***第40話***
《二人共、闇の欠片が現れたみたいだよ!向かってもらえるかな?》
エイミィからの通信。アリシアは俯き気味だった顔を上げ、リインフォースは表情を引き締め黒翼を拡げる。
「では、行くとしよう‥‥‥アリシアと呼んで問題無いだろうか?」
「はい。『アリシア』でお願いします。行きましょうか」
アリシアは微かに笑みを浮かべながら答えて虹色の魔法陣を展開。その姿が大人モードに変わる。
先に現場に向かっているはやてに合流すべく飛行する二人。
「アリシア。我が主は、未来ではどうしている?元気にされているのだろうか?」
リインフォースの不意の言葉に、少し戸惑う。もう今更かも知れないが、これ以上未来を知る事はあまり良いことではない筈。けれど、かつてフェイト達に教えてもらった事‥‥‥リインフォースがもうすぐ消えてしまうという事を思い出し、少しでも安心してもらおうと「はい」と答える。
「それはもう‥‥‥少し悪戯が過ぎますけど」
「そうか。ならば、心残りは無い‥‥‥分かっている。自分がもう、長くはない事は。‥‥‥我が主には、まだ黙っていてくれるか?」
アリシアは戸惑いの表情は変えず「勿論です」と答える。既に死期を悟っているリインフォース。かつての、聖王として『ゆりかご』に向かった自分の姿と重なって見えた。
「そうか。ありがとう、アリシア。それと‥‥‥もう一つだけ、頼まれてくれるか?」
空中で止まり話すリインフォースに、ライゼと共に向き合ったアリシア。「私に出来る事でしたら」と、少しの間付き合う事にした。
***
二人が現場に着くと、はやてが大量の欠片達と向き合っていた。
「遅れて申し訳ありません、我が主」
「大丈夫や。一気に行くよ!」
はやてがリインフォースとユニゾン。その騎士甲冑が変化していく。剣十字の杖と夜天の書を手に、黒翼を拡げたはやてがエンシェントベルカの魔法陣を展開したところで、ある事に気が付いた。
「あれ?誰か戦っとるよ。ほら、あそこや」
アリシアははやてが指し示す方向を見る。もし闇の欠片の同士打ちだったとしたら、それ自体は珍しくも何ともない。闇の欠片はそれ自身以外は全て敵と判断する傾向がある。だから、はやても普段ならば気に止める事もなく動いている筈。だが、目の前のそれは若干様子が違っていた。
「やっぱり一対多数になっとる。正義の味方としては、助けに行かなアカンよね」
周りの闇の欠片を蹴散らしながら近付くはやて。その後を追うアリシアには、多数を相手にしているのが誰かは遠くからでも直ぐに分かった。
「誰だか知りませんけど、手伝います!」
叫んだはやてに「済まない、助かる」と答えた人物。黙ったままのアリシアと共にその人物と背中合わせになって、周りの欠片達と対峙する。
「ほな、行くよ!『ブリューナク!』」
多数の魔力弾を放ち次々と迎撃していくはやてを背にして、前方へと飛び出したアリシアが両腕の拳に魔力を纏い、闇の欠片を相手にする。
そのアリシアが戦う様子を時々チラチラと見ながら、その人物が構える。
「『旋衝破』」
その人物は向かって来た魔法弾を全て受け止め、投げ返す。飛び上がり、アリシアと同様格闘で、周りの闇の欠片を相手にしていく。
アリシアも、欠片を相手にしながら彼の事をチラチラと見る。
と、彼と目が合う。戦闘中で気不味いのもあって直ぐに目を反らして、目の前の欠片に集中する。
(貴方も欠片?それとも、私達と同じ?‥‥‥‥‥‥クラウス)
そう。アリシアが、オリヴィエが片時も忘れる事は決して無かった、『覇王』クラウス・G・S・イングヴァルト。自我も確りしているよう。
愛しさと、後ろめたさ。それに、もうかつてのオリヴィエではないという現実。どう接していいか悩み戸惑うアリシアに、クラウスの「危ない!」という声が響く。
ハッと我に返ったアリシアの目の前には、フェイトの姿をした欠片が降り下ろしたザンバーと、それを受け止めているはやてのシールド。
「集中せなアカンよ、アリシアちゃん!」
「あっ、ありがとう」
礼を言って一先ず気を取り直し、虹色の魔法陣を展開するアリシア。クラウスの視線を気にしながら、魔力弾を形成しつつ欠片達を片付けていく。
***
「助けて頂いて、ありがとうございます。私は、クラウス・イングヴァルトと申します。聖王連合とは同盟関係にありますシュトゥラを治めるイングヴァルト家の者です」
はやてへの挨拶はそこそこに、アリシアに向かって話すクラウス。「あの‥‥‥」と真実を話すべきか悩み口籠るアリシア。
「どうかなさいましたか?その瞳と虹色の魔力光‥‥‥貴女も、聖王家の方ですよね?それで、少しお聞きしたい事があるのですが」
クラウスにしてみれば、疑問点だらけだったのだろう。紅と碧の虹彩異色の瞳に、虹色の魔力光。アリシアはどう見ても聖王家の血統に違いない。そこに、オリヴィエと同じエレミア仕込みの格闘術。更には、彼女と同じ癖や仕草。
「此処ではちょっと‥‥‥。落ち着ける所へ移動、しませんか?」
アリシアは笑顔を作り、そう答えて近くの岩場に降りる。クラウスもその後を追って降りていく。その更に後に、「んー」と悩みながらはやてが付いていく。
「なあ、リインフォース。アリシアちゃん、あの人と少し距離近いんちゃうか?」
《事情が有るのでしょう。それよりも、我が主。彼も、闇の欠片です》
はやての疑問をはぐらかしつつ答えるリインフォース。「リニスさんみたいなもんやろか?」と首を捻るはやてに《恐らくは》と一言答え、口を閉じた。
そんな、半ば空気と化しているはやてとリインフォースはさておき。降り立ったクラウスは、アリシアとの距離が思いの外近い、と思いながらも手頃な岩に腰を下ろして再度疑問を投げ掛ける。
「色々とお聞きしたい事が有るのですが、貴女はどうしてエレミアの技を使われるのですか?」
「それは‥‥‥」
「それに、貴女はオリヴィエに似ている。‥‥‥あ、いえ、ゼーゲブレヒト家のオリヴィエ陛下とは幼い頃から懇意にさせて頂いていたので」
真実を話して、果たして信じてもらえるのだろうか。アリシアは唇を噛み、涙を必死に堪える。抱き付いて泣き出したいのを必死に我慢しながら、無理矢理笑顔を張り付けて、漸く「私は‥‥‥」と一言絞り出した時だった。
「覇王クラウス・イングヴァルト。彼女は、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトだ」
横から入ってきたリインフォースの言葉に思わず顔を上げるアリシアと、驚くクラウス。
我慢しきれなくなって両手で顔を覆って涙を流すアリシアに、リインフォースは続ける。
「覇王は『みんな』には入らないだろう?少しくらい、我が儘を言ったらどうだ、ゆりかごの聖王?」
「けど‥‥‥私には‥‥‥」
涙で頬を濡らしながら顔を上げたアリシアを、そっと抱き寄せるクラウス。彼女の頭をポンポンと軽く叩いた後撫でながら、「詳しく話して、もらえないか?」と優しく語りかけた。
***
所変わって、高町家の道場。
「美由希さん‥‥‥強過ぎる」
床にへたり込んでいるトーマに、「大丈夫?」と寄り添うリリィ。
「シグナムさんに鍛えてもらってるって言うから、どれだけかと思ったけど。まだまだだね」
トーマと違い息も切らさずに、笑顔で答える美由希。なのはの姉というには若すぎるその容姿に若干の違和感を感じながらも、立ち上がって「まだまだ、もう一本お願いします!」と構えるトーマ。
「元気良いね。じゃあ、もう少し相手してあげる」
美由希はニヤリとして再び構える。
トーマとリリィが合流出来るのは、もう少し先になりそうだ。
未だに気付かないトーマとリリィはさておいて。
思わぬ再会となったアリシアの、様々な想いを胸にアリシア×クラウス編のスタート。