***第13話***
アインハルトと共にある程度の魔法の錬成を終えて、六課隊舎の自室に戻ったアリシア。ユーノに持ち出し許可をもらった数冊の本を広げ、魔法を組み上げていく。ミッド式とベルカ式の混じった特殊な魔法陣。ベースは出来た。あとは使用してみて不具合を修正すればいい。
アリシアは組上がったばかりの魔法陣をデバイスに登録して、それを展開する。虹色の光が収まると、鏡の前には瞳の色以外は今のフェイトと瓜二つの姿が現れた。予想以上の出来。しかしフェイトに変身しただけ、という可能性は捨てきれない。同じ遺伝子である以上、そこは判断しかねる所だ。やはりアインハルトにも試してもらわない事には確証は持てない。
取り敢えず、他の人にアドバイスをもらおうと考え、部屋を出るアリシア。ちょうど廊下でザフィーラに会った。
「‥‥‥アリシアか。どうしたのだ、その姿は」
「ザフィーラ、分かるの?」
「纏う魔力の波長がテスタロッサとは違うからな。それに匂いもな」
「‥‥‥に、匂い?」
今ザフィーラは、匂いと言ったようだ。妹であるフェイトの匂いを何時もスーハースーハーと嗅いでるという事か。アリシアはザフィーラをジト目で見る。
「‥‥‥‥‥‥何だ?」
狼であるザフィーラからすれば、人の匂いをかぎわけるのは普通、なのだが。
「ザフィーラって、へ、変態さんなの?」
「なっ、なぜそうなる!」
という事になるわけである。普段は言葉少ないザフィーラが、狼にとって如何にそれが普通であるかアリシアに説明するのに10分を要した。
「ーーーだから狼である私には普通なのだ。理解したか?」
「うん。でも、普段から私やフェイトの匂いを嗅いでる事には変わりないんだよね‥‥‥」
アリシアには理解できなかったらしい。矢張り狼というよりは守護騎士、というイメージの方が強いザフィーラでは、その生態にはピンと来なかったのが原因だろう。ザフィーラを見る視線の種類がいつもと違う。やがて諦めたのか、ガックリと肩を落とし、もういい、といった具合のザフィーラ。暫くすれば忘れるだろうと考え、「やれやれ、ではな」とその場を去る。
だがこの一件はアリシアのなかでは以外に根を深く張っており、後にフェイトとアリシアで「フェイト、ザフィーラに近づいちゃダメ!」「どうして、姉さん?」「どうしても!」という会話が繰り広げられる事になったりする。
気を取り直し、他の者を探してロビーに来たアリシアは、丁度シャーリーと鉢合わせた。
「あ、シャーリー」
「あれ?フェイトさん。どうしたんですか?随分と帰還が早いですね」
そこに後ろにいたシグナムも加わる。
「テスタロッサか。任務はもういいのか?先程まで出ていた割には戻るのが早す……待て、貴様何者だ!」
色んな意味で流石シグナム。目の前の人物がフェイトでない事にすぐに気が付いたらしい。伊達にフェイトを見て来てはいない。
「シグナム、これはそうじゃなくって‥‥‥」
アリシアの弁明も聞かず、シグナムはレヴァンティンを起動し突き付ける。
「動くな。大人しくしていれば貴様にも弁護の機会が‥‥‥」
もはや聞く耳持たずのシグナム。流石に不味いと思ったアリシアは、変身魔法を解く。シャーリーもシグナムも驚いたようだったが、状況を説明すると理解してもらえた。
「アリシアちゃん、凄いね!大人の姿への変身魔法なんて」
素直に関心するシャーリー。それとは違い、シグナムは腕を組んだまま静かに話す。
「新魔法を試すのは構わんが、無茶をしようとしているのなら関心できんな。今もそれを新人達に諭していた所だ」
昼間の一件に納得出来ていないティアナやスバルに、シャーリーとシグナムは今の教導の意味を、なのはの過去の話とリンクさせながら話したという。度重なる無茶が原因で撃墜され、辛いリハビリが必要な程の重症を負った自分と同じ経験をして欲しくない、なのはの思いを。
「お前の事だ。ゼストへの対抗策の1つなのだろう?」
「バレてたのね。でも、私だってちゃんと考えてるよ。テロリストに『あの兵器』を使わせる訳にはいかないもの。みんなに守ってもらうだけじゃ‥‥‥」
「その芯の強さは流石だな。だが、テスタロッサや主はやてを余り心配させるな」
シグナムはそう言ってアリシアの頭をポンポン、と軽く叩くと自室へと歩いていった。そのシグナムとシャーリーを見送るアリシアは、一人決意を新たにしていた。
(分かっています、シグナム。けれど、『ゆりかご』をテロリストの手には、渡せませんから)
アリシアがその場に暫し留まっていると、シグナムが来た方向から、今度はティアナ達が歩いて来る。他のメンバーは軽い挨拶だけで各々部屋へと戻っていったが、ティアナだけは立ち止まった。
「ごめんね、アリシアにも迷惑かけちゃって」
「ううん。分かってくれたんなら、それで充分」
アリシアは軽く首を傾げて、笑顔を向ける。二人は「フフっ」と小さく笑い、その場を後にした。
***
数日後。
《誕生日、ですか?スバルさん》
《そうだよ、キャロ。アリシアちゃん今月の29日だってフェイトさんが言ってたし》
《でも急すぎて準備とかあんまり時間ないわよ?どうすんのよ?》
《時間はないですけど、これからみんなで考えましょう》
《エリオの言う通りだよ、ティア。みんなで考えればいいアイデアも浮かぶって!》
今日も訓練場の端で術式をあれこれと試しているアリシアに気付かれないよう、念話でやり取りをする4人。暫くしてキャロはある事に気付く。
《あれ?でも確かフェイトさんも5月29日ですよ?》
《あら、そうなの?エリオは知ってたの?》
ティアナにそう振られ、エリオは一瞬、どう答えようか悩む。フェイトとアリシアが同じ誕生日なのは恐らく、2人ともプロジェクトFのクローンだからだ。そう思い、どう答えたものかとエリオは『言い訳』を考える。
《そうですね‥‥‥2人一緒なんて珍しいですよね》
極当たり前のように、さも自然に。エリオは努めて冷静に返す。
ふーん、と少し訝しげなティアナに《まあまあ、エリオだって一緒にお風呂入った仲じゃない》とまた余計な事を言っているスバルに「うっさい!」と肘鉄を入れるティアナ。
《なのはさんの実家のケーキとかどうでしょう!》
《いいね、キャロ!なのはさんにも相談してみよっか》
スバルはティアナの肘鉄もものともせず、キャロに相槌を打つ。
その遠方でアリシアは自身の変身魔法に1区切りをつけた。これでこの魔法はほぼ完成。後は自身の鍛練と『ゆりかご』からの脱出方法を考えるのみ。鍛練はともかく、後者が一番の問題だったりするのだが。
(生体反応なんてどうすれば‥‥‥矢張りクローン?でも‥‥‥)
アリシアは悩む。自分の誕生日が近い事など頭にない。
***
「「「「happy birthday!!」」」」
隊舎のとある一室。なのはやはやて、その他主要メンバーも巻き込み、アリシアの誕生会が行われた。準備からプレゼントまで、一番力が入っていたのがフェイトであった事は言うまでもない。
こうして今日も過ぎていく、六課の日常。
なのはさんの過去暴露回と思いきや、ザフィーラ変態嫌疑をかけられる、の回。
原作と全く同じやり取りになってしまうのを回避して書いた結果、ザッフィーが犠牲になりました。
次回は遂に六課の休日編。あの人登場予定。
***
ザフィーラ「私は変態ではありません。」
はやて「大丈夫や。ザフィーラ。」
ザフィ「主……」
はやて「変態でもザフィーラはザフィーラやんか。」
ザフィ「…」