過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第48話

***第48話***

 

「エレミア‥‥‥ですか」

 

「ええ。私の‥‥‥オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの親友。その子孫です」

 

夕刻。場所は、聖王教会の一室。アリシアはいつも通りイクスの具合を見に来ている。二人の足元には、魔法陣。遮光カーテンで隠されている室内だが、微かに虹色の魔力光が漏れている。その光が収まると同時に、イクスの胸に当てられていたアリシアの左手が離れ、「ふうっ」と息を吐く。

 

「‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥今日は、此処までですね」

 

「もう‥‥‥もう充分ですから。余り無理をしないでください、オリヴィエ」

 

肩で息をしているアリシアの左手に手を添えて、イクスが心配そうに見つめる。呼吸を乱しながらも、アリシアは彼女に笑顔を向ける。

 

「大丈夫、です。約束しましたから。『イクスを必ずその呪いから解放する』と」

 

「けれど、オリヴィエ」

 

不安そうなイクスに、尚もアリシアは笑みを向ける。

 

あれはイクスを助け、程なくしてからだった。『イクスが次に眠りに就いたら、次は何時目覚めるか分からない。もしかしかたら、もう目覚めないかも知れない』と知り、アリシアの取った行動は簡単だった。その身を賭して、忌まわしき鎖を断ち切りにかかった。その結果として現状に至り、その代償に右腕の残りの部分を殆んど失った。

だが、そんな半端な状態でアリシアが満足出来る筈もなく、今もこうして自分の魔力を送り、呪いを全て取り除こうと努力している。ただ、その一回一回で魔力の殆んどを使い果たす為、治療は月に1~2回が限度。

 

「大丈夫です、イクス。私は‥‥‥みんなに笑顔でいて欲しいだけなんです。例えそれが私のエゴだとしても」

 

「でしたら、私はもう充分幸せです。起きていられる時間だって、この数ヵ月でかなり長くなりました。ですから、もう無理はしないでください、オリヴィエ」

 

感極まってアリシアを抱き締めるイクス。その瞳にうっすらと光るものが浮かんでいる。アリシアはそんなイクスの頭を左手で撫でて、漸く落ち着いてきた呼吸を整えながら話す。

 

「ですから、これは私のエゴなんです。イクスが普通の生活が出来るその日まで続く、私のエゴ。だから‥‥‥イクスは笑っていてください」

 

言い切って、アリシアは椅子にもたれ掛かり、そのまま瞳を閉じる。魔力を使い切って力尽き、「すぅ‥‥‥すぅ‥‥‥」と寝息をたてるアリシアの手に、イクスは静かにその手を重ねる。

 

「コンコン」、とノック音が聞こえ、コロナが遠慮がちに中へと入ってくる。

 

「イクス、アリシ‥‥‥寝ちゃってる?」

 

「はい、この通り。インターミドル、頑張って下さいね、コロナ。私も、応援に行きます」

 

アリシアの手を握ったままでニコリと微笑むイクスに、コロナも微笑みながら、しかし力強く「うん」と頷いた。

 

***

 

翌日は、学校は休み。午前から何時ものようにチームナカジマの四人、ノーヴェの計5人が集まり、何時よりも気合いの入った練習を終えた15時過ぎの事。

 

「コロナ、魔力負荷はどう?」

 

「うん、アリシア。かなり慣れてきたよ。他のみんなは今日初めて付けたみたいだったから、大変そうだった」

 

ヴィヴィオやコロナ達にとって、今が一番魔力が伸びる時期。意図的に常時魔力負荷を掛ける事によって、その魔力を更に伸ばそう、というノーヴェの考えもあって、チームナカジマの四人は両手足首に魔力バンドを付ける事になった。‥‥‥ただ、それは前々からアリシアも考えていた事で、合宿後直ぐにコロナには付けてもらっていた。その事を他の3人とノーヴェが知ったのは今日の事。既に先を行っていたコロナに、ヴィヴィオ達が更に闘志を燃やしたのは想像に難くない。

 

「うん。それじゃ、始めるよ。それ、外して良いから」

 

アリシアの指示に、コロナは魔力バンドを外す。負荷が無くなり、身体が思った以上に軽くなる。

 

「身体が、軽い!」

 

「うん、コロナ。先ずは、始めに言っておく事がある。でも、その前に‥‥‥」

 

話すアリシアの表情は、真剣そのもの。コロナの表情も、直ぐに引き締まる。

 

「先ずはおさらい。ゴライアス、出してみて?」

 

「『クリエイション‥‥‥!創主コロナと魔導器ブランゼルの名のもとに! 』」

 

コロナの足元に魔法陣が展開。魔力が練られていき、ゴーレムが形勢され始める。そうしてゴライアスが現れる迄の時間、18秒。

 

「うん。かなり速くなったね。いい感じだよ。この分なら、詠唱破棄もそう遠くないかも」

 

「うん!」

 

嬉しそうに頷くコロナ。直後、アリシアの雰囲気が変わり、コロナがビクッ、と震える。虹色の魔法陣を展開して大人モードへと変わったアリシアが、左の拳を握り締めてゴライアスに視線を向ける。

 

「ゴライアスの操作はもうかなり上手くなってるよ。けどね、コロナ。それだけじゃ、駄目」

 

瞬間、アリシアの輪郭がぼやける。コロナが気が付いた時には、ゴライアスは粉々に砕け散り、左拳を突き上げたアリシアの姿が目に入る。

 

「うそ‥‥‥」

 

「上位選手なら、ゴライアスを砕くのは難しくない。だからコロナ。ゴーレムに頼らない、コロナ自身のパワーアップが必要だよ」

 

コロナは唇を噛み締める。パワーが有る訳でもないし、技術やスピードだってアインハルトやヴィヴィオには及ばない事は、自身が一番良く分かっている。

 

「でも、アリシア‥‥‥」

 

「コロナ。私を頼ったって事は、その方法も分かってるんだよね?」

 

確かに、考えてはいた。自身の身体にゴーレムの腕などの一部分を創成して一撃の威力を格段に上げるマイストアーツ、それから‥‥‥。

 

「でも、アリシア。私は‥‥‥他のみんなみたいに、特別じゃない‥‥‥」

 

上手く出来る自信は無い。他のみんなとは違う。コロナは、競技選手の中でも極々普通。所謂『普通の』少女である。他のみんなのような、特別な存在ではない‥‥‥そう思っていた。

 

表情にも陰りが見え俯くコロナの肩を、アリシアはポンッ、と叩く。

 

「良い?コロナ。確かに、ヴィヴィオは私の、オリヴィエのクローンでエースオブエースの娘かも知れない。アインハルトは覇王の子孫かも知れないし、リオは春光拳の宗家かも知れない。でも」

 

コロナが不安そうに顔を上げる。見上げたアリシアの表情は、変わらず真剣なまま。

 

「でも。コロナもそうだよ?貴女は‥‥‥この長い歴史の中で、あの聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの、たった一人の愛弟子なの。だから、もっと自信を持って」

 

呆気に取られていたコロナの表情が、徐々に変わっていく。その瞳に涙を滲ませながらも、決意の色が見て取れる。

 

「聖王の‥‥‥愛弟子‥‥‥」

 

「そうだよ、コロナ」

 

アリシアが離れ、ニコリと笑みを向けてくる。コロナは涙を拭って、両方の拳を握り締める。

 

「分かった‥‥‥」

 

「うん。それじゃ、改めて言っておく事がある。これから教えるのは、五体の完全外部操作と、エレミアの技だよ。この魔法は、自身の身体の崩壊と隣り合わせの、極めて危険な魔法。それだけは絶対に忘れないで」

 

「うん!」

 

今度は、コロナは再び力強く頷く。その様子に微かに笑みを見せたアリシアが、コロナに向かい合って構える。

 

「それでこそ、私の愛弟子だよ。私も、教えるからには全力全開。持てる全てを授けるつもりだから、覚悟してね?そして近い将来私を‥‥‥オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを越えてみせて!」

 

「はいっ!師匠!」

 

コロナも笑みを見せて、アリシアと向かい合う。いつかその日が来る事を信じて。

 

 

 




久々イクスたんが登場です。これから出番が増えていく予定。

コロナとアリシアの熱血指導がスタート。宣言通り、この章はコロナのターンです。

***
イリヤ「今回は突撃インタビューはお休みです。理由は、えっと‥‥‥」

ウェンディ「たっ、助けてぇ!待った、待ったッス~!!」
セイン「喧しい!逃げんな!大人しくしてろ!!」
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