ーーアインハルト・ストラトスーー
魔法少女リリカルなのはstrikers、はじまります。
第7話
***第7話***
少女は夢を見ていた。記憶の中でも一番悲しい夢を。力が足りなかったせいで、弱かったせいで大切な人を止められなかった。救えなかった、あの夢を。
そうして夢から覚めた少女の瞳から流れている涙。
いけない。もう8歳だというのに。管理局のエースオブエースは、自分と同じ歳の頃には凶悪で強大なロストロギア事件を立て続けに解決していたそうだ。
もっと強くならないと。あの夢のあの人よりも、もっと。
碧銀のツインテールを揺らして、少女はSt.ヒルデ魔法学院に通う支度を始めた。
今日に限っては、授業も上の空。クラスメイトにも「どうしたの?」と心配される始末であった。
今日に限っては、朝から『あの時』の無念と後悔が頭を巡ったままであった。
放課後。いつものように敷地内にある共同訓練広場に来た少女は
、いつものように広場の端で、記憶の中にあるその格闘術の型を始めた。
記憶の中のものにはまだまだ遠く及ばないそれではあったが、少女の歳を考えたら充分にある威力とキレ。
まだ、だ。もっと強く。もっと速く。
少女は足元から力を練り上げ、それを拳にのせて打ち出す。
ふと、少女は自分をじっと見つめる視線に気が付く。
金色の綺麗な髪。目に掛けられた眼鏡には、度が入っていない。余計な飾りの付いた普通と違う形状のそれは、どうやらデバイスのようであった。
眼鏡の少女は視線に気が付いたらしく、ゆっくり近寄る。
「綺麗な瞳‥‥‥虹彩異色なんて珍しいね」
そう語った眼鏡の少女は、どうやら2つ3つ年下のようだ。
「ありがとうございます。その眼鏡、デバイスですか?」
「うん。目が生まれつき弱くって。紫外線対策。……断空拳、だよね、今の」
金髪眼鏡の少女の言葉に、ツインテールの少女、アインハルト・ストラトスはドキリとして、答える。
「なっ!どうしてそれを!」
「ん?ちょっと知ってただけ」
そう返した少女はニコリと笑みを浮かべる。
ちょっと知ってる、何て事があるのだろうか。少なくとも、8年間生きてきた中で、『覇王流』を知っていた者は誰も居なかった。それを、目の前の少女が知ってる。
「あなたは何者ですか?どうして『覇王流』を知ってるのですか?」
「アリシアだよ。アリシア・テスタロッサ。あなたの名前は?」
「……アインハルト・ストラトスです」
一度止まった運命の歯車は、再び回り始めるーー
ーーー遡ること数時間前ーーー
「お別れはもうええん?」
「はい。長くなっても辛くなるだけですから」
はやてとアリシアは海鳴に来ていた。お世話になった神咲那美と久遠にお礼と別れを言って、これからハラオウン家に向かう所である。
「しっかし神社にお世話になっとったんか。アリシアちゃんの巫女服姿見てみたかったわ」
「からかわないでください」
少し寂しそうな笑顔で見送ってくれた那美と、今にも泣きそうだった久遠。落ち着いたら遊びに来よう。たった半年ではあったが、アリシアは感謝と寂しさを抑え、俯きながら道を少しずつ歩く。
「さて、着いたよ」
はやての言葉にアリシアは顔をあげる。目の前には高級マンション。どこの部屋だろうと思っていたところに再びはやて。
「あ、ひとつの階全部買い上げとるから探す必要ないよ」
どうやらフェイトは今お金持ちの家のお嬢様だったようだ。リンディ・ハラオウンはおおらかで優しい人物だというし、少なくとも辛い思いはしていないのだろう。アリシアは安堵する。
扉の前まで来るとガチャリ、と向こうから開けられた。
「いらっしゃい。久し振りね、はやてさん」
孫がいるとは思えないリンディ・ハラオウンが2人を出迎える。
「お久し振りです、リンディ提督。今日はフェイトちゃんの代理で来ました。で、この子が」
「初めまして。アリシア・テスタロッサです」
少し緊張して答えたアリシアに、笑顔を向けるリンディ。
「初めましてアリシアさん。『フェイトの母親』のリンディ・ハラオウンです。立ち話も何だから、2人とも上がってちょうだいね」
リビングに通された2人にアルフがお茶を運んで来る。
「はやてが家に来たのも久し振りだな。エイミィは今買い物行ってるよ。そんで、そっちのが‥‥‥」
アルフは心なしか睨むようにしてアリシアを見ている。
「アリシアです。あの、あなたは?」
「あたしはアルフ。フェイトの使い魔だ。あんたには‥‥‥後で話すことがある」
アルフはやはり機嫌が少し悪そうに言う。「まあまあ、アルフ」と宥め、リンディは話を始める
「フェイトから聞いてるわ。フェイトがアリシアさんの保護者、私が後見人、て事で良いのよね?」
「はい。それと、アリシアちゃんがオリジナル、というのは管理局には伏せてもらいたいんです」
「それもフェイトから聞いてるわ。理由も理解できます。でもそれだけの為に来たのではないのでしょう?クロノに半休まで取らせてるんですし」
アルフにアリシアと少し席を外すよう頼んだはやてとリンディ。そこにクロノが加わり、はやては話を再開する。
「さて。六課後見人のお2人にお話ししておく事があります……」
***
リビングからベランダに出たアルフとアリシア。暫くは無言だったが、アルフが口を開いた。
「なあ、アリシア。あんたに罪がないのは頭では分かってるんだ。でもさ、アタシはプレシアがフェイトにした事を許せないし、その原因になったアリシアもまだ許せないんだよ。だからさ、すぐには自然に接する、なんてのは無理だ。それだけは分かって欲しいんだ」
昔を思い出し、少し辛そうに話すアルフ。
PT事件を知って以来、自分のせいでフェイトに辛い思いをさせてしまった、と考えていたアリシアも自身の思いを口にする。
「ごめんね、アルフ。プレシアママや私のせいで。でも私が今フェイトを妹として愛してるのだけは信じて欲しい」
「分かったよ、アリシア。アタシも自然になれるように頑張るよ」
アリシアが「うん」と返事をしたのを最後に、そのまま2人は口を閉ざした。
ハラオウン家からの帰り道、翠屋でケーキを買い、六課隊舎に戻った2人。帰りに月村家にあるミッド直通のゲートを使わせてもらう際、すずかがアリシアを見るなり「フェイトちゃんって子供居たの!?い、い、い、いつ産んだの!?」などと盛大に勘違いしていたが、それ以外は概ね予定通り。
「アリシアちゃん、一息着いたら聖王教会に向かうよ。アリシアちゃんに会って欲しい人がおるんよ」
「会って欲しい人、ですか?」
はやての2人の親友の写真の載っている『管理局アイドル特集』などというタイトルの雑誌を見ている振りをしているアリシアに、はやてが答える。
「せや。騎士カリム。六課の後見人の一人や」
***
聖王教会に来た2人はシスター・シャッハの出迎えを受けた。
「騎士はやて。騎士カリムが中でお待ちです」
「おおきに、シスター・シャッハ」
「こんにちは、シスター・シャッハ」
「これはようこそおいでくださいました、オリヴィエ陛下」
アリシアが挨拶を交わすと、シャッハは畏まりそれに答える。それを聞いて思わず「ア、アハハ」と苦笑いを浮かべる。毎日祈りを捧げる対象が目の前にいる、その反応は分からなくもないが、何というか。アリシアにしてみたら凄くムズ痒い。
「あ、あの。その『オリヴィエ陛下』っていうのはちょっと……私はあくまでも『アリシア』ですから」
「ですが」と引かないシャッハに、笑顔で「オリヴィエ陛下って言うの禁止です」と言って無理矢理呼び名を直させながら、3人はカリムの元へ歩みを進める。
騎士カリムとはどういった人なんだろう。秘書がいるくらいだし、貫禄のあるオジサンとか‥‥‥などと考えていると、やがてシスター・シャッハは1つの扉の前で止まる。
「騎士カリム。騎士はやてとアリシア様をお連れしました」
部屋の前でシャッハはそうカリムに伝えると、扉を開いた。
***
時空管理局首都中央地上本部。
なのはとシャーリーは報告書作成のため、データをまとめているところだった。軽快に叩かれるコンソールとは裏腹に、シャーリーは疑問を口にする。
「それにしてもよく分からないんですよね、レリックの存在意義って。エネルギー結晶体にしてはよく分からない機構が沢山あるし、動力機関としても何だか変だし」
レリックの画像が写し出されたモニターを見ながら、なのはが答える。
「まあ、すぐに使い方が分かるようなものならロストロギア指定はされないしね。あ、そっちはガジェットの残骸データ?」
「はい」
シャーリーはガジェットの残骸画像を順に表示していく。
なのはがその1つに目を止める。
「ちょっと止めてくれる?内燃機関の分解図のところ」
「これ宝石?エネルギー結晶か何かですかね?」
「ジュエルシード……私が魔法と出会った切欠になったロストロギアだよ。シャーリー、この部分を拡大して。何か書いてある」
ジュエルシードの組み込まれた右上の部分にプレートのような物がある。
「これ名前ですか?じぇい‥‥‥る‥‥‥?」
「ジェイル・スカリエッティ。ロストロギア関連を始めとして数えきれないくらいの罪状で超広域手配されている次元犯罪者だよ 。フェイトちゃんがずっと追ってるんだけど」
なのはは、「厄介な事件になりそう」と僅に顔をしかめた。
アインハルトさん(8歳)初登場。
作者はシスターシャッハが陸戦AAAだって最近知りました。
はやて「アリシアちゃん、何読んどるんや?」
アリシア「あ、はやて。『管理局アイドル特集』だよ」
はやて「あぁ、なのはちゃんもフェイトちゃんも美人やし有名人やから」
アリシア「はやては?」
はやて「は?」
アリシア「だからはやては?‥‥‥やっぱり胸の大きさの差?」
はやて「あー あー 聞こえないー」