自分では止められない、呪われた力。
怖かった。逃げ出したかった。消えてしまいたかった。そして何より‥‥‥助けて欲しかった。
―――イクスヴェリア―――
魔法少女リリカルなのはStrikers、始まります。
第55話
***第55話***
それは、1年前の夏の事。聖王教会。
「騎士カリム、ランスター執務官より通信が入っています」
「あら、ティアナから?」
シスター・シャッハが通信を繋ぐ。モニターに写っているのは、勿論ティアナ。
《お久し振りです、騎士カリム》
「久し振りね、ティアナ。今日はどういった要件かしら?」
ティアナの表情が、険しくなる。
《はい。古代ベルカ専門の考古学者ばかりを狙った連続殺人の件で》
「ああ、あの事件?」
最近世間を騒がせている、連続殺人事件。犯人はまだ捕まっていない。話振りからして、どうやらティアナの担当らしい。
《実は、その件でミッドに行く事になりそうなんです。この間の件もどうやら‥‥‥》
つい先日、ミッドチルダで放火殺人事件があった。確かに被害者は、古代ベルカ専門の考古学者。カリムが僅かだが顔を顰める。
「分かりました。此方もそれなりの警護を」
《お願いします。それと、一応ヴィヴィオにも》
カリムが「ええ」と答えて、通信は終了。シャッハが心配そうに訊ねる。
「騎士カリム、大丈夫でしょうか?」
「ティアナ執務官が担当ですから大丈夫だとは思いますが‥‥‥ヴィヴィオの警護はチンク達に。それから」
二人が話している所にコンコン、とノック音。「どうぞ」というカリムの声を待って入ってきたのは、大量の史料を抱えたアリシア。
「出来ましたよ、騎士カリム」
「ありがとう。所でアリシア、さっきティアナ執務官から通信がありました」
「ティアナから‥‥‥?」
特に驚いたりはしゃいだりはせず、淡々と話すアリシア。一方の、真剣な表情のカリムは続ける。
「ええ。例の連続殺人事件についてです。貴女に『気を付けるように』、と。それと、近々ミッドに来るそうです」
「はい」
アリシアは、普段はSt.ヒルデ初等科の3年生。だがそれと同時に、ここ聖王教会の御抱えの古代ベルカ専門家、という事になっている。只の殺人犯ごときが聖王女オリヴィエであるアリシアに勝てるとは到底思えないが、万が一、用心するに越した事はない。
「貴女に万が一の事があっては困ります。此方で警護を付ける事も出来ますが、どうしますか?」
聖王教会にとって『現人神』とも言えるアリシアに何かあっては困る。かといってあからさまな警護はアリシアも良しとはしないのも分かっている。
「大丈夫です‥‥‥と言っても警護を付けるんですよね?なら、せめて目立たないようにしてください」
苦笑いで答えたアリシアは、「では、失礼します」と一言発して部屋を後にする。見送って直ぐに、シャッハも部屋を出ていく。その背中を眺めながら、カリムは眉をひそめる。
(ティアナのお手並み拝見、程度で済む事件ならいいのですけれど)
******
(感じる‥‥‥すぐ近くに‥‥‥お願い‥‥‥気付かないで‥‥‥お願い‥‥‥)
******
「執務官、もう宜しいので?」
「ええ。必要な事は伝えたわ。ルネは向こうでの宿を確保しておいてくれるかしら?」
自身の現補佐、ルネッサと話すティアナ。現在、ミッドチルダに向かい移動中である。
「あの、聞いても宜しいですか?」
「ん?何かしら」
聖王教会と親密な事に驚いているルネッサだが、疑問点がもうひとつ。言うまでもないが。
「執務官、『ヴィヴィオ』とは?」
「ああ。先輩の子でね。ちょっと訳ありなのよ」
笑顔で話しているが、ティアナの瞳は笑っていない。ルネッサに『これ以上は何も聞くな』と、それが雄弁に語っている。
「‥‥‥分かりました」
表情を変えずに答えたルネッサ。「ごめんね」と言えない旨を謝るティアナに、「いえ」と一言。
「向こうに着いたら陸士108部隊に寄るわよ。地元部隊だし、色々協力してもらわないとね」
「分かりました。彼方の部隊長に話を通しておきます」
クスッ、と思わず笑みを溢すティアナ。ルネッサが疑問に見ていると、理由を話してくれた。
「その部隊長、親友のお父さんなのよ。昔からの腐れ縁でね。その子、今はレスキューやってるわ」
「‥‥‥もしや、あの『シルバーのエース』ですか?」
相変わらず表情を変えず話すルネッサに、「ええ。その子よ」と笑みを見せるティアナ。
「黙って会いに行って驚かせてやろうかしら。スバルと直接会うの、いつ振りかなぁ‥‥‥」
***
アリシアは、帰りのレールウェイに乗っている。その窓からは、海の方角にマリンガーデンが見える。
「海底遺跡‥‥‥か‥‥‥」
ふと呟いたアリシア。隣に座るノーヴェが気付いて、マリンガーデンを眺めながら話す。
「何だ?知ってる場所か?」
「え?‥‥‥ううん、そうじゃないんだけど。懐かしい雰囲気、って言うかね」
勿論、二人が言っているのは古代ベルカ時代の、という意味。かつてアリシアがオリヴィエだった頃の建造物の面影を残す海底遺跡。アリシアの心に留まるのも頷ける。
「そうか。後でヴィヴィオやコロナと観にでも行くか?」
「そうだね。あの二人、きっと喜ぶだろうし」
話している間に、レールウェイは遠ざかっていく。
***
その翌日。108部隊の舎内を歩くティアナとルネッサ。その隣を歩いているのは、捜査官であるギンガと、その補佐が数名。
「じゃあ、ルネは此処での指揮と連絡、宜しく。私と捜査官は此れから外回りに」
「では、ランスター執務官、行きましょうか」と言って他のメンバーと離れるギンガ。ティアナ、ルネッサと共に隊舎の外へと出る。
他の隊員が完全に見えなくなると、態度をガラリと替える二人。仕事上の節度あるそれから、長年の友人の表情へ。
「ティアナ、久し振りね!」
「はい。ギンガさん、お元気でしたか?」
「ええ、お陰様で相変わらずよ」
その余りにフランクな物腰に、やや着いていけていないルネッサ。「あの‥‥‥」と言い掛けると、ティアナが答えてくれた。
「ほら、昨日話したでしょ?ここの部隊長の娘さんで、スバルのお姉さんのギンガさんよ」
どうやら納得いったらしいルネッサに、ギンガは改めて自己紹介。隊舎の時の真剣な表情だった先程迄とは違い、今は笑みを浮かべている。
「改めて。ギンガ・ナカジマよ。ティアナとは昔からの縁でね」
「宜しくお願いします、ナカジマ捜査官」
ルネッサは相変わらず堅苦しい。「ギンガで良いわよ」と流石に苦笑いのギンガにもやはり、「では、ギンガ捜査官」とその姿勢は崩さない。
「ルネはもう少しフランクになっても良いと思うわよ?まぁ、それがルネのいい所でもあるけど」
「は、はぁ‥‥‥」
ティアナの言葉にも、少し困った様子のルネッサ。
そんな他愛ない話をしながら歩いていると、湾岸に子供達が集まって座っているのが見える。どうやら、社会科見学らしい。
「よう、執務官。久し振りだな」
‥‥‥と、後ろから声をかけられる。振り向くと、そこに居たのは港湾警備隊司令の、ヴォルツ・スターン。
「ヴォルツ司令!お久し振りです。今日はこんな所でどうされたんですか?」
「おう。ちょっとした現場監督でな」
ヴォルツが指し示したのは、先程の社会科見学。どうやらレスキューの仕事だったようだ。となれば、出ているのは当然ながら‥‥‥。
「じゃあ、凄いダッシュを見せてくれたお姉さん、所属と名前をお願いします」
「港湾警備隊防災課・特別救助隊セカンドチーム防災士長、スバル・ナカジマ一等陸士です!」
さーて、ここでイクス編開始です。アリシアとイクスはどのような百合っぷりを見せてくれるのか。