ムラクモ600   作:草浪

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第10話

 

持っていた財布にケチをつけられた那珂ちゃんはふて腐れながら私達の後をついて来る。

私の知っているブランドをまわり、あれこれ見てみたけど、那珂ちゃんの食指は動かないようだ。

 

「那珂ちゃんはこれで満足っていうか〜」

 

「神通や摩耶でさえももう少しまともなの使ってるわよ?」

 

「服は那珂ちゃんの方がお洒落だもん!」

 

お洒落なのはわかる。さっき鈴谷が言っていたけど、フリフリのついた洋服を好んで着ているのは、女子らしくない発達した四肢を隠す為らしい。それにあわせて鞄も可愛らしいものを選んでいる。なのに、どうして財布にその拘りが行かなかったのか。疑問である。

 

「那珂ちゃんはなんでそのお財布を使ってるの?」

 

鈴谷が率直に尋ねる。帰ってきた答えは意外なものだった。

 

「スキー行った時に邪魔にならないからだよ?」

 

「「スキー?」」

 

那珂ちゃんにしては意外な趣味だった。言われてみると、私も民間人だった頃に諸先輩方に誘われた思い出がある。流行っていたような気もする。私はあまり惹かれなかったけど。

 

「うん。那珂ちゃん、毎年滑りに行くからね」

 

「じゃあその時だけ入れ替えて使えばいいじゃない……」

 

「……川内ちゃんや神通ちゃんと同じこと言ってる」

 

二人は正しい。鈴谷は当たりをキョロキョロと見渡した。

 

「次、あそこ行こう!」

 

鈴谷が指差したのは鈴谷と同い年ぐらいの子で賑わうお店だった。

 

 

ーーーー

 

「いらっしゃいませ〜。何かお探しですか〜?」

 

若い店員さんが甲高い声をあげる。鈴谷はそれを無視し、目的の財布や小物が並べてあるところに向かう。那珂ちゃんもその後に続いた。私は会釈だけして鈴谷達のの後を追う。

 

「ちょっと。失礼じゃないの?」

 

小さな声で鈴谷に問いかける。鈴谷はこちらをチラッと見ると小声で答えた。

 

「あの店員さん。叢雲が入ってきた途端にそれまでの接客をやめてこっち来たから。余計なもの買わされるかもしれないから目をあわせちゃダメだよ」

 

「那珂ちゃんも思った。あの店員さん、叢雲ちゃんの着てるもの見てすぐに駆け寄ってきたからね」

 

よく見ている。私は感心した。あまりこういう若いお店には来ない私には知らない世界だ。

珍しく那珂ちゃんが財布を手にとって見ている。歳は近いけど私の趣味とは全然違うようだ。

 

「可愛すぎないかしら?」

 

那珂ちゃんの制服の色に似たオレンジの革の財布を熱心に見ている。リボンをかたどったチャームも付いていて、若い子のお財布という印象だ。

 

「那珂ちゃん。これ気に入ったかも……」

 

「でしょ〜! 絶対ここだと思ったよ!」

 

鈴谷が自信満々に言う。どうやら二人の趣味は似ているようだ。

 

「叢雲の好きなところもお洒落なんだけど、ちょっと落ち着きすぎてるんだよ」

 

鈴谷はそう言い、財布の脇にあるラックからチャームを手にとった。

 

「こんなのはどう?」

 

那珂ちゃんが着ているようなフリフリを着た小さな人形を添える。

 

「かわいい! けど、邪魔にならない?」

 

「最近はチャームをつけるのが流行りなんだよ」

 

私が思い出したのは顔が真っ黒の女子高生が携帯にストラップをジャラジャラと付けていたあれだ。二人はあーでもない、こーでもないと話しはじめた。もうこうなっては私にはついていけない。私はチャームのラックを何となく眺めていた。

 

「あら?……これ」

 

そのうちの一つを手に取る。可愛らしくデフォルメされているが、私が乗るフィアットだ。ひっくり返して見るも裏面も同じだ。

 

「買おうかしら……」

 

値札を見て驚く。私が想像していた金額の三倍近くする。よこにある財布を手に取り、値札を見てみる。

 

「ほとんど一緒じゃない……」

 

「そういう野暮なことは言わないの」

 

独り言のつもりだったが鈴谷には聞こえていたようだ。那珂ちゃんは既に財布を決め、それに何をつけるかで悩んでいた。私は持っていたチャームをラックに戻し、またぼんやりと店内を眺めていた。

 

「3点以上買うと40%オフ?」

 

レジの張り紙が目にとまる。

 

「じゃあ叢雲ちゃんもさっきの買う?」

 

那珂ちゃんは財布とチャームを持っていた。結局最初に鈴谷に勧められたものにしたようだった。そんな那珂ちゃんを鈴谷は恨めしそうに見ている。

 

「別にそこまで欲しいわけじゃないわ。鈴谷、あなたは何かないの?」

 

「これといって特に……」

 

この流れは買うことになる。正直、40%オフなら納得出来ない金額ではない。やたら高価なストラップを買ったと思える範囲だ。

 

「改二祝いに那珂ちゃんが買ってあげてしんぜよう」

 

那珂ちゃんは私がさっき見ていたチャームの色違いを手に取った。

 

「だったら白がいいわ!」

 

「「……欲しかったんだ」」

 

自分でも少し恥ずかしいと思った。なんて浅ましい。

鈴谷は何とも言えない悔しそうな表情をしていた。

 

ーーーー

 

那珂ちゃんの財布を買った後、鈴谷が那珂ちゃんを連れて何処かに行ってしまった。

すぐ戻ってくるから適当に時間を潰していて。そう言われても特に見るものもない。私はさっきとは別の喫茶店に入り、窓からぼんやりと道行く人を眺めていた。

 

「すぐ戻ると行っていた割には随分遅いわね……」

 

既に一時間近く経とうとしている。寂しいと感じないわけではない。ただ、焦ったような鈴谷を見て嫌だとは言えなかった。

遠くに見覚えのある緑色の髪の毛とお団子が二つのった頭が見えた。その二つの頭はとても急いでいる様で窓際に座る私に気付かずに目の前を通り過ぎた。

 

「人混みの中を走るんじゃないわよ……」

 

それも女の子の走り方と速さじゃない。流石は艦娘と言ったところだろう。彼女達とすれ違った人々は皆振り返っている。

 

「暇ねぇ……」

 

それから少しして、再び二人が目の前を走り去って行った。私はそれを目で追う。焦っている様子だった。何をそんなに走り回る必要があるのだろうか。結局二人は私の目の前を三往復した。鈴谷から連絡が入ったのは最後に通り過ぎてから二十分経ってから。私は二時間近く待っていた。

 

 

ーーーー

 

「何をそんなに走り回っていたのよ……」

 

鈴谷に言われた場所に来ると二人はベンチに座っていた。二人とも肩で息をしている。鈴谷はともかくとして、那珂ちゃんがここまで疲れているとは思わなかった。

 

「アハハ……見られてたか〜」

 

鈴谷は苦笑いをした。けどどこか満足そうな顔をしている。

 

「那珂ちゃんお腹すいた……」

 

那珂ちゃんの方が大変そうだ。いったい鈴谷は何をしたのかしら。

 

「ならご飯食べに行きましょ。駐車場出るのに混みそうだから、今出て他のところ行きましょうか」

 

私がそう言うと、二人は立ち上がった。その目は早く行こうと訴えていた。

 

ーーーー

 

ショッピングモールを離れ、近くの海鮮で美味しいと評判のお店に来た。買い物帰りの人で混んでいるかと思ったが、店内はすいていた。

 

「はい、改二おめでとう!」

 

向かいに座る那珂ちゃんが先ほど買ってくれたチャームを袋から取り出した。私はそれを受け取り、目の前でクルクル回した。可愛い。

 

「何に付けようかしら……」

 

普段使うものにつけたら白いからすぐに汚れてしまいそうだ。かと言って買ってもらったのに使わないのは申し訳ない。

 

「鍵につけてみたら?」

 

横に座る鈴谷が私の車の鍵を指差した。

 

「あなた。時々賢いわね!」

「時々ってなにさ!!」

 

怒る鈴谷をよそに、私は鍵にチャームをつける。可愛らしい。私は満足していた。

先程まで元気がよかった鈴谷が急に大人しくなる。向かいの那珂ちゃんは財布を入れ替えながらもそれを楽しそうに見ていた。

 

「あの! 叢雲!」

 

「どうしたの?」

 

ぎこちない鈴谷を不思議に思う。鈴谷は鞄の中から綺麗に包装された袋を取り出した。

 

「これ! 鈴谷からの改二祝い!」

 

鈴谷はそれを私に押しつける様に渡した。

 

「あ、ありがとう……開けてもいいかしら?」

 

鈴谷は不安そうに頷いた。しかし、鈴谷からお祝いを貰えるとは思っていなかった。

包装を解き、中身を取り出す。先にボンボンのついたピンク色のマフラーだ。

 

「あらま。随分と可愛らしい……」

 

「叢雲には可愛すぎるかな〜と思ったんだけど……気に入った……?」

 

「えぇ。大事に使わせて貰うわ。これから寒くなるしね。鈴谷、ありがとう」

 

私はマフラーを首に巻いてみる。暖かい。

 

「ほら! この色にしてよかったでしょ?」

 

「うん。よく似合ってる」

 

「もぉ〜大変だったんだよ? 鈴谷ちゃんがあれでもない、これでもないって」

 

「それであんなに走り回っていたの……」

 

那珂ちゃんがグテーっと伸びる。それほど大変だったということだろう。

 

「那珂ちゃんが先に叢雲ちゃんのお祝い買ったものだから、鈴谷ちゃんすっごい焦ってたんだから。欲しいものあげたかったのに! って」

 

「ちょっと! 言わないでよ!」

 

鈴谷が顔を真っ赤にしている。そんな鈴谷を見て、マフラーに顔を埋める。暖かいわね。

 

「ほら。叢雲ちゃん。これからご飯食べるんだよ? 汚したら勿体無いよ」

 

「もう少しだけ……」

 

「そんなに気に入ったの?」

 

「使いたいけど使いたくないわ」

 

このマフラーは特別な時に使おう。また鈴谷と出かける時とかね。

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