***第17話***
とある研究所の最深部の一室。
そこに向かい少し急ぎ足で歩く少女が1人。十一、二歳、くらいだろうか。綺麗な銀髪のロングヘアー、少し、いや、かなり控え目な身長。一見すれば可憐な少女だが、右目には眼帯。8年前の対ゼスト戦で負ったその傷は、着込んでいる灰色のコートと相まって幼い彼女の見た目に少し異質さを追加している。そうして最深部まで来た少女は、白衣を着てモニターを見ながらコンソールを叩く人物に話しかけた。
「ドクター、あれは一体どういう事ですか?」
「やぁ、チンクかい。作戦を少し練り直す必要がありそうだよ」
ナンバーズのNo,5、チンクには疑問だった。ディエチは丸い発光するものに極端に反応し怯え、セインは「ア、アタシはやっぱ、前線より脱出とか後方支援のほうが‥‥‥」と何かに怯え、クアットロに至っては損傷が酷く、生体ポッドで治療中。これ程のダメージを負って帰って来るとはどういう事なのか。
「見たまえ」というスカリエッティの言葉にモニターを覗くと、そこにはクアットロの交戦の様子が映し出されていた。クアットロが金髪の女性に一方的にやられている。いや、いたぶられているというのか。セインの怯えの原因はコレのようだ。
暫くそれを見ていたチンクは、1つの疑問を抱く。
「これは、例の『Fの遺産』ですか?格闘戦が出来るなどというデータは無かった筈ですが‥‥‥」
確かデータだと同じ近距離型と言っても戦斧型デバイスで戦うタイプだった筈。なのにこれはどういう事か。近距離格闘も得意という事なのか。
「違うよチンク。姉のほうだ、此れは」
「姉‥‥‥ですか?」
再び疑問。プロジェクトFでプレシアが生み出したのは、フェイト・テスタロッサ一人。彼女がプロジェクトの名を冠しているのがそのいい証拠。ましてその前に一人造られたなど聞いた事がない。
「アリシア・テスタロッサのオリジナルだよ。是非とも彼女に会ってみたいね」
スカリエッティの言葉に、チンクはその日3度目の疑問を抱いた。アリシア・テスタロッサは死亡している。これは事実だ。だからこそフェイト・テスタロッサが生み出されたのだ。では、何故こうして生きているのか。チンクは思わず口にした。
「死亡した人間が生き返るなど‥‥‥」
「本当は死亡していなかったか、或いは蘇る方法を見つけたのか。私は後者である事を願うね」
モニターに映るアリシアの冷酷な姿を見ながら、口元が緩むスカリエッティ。そんな彼とは違い、警戒するチンク。もしかしたらあの時のゼストと同じくらい厄介かも知れない。
ふと、チンクは気づく。アリシアの魔力光。‥‥‥虹色?『聖王の器』と同じ?そういえばあの眼鏡、いや、デバイス?も不自然だ。
「フム、気づいたようだね。あれは恐らく、『聖王の器』と同じ『鍵』だよ。実に興味深い」
「『Fの遺産』のオリジナルが『聖王の器』ですか‥‥‥どういう事でしょう?」
合点がいかない。アリシアに『会え』ば分かるのかも知れない。
「ドクター、次は私を出して下さい」
気持ちの逸るチンクにスカリエッティは言う。
「フム。彼女には不確定要素が多い。君にも出てもらう事になるが‥‥‥クアットロの修理が先だ。次の任務には彼女の力も必要だからね」
***
機動六課訓練スペース。訓練前になのはからの説明。
「‥‥‥そんな訳で、2人は今日から暫く六課に出向となります」
「陸士108部隊より出向してきました、ギンガ・ナカジマです」
「本局第四技術部より出向してきました、マリエル・アテンザです。気軽にマリーって呼んでね」
マリエルは10年前から隊長陣のデバイスを見ているデバイスマスター。なのはやフェイトのカードリッジシステム、はやてのシュベルトクロイツの製作者でもある。
「ギンガとスバルには模擬戦をしてもらいます。ギンガ、ちょっとスバルの出来を見てもらえるかな?」
「分かりました、なのはさん」
ギンガは左手のリボルバーナックルとブリッツキャリバーを展開、スバルも右手のリボルバーナックルとマッハキャリバーを展開。互いの足元にベルカ式魔方陣が現れ、二人はウィングロードを走らせる。
「「ウィングロード!!」」
「でりゃあああ!」
「はぁぁぁ!」
二人はウィングロードの上で何度も激突。一進一退の攻防が続く。
「アリシアちゃん、ちょっとおいで」
その一進一退の攻防を眺めていたアリシアを、マリエルは呼び止めた。なんだろうと近づくと、マリエルは猫の人形をアリシアの目の前に差し出した。
「リンディ提督に頼まれててね。アリシアちゃん用のインテリジェントデバイスだよ。本体は普通のクリスタルタイプ。アリシアちゃんの戦闘スタイルに合わせてあるから」
「このぬいぐるみが‥‥‥デバイス、ですか?」
アリシアにはどうしても只の猫のぬいぐるみにしか見えない。子猫のぬいぐるみにしか。‥‥‥あ、動いた。
《ニャア》
「はい?」
「カワイイでしょ?それっぽくしてみたよ♪あ、この子名前まだないからつけてあげてね?」
それっぽく‥‥‥アリシアは心の中でため息をついた。せめて言葉で意志疎通が取れるようにして欲しかった。それにしても名前か‥‥‥いきなり言われても困るというもの。まぁ、候補がないわけではない。
(うーん、アスティオンとか?あの話はクラウスが好きでしたね。あ、でも)
アリシアは足元に古代ベルカ式魔法陣を展開する。子猫のデバイスがその脇に浮いている。魔法陣が虹色に輝く中、アリシアは言葉を紡ぐ。
「マスター認証、アリシア・テスタロッサ。術式はエンシェントベルカ。私のデバイスに個体名称を登録。正式名称『ライゼ』。じゃあ行くよ、ライゼ」
アリシアの、聖王の魔力色もあって、幻想的な光景。
《ニャア!》
ライゼ。初めて彼に会ったその日、彼が連れていたシュトゥラの雪豹の名。クラウスの‥‥‥。アリシアは一度目を瞑り、深呼吸をした。
「『セーット、アーップ!』」
光に包まれ、大人モードになると同時に騎士甲冑に身を包む。髪型も、オリヴィエがしていたような、一纏めになっている。腕にはかつてのような、鉄腕。
「なかなか好相性みたいだね。あと微調整しちゃうからちょっとじっとしててね」
満足そうにマリエルは馴れた手つきで調整を始めた。シャーリーもすごいが、この人も大概だ。そう思っているうちに、調整は終わり、アリシアは軽く身体を動かす。
(悪くありませんね)
どうやらこの子は補助型のようだ。『聖王の鎧』と併せたらかなりの戦力。
そんなうちに彼方ではいつの間にか模擬戦が始まっていた。ギンガがいるとは言え、どう見てもフォワード陣は勝てそうもないが。
***
「おはよー、ございます」
深々と頭を下げ、丁寧にマリエルとシャーリーに向かって挨拶する、ヴィヴィオ。
「おはよう。って、シャーリー、この子は?」
見たことのない小さな子をみて、マリエルが問う。
「おはよう、ヴィヴィオ。あぁ、この子はですね」
シャーリーが言うより早く、ヴィヴィオはなのはとフェイトの元へ走りながら、叫ぶ。
「なのはママ~、フェイトママ~」
「‥‥‥‥‥‥えぇ!?!?」
暫しのフリーズの後、盛大に驚くマリエル。「2人はいつからそんな関係に、イヤイヤ確かにあの2人にその気が無かった訳じゃないけど」となのはとフェイトが聞いたら怒りそうな発言をしている。
勘違いを正すのは少し先でいいや、と思うシャーリーをよそに、マリエルの妄想は膨らんでいく。
「ヴィヴィオ、走るとあぶないよ?」
というフェイトの言葉も虚しく、「あ」というその場全員の言葉と共にヴィヴィオは転んだ。顔から。
麗しのチンク姉さま初登場。贔屓なんて気のせいです。
そしてついにアリシアさんがインテリジェントデバイスを。
***
ウェンディ「エコ贔屓ッス~まるでメインキャラみたいな紹介に心理描写まで」ジダンダ
セイン「うるさいなぁ、ウェンディ。チンク姉なんだからしょうがないの。」
ウェ「うるさい!!もう出てるセインには分からないッス!」
セ「アタシだってたいした出番じゃないのに……」
ウェ「ウワーン!」