***第33話***
とあるビルの屋上(奇しくも、昔フェイトとアルフがジュエルシードを強制発動した場所)。
どうにか状況を脱し、大人モードを解除して、座って休むアリシアとアインハルト。だが、その表情は浮かない。シグナム、フェイトと交戦してしまった以上、管理局の捕縛対象になった事は恐らく確定。今後は恐らく、あの『なのは達』の追跡を掻い潜りながらの行動となる。ワイドエリアサーチの得意ななのはばかりか、クロノやエイミィの追跡からも逃げなくてはならない。二人は今後の動き方について悩んでいた。
「どうしましょうか」
「どうしよっか‥‥‥取りあえず、お腹、空いた」
考えを巡らせるよりも早く、アリシアのお腹が耐えきれずにグゥ~、と鳴る。昼食を食べた後に飛ばされたアインハルトはまだしも、アリシアはカルナージ行きの次元航行船に乗る直前から何も食べていない。流石に限界だが、今居る此方の知り合いにお世話になる訳にもいかない。今後の食事とか、寝床とかの確保もどうしたものか悩む。
「あっ、そうだ。確か‥‥‥」
アリシアはバッグの中の財布を開く。以前に海鳴に来た時に未使用だったお金があった筈‥‥‥。
「あったけど、千円だけかぁ。困ったな‥‥‥」
首を傾げ、ヒラヒラと千円札を手で泳がせながら、困った表情で悩むアリシア。アインハルトはそんなアリシアを心配そうに見つめる。
「アリシアさん、それは此方の世界の通貨ですか?どのくらいの価値のものなのでしょう?」
アリシアは落胆して溜め息をつきながら、不安そうなアインハルトに答える。
「一般的なお弁当が2、3個買えるくらいかな。レストランとかで食べるなら一品分くらい」
「そうですか‥‥‥困りましたね」
俯き答えるアインハルト。戻る方法を探すにしても、長期戦になるかも知れない。いくらアインハルトが覇王クラウスの末裔だといっても、そこはうら若き少女である。1日程度でも抵抗があるのに、何日も野宿させる訳にもいかない。ここは何とかして宿だけでも確保しないと‥‥‥と考えていたアリシアは、前方から「お困りですか?」と声をかけられ顔を上げた。
「えっと‥‥‥どちら様ですか?」
目の前の女性は現地の、というか日本人とはかけ離れた格好をしている。かといってバリアジャケットとも少し違うような、中世の家庭教師のような格好。
というか、そもそもアリシアとアインハルトの居るこの場所にいること自体がおかしい。
その女性は顔を上げたアリシアを見た途端、驚きの声をあげた。
「驚きました。フェイトとソックリなんて。紅と碧‥‥‥綺麗な瞳ですね」
「フェイトを知ってるんですか?」
そう尋ねながらも、その女性の口からフェイトという名前が出たことに、アリシアは警戒し身構えた。もしかすると管理局の人間かも知れない。と、その女性はペコリ、と申し訳なさそうに頭を下げて話し始める。
「申し訳ありません。警戒させる気はなかったのですが‥‥‥申し遅れました。私はリニス、と言います。以前フェイトの家庭教師をしていまして。それで、貴女がフェイトに似ていたので、つい‥‥‥」
「へっ?‥‥‥‥‥‥リニス‥‥‥?」
ポカン、と口を開けて固まるアリシア。記録とフェイトとアルフの話が真実なら、リニスはとっくに死んでしまっている筈。これはどういう事なのか、アリシアは固まったまま思考停止している。
状況をイマイチ飲み込めないアインハルトは「アリシアさん?」と声をかけ、説明を求めようとした。すると、今度はリニスがそれに反応し、「アリ‥‥‥シア‥‥‥」と呟き、何やら考え込み始めた。
一人取り残されたアインハルトは、アリシアの肩を揺する。ようやくフリーズから解けたアリシアは、女性に向かって静かに、瞳にうっすらと涙を溜めて問いかける。
「もしかして、ママ‥‥‥プレシア・テスタロッサの使い魔さんのリニス?ママと私が飼ってた山猫の‥‥‥私のリニス?」
少し考え込んでいたリニスは、驚きながらもアリシアの言葉でようやく事態を理解した。
「あぁ‥‥‥何て事でしょう‥‥‥貴女、『あの』アリシアなんですね?」
「うん」とだけ答えたアリシア。リニスは1度瞳を閉じ、深呼吸をしてから、アリシアの頭を撫でながら再び話し始めた。
***
「成る程。大体理解出来ました。それにしても、消えた筈の私がどうしてまたこうして生きているのか‥‥‥」
アリシアとアインハルトの話を聞き、おおよその事を理解したリニス。どうやって二人が未来から来たのかとか、どうして自分がまた存在しているのかとかまだ疑問点は残っているものの、このまま考えていても何も変わらない。
「アリシア、アインハルト。一先ず宿を探しましょう。ゆっくり休んで、栄養を摂って。それから解決策を考えましょう」
使い魔の自分は兎も角、二人の少女の宿になりそうな所は‥‥‥と一通り見回すリニス。
「お腹‥‥‥空いたよ、リニス」
空腹が限界で座り込んでしまったアリシアを抱き上げ、アインハルトの手を引き歩き始める。
(‥‥‥取りあえずアリシアの食事が先でしょうか)
***
《クロノ君、大丈夫!?》
「大丈夫だ、エイミィ。それにしても、何て強さだ」
エイミィの通信に答える手負いの執務官は、自身が取り逃がした、闇の欠片で出来たプレシアの転移した場所を睨んでいた。
「それにしても、気になる事を言っていたな。『時間転移してきた者』に『アリシアはどこ』、か。プレシアにまた会って話さなきゃならないな」
只の闇の欠片にしては意識も確りしていて、強かったプレシア。どうやら今回の状況を、彼女のほうが理解しているようだ。
《またプレシアと‥‥‥》
再び対峙しなくてはならない現実に息を飲むエイミィ。
「今度はきちんと対策を立ててからだ。話し合いで済めばいいんだが。プレシアの心残りは十中八九アリシアだ。アリシアが大人しく同行してくれればな‥‥‥」
***
「了解や、クロノ君」
《すまないな、はやて。頼む》
モニター越しのクロノに真剣な表情で答えるはやて。
クロノははやてとリィンフォースに、アリシアの捜索を依頼。自身は引き続きプレシアを追う。
「先ずはフェイトちゃんとシグナムに合流や。ほな、行くよ?」
「ハイ。我が主」
闇の書事件での消滅は免れたものの、どちらにしても遠からず消え行く運命のリィンフォース。これが最後の事件になるかも知れない、と気を引きしめてはやての後ろを飛ぶ。
***
リニス達は通り沿いを歩いていた。アリシアはリニスの腕の中で揺られスヤスヤと眠ってしまっている。アインハルトと共に、休めそうな所を探していると‥‥‥つい先程通り過ぎたリムジンがUターンして戻ってきた。
(おや?)と思っていたリニスの前に止まったそのリムジンのドアが開き、中からアリシアと同じ位であろう少女が降りて来る。
「あの‥‥‥フェイトちゃん、どうかしたんですか?」
稽古からの帰りの途中だった少女に声をかけられたリニス。アリシアをフェイトと思ったのだろう。リニスはフェイトの名を出したその少女に何とか手を貸してもらえないか交渉を始めた。
「フェイトの事をご存知で?」
「はい。フェイトちゃんとはお友達です。私は、月村すずかって言います」
「フェイトのお友達‥‥‥まぁ!私はリニスと言います。以前フェイトの家庭教師をしていました。それで、突然ですし大変失礼だとは思いますが‥‥‥少しで良いのでお力を貸して頂けないでしょうか?」
砕け得ぬ闇事件、プレシア・リニス編スタート。アリシア・アインハルトにリニスが加わりました。超優秀使い魔のリニスさんの手腕の見せ処。