過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第75話

***第75話***

 

それは、無限書庫での一件の翌々日の出来事。アリシアは浴槽に浸かり「ふぅ~」と声を洩らし伸びをしている。朝風呂ならぬ昼風呂。

 

ファビアともっと話をしたかった所だったが、あの後タイミング悪く聖王教会からの依頼が入ってしまい、後ろ髪を引かれる思いで一人離脱。徹夜で漸く先程仕事を終わらせて今に至る訳だ。因みに、今入っているこの風呂は勿論聖王教会の浴場。

 

無事エレミアの手記も見付かり、オリヴィエが『ゆりかご』に乗った後、機密の保護とオリヴィエの決心を鈍らせないようにする為エレミアが軟禁されていた事を初めて知った。戦争を終わらせる為とはいえ、自分の決断は最も身近な、最も大切な人達の心を傷付けてしまっていた事実は辛かった。決して覚悟していなかった訳ではないが、いざそれを言葉にされると、ナイフをグサリと突き刺されたように心が痛い。それが、聖王戦争とは関係ない今の末裔、アインハルトやファビアを苦しめていたのだから尚更だ。

 

(独りよがり‥‥‥でしたね‥‥‥)

 

過ぎ去った過去は取り戻せない。後悔は消えない。救いな事は、アインハルトもファビアも祖先の記憶は祖先の記憶と理解して、前を向き始めてくれた事。

 

(クラウス、エレミア、クロ‥‥‥出来る事なら、今すぐ謝りたい。あなた達はあんな私を愛してくれたというのに、私は‥‥‥)

 

お湯に潜り、天井を見上げブクブクと泡を吐く。苦しくなって水面に顔をだし、大きく息を吸う。

 

「ふーっ」

 

吸い込んだ息を吐き、熱くなってきた目頭を左手で押さえる。込み上げてきた感情を我慢出来なくなって、声を押し殺し涙を流す。

 

(クラウス、私は‥‥‥私には、やはり‥‥‥)

 

 

暫しの沈黙。どのくらい経ったか。お湯の快適さもあったのだろう。寝不足と相まって、気持ちとは裏腹に急激に睡魔が襲ってくる。

 

(駄目‥‥‥眠い‥‥‥)

 

そんな、今当に眠りに落ちようとしていたアリシアの目を覚まさせたのは、地震。地震大国の日本にある海鳴ならば、其ほどは驚かない。ただ、ここはベルカ自治区。地震など滅多にお目にはかかれない。故に、アリシアから眠気を奪うには充分な出来事。

 

「‥‥‥っ、ライゼ!」

 

アリシアは咄嗟にライゼを呼び、肩に乗せる。揺れ事態は今直ぐに逃げなくてはならないレベルではないが、油断はできない。

そして、気付いた。それが只の地震ではないことに。

 

(まさか‥‥‥この次元ごと揺れて‥‥‥)

 

こうしてはいられない。勢いよく浴槽から出て、セットアップと同時に大人モードを展開。身体を拭いている時間も着替える時間も惜しい。真っ直ぐにイクスの元へと飛んでいく。

 

だが、途中で停止。様子がおかしい。次元全体が揺れているのかと思ったが、どうも揺れていたのはアリシアの周りほんの半径20メートル程だけだった。教会本体の方には何の影響も無いばかりか、揺れてすらいない。

代わりに異変が起きていた。ほんの微かで今にも消えてしまいそうなので危うく見過ごしてしまう所だったが、魔力を感じる。

 

(っ!?‥‥‥外!)

 

慌てて庭に出るが、それらしき姿は見当たらない。それとは別に、先程の次元震に気付いたオットーがアリシアの姿を見付け駆け寄ってくる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「私は大丈夫。それよりオットー、イクスは!?」

 

オットーによれば、イクスやカリムには特に問題はなく、教会の方も被害は無いらしい。とは言っても次元震なので後で何が有るか分からない為、一応クロノにも報告は入れたようだ。流石はオットー、行動が早い。

 

「そっか。それなら良かった。でも‥‥‥」

 

「何かありましたか?」

 

浮かない表情のアリシアに、オットーが心配そうに窺う。視線は動かし探しながら、アリシアは「うん」とだけ頷く。

 

(‥‥‥ママ)

 

ほんの僅か。本当にほんの微かだが、感じていた魔力は確かにプレシアのものだった。アリシア自身、生き返った時に虚数空間から脱出したうえに時間も飛び越えて来た。それに、あの時プレシアは『後から行くから』と言い残している。それがアリシアに一人脱出する決心をさせるための嘘だった事は頭では理解はしている。だが、こうして魔力を感じてしまった以上、弥が上にも期待してしまう。

 

「確かに感じたんだ。ママ‥‥‥プレシア・テスタロッサの魔力を」

 

ただ、二人で探し回ってみたが肝心のプレシアの姿は何処にもない。もしかしたら気のせいだったのかも知れない。アリシアの表情は、徐々に落胆へと変わっていく。

 

「気のせい‥‥‥だったのかな‥‥‥」

 

その切なそうな様子に、オットーも掛ける言葉が見つからない。俯き歩く二人の視界に、あるものが映る。オットーが近付いて、抱き上げる。

 

「野良猫‥‥‥でしょうか?可哀想に」

 

オットーが抱き上げたのは、山猫だった。温もりは急速に失われていっている。今まさに、死んでいっている所だった。

 

「もう少し早く見付けてあげられれば良かったのですが‥‥‥オリヴィエ陛下?」

 

アリシアの表情が変わっている。先程までの落胆したものが、驚愕の色が浮かんでいる。

 

「オットー、その子‥‥‥ちょっと抱かせて」

 

「え?‥‥‥はい」

 

オットーから山猫を渡されその胸に抱く。間違いない。この山猫からだ。もう殆んど流出してしまい残っていないが、ほんの僅かだけプレシアの魔力が残っている。

 

「この子‥‥‥!」

 

アリシアは突然魔法陣を展開。辺りが虹色に染まる。「なっ、何を!?」と驚くオットーには視線を向けず、アリシアは集中を崩さない。

 

「時間がない‥‥‥この子が死に切ってしまう前に!」

 

アリシアから魔力が溢れ始める。魔法陣は一層輝きを増していく。オットーも途中で気付いた。この魔法陣は‥‥‥。

 

「オリヴィエ陛下、いけません!そんな考え無しに使い魔になど‥‥‥」

 

「いいから!!」

 

忠告は聞かずに怒鳴るアリシア。オットーは「ですが‥‥‥」と続けようとはしたものの、何か考えでもあるのかも知れないと、結局見守る。

 

「間に合って‥‥‥お願い‥‥‥『我が元に、契約の証印を。契約の元、新たな命と魂を』」

 

アリシアの魔力が、猫に集まっていく。猫の身体が虹色に輝く。

 

「この力を糧に‥‥‥新たな命をここに!」

 

瞬間、アリシアの身体から虹色の魔力が猫に向かい流れ出す。普通の使い魔契約では考えられない大きさ。「お止めください!」と止めようとしたオットーを、左手を挙げ制止する。

 

「大丈夫だよ、オットー。これでいいの」

 

幾らアリシアが聖王オリヴィエで膨大な魔力を抱えていると言っても、その3分の1もの魔力を使い魔に割くなど、通常ならば有り得ない。そこまで深い関係が無い筈の野良猫が、アリシアをそうさせる理由は。

 

山猫の姿は、アリシアの魔力を得て人型に変わる。確信を持ったアリシアの瞳に、懐かしい姿の使い魔が映る。

 

「‥‥‥起きて。起きて、リニス」

 

声に気付いてゆっくりと瞳を開けた使い魔‥‥‥リニス。状況が全く理解出来ていないらしく、ポカンと呆けたまま。

 

「‥‥‥リニス」

 

「‥‥‥フェイト?フェイトですか?少し成長しましたか?‥‥‥あれから、どのくらい経ったのでしょう?私は確か‥‥‥」

 

アリシアはニコリと、微笑む。やはり間違いは無かった。次元震の原因は分からないが、運良く、と言うべきだろう。プレシアに契約を切られた直後のリニスが飛ばされてきたのだ。

 

「大丈夫。ママはもう居ないけど、代わりに私がリニスと契約した」

 

リニスは一事停止。その言葉の意味をよく噛み砕き飛び起きてアリシアの両肩を手で押さえ、怒鳴り始めた。

 

「いけませんよ!フェイトは既にアルフと契約しているんですよ!それを、こんな‥‥‥こんな必要以上の魔力を私に割くなんて‥‥‥‥‥‥?」

 

と、そこまで発言し、リニスは停止。笑みを向けているアリシアの違和感にやっと気付く。

 

「‥‥‥『ママ』、ですか?『母さん』ではなく?それに‥‥‥貴女のこの魔力‥‥‥貴女‥‥‥フェイト、ですよね?」

 

「えっと‥‥‥待ってて。そのフェイトを今から呼ぶから」

 

言葉の意味が理解出来ず、リニスは考え込んで再び停止。そうしている間に、アリシアはモニターを開く。

 

《‥‥‥アリシア?どうしたの?何かあったの?》

 

「うん、フェイト。ちょっと会って欲しい人がいるの」

 

二人の会話で、リニスはハッと我に返ったらしい。合点はいかないが、驚きの表情。

 

「‥‥‥アリシア!?どうして!?アリシアは確かにプレシアがポッドの中に‥‥‥」

 

その声で気付いたらしく、モニターの向こうで表情が固まっているフェイト。ただ、その瞳からは涙が溢れている。

 

《うそ‥‥‥リニス‥‥‥?リニス‥‥‥なの?》

 

振り返り、モニターに映るフェイトを見つめるリニスは震える手を伸ばす。

 

「フェイト‥‥‥?まさか、フェイトなんですか?」

 




賛否両論あるかと思いますが、当SSではリニスさんはアリシアの使い魔として戻ってもらいました。感動云々は兎も角、アリシアの奔放さにリニスさんが振り回される事うけあいです。

次回から新章。これ迄殆んど出番の無かったリオちゃんの章ですね。

***

セイン「ところでさぁ」

イリヤ「え?」

セイン「アタシらのコーナーはまた休みなの?」

イリヤ「えーっと、『来月になったらやるby作者』だって」

セイン「適当だなぁ‥‥‥ま、アタシはこれ以上別の原作のキャラが出なきゃ何でもいいけどさ」

イリヤ(うーん、作者は今後も出す気満々とは言えないなぁ)
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