やはり彼は合理的に生きている……はずである。   作:空宮平斗

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感想のおかげで気付いたこともありました。感謝しております!
今回の話は難産でした。1万字超えてしまいすみません。
面白くなっていれば幸いです。






過ぎゆく日常に、彼女は鎌ヶ谷 研を見つける。

 

 

 

 

時は経ち、五年生になった。

 

私は研くん以外とも友好的に接することが出来るようになっていた。もっとも他の連中は私の表面しか見ていないでしょうから、やはり私が本当に信頼できるのは研くんと玲那ちゃんぐらいのものだけれど。

 

日常に変わりは無い。

奇跡的に研くんとはクラスがずっと一緒だったこともあり、休み時間も毎日が有意義だった。

研くんは私と一緒で読書好きなのもあって、おかげで会話の種は絶えることがない。

前の私では考えられないわね。会話なんてただのコミュニケーションの手段の一つで、苦手なものだと思っていたのに。

 

放課後は一番の楽しみな時間。

特に玲那ちゃんといっしょに料理をするようになったことが最近の一番の楽しみだ。

料理し始めたきっかけは、研くんの両親が帰ってこれない日が続き、彼が「晩御飯のレパートリーに困っている」と言ったのがことの始まり。彼も料理は出来る方ではあったようだが、大まかなものしか作れないらしい。

 

その時は、なんて幸運…そう思った。

自慢ではないが私は料理が得意だ。その得意なことで、彼の役に立てる。まさにうってつけの出来事だった。

 

それからは彼の家で料理を振る舞うのが日課になった。

料理する時は、玲那ちゃんに手伝ってもらいながらお喋りする。話すのはパンさんのこと、研くんのこと、それと…猫のこととか。ほとんどは玲那ちゃんから話を振ってくれる。猫のこと、私から話したことないのに、よく好きだって分かったわね。そんな素振り見せたはず無いわよね…。

 

もし私に妹が出来たとしたら、玲那ちゃんみたいな子が理想よね。率先してお手伝いしてくれるし、お話も上手だし……まあ、無理な話でしょうけど。

 

「悪いな、雪乃」

「いいのよ。私がやりたくてやっているんだから」

「雪姉ちゃん、次はどうすればいいかなぁ?」

「そうね、次は…これを切ってももらえるかしら」

 

研くんに礼を言われるまでもない。むしろこれからずっとしてあげたいと思ってるくらいだわ。

 

「雪姉ちゃん!今日は何作る予定なの?」

「クリームシチューと鮭のムニエルよ」

「豪勢だな…そういえば母さんがいい魚が買えたって言っていたが、それのことか。まったく…最近は特に忙しくて家に帰れていないくせに、食べ物は欠かさず買ってくるんだからな」

「たぶん研くんのお母様は、あなたたちに美味しいものを作ってあげたくて仕方ないんじゃないかしら」

「でも食材があったってな…それを活かせる奴がいないと話にならないだろ。雪乃がいなかったら、今頃ぜんぶ腐ってたかもしれないな」

「そ、そんな…大げさよ。研くんは器用だから、本気でやればすぐに私と同じくらい出来るようになるわ」

「……そうか?」

「そうよ」

「うん、お兄ちゃんなら断言できる!」

「…ま、やるとしても、やらないといけなくなってからでも遅くはないだろう」

「…え、ええ。それでいいと思うわ」

 

少しホッとした。

私が役に立てることが一つ減ってしまうかと思ったから。

でもよく考えればありえなかったわね。やらなくてもいいことを彼はしない。やってくれる私がいるのだから、わざわざ彼が動くことはない。

だいたい…私がやるまでは研くんがやっていたらしいから、その気になれば彼はすぐに料理上手になるわ。

 

「でも雪乃…ご飯作ってくれるのはありがたいけど、家は大丈夫なのか?」

「…ええ。大丈夫よ。理由は言ってあるから」

「そうか。ならいいけど」

 

本当は大丈夫と言い切れない。

研くんと仲良くなって、ほぼ毎日研くんの家に遊びに来ている。

彼の両親がいないこと、彼が毎回誘ってくれること…理由はいろいろあるけれど、本当の理由は私が家にあまりいたくないからだ。

 

私の家も両親がいないことが多い。でも姉さんがいる。

 

かつて憧れていた姉さん。でも今の私にとって姉さんは、厄介な存在でしかない。

研くんの家に通うようになってから、姉さんと話す機会が減った。それ自体が問題なのではない。昔から姉さんは学校から帰ってきた私をよくからかって遊んでいた。その機会が減ったのだから、なにかしらしてきてもおかしくない…そう思っていた。

 

しかし、そう警戒してずいぶん経とうとしている。

なにも言わない、なにも起こさない姉さんに、私は不安を拭いきれない。

 

「……?誰だ?」

 

その時、インターホンの音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

いやーもう五年生ですか。時が経つのは早いなぁ。

 

なんやかんや行事イベントも楽しかったし、人生上手く行ってる感、やっと感じてきたよ。

にしても運動会の時の雪ノ下ちゃんが苦悶する表情…最高だったなぁ。体力無いとは言っていたけど、まさかあそこまでとは。

あれは心配よりも、普段見られない感じへの高揚のほうが勝るわ。一見完璧な人が時々見せる弱点って、ちょっと興奮するよね。あっやべ…その感想は35歳のおっさん感出てるかもな、自重自重…。

 

まあ、そんななんやかんやが終わって…今は雪ノ下ちゃんにご飯作ってもらってる。

 

 

 

……え?状況がつかめない?

 

心配するな、俺もだ。

 

多分俺が、晩御飯どうしよー?って言ったからやってくれてると思うんだけど…にしたってやってくれ過ぎでしょ。

しかもすごいよねぇ、あの子の料理マジで美味いんだもん。ホントに小学生かよ?有能すぎて逆に怖いわ。しかも嫌な顔一つしない。それどころか嬉々としてやってるんだぜ?まさかドえ…む……なんでもないです。(手遅れ)

あっそうか、玲那と話せるのが楽しいのかな?いつも笑ってるし。まあ、玲那も料理が上手になるし、俺は楽できるしいいんだけどさ。

 

あれ?雪ノ下ちゃん、もはや家政婦なのでは?

 

でもご飯作ってくれるせいでいつも帰るの19時過ぎになってるんだよね。送り迎えはしてるけど、大丈夫なのかね?本人は大丈夫って言っていたけど。

前世の俺なんて四、五年生の時は18時には帰れ!ってよく言いつけられてたけどなぁ。ちなみに六年生の時は18時半だった。その30分なによって思ったね。どうせなら19時でいいよなぁ。

 

まあ本人がその時間に帰って大丈夫って言うなら俺は気にしないつもりだ。気にしても何も変わらないんだから、気にするだけ無駄ってやつだね。

 

それで…今日の献立はクリームシチューと鮭のムニエルかぁ。

……レベル高くね?手間暇すごくね?流石にクリームシチューとか学校から帰ってきて作りたいとは思える代物じゃないような気がするけど。いや、任せるけどさ。食材も無くなってるほうが母さんはしっかり食べてるのが分かって嬉しいようだし。

 

ホント、俺の身近には変わり者が多いなぁ…(他人事)

 

ふとキッチンを見れば、相変わらず雪ノ下ちゃんと玲那は楽しそうにお喋りしてる。玲那も雪ノ下ちゃんと料理するの楽しいって言っていたから、なおのことその光景は嬉しい。

だって妹が料理するの楽しいって言ってんだよ?さらにその影響で最終的に家事全般が楽しいとか言い始めてんだよ?すごくね?どこぞの漫画の設定だよ、妹が家事楽しいって言う環境。すごくね?

 

あれ…俺今日すごくね?って言い過ぎじゃね?

 

「……?誰だ?」

 

その時、インターホンが鳴った。

時刻は18:40分。この時間帯に尋ねてくる人なんて覚えはない。えー誰だよ、怖いわー(棒)

 

「研くん。私が出ましょうか?」

「いや、大丈夫。それにまだ作ってる途中だろ」

「…そうね、分かったわ」

 

まあ、うちのカメラ付きだから見てみれば一発だろ。

 

「………は?」

「…?どうしたの、研くん?」

 

台所から疑問に思う雪ノ下ちゃん。

説明してやったほうがいいんだろうけど…いやこれ説明する?

 

カメラに“おでこ”が映ってるって?

いや、これもう新手の悪戯でしょ?無視だよ無視。

 

「どうやら悪戯みたいだ」

「……けれど、また鳴らしてるわ。映ってるんじゃないの?」

 

またまた鳴り響くインターホン。

なんなんだよ!変わらずおでこしか映ってないし!二度も鳴らすなよな!

はぁ、直接会ってみるか。その方が手っ取り早いし。

 

「はぁ…出てくるよ」

「え?でも悪戯なら…」

「まあ、そうなんだけど…これは会ったほうが早く解決しそうだからさ」

「…どういう状況なの?」

 

おでこが映ってる状況です。

 

なんて言いたくねぇ…。

ふざけてるの?って言われるの明白じゃん。

 

「雪姉ちゃん、そろそろお魚出していいのかな?」

 

よし、ナイスだ妹よ!

 

「雪乃、俺の方は大丈夫だから玲那を見ててやってくれ」

「……分かったわ。でも何かあったら」

「大丈夫だ。その時は声上げるから」

「ええ、そうしてちょうだい」

 

ふぅ、乗り切った。

カメラにおでこ映ってるから行ってくるキリッ!

…なんて言いたくないからね。

なんかおでこフェチ見たいじゃん。…いや流石に小学生はそこまで考えないか。

はあ、いらん気苦労したわ。まったく誰だよ、こんなことしてくる奴は…。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

まずはドア越しに正体を確認してやろ…

 

っておい!ドアスコープ指で隠してやがるなコイツ!なんて奴だ!

こうなったらもう早く出てちゃっちゃとお引き取り願おう!

 

「どちら様でしょうか?悪戯ならやめて…」

「こんばんわ〜。あら、あなたが鎌ヶ谷 研くんかな?」

 

は?誰?……中学生?

 

「……はい、俺が鎌ヶ谷 研ですけど」

「やっぱり君が?へー、聞いた通りのイケメンさんね」

 

面白くない冗談だな。

よくいるよね、おばさんとかが大きくなった子供に対して、イケメンさんになって、男前になって…みたいなこと言うけど、やめて欲しいよな。俺そういうの勘違いしやすいタイプだし、対応にも困るし、だいたいイケメンですらないし、もとよりこの人誰だよ!

 

「それで、どちら様ですか」

「あらあら、こういうこと言われるの嫌い?」

「……悪戯でこんなことやってるんだったら早く帰って欲しいんですが」

「あははっ…ごめんね、冗談が過ぎちゃった」

「…………」

 

友達かよ!なんなの、この人!

 

「私ね、妹を迎えに来たの」

 

妹を迎え…?

 

「まさか雪乃ですか?」

「あら、雪乃ちゃんを名前呼びなんて凄いわね」

「ていうことはお姉さん」

「そう、雪乃ちゃんのお姉さん、雪ノ下 陽乃です。宜しくね、鎌ヶ谷くん」

 

…えええええ!?姉ちゃんいたの!?初耳なんですが!!

ていうか綺麗な人だなぁ。さぞかしおモテになられるでしょうな!

てか、あの子とは随分とタイプが違うけど…本当にお姉さん?

顔は…似てなくもないけど、それだけって感じるな。

 

「そうですか、それはご丁寧に。なら雪乃を呼んできますよ」

「いえ、それはまだいいわ。それよりお姉さん、あなたとお話ししたいの」

 

えぇ……なんでだろうか、綺麗でいい人そうなのに、この人とはあまり話したくないと思ってしまうのは。

 

「そうですか。でもすみませんがら俺から話すことはないので」

「ええ〜そう言わずに、ね?なんでお姉さんが鎌ヶ谷くんのこと知ってるんだろう?とか思わない?」

「雪乃から聞いたのでは?」

「あの子から聞いたんじゃないわ。第一、絶対にバレたくなかっただろうからね…鎌ヶ谷くんとのこと」

 

バレたくない?どゆこと?隠れんぼとかスパイごっことかでもしてんの?

だって家族に理由は話してるって言ってたけどなぁ。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいのよ。それより、鎌ヶ谷くんは雪乃ちゃんのこと…どう思ってるの?」

「どう…とは?」

「やあね、分からない?あなたは雪乃ちゃんより頭良いって聞いたのに」

 

うん、この人苦手だわ。

 

「とりあえず…貴女は俺のこと、他人から聞いたんですね」

「あ、流石にバレちゃった?」

「だって聞いた通りって言ってましたよね?それで雪乃から何も聞いてないなら、それしか考えられない」

「ふぅん……なるほどね」

 

なにが…なるほど、なのでしょうか?

 

「それで、貴女は何が目的で俺と話したいんですか?」

「あれ?貴方から話すことは無かったんじゃないの?」

 

あっ…この人、他人の揚げ足取るの大好きだな。

 

「だったら、なおさら話した方が良いのでは?俺の質問に貴女が答えれば、俺も貴女の質問に答えないといけなくなるんですから」

「…やっぱり君って面白いね」

 

こんなので面白かったら俺お笑い芸人になってますよ、こんちくしょう!

 

「そんなに俺は面白い人間ではないですよ。はい、今俺は貴女に一回答えたんですから、さっさと俺の質問に答えてください」

「ええ〜、それはズルいんじゃないの」

「ズルくないですよ。はい、これで俺は二回答えたことになりますね」

 

どうだぁ、ウザいだろうウザいだろう?ほぉら、さっさと帰んなぁ!

 

「もう、しょうがないわね。……好奇心が湧いたのよ」

 

答えるんかい!でも今の答えるまでの間を俺は見逃さないぞ!

 

「それは答えになってません。好奇心が湧いたというなら、俺の質問への答えはその好奇心が湧いた理由ですよ」

「あははっ…抜かりないなぁ君は。分かったわよ。……本音を言うと、雪乃ちゃんが変わった理由を知りたかったの」

 

変わった?え、なにが変わったまったく分からないんだけど。

 

「それでその原因を調べてみたら鎌ヶ谷くんのことだって分かった。だから、私の雪乃ちゃんが心を許している人は誰なのかって気になって…ここに来ちゃった、てへっ」

 

来ちゃった…ってなにてへぺろみたいに可愛く言ってんですかこの人は。まあ可愛いけどね。

 

「じゃあ、もう一つ…どうして俺の家が分かったんですか?」

「簡単よ。前に雪乃ちゃんをつけて来て、場所を確認したことがあるから」

 

いや、なんか胸張って答えてますけどね?それただのストーカーじゃないですか。

 

「さあ、私は答えたんだから、次は君の番。君は雪乃ちゃんのこと、どう思ってるの?」

 

んー、彼女のことねぇ…。

 

「雪乃のことは良い子だと思ってますよ」

「……良い子、ね。それじゃあ答えになってないわ。その良い子の意味を答えてくれないと」

 

うわニヤニヤして、さっきの俺の言い分そのまま言ってきやがった。さては根に持ってたな。

 

「意味も何もそのままですよ。俺に対して良い子…それだけです」

「…ちょっといい?それってそのままの意味で捉えていいの?」

 

ん?なにを驚いてんの?

 

「だからそう言ってるじゃないですか」

「つまり、雪乃ちゃんは君にとって道具ってこと?」

 

は?おいおい、そんな酷いこと言ってないぞ。

 

「違います。雪乃は人間です、道具扱いなんてしてません。“俺にとっていい子”と言ってるんです」

「…ぷっ、あはははははっ聞いてはいたけど…まさかここまでとはね。あ〜、おっかしいー」

 

いきなり何笑ってんだよ。怖い怖い…。

 

「そんなに可笑しなこと言いましたか?」

「可笑しい…いえ、すごいとも言えるわね。君みたいな子、世界中どこ探したってそうそういないわよ」

「冗談言わないでください。俺のような一般人、どこにだっていますよ」

「あははっ、そうね。君のような性格の人は探せば見つかるかもしれない。でも君のような人間はいないわよ」

 

……?つまり何が言いたいの?

 

「どういう意味ですか?」

「まあ、今の君に言っても理解出来ないわよ。それよりもう一つ質問よ、これはさっきより大切なこと」

「……なんですか」

「雪乃ちゃんは、君にとって大切な存在?」

 

なんだよ、大切なことっていうから何かと思えば、すごい当たり前なこと書いてくるんだな。

 

「大切ですよ。だって“彼女の代わり”はいない」

「うふふっ…凄いね、君は。本当にブレないわね」

 

この人、さっきから俺のことめっちゃすごいすごい言ってくるなんで?褒めるのが趣味なの?それとも何か買って欲しいの?あいにくそんなお金はないんだけど。

 

「研くん、ご飯出来たけど……何してるの、姉さん?」

 

あれ、雪ノ下ちゃん。いつのまにこっちに?

 

「研くんを呼ぼうと思ってきてみれば…なんで姉さんがいるのよ」

「やっほー、雪乃ちゃん。迎えに来たわよ」

「放っておいて貰えるかしら。姉さんに迎えに来て貰わなくても、私は研くんに送ってもらうから」

「それじゃあ、彼に悪いでしょう?」

「いえ、俺がするべきと思ってしているだけなので」

「…ほら、彼もこう言ってるのだし。姉さんは先に帰ってて」

「ふふっ、彼が取られるの…そんなに嫌?」

「…姉さんには関係ないと言っているの」

「関係なくはないわ、だって私たち姉妹じゃない」

「それと姉さんがここに来ることは関係ないでしょ。私が何時に帰ろうと、私の勝手よ。早く帰って来るよう注意された覚えもないわ」

「じゃあ私が母さんたちに何言ってもいいのね?」

「そ、それは……」

「…………」

 

なにこれ修羅場?それとも姉妹喧嘩?

どっちでもいいけどやめてよねぇ、そういうの俺苦手なんだよ。

 

「うふふっ嘘よ。私が雪乃ちゃんが困るようなこと、したいと思う?」

「…何をぬけぬけと。姉さんはいつもそうやって私をからかって」

「はいはい、ごめんね雪乃ちゃん。でも…雪乃ちゃんだって悪いのよ?お姉ちゃんを一人ぼっちにして…寂しかったんだから」

「姉さんにはたくさん友達がいるでしょう。その人たちに相手してもらえばいいんじゃないかしら?」

 

ごめんね、雪ノ下ちゃん。その言い方だと、おじさんとても不謹慎な想像しちゃうだけど。ホントごめんね不謹慎で!

 

「ううっ、酷いわ雪乃ちゃん…お姉ちゃんこんなに心配してるのに」

「嘘泣きしたって無駄よ。だいたい姉さんが本気で私の心配をしたことなんてあったかしら」

「……もう。姉離れ、早くないかしら?」

 

ええい、もういい加減にせい!

 

「すみませんが、早く結論出してくれませんか?特に問題ないのなら俺が送りますよ。例え姉であろうと雪乃に強制するのは間違ってると思うんですので」

「…研くん」

「へぇ……君なら口は出さないと思っていたんだけど」

「姉さんに研くんの何が分かるのよ…!」

「私は彼に言ってるの。雪乃ちゃんは黙ってて」

「…っ」

 

おお、雪ノ下ちゃんがビビってる。やっぱお姉ちゃんってのは怖いものなのかな?

 

「それで鎌ヶ谷くん。なんで君が姉妹の問題に口を出したのかしら」

 

は?決まってんだろ。

 

「こっちは夕食の時間、それにここは俺の家です。玄関でとはいえ、騒がれるのは迷惑なんですよ。雪乃だって、別に貴女に迷惑をかけてはいないのでしょう?」

「そうよ、姉さん。研くんの言う通りだわ」

 

あの……ちゃっかり俺の背に隠れるのやめようか、雪ノ下ちゃん。

 

「まあ、そうね。私は被害を受けてないし…分かった。今日は大人しく帰るわ」

「今日は?…姉さん、それはどういう意味かしら?」

「ねぇ、鎌ヶ谷くん。私も頭は良いのよ、学年では一位だし。私に勉強を教わった方が良いと思わない?」

「ね、姉さん!」

 

……おお、なるほど。魅力的だ。だが…

 

「お断りします」

「研くん…!流石ね!」

「えー、どうしてよー」

 

だって同学年で互いの勉強の穴を埋められる奴が良いんだもん。年上に教わったって意味ねぇわ。それなら一人でやったって同じだし。

 

「さあ、姉さん。分かったなら帰ってくれるかしら。大人しく帰るって言ったのだから」

「ぶぅ〜、お姉さんに教えてもらえるなんてかなり光栄なのよ?」

 

おお、雪ノ下ちゃん。さっきとは打って変わって胸張って勝ち誇ってらっしゃる!……なんか単純で可愛いな。

こういうの母性っていうの?それとも男だから父性(ちちせい)って言うのか?

…ちちせいってなんだよ、おっぱいの星みたいに聞こえるぞ!

 

あっ、ふせいって読んで父性か。あぶね、思い出せて良かったわ。

 

「むぅ、悔しい……あっ、それなら鎌ヶ谷くん。お掃除で困ってないかしら?」

 

………ほう。掃除とな?

 

「君の家は見たところ共働きなんでしょう?だったら掃除してくれる人がいたら楽なんじゃないかしら?」

「だ、ダメよ…!掃除なら私でも…」

「掃除って結構体力いるのよ?それに雪乃ちゃんの身長じゃ届かないところも多いだろうし、大変なんじゃないかしら?」

 

なるほど…魅力的だ。だが…

 

「有難い話ではあります」

「け、研くん……」

「そうでしょう。良い話でしょう?こんな綺麗なお姉さんがお掃除してあげるんだもの」

 

じ、自分で言うんだ…まあ事実だけどさ。

 

「でも、それで雪乃が不快に感じてしまうのでは、一緒に勉強してもらう上で支障をきたすと思います。なので、それもお断りします」

「研くん…!ありがとう…!」

 

そんなに喜んでいいの、雪ノ下ちゃん。一応お姉ちゃんなんだから少しくらい味方してあげたら?

 

「…っ!じゃあ、雪乃ちゃんが納得すればいいのね?」

 

え…?なんか今、スパロボの閃きとか直感みたいな効果音が聞こえたんですが?

 

「まあ、結論的にはそうですね」

「ふふっ無理よ、姉さん。私が首を縦に振ることは無いわ」

「雪乃ちゃん、携帯欲しがってたわよね?」

「っ……!そ、それは…」

「私が頼めば、少しは早く貰えるようになるんじゃ無いかしら?」

「で、でも……確証が無いわ」

「じゃあ、父さんが私に借りがあるって言ったら?」

「…う、嘘よ。ありえないわ」

「最近、父さんの仕事をちょっと手伝ってね〜、その借りはまだ返して貰ってないの。それを使ってあげても良いんだけどなぁ。だってこのままだと携帯買って貰えるの、早くても中学になってからじゃなかった?」

「……………」

 

分かる…分かるぞぉ…!俺には分かるぞぉ!

 

今、彼女の中で葛藤が起きている。苦手な姉が俺の家に来る、それは嫌だ。

しかぁぁし!持っていない携帯が手に入るかもしれない!それは魅惑の果実!だがそれを手にとってしまえば…それは敗北と同義!

 

どうする…!どうするの、私ぃ…!?

 

 

みたいな?

 

「……分かったわ。姉さんの話に乗りましょう」

 

果実を手に取ったぁぁああ!!

 

って俺は何を思ってるんだろう……。

 

「ふふふっ、ありがと!雪乃ちゃん!」

「た、ただしあまり好き勝手な行動はしないこと。それと研くんたちに迷惑をかけないこと。私の邪魔はしないこと。私がやめてと言ったらやめること。それが条件よ」

「分かった分かった。そんなに必死ならなくてもいいのに、可愛いんだから。あっ、でも雪乃ちゃんにやめてって言われても全部が全部、それに従えないからね?だってそれを認めちゃったら、私の自由の権利を無視していることになるもの」

「……分かったわ。でも、さっきの話のこと…本当に頼むわよ」

「はいはい、分かってるわよ。それじゃあ、鎌ヶ谷くん!これから宜しくね!」

「……ええ。程々に宜しくお願いします」

「もう、君までそんな嫌な顔しなくていいのに…でも、私の掃除の腕は期待してくれて良いわよ?必ず私のこと見直すはずだから、ね」

 

まあ、助かるには助かるんだけど…なんか苦手なんだよなぁ、この人。

 

「じゃあ、私もご飯一緒にしていいかな?」

「調子に乗らないで。あいにく姉さんの分は無いわ。それに今日は大人しく帰るんでしょう?」

「ちぇ〜、でも仕方ないか。それじゃあ、鎌ヶ谷くん。雪乃ちゃんのこと宜しくね」

「……はい、分かりました」

「うん!それじゃあね〜」

 

ふぅ、やっと帰った。まったく。

 

「研くん…ごめんなさい。姉さんが…」

「いや、別に気にしてない。それより…玲那がお腹空かしてるんじゃないか?」

「そ、そうね…早く戻りましょう」

「ああ」

 

雪ノ下 陽乃ね……まっ、俺の邪魔さえしなければいいか。役には立ちそうだし。

 

にしても玲那のやつ、怒ってないといいけど。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「雪乃ちゃんが私に隠してた理由…分かるなぁ」

 

鎌ヶ谷 研。

他者との会話はほとんどせず、する時は最低限の会話のみ。成績優秀、態度は真面目。普通であれば忌み嫌われるような感じだが、そのルックスと大人びた口調、そこから出る雰囲気に、彼を嫌う者はほとんどいない。

 

いるとすれば、隼人くらいか。

 

隼人と、それと鎌ヶ谷くんのクラスの子達から聞いた情報を私なりに彼を分析してみたけど……実際に会ってみれば、その情報はまったく役に立たなかった。

 

「あんな面白い子に出会えるなんて…ね」

 

その情報は正しくあり、間違ってもいた。

 

彼のような人間は、人間である限りその感情と自己矛盾、罪悪感、周囲の悪意などによって死んでしまうもの。

しかし彼は人でありながら、その人として異常なものを処理し切っている。

 

多分彼は、私が一生かけても克服できないものを無意識に克服している。だからあそこまで素直に生きられる。

私には眩しすぎるわね。

あれは手が届かないとかそういうのじゃない。彼が生きているのは別の領域だ。人として異常なソレは、彼の持つ個性が異常であると周囲に思わせないし、感じさせない。

 

実際、雪乃ちゃんは彼の異常性にまったく気づいてないしね。

 

「早く、明日にならないかなぁ…」

 

私をそう思わせる人は今まで一人としていなかった。

本当にすごい。

 

凄くて醜くて羨ましくて憎たらしくて鮮やかで禍々しくて…

 

…そして美しい。

 

「言うなら…合理性の怪物ね」

 

化け物よりも恐ろしい怪物。

自分にとっての利益だけを優先し、それを邪魔するものはどんな手を使っても捩じ伏せる。

 

とっても単純明解。

それ故に扱いやすくて、扱い難い。少しでも間違えば、彼は私も敵だと認識する。

そうなったら彼は私を完璧なまでに消し去り、私は二度と彼と話せなくなるでしょうね。

 

そして彼の本心を理解するのは…多分、誰もが不可能。

 

でも私は理解したい。私の牙でも彼には傷一つつかないなら、彼の周囲に溶け込めばそれが分かるかもしれない。

 

そして見たいのだ。彼のような人間の限界を。

 

「これから宜しくね、研くん。私の“理想”はどこまで揺らぐことなくこの世界で生きていけるのか……私に教えてね?」

 

 

空を見上げれば、月光が私の道を照らしているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

そして過ぎゆく日常に、彼女は……

 

 

雪ノ下 陽乃は鎌ヶ谷 研を見つける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タイトルを一瞬、魔王降臨。にしたいと思った。

陽乃がオリ主の本性の片鱗気づく、そんな話だと読み取ってもらえたら嬉しいです。あと考えることが姉妹だね、とか。
かなり長かったので後で加筆などの手直しがあるかもしれません。

実はこれ書く前に運動会の話を書こうと思って、主人公が「俺のことはゴウリキー師匠と呼べ」って言い出して雪乃を鍛える、そんなクソくだらないギャグ回書いてやめました。あれはダメだ。

お気に入り、感想、評価、あると嬉しいです。

いつになったら八幡を出せるのやら…出せても雪ノ下と違って1、2話で終わる予定ですけど。だって八幡もぼっちだからね。主人公と絡むシーンとか全然想像出来ないもん。



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