***第39話***
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥やったか?」
《みたいだよ、トーマ》
肩で息をしながら、倒したであろう相手を睨むトーマ。闇の欠片であるその相手は、『オリヴィエ‥‥‥僕は‥‥‥』と言葉を残して消えていく。
《危なかったね》
「ああ。知ってる流派で助かったよ」
トーマは額の汗を拭い、リリィとのリアクトを解いて海岸に降りる。二人が海鳴の風景を知っている筈もなく、自分達の置かれた状況を未だに飲み込めていない。
「にしても、ここは何処なんだろうな?シグナム姉さんは俺達の事知らないなんて言うし」
「アリシア達も何だか余所余所しい感じだったよね」
二人共疑問は多いが、答えに辿り着ける筈もない。時間移動など考え付く訳はない。
「いい加減腹減ったし、食べ物探しに行かないか?」
「そうだね。トーマ、あっちに街もあるし、行ってみよう?」
二人は降り立った海鳴公園を抜けて、市街地の方へと歩く。そうして周りをキョロキョロと見回しながら、漸く状況を少し理解してきた。
「やっぱり別の世界に飛ばされたみたいだな‥‥‥」
看板や書かれている文字がミッドのそれとは違う。道行く人々の服装が比較的近く、二人が周りから浮いていないのがせめてもの救い。
「そう言えば、さっきトーマが倒した人ってアインハルトに似てたよね?」
急に話を振ってきたリリィに、トーマが「ん~」と思い出しながら答える
「流派も同じだったしな。瞳や髪も同じ色だったし。武装も似てたよな」
「他の人達の偽者も年齢がおかしかったし、あの人も見た目通りじゃないのかも‥‥‥アインハルトのお爺さんとか?」
リリィの言う通り、偽者はトーマ達の時代の年齢のはやて達ではない。その言葉に「そうだな」と同意しながら続けるトーマ。
「そうかも知れない。アインハルトと同じ流派で見た目も似てたし、『お義祖父さん』かもな」
「‥‥‥ねえ、トーマ。今の『お爺さん』のニュアンスおかしくない?」
リリィは頬を膨らませてトーマを睨む。彼女が不機嫌な理由が全く分からないトーマは、「え?どこが?」とすっとぼけた答えを返している。
「もうっ!トーマなんて知らないっ」
プイッとそっぽを向いてしまったリリィ。「何でそんな怒ってるんだよ?」とデリカシーの欠片も無いトーマとは一向に目を合わせようとしない。
そんな、別方向を向いていたリリィの隣を歩いていたトーマが、不意に一直線に駆け出す。それに気付いてリリィが振り向くと、トーマは少女を抱えて道路にダイブしていた。直後、クラクションが鳴り、少女が先程迄居た場所を大型車が通り過ぎる。
「大丈夫か?」
トーマの問いに、危うく轢かれそうになった少女は「大丈夫よ‥‥‥ありがとう」と少し恥ずかしげに答えた。
二人の元へと慌てて駆け寄って来たリリィ。心配そうに二人を見つめる。
「トーマ、大丈夫?」
「ああ、リリィ。俺もこの子も大丈夫」
「じゃあ、気を付けるんだぞ?」と格好をつけてその場を去ろうとしたトーマのお腹が、グゥ~と恥ずかしい音を洩らす。
「そういや、何も食って無かったんだった‥‥‥」
「プッ」と思わず吹き出した少女は、「助けてくれたお礼に、ご飯くらい奢ってあげるわよ」と笑みを溢しながら話す。
「でも、そんな‥‥‥悪いよ。ねえ、トーマ?」
「良いのよ、お礼なんだから。お兄さん達、名前は?」
「ありがとう。俺は、トーマ」
「私は、リリィだよ」
「アタシは‥‥‥アリサ。宜しくね、トーマさん、リリィさん」
そんな、笑顔を向けた後に、何処かへ電話しているアリサを見ながら、リリィは念話を送る。
《ねえ、トーマ。まさか本当に奢って貰う訳じゃないよね?》
《まぁ、こんな小さな子には流石に集ったりしないよ。気持ちだけ、な》
***
《トーマ、この車、何だかとっても高そうだよ》
《何か緊張するよな》
念話で話すトーマとリリィは移動中。アリサが呼んだ、鮫島の運転するリムジンの中。二人は引くに引けなくなっていた。
「友達の家が喫茶店やってるのよ。市外から来たんでしょ?有名店だし、連れてってあげるわね」
二人の隣に座る、機嫌良く話す少女、アリサ・バニングス。彼女達が向かっているのは、勿論‥‥‥翠屋。
リムジンが止まり、3人は車を降りる。何処かで見たような店構えに、トーマが立ち止まる。
「あれ?何か此処ってどっかで見たことあるような‥‥‥」
「そりゃあ翠屋は有名店だもの。雑誌とかで見たんじゃない?」
アリサの発した『翠屋』という言葉に反応し、考え込むトーマ。必死に記憶を探るが、なかなか思い出せない。
「翠屋‥‥‥翠屋‥‥‥どっかで聞いたような気がするんだよなぁ‥‥‥」
斜めを向いて考え込んでいるトーマは気が付いていないが、そんな3人の元へと、手を振りながら店員が一人歩いてくる。
「アリサちゃん、こんにちは。そちらの二人は?」
「こんにちは、美由希さん。二人は、私の恩人なんです」
今度はアリサの発した『美由希』という言葉に反応し、トーマは店員の方を見る。そこで漸く思いだし、声をあげた。
「思い出した!ヴィヴィオに見せてもらった写真の場所だ!‥‥‥なのはさんの実家!」
「なのはさんの!?うそっ!?」
釣られてリリィも声をあげる。アリサと美由希は二人がなのはを知っている事に驚く。
「なのはの知り合い?‥‥‥まあ、良いわ。美由希さん、行きましょ」
二人の後に付いて、トーマとリリィは店内へと入って行く。
***
そんなトーマが、自身の余計な一言のせいで道場に引っ張られて美由希と剣の勝負をさせられているのと同時刻。
海上を飛んで闇の欠片を相手にしているアリシア。
「もう‥‥‥眠って、私の亡霊‥‥‥」
周囲には聞こえない程度に呟き、目の前の、闇の欠片のオリヴィエに魔力を込めた左拳を突き出す。
アリシアのとどめの攻撃を食らい、欠片のオリヴィエが光となって消えていく。
(クラウス‥‥‥私は‥‥‥)
物憂げな表情でそれを見つめていたアリシアの所に、リインフォースが近寄ってくる。
「アリシア。少し、良いか?」
「うん」
「お前は、何者だ?聖王とは、どういう関係だ?」
リインフォースの質問に、アリシアは驚き、「それは‥‥‥」と答えに詰まる。まさか此所まであっさりと答えに辿り着く物が居るとは思わなかったのだ。
「闇の欠片は、ここに居る人間や、居た人間の強い思念を取り込んで実体化する。関係無い人間の姿になる事は無い。それに、私はこれでも夜天の魔導書の管制プログラムだ。かなり過去の出来事もこの目で見てきた‥‥‥今の相手は聖王オリヴィエだろう?正直に話してはくれまいか?」
アリシアは少し躊躇した後、物憂げな表情のまま、静かに口を開いた。
「‥‥‥皆さんには、黙っていてくれますか?」
「ああ、約束しよう」
予告通り、トーマ君とリリィさんの回。
過去に来た事には未だ気が付かず。高町家の面々の変わらなさ恐るべし。
***
セイン「セインと!」
ウェンディ「ウェンディの!」
セイン・ウェンディ「「突撃インタビュー!」」
ウェンディ「作者の都合により月イチでお送りしておりますこのコーナー、今回は原点に返るっスよ!」
セイン「って事は‥‥‥」
ウェンディ「今日のゲストは、今やアタシより出番の少ないヴィータさんっス」
ヴィータ「オイこら!」
セイン「もう隠そうともしないのか」
ウェンディ「vivid編になってから出番無いんだから、仕方ないっスよ」
ヴィータ「お前‥‥‥これ終わったら控え室まで来い」