やはり彼は合理的に生きている……はずである。   作:空宮平斗

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これだけ待たせて前編という有様。






『病は気から』なら『気は友から』 〜前編〜

 

 

 

 

 

翌朝、頭上で目覚まし時計が耳に鳴り響き、うっすらと目を開いた。

 

「んぅ……るさ…」

 

重い腕を伸ばしアラームを止める、たったこれだけの行動で謎の疲労感を感じるのは朝の特徴と言えよう。

 

「…………」

 

ゆっくりと上半身を起こして、ワンクッション置くがてらボーッとする。人によってはすぐに行動できる人もいるんだろうが、朝は弱い方だ。このボーッとする瞬間がないと起きられない。だが時間は止まってくれる訳もなく、もうそろそろ準備を始めないと遅刻してしまう頃合いだ。

 

「起きよ…」

 

そう意を決して立ち上がった時だった。

 

「おっ…と」

 

バランスを崩して、ベットに尻餅をついた。ただの立ちくらみかと思ったが違う。これは……あれだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして俺、鎌ヶ谷 研はこれまでの人生から得た様々な経験から、この事態の全てを察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪だな、これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

登校時の空には、うっすらと雪が降り始めていた。

 

息は白く染まり、道にはわずかにだが足跡が残る。まだ氷が張ってないということは、降り始めてまだそんな時間が経ってないということなのだろう。大事をとって自転車は使わなかったが、行きくらいなら使っても良かったかもしれないと少し後悔する。

 

「あー……」

 

無意味な声が溢れ、ふと昨日のことを思い出していた。

昨日、俺は久しぶり…………たぶん始めて女の子と会話をした。しかも美少女。少し前までの俺なら内心ウキウキしていたであろうが…実際のところ、女の子と話してみれば楽しいより緊張が勝るというを身をもって感じる羽目になった。ホント…疲れたわ。

 

「にしてもねぇ……」

 

そして、その美少女こと鎌ヶ谷 玲那と話しをした内容とは、彼女の兄である鎌ヶ谷 研と友達になるための方法についてだ。言わずもがな、この会話がいかにクレイジーかは分かっているつもりでいる。というか順序的に普通逆じゃね?お兄さんの方から仲良くなってから、妹さんに恋したからお兄さんどうすればいい?と聞く方がまだ自然じゃね?

…いや、それはそれでなんだけども。もし俺がそのお兄さんの立場なら殴りかかるけども。てかまず恋すらしてないわ。

 

 

…………話を戻そう。

彼女曰く『兄さんなら話しかけるだけで友人になってくれると思いますよ』という。それはどうなんだろうと俺は思ったが、彼女はしっかりと理由を述べた。

 

彼女の兄は非常に優秀な人らしく、故にあまり人が寄り付かない。だから話しかければ喜んで友人になってくれるというのだ。

 

「嘘を言っているようには見えなかった」

 

つまり彼女は本気でそう言ったのだ。そんな単純な方法で友達になってくれると。正直、信じきれない話だ。だが彼女ことは信頼できる。

 

しかしだ、いくら信頼出来ると言えど盲目に従えばいいというものでもない。そう考え、ひとまず彼がどんな人物かを詳しく聞いてみた。

 

まさか、それで3時間ほど彼女が語るとは思っていなかったが……

 

曰く、彼女の兄はいつもテスト全教科満点、運動神経抜群でセンスもあるためスポーツ、格闘技etc…何をやらせても大体はやってのける。それにご近所付き合いも良いらしく、挨拶しか交わしてないものの評判は驚くほど高いという(超簡略)。なにそのチート。

 

「持ってる奴はホントなんでも持ってんだな」

 

ここまでくれば羨ましいとか妬ましいを通り越して尊敬の念を覚える。でも友達はいないんだよな、俺と同じで。

 

「変な共通点だけはあるんだよなぁ…」

 

ラノベが好きとか、兄思いの妹がいるとかね!

はい、後者はそう思ってくれたらという俺の勝手な願望ですサーセン。小町はどちらかと言えば、兄使いが上手いって感じだし。

 

………あれ?兄使いってエロく聞こえね?しまった、これが思春期の罪か。

 

「おい、さっきからアイツなにブツブツ言ってんだ?」

「ほっとけよ、比企谷なんて」

「今アイツに構ってやる暇ねぇしさ」

 

やべ……登校中にアイツらと出くわすなんて。しかし俺にちょっかいをかけてこないとは幸運だ。なにか理由でもあるのか?まあ、俺には関係無いし、面倒にならないうちに気配消してさっさと学校へ行こ。

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、鎌ヶ谷め……チヤホヤされやがって、マジムカつく」

「だよなぁ〜。でもなかなか隙ねぇし」

「それな。いつも女子はべらせてやがる。調子こきやがって…」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

時刻は8:17。

 

いつも通りの時間だ。あとは授業が始まるまで読書と洒落込もう…といきたいが、そうも行かない。

 

俺は今日、後ろの席の転校生と友達になるのだ。のんびりとはしていられない。

 

 

 

 

 

 

 

待って……なにこの決意。なんか超恥ずかしくなってきたぞ、おい。

 

「いや……もうそういうのいいから……」

 

思わず小声で己の心にツッコミを入れる。なんかもう1人の僕がいるみたいだ。

 

とりあえず、まず俺がやることは観察だ。てかそれしかない。妹さんと面識がある…ということから会話を始めればいいのかもしれないが、生憎とそこから会話を膨らませられるほどのコミュ力はないし、もし逆の立場なら友好より警戒心が先に来る。小町は誰にも渡さん。

 

ひとまず俺は本を手に取り読んでるフリをする。そして耳にはイヤホンを軽くつけ、音楽はかけない。これで後ろの会話を怪しまれずに聴き取れる。

 

(まあ…まだ来てないんだけど…)

 

しかし準備万端しておくに越した事はない。時間は8:20を過ぎたところ、もう来ても良い頃合いだ。

 

「鎌ヶ谷くん来ないねぇ〜」

「「ねぇ〜」」

 

……ちょっと、御三方さん?転校生の席でスタンバるのやめてもらって良いですかね?本人引いて来なくなっちゃうでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冗談だったのだが、本当に転校生は来なかった。なんでも風邪を引いたらしい。

はぁ、マジかぁくそう俺の決意が水の泡になるなんてホント残念(棒読み)。いやぁもう話しかけたくて仕方なかったんだけど、俺にはどうにも出来ないから今回はパスということになるな。うん、ホント仕方ない!小町も納得せざるをえないだろう。いやー残念無念また来年……いや来年じゃダメだろ。

 

「鎌ヶ谷くんが……風邪……」

「もうダメ……世界が暗闇と茶色に染まって見えるわ、もう世界の終わりよ」

「アンタ…それ机だから……」

 

あと御三方のダメージが深刻なようで鬱陶しいです。

おかしいな、席すごく離れてるのに会話が聞こえてくるなんておかしいな、かまってちゃんかな?ていうか昨日転校してきたばかりだよね?なんかその反応、だいぶ前からクラスにいる人みたいな扱いじゃん。おかしいだろ、俺なんて3年経とうとしてるのに未だ認知されてるかすら怪しいのに。

くそ、友達になりたいと思っている相手でもやはり砕け散れと思ってしまう。いや俺は悪くない。全ては奴がイケメンなのが悪いのだ。

 

「……君達。ホームルーム中なんだから静かにしなさい」

 

御三方に先生はそうなだめる。またお前達か、と顔をしかめて。

 

「先生、そんなのは些細なことです」

「いや朝のホームルームって大切だからね。そんなこと言っちゃいけないよ」

「先生は鎌ヶ谷くんのことが心配じゃないんですか!」

「してるけど今一番心配されるべきは君達だと先生は思うよ。ホームルーム中に大きな声で私語しすぎ」

「大きな声で……私語…しすぎ……プッ…」

「なにワロてんねん」

 

あ、三人のペースに先生やられたな。

 

「んんっ……ともかく、君達に任せられないのは理解出来た」

 

仕切り直した先生の言葉に、三人がピクッと反応する。

 

「「「任せられない……とは?」」」

「………鎌ヶ谷くんの家にプリントを届けr」

「「「先生、優秀で真面目な生徒ならここにいますよ(キリッ」」」

「そうだねえ、一昨日までなら信じてたんだけどね」

 

なんだこの茶番。

 

「という事で、君達はうるさいからまた別の人にこっそりと頼むよ」

「「「誰ですか、別の人って?」」」

「……言うわけないでしょうが。ほら、もうこの話は終わり。1時間目の準備しろよー」

 

呆れる先生。まさか朝のホームルームでこんな事態になるなんて誰が想像しただろうか?

 

……転校生が休んだ時点でみんな割と予想してたか。

 

「あーあ。せっかく鎌ヶ谷くんの家に理由つけて行けると思ったのに〜」

「まあ、仕方ないでしょ。家に入れてもらえるわけ無いだろうし」

「でもさ、家の香りくらい堪能できてかもしんないじゃん?」

「「あー、それな!」」

 

 

……俺は今日、ひとつ大きなことを学んだ。

 

 

 

 

モテるって、恐怖と隣り合わせなんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。

 

 

「えっと……比企谷?くん?ちょっとお願いがあるんだけど」

 

「あ……はい」

 

その様子から先生が何を言いたいのかはすぐに予想がついた。

 

まあそれは良いとしてだ先生…なんで名前呼ぶ時に疑問系なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は17時になろうとしている。

 

「ここか……」

 

先生から教えられた彼の住所は、俺の家と学校のほぼ中間というなんとも絶妙な場所だった。なるほど…案外プリントを預けられたのは、ただ俺の影の薄いからというわけではないようだ。

 

……そうだと信じたい。

 

「で、なんで小町がここにいるわけ?オシャレしちゃって」

「それはコッチのセリフだよ。なんでごみぃちゃんがここにいるの?」

「俺はプリントを届けに…ちょっと待ってなんか俺のランクが悪い方へランクアップしてない?」

「あ、なんだプリントを届けに来ただけなんだ。そっか、うんうんよかった。ついにストーカー紛いのことに手を出したのかと勘違いしちゃった。許してね、お兄ちゃん!」

 

ここ最近、会話が罵倒から始まってる気がしてならない。そろそろ俺本気で泣いちゃうからね?いや声音とかで本気じゃないって分かるから許しちゃうけどさ。

 

「それで?小町の方は何用で?」

「まー、お兄ちゃんと似たようなもんだね。玲那ちゃんも今日休んだから、プリントを届けるついでに遊びに来たんだよ」

 

休んだって……

 

「あの子まで?なら遊びにきちゃダメだろ」

 

流石にそれは失礼というもの。

だが俺からそう言われるのはお見通しだったようで、「ちっちっちっ〜」と指をふる。可愛い。ピッピより断然可愛い。

 

「学校には風邪って言ったらしいんだけど…その実は!お兄さんの看病するという重大な使命の為に休んだのです!はぁ…玲那ちゃんホント健気でお兄さん想いなんでしょーう!と小町はたいへん感動しました!な・の・で、もうここは直接会っていろいろ話したいなぁ〜と思って連絡とったら『兄さんの具合も良くなったので来ていいですのよ』と言われて、小町ここに参上!って感じ☆」

 

我が妹ながらどうしてこう壮大な感じでそんな小さな出来事を語れるのだろうか?

あと彼女の真似はそれほど上手くない。ですのよって、のよってなんだよそんな口調じゃなかったろ。

 

「あら、お二人共…来てくれたんですか?」

 

家の前でだからか、流石に聞こえたらしい。

 

「玲那ちゃーん!」

「お、おっす」

 

あ、相変わらずまともな挨拶すらサラッとでてこない。

 

「わざわざ家まで…ありがとうございます」

「いいんだよ、別に。はいコレ」

「まあ、すみません。プリントと今日の授業分のノートまで」

「いえいえ困った時はお互い様だよぉ」

 

くっ、あれがコミュ力MAXの領域!今日のノートなんて俺、考えつかなかったぞ。いや正常な俺なら気付いたかもし…正常ってなんだっけ……?

べ、別にいいし!ノートなんて先生に見せようが何しようが最終的に自分一人が分かれば良いものなんだからな。

 

………あれ?今のは比較的まともな考えの筈なのに、俺がこう考えるとぼっち感がものすごく増すとはいったいどういう七不思議なんだろうかていうか七つもあるとか怖い。

 

「あれ?お兄ちゃんもあったよね」

「あ、ああ、そうだった。その、悪いんだが…」

 

そう言ってカバンからプリントを取り出そうと、チャックに手を掛ける直前だった。

 

「そうだ、八幡さん。丁度いいですから、ぜひ直接、兄に渡しては貰えませんか?」

「……マジですか」

 

いやまあ、そう言われるかもとは薄々思っていた。しかしなあ、心の準備というものが……。

 

「でも玲那ちゃん。お兄さん風邪引いてるんじゃないの?」

 

ッ!ナイス援護だ、小町!なんか若干棒読み感あるけど!

 

「そ、そうだぞ。流石にうつされるのは…」

「ふふん、心配ありません!私の看病もあって、既に風邪は完治しています!」

「おお!なら大丈夫だね!よっしゃあ、お兄ちゃん!もう乗るっきゃないっしょ、このビッグウェーブに!」

 

小町切り替え早すぎ。まるで仕組まれてると疑いたくなるくらいだ。

 

「お、おい、なんでお前が燃えてるんだよ…」

「いいからいいから。ちっちゃいことは気にしないのが長生きの秘訣だよ。玲那ちゃん、お邪魔しまーす」

「ええ、どうぞ」

 

俺の返答も待たずに小町に背中を押され、鎌ヶ谷家にお邪魔することとなった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

人の家とはどうしてこう表現できない香りがするのだろう。めったに他人の家に行かない俺はそんなこと少し考えてしまう。

 

「兄の部屋は二階へ行ってすぐのところです。それじゃあ、八幡さん。ファイトです!後押しはバッチリですから!」

「お兄ちゃん、朗報以外きく気はないからね!」

 

二人とも気合いを入れ、そう後押しをしてくれる。一方の俺は感謝はあれど、すこし困惑していた。

 

「あ、ああ……ありがとな」

 

そう………めっっっちゃ恥ずかしいからだ。この応援の意味は突き詰めれば『友達作り頑張ってね♪』なのだ。なんて特殊な状況、なんて情けない俺。しかも応援してくれる内の一人が当事者の妹ととか、俺どんな顔すればいいの?笑えばいいの?キモいの一言で両断されるのがオチですね分かります。

 

「ここがアイツの部屋……」

 

だがひがんではいられない。

ここまでお膳立てしてもらったのだ。

 

せめて事を上手く運んで、ドヤ顔してやるくらいがいいだろう。

 

そのためには出だしが肝心。

 

俺は覚悟を決めて、ドアをノックした。

 

 

 

 

「あ、あにょ……クラスメートの比企ぎゃやなんだけど…」

 

 

 

 

 

どうしようもう消えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





感想、評価、お気に入り、ありがとうございます。

書き直すとキリがねぇ……マジでスピード上げなきゃ。クリスマスまでに陽乃の問題まで解決したい。

まだ書いてないですけど、二人を繋げるためにシスターズが奮闘しております。次回でその事もまとめる予定です。

1/7/11 追加。
読み返して足してもいいかなってところほんのちょっと足しました。内容に変更はないです。

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