***第23話***
JS事件解決から2ヵ月。昼過ぎに、とある病院の庭で車椅子を押すフェイト。その車椅子に乗っているのは、右腕が義手の少女。
「今日はいい天気だね、姉さん」
「そうだね、フェイト。こんな日はお出掛け出来たらいいのに」
「リハビリが一段落したら、外出出来るよ」
アリシアは「ハァ」と大きく溜め息を付く。松葉杖があれば歩ける程度までは回復しているものの、完治にはまだ時間が掛かる。外部操作で巧く誤魔化してさっさと退院してしまおうか、なんて考えていると、「言っておくけど、魔法でリハビリ誤魔化して退院するとか駄目だからね?」
とフェイトから心を読んだかのような言葉。流石は同じ遺伝子の持ち主。「そ、そんなことしないよ、やだなぁ」と答える声も上擦るというもの。
「私ももう少しで連休だから、一緒にリンディ母さんに会いに行こうね、姉さん?」
「分かった。じゃあ頑張ってリハビリしてくるね」
昼休憩の終わったフェイトは復旧した六課隊舎に戻り、アリシアは一人歩行訓練に向かう。『歩行訓練の先輩』、なのはとはやてから丁寧なアドバイスを貰っているお陰もあるのか、リハビリの経過は順調。だが、アリシアの心は晴れない。怪我の治りが遅いとか、まだ上手く歩けないとか、そういった事も少なからずあるのだろうが、一番の原因は、アインハルト。あの時の『最後の別れ』から1度も会っていないし、連絡すらしていない。よくよく考えてみたら、連絡先すら知らない。自分で言うのもなんだが、あんなクラウスのトラウマを抉るような別れ方をしたのだ。きっと心配している。早く会って謝りたい。抱き締めて、頭を撫でて、そして‥‥‥。
「アリシアちゃん、リハビリ頑張ってますか~?」
不意に後ろからリインに声を掛けられ、アリシアはなのはのそれのように「ふえっ!?」っと間抜けな声をあげた。自身の顔が真っ赤になるのが分かる。私は今、一体何を考えていたのか‥‥‥そう考えて更に赤くなる。
「顔が真っ赤ですよ~?大丈夫ですか?」
心配そうに聞いてきたリインに、「だ、だ、大丈夫!何でもないから!」と焦りながら答えるアリシアの姿。そして、その2人を遠くから見ている1人と1匹。
「アリシアも、もうかなり元気そうっすね、ザフィーラの旦那」
「ウム、そうだな、ヴァイス」
***
「今月の月間予定ってことでちゃんと伝えただろうが!忘れてんじゃねぇ、馬鹿!!」
ヴィータに怒鳴られるスターズの2人、ティアナとスバル。
週末からスターズ隊は3連休。次の週にライトニング隊が3連休。病院から戻って来たなのは隊長による、JS事件以前より明らかにキツい訓練の日々のせいでそんな予定は忘却の彼方だった2人。ヴィータに怒られ凹む気持ち半分、連休が嬉しい気持ち半分。
「よほどの事がない限り呼び出しはしねぇし、いくら遠出しても構わねぇぞ。ま、今からじゃホテルの予約も難しいだろうがな」
そう言ってニヤニヤと笑みを浮かべるヴィータ。多少凹んだ2人ではあったが、特にどこかに出掛ける予定などない2人には、それでも充分だった。
ヴィータと別れると、2人は何処に行こうか悩んでいた。
「連休はティアは何処か行く予定あるの?」
「別に行きたい所もないし‥‥‥アリシアのお見舞いに行って、それから兄さんの墓参りに行こうかな」
「私も母さんのお墓参りに行こうと思うんだ。ーーー」
***
「2人ともエルセアまで行くんだ?いいなぁ」
「別に旅行って感じじゃないわよ?私もスバルもお墓参りだし」
アリシアの病室。ベッドに横になっているアリシアと、その脇に座るティアナ。エルセアのウェストコーストにたまたまティアナの兄とスバルの母の墓があったので、2人一緒に行く事になったのだ。
「お土産、買って来てね。美味しい物。『エルセアに行って来ましたクッキー』とか要らないからね?」
「アリシアもヴァイス先輩と同じ事言うのね。心配しなくてもそんなの買わないわよ」
顔を見合せ、フフっ、と笑う2人。そこに聞こえた、コンコンというノックと供に入って来たのは、なのはとヴィヴィオ。
「ティアナ、来てたんだね」
「はい。なのはさん。ヴィヴィオも、こんにちは」
「こんにちは、ティアナさん。おねえちゃんも、こんにちは!」
「はい。こんにちは、ヴィヴィ」
ヨシヨシとヴィヴィオの頭を撫でるアリシア。「エヘヘ~」と笑みを浮かべるヴィヴィオを、なのはとティアナが優しい眼差しで見る。
「今日はどうしたの、なのは?」
ヴィヴィオの頭を撫でて満足したアリシアは、いかにも用があって来ました、という2人に要件を促す。
「ヴィヴィオが通う予定の学校を見学に行こうと思うんだけど。アリシアちゃんも行こう?」
「私も学校見学?何処の?」
アリシアは、今更学校に行ってもな、とも思ったが、やはりヴィヴィオの事は心配。それに何より、オリヴィエ時代は大勢で教育を受ける、という環境がなかったので興味はある。
「St.ヒルデまほうがくいん!」
元気に答えてくれたヴィヴィオの返事に、アリシアは胸の内側が温かくなるのが分かった。一緒に行けば、アインハルトに会えるかも知れない。心配させたのを謝って、笑顔になってほしい。そう思い、なのはに返事を返した。
「うん。私も行きたい」
「それじゃあ、3人で行こっか。ティアナも、エルセアでゆっくりしてきてね」
「はい。なのはさん。それじゃ、また」
ティアナと別れ、フェイトに連絡し、外出許可を取り。何でもやってみたい盛りのヴィヴィオに車椅を押して貰いながら、St.ヒルデ魔法学院に向かう3人。六課からだと快速レールウェイで1時間。
何処で覚えたのか、ヴィヴィオは「ぐっどあくせすなんだよね!」などと言っているが、毎日通うには少し遠い気がする。そう思ったアリシアは、何気無く口に出す。
「でも毎日1時間だと大変かもよ?春には少し近くに引っ越したほうが通い易くない?」
「確かにそうかもね。ウ~ン‥‥‥」
と、真剣に悩むなのは。まさかアリシアの一言が、本当になのはを動かすとは。これに関して後にアリシアは語る。『まさかホントに近くに引っ越すとは思わなかった。しかも私とフェイトも一緒にだなんて‥‥‥親バカ?友バカ?』
シスター・シャッハの案内でSt.ヒルデ魔法学院に着いた一行。中を見学するなのはとヴィヴィオを見ながら、アリシアは一番気になっている事‥‥‥アインハルトの事をシャッハに尋ねた。
「アインハルト・ストラトスという生徒がいる筈なんですが、会う事は出来ますか?」
「お待ちくださいね。アインハルト‥‥‥」
シャッハは端末を操作する。やがて操作し終えたシャッハの表情は曇っていた。
「申し訳ありません。アインハルト・ストラトスという生徒は先月、親の転勤で転校したようです。転勤先は此方では分かりかねます」
転勤?転校先が分からない?それってつまり‥‥‥。
「アリシアおねえちゃん、ないてるの?」
戻ってきたヴィヴィオは、声を圧し殺して泣いているアリシアの頭を撫でる。どうやら慰めようとしているみたいだ。
「何でもない。何でもないんだよ」
そう答えるのが精一杯。泣いているのに気付いたなのはが、泣いている顔が周りから見えないようアリシアの前に立つ。
「アリシアちゃん、いいんだよ。辛いときは、泣いても」
なのはの言葉を引き金に、アリシアは大声を上げて泣いた。黙って抱き締めるなのはの温もりが、アリシアにはありがたかった。
***
迎えた新暦76年4月28日。その役目を終えた機動六課は解散。メンバーはそれぞれの道を歩み始める。
Sts編、終了です。ゼストがどうなったか表記がないとか、アギトがどうとか、その辺は見なかった事にしてください。
次回からVivid編。マリアージュ事件は又の機会に差し込みます。
今回は後書きのセインさんコーナーはおやすみです。