼の方が長いのだから、その辺りは“よく分かっている”指示が出される。

 加藤は働き者で、今までレミリアがやりたがらなかった書類仕事なんかもどんどん片付けていくので、赤城の負担は目に見えて激減していた。海上訓練や弓の鍛錬に使える時間も増えて、レミリアが居た時のように意識的に休日を作らなくとも、非番になると必然的に手が空くようになった。それが寂しいのやら楽なのやら、複雑なところである。仕事が減るのに比例して、それまで事実上赤城が握っていた提督の決裁権も加藤の下に戻って行って、もうかつてのように自分自身でいろんなことを融通するというのが通用しなくなってしまった。同僚に対しては辛辣な加賀に言わせれば、「黒幕の座を追われたわね」ということらしい。肯定も否定もしかねる。

 それまでが異常なほど働き詰めだったからか、いざ時間が空き始めると何をやっていいか分からないようになってしまっていた。平日のちょっとした空き時間、何か自分に出来ることはないかと思い立ち、ぶらり鎮守府行脚の旅に出たのは確か一月の末だったはず。以来、時間を見つけては歩き回っている。

 寂しいと言えば、鎮守府の中を歩き回る白い日傘の少女の姿がなくなったことだった。ふと気づけば、防波堤の上を、倉庫と倉庫の間を、工廠前から庁舎へ登っていく並木坂を、彼女が歩いているんではないかと思って無意識に探している。

 もちろん居るわけがない。彼女はあの日鎮守府を逃げ出して以来、どこに消えたのかも分かっていない。捜査は続いているかもしれないが、彼女が捕まったという話は聞かないので巧いこと逃げおおせたのだろう。あの時メッセンジャーにした彩雲も帰って来ていないし、あの妖精の気配を感じることもなかった。空母娘とパイロット妖精というのはどこかで意識が繋がっているものだが、不思議と彼との繋がりはまったく感じない。あの日以来、ぷっつりと途切れたままだ。

 ならばきっと、レミリアと妖精はおとぎの国に行ったのかもしれない。赤城が夢の中で彷徨い込んだ、変な茶会や真っ赤な館のあった、不思議の国に。

 

 彼女が戻って来ることはないのだろうな、と思う。そもそもの目的からして、何のために鎮守府に潜り込んだのかもまったく分からずじまいだが、レミリアとはもう会わないだろうという予感だけがあった。

 それが寂しいような気がするけれど、あるべきことなのかもしれない。きっとレミリアと赤城は、本来であれば交差することのない道を歩んでいた者同士だったはずだ。

 それはそれで納得出来る。自分に無理に言い聞かせる必要もなく、喉にストンと落ちるように、理屈には納得出来る。

 お互いの道はこのように分かたれて然るべきだったのだと、まったくもってそうだと思う。

 ただ、一筋縄でいかないのが感情というものだ。

 

 

 

****

 

 

 

 最近、いろんな人から「よく散歩してらっしゃいますね」と言われることが多くなった。「前の提督が居なくなったので」と、世間話のついでにいろんな頼みごとを受けることもしばしばである。そう言えば、レミリアはどこからどう聞いたのか、赤城すら知らないような鎮守府内の細かな情報を知っていることがあって度々驚かされたのだが、なるほどこうやって細かく出歩いてはいろんなことをたくさんの人から話してもらっていたのだろう。そう考えれば、彼女は非常に下の面倒見のいい、良い上司だったと言えるかもしれない。

 息苦しい秘書室の中から気分転換に散歩に出て、そしてまた戻って来た時、まるでタイミングを見計らったかのように電話機が甲高く鳴った。慌てて電話機に駆け寄り、受話器を取って耳に当てながら自分のデスクに腰を下ろす。

 

 

「こんにちわ! 呉の榛名です」

 

 

 聞こえて来たのは明瞭で涼やかな美しい女声だ。この声の主を赤城はとてもよく知っていて、昔からの付き合いがある。

 十年来の友人であると共に、艦娘としての大先輩。名は榛名、艦型は金剛型三番艦。すなわち、金剛の“妹”である。

 妹と言っても、艦娘の“姉妹”は実際に血が繋がっていることのほうが珍しいので、金剛と榛名はもちろん血縁ある姉妹ではない。英国出身でハーフの金剛と純粋な日本人である榛名は遠縁ということもない、元はまったく赤の他人同士である。それが“姉妹”の括りに入れられているのは、彼女の艤装が金剛のそれを模倣して造られたものであり、必然的にほぼ同じ性能の艦娘となったからだった。要は「姉妹艦」なのである。

 

 そして、金剛と赤城が同じ鎮守府に居ることに榛名が関係していないはずがなかった。二人との縁は赤城が艦娘となり加賀と共に初めて配属された首都近郊の鎮守府で出会った時以来のものである。まだ新人で、特に姉を喪って精神的にも苦しんでいた赤城を一人前の艦娘にまで育て上げてくれたのが金剛と榛名の二人なのだ。

 その後、赤城は金剛と同じ鎮守府に配属になったが、首都近郊の鎮守府で秘書艦まで登り詰めた榛名はさらに出世して今は呉の鎮守府に居る。離れ離れになっても交流は続いていて、時折こうして電話が掛かって来たりするのだ。話す内容は仕事のことが多いが、間宮製菓の新作についての情報交換も頻繁に交わしている。というのも、榛名は間宮のお菓子にはまったく目がなく、新商品のチェックはもちろんのこと、株価の変動からパティシエの異動まで、どこから仕入れているのか甚だ疑問になるような情報を持っていたりするのだ。同じく間宮好きの赤城と意気投合するのは当然である。

 彼女は非常に優秀な艦娘で、その実務能力の高さはこの図体の大きな組織の中でも殊更に評価されていた。もちろん、赤城も榛名は頼りにしている。そして、榛名もまた赤城を同じくらい信頼してくれているらしく、お互いに仕事を色々と頼み合うことも頻繁にあった。

 艦娘としてはかなり年季の古い榛名は、軍人や軍属、艦娘やあるいは軍外部にまであらゆるところに顔が効いて、時に驚くようなコネクションを持っているから、そうした人脈の広さに仕事を助けてもらったことが少なくない。逆に、赤城は艦娘の中でも独特の派閥を作っている空母娘たちに絶大な影響力を持っていて、それによって自分が直接艦隊の「指揮」を執ることも多い榛名は容易に彼女たちの協力を得ることが出来た(何しろエアカバーを担う空母娘は戦略的にも戦術的にも極めて重要だ)。

 二人の間に仕事の話は多い。ただ、いつもそんな堅苦しい会話だけしているわけではなく、内線を使って堂々と私的な雑談に花を咲かせたりもする。今日の場合は後者だった。

 

「広島の直営店の店長が変わったんですけど、新しい人はパリでもう十年以上も修行されていた方なんです。その人の作るお菓子は甘さが控えめで、味のバランスが整っていると評判なんですよ。今までの間宮のお菓子と言えば、とにかく甘ったるいことが特徴でしたけど、今年から『味の多様性の追求』という新戦略を打ち出していますから、恐らくその一環なのでしょう。前の広島店の店長は甘党でしたからね」

 

 話し出した時点で、これは長くなるな、と思った赤城は、榛名が「広島の直営店の店長が」と言った時点で、部屋に掛けられている時計をちらりと見上げて時間を確認した。丁度三時になったところだった。

 以後、長針が「3」の数字を指すまで、彼女は延々と喋り続けていた。間宮のことになると何よりも熱心になるのが榛名の特徴で、赤城を除き普段あまり人を悪く言わない加賀でさえ「常軌を逸脱している」と痛烈に批判するくらいである。

 間宮はネット販売の他に全国規模で店舗を展開しているが、創業地の広島駅構内にある旗艦店はフランチャイズではない本社直営で、新作の発表もここから出されることが多い。その旗艦店の店長に今までとは違う毛色を持つ人物を宛がったことは間宮製菓の戦略の大転換を象徴する出来事なのだという。

 日本広しと言えど、ここまで熱心な間宮信者は他に類を見ないだろう。大好物どころか、最早間宮の菓子を崇拝していると評しても過言ではない艦娘は、どうやらこの戦略の大転換(彼女の言葉を借りれば“ピボット”)を好意的に受け入れているようだった。よって、延々十五分語り続けた後、「そう思いますよね、赤城さん」と強く同意を求められた。

 

「ええ、そうですね」

 

 と頷きながら、加賀の、榛名に対する批判は実に的確なものだと思った。

 加えて言うなら、今二人は職務中である。もっと言うなら公務中である。軍隊も役所の一種であり、そこに勤める者は艦娘と言えど公務員であるはずで、つまり二人の給与の元となるのは国民から徴収した税金である。その給与の算出には時間も関係するので、出勤してから退勤するまでは休憩中を除き、当然真摯に職務に取り組む義務があるはずである。断じて、一つの製菓会社とその製品について私的な語らいをしてはならない。

 という建前は重要だ。

 

「今までの間宮は美味しいのは美味しいのですが、少し甘さに偏り過ぎているきらいがありました。それで受け入れない人もいらっしゃったわけです」

 

 と、まだまだ話が続きそうだったので、赤城はいよいよ釘を刺すことにした。

 

「その話はまた今度にしましょう。榛名“司令官”」

「……あ、そ、そうですね」

 

 この国の海軍において、艦娘としては異例の二つ名を持つ榛名は、ようやく怒涛の間宮語りを止めるに至った。これでも彼女は呉鎮守府の秘書艦であり、舞鶴鎮守府の司令官を兼任する提督に代わり、時に艦隊の指揮をも行う「最優」の艦娘でもある。ただの秘書艦にとどまらない彼女は、時に(しばしば揶揄の響きをもって)「榛名司令官」と呼ばれることもあった。

 艦娘の中でも特に優秀で戦果も上げており、且つ人望もある者だけが秘書艦に選ばれるのだが、榛名の場合そこからさらに一歩進んで、その卓越した戦略眼や指揮能力を買われて艦隊指揮を任されることもある、実質的に代理の司令官としての立場を手に入れている。基本的に彼女は非常に優れた傑物であり、戦上手であり、また組織内での振舞い方をよく承知している世渡り上手でもあった。「何でも知っている」と言われるその情報力も、軍内外に広がっている豊富な人脈のなせるものであろう。間宮が絡まなければ、だが。

 

「今日の赤城さんはつれませんね」

「電話でいきなり十五分も喋り続けられたら誰だってそうなります」

「うーん、いけずですね。ま、いいや」

「それで、今日はどうされましたか?」

「ちょっとした、お知らせです」

 

 気を取り直したのか、立ち直りの早い榛名は明瞭な声でそう言った。

 これは恐ろしいことの予兆だと、赤城は思った。何しろ、情報通の榛名が教えてくれることというのは、ほとんどすべてが何かしらの警告であったり忠告であったりする。つまり、聞き逃したり知らなかったりすれば、確実に自分たちに損害が発生するような言葉というわけだ。しかし、そもそもそういう知らせがあるということ自体、赤城にとって碌でもない状況だろう。

 残りの「ほとんど」以外の知らせは、言うまでもなく間宮に関することである。この、何でも知っていて何でも出来るずば抜けた秀才の数少ない欠点が、職務上の責任の重さに対して間宮の菓子の比重を高く設定しているところだった。ただし、今日に限って言えば散々間宮については話していたので(それでもまだ話し足りない様子だが)、恐らくこれから彼女が口にする「お知らせ」とやらの内容は、洋菓子のような甘いものではないだろう。

 

「はい。何でしょうか」

 

 とは言え、榛名は純粋な親切心で教えてくれるのだから、赤城は気を引き締めて彼女の次の言葉を待つことにした。

 

「“前”の司令官についての続報です」

 

 言葉に、嫌なものを感じる。わざわざ知らせる必要のある続報だ。

 レミリアと彼女の引き起こした騒動については、榛名は完全に第三者であり、外から見たことしか分からない。如何に彼女が情報通であろうとも、現地に居た人々が、つまり当事者たちが、レミリアに対して何を思っていたかなんて知り得ないだろう。赤城が、「捕まらないでほしい」と望んでいるなんて、実際榛名は知る由もないのだ。

 

「捜査は打ち切られました」

 

 だが、予想に反したひと言を榛名は――彼女にしてはかなり粗雑に――放り投げるようにして発した。

 よって、赤城は直ちに問い返す。

 

「どういうことですか?」

「そのままの意味ですよ。捜査は打ち切られました」

「何故ですか? 憲兵だってやって来たし、しっかり事情聴取までされたんですけど」

「第一に、こんなことは恥ずかし過ぎるからです。だってそうでしょう? 半年もの間、正体不明の人物が重要なポストに着いていたんですよ。いくら海外の軍との人材の交換があるといったって、普通の組織ならどこの馬の骨かも分からないような人間を中枢に入れたりするはずがありません。国連海軍とは名ばかりで、実際には各国の海軍の集合体でしかないんです。他所の国から来られた方には名誉職を宛がい、実務に着かせないのは常識でしょう」

「だというのに、彼女は実際の指揮権を持つポジションに収まった。収めてしまった。ちゃんと身辺調査をしているのか、人事がまともに機能しているのか、危機管理が出来ているのか、っていう話になる。そういうことですね」 

「仰る通り。この組織は、相も変わらず深刻な隠蔽体質なようです」

 

 呆れたように榛名が言った。電話の向こうで彼女が、眉間に深い皺を作り、形の良い唇の間から重いため息を吐き出している光景がありありと思い浮かぶ。

 権力志向の強い榛名だが、その理由の一つにはこうした組織の古い体質を自らの手で変革しようという意気込みが挙げられる。

 

「そして第二に、これが一番強い理由なんですけど、外務省の横槍があったからです」

「というと?」

「実は、捜査の過程でレミリア・スカーレットの出身とされる王立海軍にも疑いの目が向けられました。当然ですよね。ただ、彼らはレミリアの身分を保障していましたし、自国のVIPがスパイ容疑で追われたなんてことになったわけですから、とても怒りました。ですので、外交ルートを通じて日本政府に抗議を行ったのです。

で、その窓口になるのはご存知の通り、事なかれ主義の外務省です。彼らはその抗議を留めるどころか英国政府の言うままに軍に伝えて来たんです。彼らの事なかれ主義は国内に対してはあまり適用されないみたいでしてね。

さらに、軍内部にも外務省と仲良く付き合いたいと思っておられる方々が多いわけです。特に海外での駐在武官の経験が長い程、そういう考えになりますから。かく言う榛名も親善外交として各国を回りましたし、一時は在英大使館に居ましたからその気持ちは分からないでもないんですけどね。榛名のところにも電話が掛かって来ましたし。

まあ、以上のような経緯があって、組織として今回のことはこれ以上捜査しないという方針になりました。結局、レミリア・スカーレットという人物の身元も不明なままです。一応、王立海軍が保障していますけれど、それもどこまで本当か怪しいものです。もしかしたら本当に彼らが言うような高貴な人物で、英国にとっては重要な存在なのかもしれません。

だとすれば、抗議を受けるのも当然の話で、むしろ抗議だけで済んで良かったとも言えます。まあ、『防諜上の理由があった』という“言い訳”は一応のところ立ちますし、後は外務省が上手いことあちらを宥めすかしてくれたら、円満解決ではないですけど、決着という形にはなります」

 

 微妙に言葉は厳しいが、決着がついたこと自体に対しては納得しているような言い方だった。赤城にとっても、レミリアがこれ以上追われることはないということは少しだけ安心出来る材料だ。もっとも、本人はとうの昔に人間の手で追える範囲から逃げ出していただろうが。

 

「そうですか」

 

 何と言えばいいか分からないので、赤城はとりあえず無難な相槌を打っておいた。

 もしレミリアがやったことを悪と定義するなら、赤城は間違いなく被害者の一人であり、そして同時にその悪を放逐した正義でもある。だが、個人としてレミリアを悪とみなすことは到底出来そうになかったし、そもそもそんな風に思っていない。彼女を批判すればいいのか、捜査が止まったことに“不安”を口にすればいいのか。ポジションに適した発言が求められているのか、気の置けない友人に対して素直に思っていることを伝えればいいのか。

 果たしてその問いは、改めて榛名に突き付けられることになった。

 

「淡泊ですね。実際のところ、赤城さんは今回の一連の出来事をどう思ってらっしゃるんです?」

 

 だから、答えに窮した。

 

「ずっと不思議だったんです。言葉は悪いんですけど、貴女ほどの方があれだけ盛大に騙されて、それに対して特に何らかのリアクションを取っていないということ。憲兵に任せていたのかもしれませんけど、榛名には何にも愚痴ったりしませんでした。ほら、前は『新しい提督が来なくて仕事が多すぎる』とかで散々言ってましたよね。でも、今回のことについて貴女はとても落ち着いている。

ひょっとしたら、貴女は今回のことの本当の顛末を、真実をご存知じゃないのかな、なんて思うんです。赤城さんなら、いかにもそれはありそうな気がして」

「そんなこと、ありません。私は何も知りませんでしたし、今も真実なんて分かりません」

「不愉快にさせてしまったのなら、ごめんなさい。ただ、榛名は心配しているんです。

貴女はだいぶ自分に対して抑圧的な人です。そして、とても強い人です。普通の人なら破綻するようなところまで無理を利かせても耐えられちゃうんです。だけどそんなことばかり繰り返していたら、さすがに貴女だっていつかは耐え切れなくなってしまう。

そちらに、誰か他の人は居ますか? 赤城さん一人ですか? なら、思い切ってここで吐いちゃうのもありですよ。どうせ相手は榛名なんですから、気負う必要なんてありませんし」

 

 分かっている。それなりに長い付き合いだ。彼女が心から親身になってくれているというのは、電話越しからでもひしひしと伝わって来るその気持ちで、よく分かった。

 例え、今ここで赤城が何を述べようと、それが途方もなく荒唐無稽なことであろうと、あるいは組織の意向や利害に反することであろうと、榛名は決して馬鹿にしたりしないし笑ったりもしない。真正面から真剣に受け止めてくれる。何を言っても榛名はその言葉に真面目に向き合い、すべてを肯定してくれる。

 けれども、だからこそ言えないことというのもあるのだ。与太話だと思って、それこそ酒の肴に愚痴のように漏らして、聞いたら鼻で笑ってくれるような、そんなあしらうような扱いをしてほしい話というのも、時にはあったりするものだ。

 赤城はレミリアを批判して然るべき立場にあるとも言えるし、そうでないとも言える。真実がどうあれ、当事者同士の感情がどうあれ、レミリアが正体を騙り、非合法にこの鎮守府に潜入していたのはれっきとした事実であり、榛名の言うように赤城はものの見事に騙されて利用されていた。本来であるなら赤城には真っ先にそれに気付いて正しい対応をする責任があっただろう。

 だが、出来なかった。そこはレミリアの人心掌握術が巧妙だったのか、赤城はすっかり彼女を信頼し切っていた。信じるべきではない相手を信じてしまっていた。上官としてだけではない。人として、彼女に居ない姉の姿を重ね、信頼した。

 気付いたのは金剛であり、加藤である。二人が居なければ、きっとレミリアは今も鎮守府に居座っていたことだろうし、赤城はその右腕として采配を振るっていただろう。レミリアの思う通りに、その意に従って。

 だがそれは歪んだ姿である。正しくない光景である。本当の鎮守府司令官は加藤であり、赤城は彼の下についていなければならないはずである。だからこそ、金剛と加藤は手を組んで行動を起こした。赤城の協力は不可欠だったから、二人は赤城を「正しいことを為すこと」に誘った。

 それは赤城の足元を崩してしまうような恐ろしい誘いであったが、結局赤城はレミリアを追放することを選んだ。迷いながらも一旦はそれを受諾したし、言うまでもなく正道な選択であるというのは頭では分かっている。だから、レミリアが居なくなってから、一度も赤城は彼女を擁護するような言葉は口にしていない。それは自分がするべきことではないし、してはならないことなのだ。

 レミリアに対して払うべきであった正しい作法は、最低限のレベルで言うと、容赦なく鎮守府から蹴り出すことだった。逮捕して司法の裁きを受けさせられるならそれが一番いいが、追い出すだけでも秩序と正当な指揮系統は取り戻せるわけで、実際にそうなった。躊躇なくそうした結果に結び付く行動を起こした金剛と加藤はまったくもって正しい。

 

 ただ、二人のようにきっぱりと割り切れない自分が居るのも事実だ。

 厄介なのは感情の問題。赤城はどうしても彼女を「裏切った」と思わずにはいられない。彼女を否定する言葉を聞いた時、胸の奥が熱くなり血管が拡幅するのを自覚する。

 レミリアが鎮守府に居たことは正しいことではなかったけれど、だからと言って彼女が成したこと、口にした言葉、そして伝えてくれた想いや気持ち、何よりそれに対して赤城が抱いた感情までが否定しされて然るべきものだったとは、断じて言うものではない。それらはすべてまごうことなき真実であり、赤城の中で大切にしまっておかなければならないものだ。

 そして、そうした思いがあるからこそ、赤城はレミリアが居たこと自体も否定出来ないでいる。結果論かもしれないし、「擁護」になってしまうかもしれないけれど、レミリアがここに来て赤城たちと出会い、少なからず心を通わせ、奇跡のような出来事を起こしたのは、決して貶められていいことではないはずだ。

 彼女を信頼したこと、彼女が例え慰めだったとしても姉として振舞ってくれたこと、そうした彼女の在り方。それらすべてを、赤城は誰にも否定してほしくない。

 とは言え、やはり自分にはそこまで偉そうに言う資格はないのだろうとも思う。何より、一番レミリアのことを否定してしまったのは、他ならぬ自分なのだ。

 軍に所属する艦娘として、秘書艦として、あるいは国家公務員として、正しいことをしたのだとしても、赤城を赤城足らしめる根源的な部分に居る自分が、その選択を酷い言葉でなじるのだ。「裏切りだ。裏切りだ。主君への裏切りだ」と。

 馬鹿げたことである。赤城が忠義を尽くすべき相手は国民国家であり、断じてどこかの悪魔ではないはずなのに。不当に居座っていた悪魔を追い払うのは誰にも否定され得ぬ行動だったはずなのに。どうにも御しきれないこの感情という怪物が赤城を苛むのである。

 ままならないことで、ままならないからずっと赤城は正しさと感情の板挟みになっていた。そして、そのことに意味などなく、つまるところ取るに足らない些末な悩みであって、こんな心理にいつまでも振り回されているべきではない。気晴らしに鎮守府を散歩しても、もうどこにも答えなどあるわけがない。何故なら、答えを見つける必要もないほどつまらないことなのだから。

 

 だから、こんな鬱屈とした感情は、酒臭い息とともにさっさと吐き出してしまえばいい。そして、隣で聞いている誰かに「そんなちっぽけなことで悩んでいるのか」なんて馬鹿にされてしまえばいい。案外、その方が気が楽になるだろう。

 とはいえ真正面から受け止めてくれようとしている榛名に対して、ただ管を巻くだけなのは気が引ける。そんなしっかりと構えて聴いてくれる必要などないことだ。

 

「そこまで深刻なことではありませんよ。お気持ちだけでも十分感謝しています。大したことで悩んでいるわけでもありませんし。それに、愚痴を吐くなら居酒屋が一番じゃないですか? 時間が空いたらですけど、また飲みに行きましょうよ。加賀さんと金剛さんも入れて」

「いいですね! 榛名も久しぶりに皆さんと飲みたいです。一人だけ広島に飛ばされちゃったので、ずっと寂しい思いをしていたんですよ」

 

 飲みに誘えば食い付いて来るだろうと思ったら、やはりその通りだった。酒が彼女の第二の好物なのだ。

 

 しかし、一方で榛名は下戸である。酒が好きなくせに、ジョッキ一杯ですぐに白雪のような肌を朱色に染め始めるのだ。そうして始まるのが怒涛のマシンガントークであり、酔うと陽気になるタイプの榛名は、スイッチが入って延々と一人で喋り続けるようになる。どれだけ溜め込んでいるのかと驚くくらい色々な話をするし、同じ話の繰り返しも多い。酷い時は一時間以上喋り続けていたことさえあった。しかも、相手にしないとしつこく絡んで来るので鬱陶しいことこの上ない。

 間宮以外で彼女の数少ない欠点の一つが、酒癖が多少悪いということだ。そうして飲み明かした次の日には、酷い頭痛と共に酔った時のことを綺麗さっぱり忘れているのが常である。

 とはいえ、旧友と飲むのは楽しい。彼女を誘ったのは決して誤魔化しではなく、本心からのことだった。

 

「そうですね。何とか都合を作ってみましょう。そちらは中々遠いですけど、榛名、やってみせます!」

「ええ。楽しみにしていますね」

 

 と言って、電話は穏やかに切られた。時間にして約三十分の長電話であった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「今度、榛名さんと飲みに行きましょう」

 

 赤城がそう言うと、仕事終わりから就寝までの隙間の時間を本を読むことで潰していた加賀が顔を上げた。床に尻を置いてベッドに背を預け、三角座りで縮こまるようにして立てた膝を書見台代わりにするのが、いつもの相棒の読書姿勢だった。何故そんな窮屈そうな姿勢で読むのかという疑問が生まれないこともない。

 読んでいる本の題名が「誰とでも三分で打ち解けられる話し方」。最近の加賀はこの手の自己啓発本に熱中していて、とりわけコミュニケーション・スキルについてのものが多いようだ。しかし、残念なことに彼女の口下手さはちっとも改善の兆しが見受けられない。

 

「榛名さん、来るの?」

 

 わざわざあんな遠いところから? というニュアンスを含んで、加賀はそう尋ねた。

 

「何とか都合を作るって。まあ、あの人のことだからどうにかするんじゃないの」

「どうにかって……。誰が後始末をすると思っているの?」

 

 加賀のハスキーボイスがいつにもまして低い。あまり歓迎的ではないようだが、その理由には心当たりがある。

 

 結構前の話になるのだが、まだ赤城と加賀、金剛と榛名の四人が首都近郊、横須賀の基地に居た頃、先に金剛だけが転属となった。もちろん大先輩には基地を挙げて送別したのだが、それとは別に四人だけで外泊許可をもらい、一晩飲み明かしたことがあった。

 赤城はその時のことをあまりよく覚えていない。二件目に梯子した時以降の記憶がないのだが、それはつまりそういうことだ。後で聞いたところによると、加賀が他の三人の世話を見たらしい。

 彼女は酒に強く、きつい日本酒をたらふく飲んでようやく赤くなるかというところだ。そしてあまり酒が好きではないようなので、宴会でも潰れることはないし、どちらかというと他人の世話を見る必要があるためにどこか線引きしている風な振る舞いをする。だから、赤城や金剛、そして榛名といった酒をよく飲むメンツと組むと必然的にすべての“後処理”を加賀一人が担うことになる。というか、担わされる。それが分かっているから、あまりいい顔をしないのだ。

 

「自重はするわよ。前とは違うの」

 

 暗にかつてのことを批判してくる加賀に、赤城はきっぱりと言い切った。以前はまだ若かったのだ。少し調子に乗り過ぎることもあったかもしれないが、今はもうそんなことはない。いい大人なのだから。

 だが、加賀は完全に疑ってかかっているのか、「お前に出来るわけないだろう」と言わんばかりの胡乱な目を向けて来る。実に納得のいかないことである。

 

 自分では全くそうは思わないのだが、赤城はよく酒好きと言われることがある。だが、そうではない。

 宴会というのは、酒を飲んで皆と楽しい時間を共有する場なのだ。アルコールは人間関係を円滑にする潤滑油の働きをする。ならば、飲むのは当然の礼儀であり作法だ。誰しも陰鬱な雰囲気の中で飲みたいわけではないから、場を盛り上げる必要があるだろうし、宴会の中では中心的な役割を担うことが多い自分は率先してそうした雰囲気作りを行う必要がある。

 その手段として赤城は酒を飲むのであって、決して酒に飲まれているわけでも酒乱であるわけでもない。

 赤城が率先して盛り上げつつ、加賀はたしなむ程度に抑えて周囲を見る。いいコンビじゃないか、一航戦。

 いや、一人にばかり何かと面倒が多い“後始末”を任せっきりにするのも悪い。酒にだらしない奴、なんて相棒に思われているのも癪なので、赤城としてもしっかりしているところを示していかなければならないだろう。

 

「まあ、いいけど」

 

 加賀はまだ何か言いたげな様子だったが、結局何も言わずに読んでいた本に視線を戻しただけだった。すべての場合に当てはまるわけではないが、言いたいことがあるならちゃんと言葉にしないと伝わらないことというのはたくさんある。気持ちや考えを言葉として出力することこそがコミュニケーションの基本だと、今彼女が必死で読んでいる本に書いていないのだろうか。

 

「セッティングは任せてください」

 

 赤城がそう言うと加賀はただ黙って頷いた。

 淡泊な反応だが、プライベートの加賀と言えばいつもこんな調子である。今はとにもかくにもコミュニケーション能力を活字の力で向上させることに意識を割いているらしい。

 と思ったら、本を読みながらなのか、あるいはそういう“振り”をしているだけなのか、意外にも加賀は話を続けた。

 

「どうして、榛名さんはこっちに来てまで飲みたいと?」

 

 ページから目を上げずに彼女は尋ねた。

 

「私が誘ったのよ。久しぶりだし、飲みに行きたいですって」

「……赤城さんは、何故榛名さんを誘ったの?」

「え? それは、まあ、話の流れかしら?」

「何の話? あの人のこと?」

 

 言い訳じみた受け答えをする赤城は、間髪入れず鋭く突き付けられた確信を持った問いに、図星を突かれて喉が詰まった。加賀が「あの人」と呼ぶのは一人しか居ない。彼女は提督ではなくなったし、少将という階級も偽りだった。さりとて、まだ加賀の意識の中では彼女のことを名前で呼び捨てることも、「さん」付けしてよそよそしい呼び方をすることも出来なかったのだろう。結果、「あの人」呼びとなった。そう、レミリアのことである。

 

「まあ、そうかしら」

「……そう」

 

 恐らく、加賀にはお見通しなのだろう。赤城が思っていること。レミリアへの複雑な感情。

 

「最近は、煮え切らない様子だったから、榛名さんにも指摘されたのね」

「煮え切らないというか……」

「そうでしょう。おまけにあの人の真似事まで始めて」

 

 加賀の言葉には微かに非難の色があった。

 レミリアの真似と言うなら、それは確かにそうだろう。だが赤城としては情報収集のやり方としてレミリアの方法を踏襲したに過ぎない。少なくともそのつもりである。

 

「ああやって歩き回りながら、あの人の姿を探している。インターネットであの人の名前を検索している。もう居なくなった人にいつまでもこだわって、得られもしない答えを求めている」

 

 図星だった。どうして、という疑問が立つ。

 レミリアの姿を探していることを、彼女のことを調べていることを、そして赤城が今も尚レミリアに執着心を抱いていることを。加賀はまるで心が読めるように見抜いていた。

 

 

「見ていて、イライラするの」

 

 そして彼女は、彼女にしてはまた珍しく、酷く尖った言葉をオブラートに包みもせずにそのままぶつけてきた。まるで投げ槍のように、言葉は赤城の胸に突き刺さった。

 いつの間にやら加賀は顔を上げて、黒目がちな瞳でじっとりと赤城を見据えている。

 

「いつまでもウジウジ悩んで。こちらが気を遣って声を掛けても何でもない振りをして愛想笑いを浮かべるだけ。そのくせ、悩んでいることを隠しもしない。同じ部屋に居る身にもなってほしいわ」

 

 思いの外加賀は辛辣で、意外なほどよく“効いた”。彼女がここまで言うのは本当に稀なこと。赤城は黙らざるを得なかった。

 

「決別しろとか、ケジメをつけろとか言っているんじゃないの。ただ、このままでは赤城さんが一番苦しいと思うわ。早いところ折り合いをつけて整理しないと、苦しみは長く続くわよ」

「難しいことを言うのね」

「ええ。でも、赤城さんなら出来るはずのことよ」

 

 折り合いをつけるなんて、口で言うほど簡単じゃないわ。喉元まで競り上がってきた言葉を嚥下する。

 加賀の言うことはまったく正論だ。口調は辛辣だが、優しい彼女のことだから本心から悩む赤城を案じてくれていることだろう。それが分かっているから、赤城も余計な口答えはしなかった。だから、少し話を変えてみた。

 

「そういうことを言うってことは、ひょっとして榛名さんから電話が掛かって来たのかしら?」

 

 すると、加賀は小さく頷き、

 

「ええ。かなり“キている”みたいだから、私からも声を掛けてあげるようにって」

 

 やっぱりか、と赤城は口の中だけで呟いた。

 ほんの三十分ほど(それも半分は間宮の話)しか喋っていないにもかかわらず、榛名は的確に赤城の悩みを見抜いて加賀にフォローまでお願いしていた。その洞察力の鋭さと、細やかな気の回し方に、やはり彼女には敵わないなと思い知らされる。

 ある意味、そうしたところで人望を得られたからこそ榛名は高い地位まで登り詰められたとも言えるだろう。

 

「それと」と加賀は続けた。

 

「榛名さん、あの人のことを悪く評価しているわけじゃないみたい」

「え?」

「南方での作戦のこととか、私たちがさせられた夜間航空攻撃のこととか。短い期間でやったことに意義深いことが多いと言っていたわ。特に、南方でのこと、四駆の子たちの救出を、榛名さんはとても高く買っているみたい。『艦娘を想って理不尽と戦ってくれた人に悪い人は居ない』って。買いかぶり過ぎよね?」

 

 今回の件、榛名は関わっていないはずだ。彼女は遠く呉鎮守府に居て、レミリアが居た間一度たりともこちらには来ていないのだから、当然レミリアとは面識があるわけではない。同じ組織の中であっても、第三者であった。

 それなのに、榛名はレミリアを否定するどころか、肯定した。誰もが彼女を悪と、罪人となじる中で、離れたところに居た第三者がレミリアを認めていたのだ。

 

「そ、そう……」

 

 レミリアの件は揉み消された。悪しき組織の隠蔽体質と言えよう。それに安堵した赤城が非難出来ることではないけれど。

 

 

「あと、こうも言っていたわ。『赤城さんの人を見る目は確かだから、赤城さんが信じたならきっと正しいことを出来る人だったんでしょう』ともね」

 

 

 なんだそりゃ、と思わずにはいられなかった。赤城本人に対しては「盛大に騙されていた」などと失礼なことを言っておきながら、後から他人伝手でそんなことを嘯くのである。加賀のことだから脚色せずにそのまま榛名の言葉を伝えただろう。つまり、どちらが彼女の本心かと言われれば……。

 

「貴女の欠点は、他人に心配を掛けてもそれに気を払わないこと。これで、ちょっとは懲りたかしら?」

 

 そう言って、加賀は薄っすらとした笑みを浮かべる。勝ち誇ったような、してやったりな顔だ。

 だから赤城の肩も自然と揺れ、額に手を当てて天井を仰ぎ見る。喉が小気味良く鳴った。

 

「懲りた。懲りた。懲りました。もう、榛名さんにも加賀さんにも敵いません」

「そうよ。それくらい殊勝になればいいの」

 

 と、加賀がさらに得意気な表情になる。今日の彼女は中々手強い。

 彼女にも迷惑を掛けただろう。ずっと心配してくれていたし、気を揉んでいたのだ。赤城は分かっていながらそれを見ない振りをし続けていた。だから、怒られても仕方がないのだし、榛名と共にやり込められた後では反撃のしようもなかった。だから、観念して赤城は湧き上がる感情に従って素直にこう言った。

 

「そうします。ところで、さっきの飲みの話だけど、駅前に出来た新しい居酒屋さんが結構評判良いらしいの。そこに行きましょうよ」

「いいけど。でも、一人で三人を介抱させるのはもうやめてほしいわ」

 

 加賀は急に苦虫を噛み潰したような顔になって、唸るようにそう言ってまた活字に視線を落とした。なるほど、あの時のことは余程彼女にとって苦い記憶であるらしい。

 ならばと、赤城は思い付いたことを悪戯めいた声に乗せて口に出してみた。

 

「じゃあ、今度は私たちが加賀さんを介抱してあげるわ。どこまで飲ませたら潰れるか、ちょっと見てみたい気がするの」

「潰れません」

 

 加賀は憮然とした顔で上目遣いに赤城を睨んだ。酒の強さにはかなり自信があるようだ。

 

「楽しみにしておきますね」

 

 赤城は笑って、同僚を煽る。これはもう、榛名には一刻も早く来てもらわなければいけないだろう。明日電話する時に急かしてみよう(もちろん挑戦にさそってみよう)。

 

 

 

 

 

 





榛名→酒に弱いくせに酒が好きなのであっという間に記憶を飛ばしてしまうタイプ。
金剛→酒に強くて飲み方もちゃんと弁えているが、潰れたふりして人に甘えるタイプ。
赤城→強いが一番よく飲むので潰れやすいタイプ。
加賀→めちゃくちゃ強くて潰れないが故にババ(介抱)を引くタイプ。

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