ムラクモ600   作:草浪

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第4話

 

 

高速を降りると、ラジオから正午の時報が流れた。

 

「お昼どうしましょうか」

 

高速を降り、大きな交差点の信号待ちに引っ掛かってる間にナビで近くの飲食店を探す。

 

「私、ラーメン食べたい!」

 

「確かにこの辺りは有名といえば有名ですね」

 

神通が言う通り、この辺りはラーメンが有名で、ご当地キャラがラーメンのお椀をかぶっているぐらいだ。

 

「コンビニが近くにあるところだと嬉しいんですけど」

 

それまで大人しく座っていた摩耶が身を乗り出してきた。

 

「またコンビニ?」

 

「飲みたいものがあるんすよ」

 

「牛乳ですね」

 

神通、やけに詳しいわね。

 

「今更牛乳飲んだって大きくなるのはお腹回りだけじゃない?」

 

「鈴谷!てめぇ!」

 

「お願いだから暴れないでね?」

 

私がそう言うと不満げな顔をしながら摩耶は引っ込んだ。替わりに神通が身を乗り出してきた。

 

「そうしたら、ここから大師に行く途中の交差点を曲がったところにあります」

 

「案内お願いできるかしら?それにしてもやけに詳しいじゃない」

 

「新人の時に那珂ちゃんに何度も連れて来てもらいましたから」

 

「なるほど……あの人らしいわ」

 

那珂ちゃんは妙なところで真面目な人だ。きっと自分の由来となった場所に行かなくちゃ気が済まなかったのだろう。

 

「そのうちご当地アイドルとかやりそうね」

 

「艦隊のアイドルとどっちがメジャーなんでしょうか……」

 

「今度本人に聞いてみてよ」

 

「お断りします」

 

 

 

ーーーー

 

 

 

好きな人には申し訳ないのだけど、普通のラーメンだった。バクバクお菓子を食べていた鈴谷と摩耶は美味しい美味しいと食べていたが、何度も食べた神通も初めて食べた私も同じ普通という感想以外出てこなかった。そして摩耶の探し物はコンビニには無く、帰りに高速入口近くの大型スーパーに寄ることにした。私はその先のアウトレットモールにも寄りたかったが、三人ともあまり興味が無さそうだったので何も言わなかった。

 

「ここ?」

 

運良く厄除大師のすぐ近くの駐車場に車を停め、境内に入った鈴谷が漏らした素直な感想だ。

 

「テレビで見るより小さいわね」

 

私もそれに続く。平日ということもあって、人も疎らだ。それが更に物足りなさを感じさせる。

 

「年末年始はここに長蛇の列が出来るんですよ」

 

神通が指で手前の駐車場をなぞり、その指は外の道路まで伸びていった。

 

「へぇ…………それで、普通の神社と何が違うんですか?」

 

「神社は神さま。大師はお坊さんよ」

 

「叢雲詳しいね。年の功?」

 

「鈴谷さん。明日からのメニュー、覚悟しておいてくださいね?」

 

私の言いたいことを神通が静かな笑みを浮かべながら言ってくれた。

 

「厄除けの意味無いじゃん!」

 

「厄除けじゃ業は祓えないわよ」

 

「それにまだ何もしてねぇし」

 

「お祀りしにいきましょう」

 

先に歩きだした神通に私は続き、その後ろに二人がついてくる。お祀りを済ませると、神通の眉間にシワがよった。

 

「どうしたのよ?」

 

「いえ……川内姉さんが今年厄年で……」

 

「歳下なのに姉さん」

 

摩耶が思ったことを口にする。私もそれは思った。

 

「えぇ、きっと歳上の妹がこれを知ったら三人でまたここに来ることになるな……と思いまして」

 

「厄だけじゃなくて、魔除けもすればいいのに……」

 

「ただの神通になれってことですか、鈴谷さん?今でも充分優しいと思いますけど?」

 

鈴谷、あなたはいい加減学びなさい。

 

「さて……お祀りも済んだし、帰りましょうか」

 

私もそろそろニコチンが切れる。摩耶なんて途中の喫煙所をお預けをされた犬みたいに眺めていた。

 

「みんな先に行ってていいよ。私、お手洗い行ってくる」

 

「私も行ってきます。お二人は……」

 

摩耶を見ると、目を輝かせて私を見ていた。

 

「お土産屋さんの前にいるわ。摩耶行きましょう」

 

「はい!」

 

摩耶はこういう時だけ返事がいい。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

合流した私達は、摩耶のお目当てである牛乳を買いに大型スーパーまで来ていた。摩耶はかご一杯に牛乳をいれる。

 

「そんな買ってどうするのよ……どんだけ好きなの」

 

「前に高雄に買ってきて貰ったんだけど、すごく美味しかったんですよ。それでみんなにも買っていってやろうと思って」

 

「そんなに美味しいの?」

 

小さい紙パックの方を手に取ってみる。

 

「大きい方がいいんじゃない?」

 

「どこを見ているの?顔を見て言いなさいよ」

 

「…………そういう意味じゃないし!大きい方がお得ってことだし!」

 

鈴谷が慌てて弁明する。どうやら私の被害妄想だったようだ。

 

「それは果汁が入っているわけじゃないので、単体ずつで食べて飲んだ方がカルシウムの吸収効率はいいですよ?」

 

あら、神通。その豆知識はいま披露する必要があったかしら?

 

「とりあえず買ってきますわ」

 

かご一杯に牛乳とそれのクッキーを積めた摩耶は逃げるようにレジに行く。まぁ、特にどうしようとは思ってないけど。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

摩耶の買い物を済ませた私達は、向かいにある喫茶店でひと休みすることにした。

 

「まだ時間はあるわね」

 

壁にかけてある時計を眺めながら私がそう呟くと、三人は驚いた様な顔をしていた。

 

「どうしたのよ?」

 

「いえ、ここで少しゆっくりして帰れば時間的にちょうどいいと思っていたので…………」

 

神通がそう答えると、他の二人も頷いた。そうか。話すのをすっかり忘れていた。私と鈴谷、そして神通の外出届をだした時、司令官が私と神通の外出届を珍しいがり、日付が変わる前に帰ってくればいいと言われたのを伝えるのを忘れていた。

 

「…………あっ?!」

 

私は慌てて携帯を取りだし、外に出た。摩耶の分は私が関与してない。執務室の電話にかけると、秘書艦代理の電が出た。

 

『叢雲さん。お疲れさまなのです。摩耶さんのことですよね?』

 

「えぇ。そうなの。いま司令はいるかしら?」

 

『席を外しているのですが、司令官から聞いているのです。摩耶さんも一緒に帰ってくればいいから楽しんでこい、と伝えてくれと言われているのです』

 

「そう……助かったわ。ありがとうね」

 

『お土産期待しているのです!』

 

電話を切る。とりあえずひと安心だ。一人だけ罰を受けるのは申し訳ない。席に戻り、事の経緯を説明すると、三人はソワソワしだした。

 

「じゃ……じゃあ!せっかくだし!アウトレットでも見に……」

 

鈴谷は最後まで言い切れなかった。私は先程の車内の会話を思い出した。

 

『国からお給料貰ってる私達が』

 

神通もそれを言ってしまった手前、行きたいとは言いにくいのだろう。

 

「私は行きたいのだけど……電にお土産屋期待してるって言われてしまったし」

 

「それじゃあ仕方ないですね。チョコレートでも買っていきましょうか」

 

神通が我先にと立った。正直、神通がここまで行きたがるとは思っていなかった。

 

 

「行こう!早く行こう!」

 

鈴谷も席を立つ。摩耶もそれに続く。

 

「仕方ないわね……」

 

カップに残った珈琲を飲み干し、全員足早に車に戻った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

散財した。神通と摩耶はそう言うが、彼女達が買ったのは軍用規格と同じサングラス。私と鈴谷は好きなブロンドのお店にあちこち入り、色々見て回っていた。私と鈴谷の買い物の間、神通と摩耶は洋服を珍しい物を見るような目で見ていた。

 

「神通さんも摩耶も、少しオシャレしてみたら?」

 

きっかけは鈴谷のその一言だった。鈴谷の「あともう一押しで買いそう!」という思わせ振りな態度のせいで、店員さんがその気になり、二人は鈴谷と店員さんの着せ替え人形になった。しかし、二人のセンスは若すぎて少し派手すぎる。途中から私が神通の服を選びはじめてしまった。

 

「やっぱり、あなた、おしとやかな洋服が似合うわね……」

 

「あの……もう恥ずかしいのですが……」

 

気がつけば、店内にいたアベックや女子学生が試着している神通と摩耶を見て感嘆の声をあげている。

 

「出ましょうか……」

 

このまま続ければきっと買わなくちゃいけなくなるが今なら引き下がれる。鈴谷の自信に満ちた頷きを見せた。こういう時は若い力に任せるしかない。二人が着替えている間に、目星をつけていた髪止めを八つ買った。

 

「そんなに使うの?」

 

店を出て、着せ替え人形から解放された二人を休ませるためにフードコートに入ると、鈴谷は不思議そうに私に訊ねてきた。

 

「自分の分とあなた達の分、それと第六駆逐隊の分よ」

 

私は自分のを取ると、鈴谷に袋を渡した。

 

「えっ?いいの?」

 

鈴谷がすっとんきょうな声をあげる。

 

「一人ひとつよ」

 

「「「ありがとう!((ございます))」」」

 

流石に疲れている様子の二人には申し訳なかった。鈴谷は髪止めをハンカチに包んで鞄のいれると、中から小さな紙袋を二つ取り出した。

 

「じゃあ、これ。神通さんからみんなにって」

 

私と摩耶に一つずつ手渡される。中を見ると、先程の大師の厄除けのお守りだ。

 

「選んだのは鈴谷さんですから」

 

「買ってくれたのは神通さんだよ」

 

どうやら、いつの間にか仲良くなっていたようだ。

 

「なんだよ~。このタイミングかよ~」

 

摩耶が悔しそうに項垂れる。

 

「そんな悔しがるほどのことじゃないでしょう……」

 

「いや、なんか悔しい……煙草吸いたい」

 

「そうね。渋滞もあるでしょうから帰りましょうか」

 

 

 

ーーーー

 

 

 

忘れかけていた高いチョコレートを買い、摩耶はそれを発泡スチロールの箱に入れると、ついでにピンク色の小さな紙パックを取り出した。

 

「偶然四つしか残ってなかったから買っといた」

 

「それで悔しがってたのね……」

 

「偶然度でいったら私が一番じゃないすか?」

 

「ここで飲んでいっちゃう?」

 

「というよりここで飲んでくれ。流石に別のやつ交じってると喧嘩になりかねないから」

 

「そんな子供はいないとおもいますけど?」

 

しばし外で談笑し、助手席を前に倒すと、摩耶に続き、鈴谷が後ろに座った。

 

「ほら、助手席で寝るわけにはいかないでしょ?」

 

鈴谷は神通に何かしらのアイコンタクトを送ると、助手席をもとの位置に戻した。仕方なく神通は横に座り、私は運転席に座った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

鈴谷と摩耶は高速に乗る前に寝た。二人とも健やかな寝息をたてている。

 

「摩耶はともかく……鈴谷は元気だったでしょうに……」

 

バックミラーで二人を見やると、神通はうしろを覗きこんだ。

 

「きっと私がいたから気を使っていたんでしょう。少し打ち解けられてよかったです」

 

「そんなにギクシャクしてたの?」

 

私がそう訊ねると、神通は苦笑いをもらした。

 

「鈴谷さんと訓練するようになって、根は真面目なのはわかりました。けれど、他人と距離を置くような……あの話し方も深く関わりと持とうとはしたくない故のものかもしれません」

 

神通の推測は半分正解で半分間違っていると私は思う。半分正解、これは鈴谷の艦娘になる前の話で、今の鈴谷はみんなと仲良くしたい。けれどその方法がわからないだろう。

 

「私のせいでもあると思います。私が厳しい鍛練を鈴谷にさせているせいで、周りから同情の目で見られてしまう。それで仲良く出来ればいいんですけど、距離を置く子もいるでしょう。それに叢雲さんを怒らせたって本人はすごく悩んでいたそうです」

 

「そういうことか……」

 

私は全てが繋がった様な気がした。鈴谷が申請しにきた日の無茶ぶりも、今日の私に対する軽口も、全て私の反応を探っていたのだろう。

 

「摩耶がいて逆によかったということね」

 

「そうなるでしょうか……それに私個人としても叢雲さんには感謝しています」

 

「私、なにかしたかしら?」

 

神通は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「私にも休みを頂いて……それにこんな私にも目をかけて頂いて……」

 

神通は人をよく見てる。気恥ずかしくて言われたくないことまでお見通しの様だ。

 

「そこまで解っているのなら、後輩への指導も程々にしなさいよ」

 

「それとこれとは別問題です。それに自分の為でもありますから」

 

「随分とエゴイストね」

 

「何とでも」

 

神通はそう言うと欠伸を噛み殺した。

 

「寝ててもいいわよ」

 

「そうですね。気がついたら寝てるかもしれません」

 

結局、鎮守府まで後ろの二人は起きず、神通はずっと起きていた。

 

 

 

 

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