仮面ライダーライトニング 作:至高のオーバーロード
ところで、赤とダークブラウンのチョコレート戦士って思いっきり現行プリキュアじゃねえかって今更気づきました(´・ω・`)
「遂に見つけたわ……長年探し続けてきた究極のアイドルの卵を!」
女は戸惑いの最中にいる2人の元にズカズカと迫っていく。彼女の言っていることの意味が解させない彼らは首をかしげるばかりだ。
「さあ!私と一緒に駆け上がりましょう!果てなきアイドル道と仮面ライダー道を!」
「ちょーっと待った!ちょっと待った!」
仮にも成人前の大男の肩をがっしり掴んで意気揚々と拳を掲げる女のハイテンションについていけなくなった翔駒は、無理矢理引き剥がして距離を取る。
「何なんだよアンタ!仮面ライダーだのアイドルだのいきなりわけわかんねーことばっか言いやがって!さっき俺が変身したのは何だ?あのバケモンは何なんだ?つーかあんた何者だよ!?」
「おっと、ソーリー。確かに気が早すぎたわね」
女はスーツの胸ポケットから掌サイズのカードを引き抜くと、手裏剣の要領で翔駒目掛けて投げ飛ばした。危うく顔面に突き刺さる寸前で、翔駒は指で挟んでカードを受け止める。その顔には冷や汗がダラダラと垂れ落ちていた。
「あ、あ、あっぶねえ!いきなり何しやがんだよ!」
女は「そんなことより名刺を見ろ」と言いたいのか、腕を組んだままクイクイと指を動かしている。腹が立つもののなんとか我慢して、名刺に刻まれている女の肩書きを眺める。
「芸能プロダクション『タチバナエンターテイメント』取締役社長『早水レイコ』?」
「あーーー!た、タチバナエンターテイメントって確か美山奏多が所属してるっていう!」
流行に関心を持たない翔駒は、名刺を貰ってもこの女は何処かの会社のキャリアウーマンということしか理解できずにいた。ゆえに彼は首を傾げるだけのリアクションしか取れないわけだが、しかしながら芸能界に関してそれなりの知識を持っている杏里沙は代わりに血相を変える程に動揺していた。
「イグザグトリー!タチバナエンターテイメントは若く個性豊かなタレントとその卵達を抱える新規新鋭芸能プロダクションよ。そして、そこの社長がこの私ってわけ」
英単語混じりの謎言語に限らず、やたらと指パッチンやハリウッド俳優ばりのオーバーアクションを多用するこの女は有名な芸能プロダクションの経営者だという。芸能界に多少なりとも知見があればその威光にひれ伏すのかもしれないが、あいにく翔駒の中では胡散臭さが加速していくだけなのだった。
「んで?その芸能事務所のお偉いさんが俺に何の用?さっきのバケモンとなんか関係あるのか?」
翔駒は不機嫌さを隠そうともせず、隣の机にポイっと名刺を放り捨てた。わけもわからず謎の怪人と戦わされた上に、聞いたこともないような謎の単語を並べられている。極め付けに、自称芸能事務所の社長と名乗るこの女はとてもではないが付いていけないレベルの謎ハイテンション。おかげで彼のフラストレーションは爆発寸前まで高まっていた。
そんな翔駒の心情を知ってか知らずか、早水レイコと名乗った女は口元を吊り上げてますます愉快そうにしていた。
「ザッツライト!あなたには是非とも我が事務所所属のアイドルとして活動してもらいながら、またナイトメアが現れた際に仮面ライダーとしても戦ってもらいたいの!
「おいおい!悪いが話が全然読めねーぞ!だからさ!なんで怪物退治にアイドルが出てくるんだよ!」
「んー……それを全部話すとなるとかなーり長くなるわね」
レイコはこめかみに指を当てると深刻そうに唸る。そして、ふと視線を翔駒から外して、周囲を見渡し始めた。翔駒は困惑する出来事の連続で気づかなかったのだが、犠牲者達を搬送するために救急隊員達がこのドームの内部まで入ってきているようだ。あちらこちらから生存者を探す彼らの声が聞こえてくる。
翔駒は不安に駆られた。ライブ会場の地下では使い道の不明な怪しい機材やおかしな白衣の研究者達が転がっている異様な光景が救急隊員達を待ち受けているわけだが、レイコとしては見られても大丈夫なのだろうか。そんな彼の心境を読み取ったのか、レイコは問題ないと言わんばかりにニッコリと満面の笑みを浮かべて手を横に振った。
「彼らは事情を知ってるから心配しないで。ひとまず病院行きましょうか。その子の足の調子も見なきゃいけないだろうし、病室で今後も含めてじっくり教えてあげる」
「あなたが戦った相手は暗黒生命体『ナイトメア』、私達はそう呼んでいるわ。ああ、そうだ。あんまり畏まらなくて良いわよ。リラックスして聞いてね。はい、これは私からのプレゼント♪」
病院で杏里沙の足をテーピングした後、女は特別に与えられた個室で頭に疑問符を浮かべてばかりいる翔駒と杏里沙にそれぞれ一口サイズのチョコを手渡す。2人は口の中にチョコを放り込んでバリバリ噛み砕きながら、レイコの話に耳を傾けた。
「彼らについては実は私達も多くは知らない。僅かだけど現時点で判明しているのは……」
そう言ってレイコは件の電池を懐から取り出す。翔駒が仮面ライダーに変身する際に使用していた『チョコレート』『ヒャクパーセント』とはまた別の物だ。ラベルにはマカダミアナッツやアーモンド、カシューナッツといった種実類の絵が描かれている。その下に刻まれているのは『GRAVITY』の文字。
「この『ライフバッテリー』を心臓部に持つ、人とは根本的に異なる生物であること。人とは比較にならない身体能力を有していること。各個体が超常的な特殊能力を備えていること。そして……」
既に夜は終わりを告げ、太陽の光が窓から差し込んで来る。日光はテーブルの上に置かれたライブ会場の惨劇が収められた写真を照らす。そこには生気を失った状態で転がっている人々の姿が映し出されていた。
「奴らは人の精神を糧にしていること。おまけに食われてしまえば廃人となってしまうってことね。あなた達も見たでしょう?ナイトメアに襲われた犠牲者の姿を」
「あ、ああ。あれじゃあまるで……」
「生きた屍みたいでしょ」
翔駒の脳内にライブ会場でグラヴィティと名乗ったナイトメアの凶行に倒れた人々の姿が蘇る。彼らはグラヴィティに精神エネルギーを吸われた後、焦点の合ってない目で空を見つめ続けながら呻き声を漏らしていた。
「彼らに精神を吸われたら、ああいう風に自我が崩壊してしまうの。生きながらえながらも自我を保てないゾンビ状態。治癒方法も未だ不明。生体機能は停止してないとはいえ、元に戻れなければ実質死人みたいなものね。そうなってしまえば、もはや奴らに殺されたに等しいわ」
「だったら警察だとか自衛隊なりになんとかしてもらえよ。今回だって犠牲者があんなに出ちまってんだぞ?あんなのがまだ他にうようよいるなら洒落になんねえだろ」
チョコレートを全て噛み砕いて喉に流し込んだ翔駒は椅子に腰掛けてリラックスする。翔駒と杏里沙は仮面ライダーの力で命からがら助かったわけだが、他にナイトメアに襲われた人々がそんな都合の良い幸運の持ち主とは思えない。表向きは突然の精神障害扱いになっている被害者もどれだけいるかわかったものではない。
「つか、なんで世間の話題になってないんだよ。さっさと新聞やテレビで教えてやった方が良いんじゃないか?」
「いや、警察もメディアも決して動かないわ」
とても一般人がどうにかできるような相手とは思えない。そう考えた翔駒は至極真っ当な意見を口にしたつもりだったのだが、レイコは目を伏せて首を横に振った。
「何故なら奴らは人間社会に紛れて潜伏しているからよ。それどころか既に権力の中枢にも食い込んでいるわ。もちろんメディア業界にもね。だから今まで表沙汰になることは無かった。今回の事件も真実はあっさりもみ消されちゃうでしょうね」
「いや、あんな大事件を無かったことになんて出来ないに決まってんじゃねえか。生存者だってかなりの数があの場にいたんだぞ。そいつらがネットにでも漏らしちまうだろ」
「事件そのものはね。でも、怪物が人を襲っただなんて簡単に信じてもらえると思う?目撃者の証言も仮装したテロリストの犯行ってことにされちゃうでしょうね、おそらく」
「私だってこの目で見なきゃ信じなかったかも……でも、あの怪物がただのテロリストだなんて絶対ありえません!」
異形の存在に命を付け狙われて追いかけ回されるという九死に一生の体験をした杏里沙としては、あの恐怖が嘘偽りの情報に捻じ曲げられるの我慢ならないらしい。
「ゆえに表からナイトメアを倒すのは不可能なの。だから、私達は裏で奴らと戦う」
「そのための仮面ライダーってわけか」
レイコはクルリと一回転して振り向くと、両手の指をパチンと鳴らした。
「イグザグトリー!」
「またイグザグトリーかよ」
ナイトメアと仮面ライダーを巡る因果関係そのものはだいたい理解出来た。しかし、この女の奇妙なテンションはどうも理解出来ない。そんな2人の若者の心境を知ってか知らずか、女はニコニコと満面の笑みを浮かべながら続けた。
「仮面ライダーは我々タチバナエンターテイメントが密かに開発した戦闘用モジュール。ナイトメアの驚異的な生命力の源であるライフバッテリーをサーキットドライバーに装填し、その莫大なエネルギーをパワードスーツや武装に転換して制御下に置くシステムよ。要約すると、仮面ライダーはナイトメアの力の一端を借りて戦ってると言えるわね」
「つまり仮面ライダーとナイトメアは同質の力で戦う存在……てことか。毒をもって毒を制すって奴だな」
「話が早くて助かるわ。やはり貴方には見込みがありそうね!というわけで早速我が社と契約サインを……」
「ちょーっと待て!だから!なんで俺がアイドルにならきゃなんねーんだよ!」
ある意味そこが重要なポイントである。翔駒の中でも仮面ライダーとアイドルが線で全く結びつかずにいた。
「裏の顔である仮面ライダーとしての姿を誤魔化すための隠れ蓑だとか会社の活動資金集めの一環だとか理由は他にもあるけど、一番の理由はこのサーキットドライバーを操るための素質がアイドルと関係してるってことね」
「驚異的なパワーを秘めたライフバッテリーだけど、問題がいくつかあってね。その1つが特殊な方法による充電なの。いくら強力でも電池は電池。やっぱり充電は必要なわけ」
では、その充電方法とは何なのか?無論、普通の電池と同じ、コンセントや太陽光パネルを使用した電力供給であるわけがない。
「その特殊な充電方法ってのが、人の生命力を与えるっていう……ああ、心配しないで!別に誰かを殺してしまうとかそんな物騒な話じゃないから。人の生命力が最も勢い付いてる時ってのが、何か楽しいことを前にして心躍らせている時なのよ。つまり、バッテリーに認められたライダー自身がアイドルになって多くの人の前でパフォーマンスを披露して感動させる。その喜びの精神エネルギーをバッテリーに流し込む。これこそが最も効率の良い充電方法ってわけね。私は……いえ、我々はこの精神エネルギーを『スピリット』と呼んでいるわ!」
翔駒の頭の中では、コウモリのナイトメアが頻繁にスピリットどうのこうのと口にしていた記憶が呼び起こされていた。あれは文字通りの魂ではなく、レイコの説明しているバッテリーに供給可能なエネルギーを意味していたのだろう。
「人の生命力、精神エネルギーで充電、ねえ……なるほど。だから、あのコウモリ野郎はライブ会場を襲いやがったのか。あいつらがバッテリーの力を持ってるってなら、充電する必要があるだろうからな」
怪物がわざわざアイドル活動をするわけがない。人を襲って生命力を吸い取るのが、彼らにとって最も手っ取り早い充電方法というわけである。
「イグザグトリー!いかにも単細胞そうな見た目と言動の割になかなかの洞察力と着眼点じゃない!ますます気に入ったわ!」
「イグザグトリー何度目だ。それと単細胞は一言余計だろ!」
この性格のせいか図太いと周囲から思われがちだが、意外と翔駒は傷つきやすい心の持ち主なのだ。むしろ初対面の相手に向かって平然と単細胞と言ってのけるレイコの方がよっぽどチャランポランに見える。
「実はこの才能を持つ子がなかなかに見つからなくてねー。けど、良かったわ〜!サーキットドライバー2号機の完成と同時に素養を持つ男の子が向こうからやって来るだなんて!さあ、一刻も早くこの契約書にサインを……」
「やめておいた方が良い」
何処から取り出したのかわからない雇用契約書の紙切れをピラピラと回せていたレイコは、その手を止めて背後のドアの方に振り向く。翔駒と杏里沙の視線も同じ方向に向かった。
「その男はどうやら気乗りしないようだ。だったら無理に関わらせない方が良い。でなければ、ナイトメアとの戦いでも、芸能活動でも足を引っ張ってしまうだけだろう。最悪命を落としてしまうかもな」
ドアの前に立っていたのは若い男だ。おそらく翔駒とそこまで歳は変わらないだろう。しかし、やけに整った顔立ちからの印象はともかく、纏った空気は同年代の青年達に比べてあまりにも硬質的で熟練した落ち着きを感じさせる。さらには冷たさに満ちた眼光もあって、触れることすら許されない鋭利な刃物を彷彿させていた。
そんな近寄りがたい雰囲気を醸し出す青年と翔駒は目があった同時に、不穏な空気が立ち込め始めた。
「お前何様だ?いきなり降って湧いて来た割にずいぶん偉そうじゃねえのか。つーかどこのどいつだ?」
翔駒は不機嫌さ全開で青年を睨みつけた。別に喧嘩は好きではないが、初対面から露骨に険悪な態度をとる人間相手に友好的な対応ができるほど人格者だとは自分でも思っていない。剣呑な態度には剣呑な態度で返すのが彼流の礼儀であった。
「流唯!聞いてたのね!だったら話は早いわ!」
翔駒の隣では温厚な少女が険悪な空気に飲まれてあたふたする中、レイコだけは自分のペースを崩さない。
「紹介するわ。彼がサーキットドライバー1号機の使用者、神村流唯君よ!」
「1号機だあ?つまり……」
「芸能人としてもライダーとしてもお前の先輩ってことになる。お前が投げ出したりしなければな」
翔駒の中で不快感指数が一気に急上昇した。なんだこの男は。確かに気乗りしないのは事実だが、一方的に馬鹿にされて大人しく言われるがままなるのも癪だ。
そんな内心の怒りを悟ったのか、レイコは宥め聞かせるように翔駒の肩をポンポンと叩いた。
「あまりに気にしないであげて。本当は後輩が出来て嬉しいのよ。彼は照れ屋さんだから」
「いや、どう考えてもめっちゃ喧嘩売ってるじゃねーか。ていうかアイドルやるって決めてねーから!」
いまいちフォローになっていないレイコのフォローを聞き流しながら、もう一度翔駒は流唯をジッと見つめた。確かに高身長と細い身体つきはモデル映えしそうだが、戦闘ではいまいち活躍しそうに見えない。
こんな貧弱そうな男より、自分の方がよっぽど役に立つんじゃないか。そう思い始めた時だった。突然杏里沙が頭を抱えて苦しみ始めた。
「くぅっ!」
「おい、どうした!」
異変に気付いた翔駒が慌てて駆け寄る。杏里沙は冷や汗を垂らして痛みに耐えていた。
「あ、頭が……っ!」
「しっかりしろ!やっぱどこか怪我してたのか?」
「ううん、お医者さんは捻った足以外は外傷は無いって言ってたんだけど……ううっ」
その割には、苦痛に苛む彼女の姿は尋常ではない。医者を呼ぶためにナースコールボタンを押そうとする翔駒。だが、その時だった。
「きゃーーっ!!!」
空いている窓の外から女性の悲鳴が飛び込んできた。
「げへへへ!イキの良い獲物をゲットだぜ!」
「いやあああ!!!助けてえええっ!!!!」
「お母さん!お母さん!」
身を乗り出しながら窓の外を見渡した翔駒は絶句した。それは人にして人にあらず。異形の怪物が中庭でくつろいでいた親子に襲いかかっている光景が飛び込んで来たのである。
「あ、あれはまさか……」
多数の手脚に節足動物を思わせる不気味な装甲と、昨日のコウモリのナイトメアとはまるで別種族のような外見だが、人間離れした異様さに関しては紛れもなく同質。それでいて二足歩行で動き回り、人語を解する知能を持っている。
「あれもナイトメアだ。奴らは哺乳類以外にも鳥類や昆虫類や水生類、植物類といったありとあらゆる地球上の生物の姿を模している。奴の場合はクモというわけだ」
流唯は2本のライフバッテリーを取り出しながら吐き捨てるように言い放つ。ベルトも既に装備しており、戦闘態勢は整ったということだろう。
「しかし、まさか白昼堂々現れるとはな。だが、おかげで手間は省けた」
「お、おい待てよ!」
同じく窓から一連の光景を目にしていた流唯は顔色1つ変えないまま病室を飛び出していった。翔駒も慌てて後を追う。病室に取り残された杏里沙とレイコ。男2人がいなくなって静かになった病室にて、杏里沙はなおも頭を抱えたまま痛みに耐え続けている。
「痛い……痛いよ……」
ナイトメアが出現した途端に発生した頭痛。そのタイミングの良さにレイコはハッとして目を見開く。
「このタイミングで……まさかあなたが!」
「ぷはー!あー、ごちそうさま」
目から生気を失った女が地面を転がる。その全身はクモの糸を彷彿させる白い物体で包まれていた。
「お母さん!ねえ、しっかりしてお母さん!」
女性の子どもと思わしき幼い少年が必死な形相で駆け寄る。少年は突然動かなかくなった母親の体を涙目で揺さぶるが、反応は全く返ってこない。
「お前、この女のガキか。いやー、美味かったぜ。お前の母ちゃんの命はよお。本当ならお前も一緒に食っちまいたかったんだが、今はもう腹いっぱいだから勘弁してやるぜ。ぐへへへへ!命拾いしたな坊主!」
クモのナイトメアは愉快そうに自身の腹をパンパンと叩く。彼としては腹を満たされた以上、無意味に人を襲うつもりは無いのだろう。泣きじゃくる少年を背に、軽い足取りでその場を去ろうとしていた。
「……遅かったか」
既にクモのナイトメアに魂を食われてしまっていた女の姿を目にした流唯は眉を険しそうにひそめる。
「なぜお前が付いて来る」
流唯に一足遅れる形になった翔駒は肩で息をしながらも、一応の先輩仮面ライダーに苛立ち混じりの視線を送り飛ばす。
「あのなあ!相手は得体の知れねえバケモンだぞ。被害を少しでも減らすためにも、数は多い方が良いに決まってんだろ。それくらい猿でもわかる戦いの基本って奴じゃねえのか?」
「足手まといが増えたところで得られるメリットは何も無い。むしろ余計な犠牲が1つ多くなってしまうだけだ。この程度の話も猿には難しかったか?」
「ちっ!」
何を言ってもこの言いぐさで返されるだけに違いない。流唯との円滑なコミュニケーションを諦めた翔駒はクモ型のナイトメアに視線を戻した後、レイコから手渡されたベルトを腰に取り付ける。変形機能を有するこのサーキットドライバーは普段バックルのみの状態で携行性に優れているが、どうやらバックルを腰に当てればベルト部分も自動的に装着されるようだ。
《チョコレート・ライトニング!》
《ヒャクパーセント!》
「変身!」
2つのバッテリーをバックル部の窪みに装填。並列に繋がれたバッテリーがバチバチと放電しながらエネルギーの奔流を開始したと同時に、ベルト側部のトリガーを引いた。
《ヘイレツセツゾク!》
《チョコレート/ヒャクパーセント!》
一瞬にして真紅のアンダースーツとダークブラウンの装甲を身に纏った翔駒はナイトメアに向かって駆け出す。
「そらよ!」
開戦早々に回し蹴りをナイトメアに浴びせる翔駒。完全に油断しきっていたクモのナイトメアが防御する間もなく蹴り飛ばされ、地面を無様に転がる羽目になった。
「くっ!貴様!俺達を倒し回っている仮面ライダーとかいう輩か!」
「おう、さっきデビューしたばかりの出来立てホヤホヤの新人だ。まあ、これからよろしく頼むわ」
動揺を隠せないクモ型ナイトメアの動揺っぷりを仮面の下で嘲笑いながら、翔駒はボクシングを意識したファイテングポーズで構える。彼には拳闘の経験は全く無いため、無論見よう見まねの我流である。
「まっ、お前にはこれからなんて無いだろうけどな!」
軽口を叩きつつも、強化された脚力による急接近と同時に右拳で殴打。不意打ちに近い一連の動きにクモ型ナイトメアは全く対応出来ず、見事なまでに拳を顔面へと叩き込まれた。
「くっ……こいつ!」
殴られた頬を拭いながら、クモ型ナイトメアはフラつく足を支えて翔駒を睨みつける。
「人間の癖にバッテリーの力を我が物にするとは……生意気すぎるわっ!」
クモ型ナイトメアとて、人間が及ばぬ力を操る異形の人外。それが借り物とはいえ、人間にしてやられるなど以ての外だ。再び翔駒の拳がアッパーで迫る。しかし、今度は上手い具合に反撃に転じ、鋭い爪で仮面戦士のパンチを受け止めた。
「おっと、そう簡単にはやられてくれねーってか」
「当たり前だ。少しバッテリーの力を振るえるくらいで調子に乗るなよ!」
仮面の戦士と、異形の怪人。二者の激しい攻防の応酬が始まった。
「むやみやたらに前に出すぎだ」
そんな翔駒の戦いぶりをしばらく眺めていた流唯は、呆れた様子で懐から2本のライフバッテリーを取り出す。片方は白いバニラソフトの絵が描かれた白いバッテリー。もう片方は氷塊の絵が描かれたクリアパーツのバッテリーだ。
《ヴァニラ・トルネード!》
《アイスクリーム!》
「変身!」
翔駒と同じく、2つのバッテリーをサーキットドライバー1号機に装填した流唯はトリガーを慣れた様子で引いた。
《ヘイレツセツゾク!》
《ヴァニラ/アイスクリーム!》
雪崩のように現れた白のブロック達が流唯の全身を覆い尽くす。次の瞬間にはクリーム色の鎧を纏った仮面戦士が降臨していた。
群青色のアンダースーツに上半身を覆うクリーム色の鎧が目を惹く若き騎士。それが神村流唯が変身する仮面ライダーだ。
「仮面ライダートルネード。バニラ/アイスクリームフレーバー。ナイトメア迎撃開始」
螺旋状の刃を有する白の大槍を手にした仮面の騎士は、激しく取っ組み合う2人に向かって一気に駆け出す。
「はっ!」
ガンッ!
「あいたーっ!?」
翔駒の連続パンチをいなしていたクモのナイトメアは、背後から奇襲を仕掛けた流唯による突きに反応出来なかった。螺旋状の刃がクモのナイトメアの背部を盛大に斬りつけ、傷跡からおびただしい火花が散り、硝煙が撒き散らされる。
よっぽど痛烈な一撃だったのか、クモのナイトメアは痛みに耐えかねて背中を抑えながら小躍りを披露している。その隙を突いて、ライダー達は再度各々のタイミングで攻撃。怪人は続けざまのダメージに悶絶しながら地面を転がる羽目になる。
連携と呼ぶにはあまりにも稚拙だが、二点からの同時攻撃はナイトメアにとってとてつもない脅威であった。
「ふ、2人がかりとは卑怯だぞ!」
一方的に全身傷だらけにされたクモ型のナイトメアは吼える。
「知るか。こっちだって必死なんだよ!さっさとくたばってろ!」
大槍の右手で受け止めつつ、反対方向からも飛んでくる拳に対応するのはよほど戦闘能力の差が無ければ不可能に近い。翔駒の初陣の相手であるコウモリ型ナイトメアグラヴィティと同程度と思わしきこのクモのナイトメアでは、2人の仮面ライダーを相手取るにはいささか実力不足のようだ。
「くそっ!冗談じゃねえ!いくらなんでも分が悪すぎるぜ!まだパワー不足だしよ!」
戦況不利と判断したのか、クモ型のナイトメアは2人のライダーに背を向けて敵前逃亡を図る。
「おっと逃すか!」
「どけ。奴は俺がトドメを刺す」
「どくのはお前の方だろ。あんなへなちょこ野郎、俺なら楽勝だっての。お前は大人しく引っ込んでな」
流唯を押し退けた翔駒はチョコレート・バッテリーをバックルから抜き取り、側部のスロット部に再装填する。
《チョコレート!エナジーチャージ!》
チョコレート・バッテリーの特性は極限までの肉体能力強化。その恩恵を最大にまで局所的に引き出すスーパーエナジーチャージャーによって、今の翔駒の右腕はプロレスラーのように逞しい力強さを獲得していた。これならクモのナイトメア程度は一撃で葬れるはずだ。
しかし、流唯は翔駒の肩を掴んで止めようとする。
「よせ!その技では……」
「おい、邪魔すんな!」
流唯の制止を払い、翔駒は拳を勢いよく振り上げながら跳躍する。
《ブレイクタイム!》
「チョコレート・クランチ!」
ダークブラウンの閃光を纏った渾身の右ストレートがナイトメアを穿とうと振り下ろされる。
「かかったなあ!」
しかし、クモのナイトメアは甲高い声でほくそ笑むと、口から白い何かを吐き出す。異変に気付いた翔駒は慌てて拳を振り下ろして白い物体を殴りつけようとするが、むしろ逆効果になってしまう。
白い物体は拳が届く寸前に拡散。犠牲者の女性同様に、翔駒の全身を包み込む。
「な、なんだこれ!?クモの糸か!?」
本物のクモの糸同様に強い粘着性を有しているらしく、ちょっとやそっと暴れた程度では引き剥がすことは叶わなかった。翔駒が糸と格闘している間にも、クモのナイトメアは糸をロープ代わりにしてビルからビルへと飛び移っていく。逃げ足の軽やかさは戦っていた時以上だ。
「あ、待てよおい!逃げるのか!おい、戻れよ!くそっ!この糸、なかなか剥がれねえぞ!」
結局翔駒は街並みに消えていくクモのナイトメアの姿をなすすべもなく見送ることしかできなかった。全身に絡まった糸をようやく振り払った頃には、既にナイトメアは行方を眩ませていた。
「蜘蛛を模した外見に違わない能力を有しているな。戦闘力そのものは大したことがなさそうだが、守りに入られると撃破は困難だろう」
「なーにしたり顔で語ってんだよ。お前が余計なことをしたから隙が出来て逃がしちまっただろ!」
ダークブラウンの手甲に包まれた右拳でトルネードの胸部装甲を軽く殴りつける。カツンと乾いた音が鳴ったが、流唯は意に介していない言わんばかりにクモ型ナイトメアが去っていた虚空の方から目を逸らさずにいた。
「後先考えずに暴れて戦況を掻き回したのはお前の方だ。それに奴の特殊能力を見るに徒手空拳しか攻撃手段を持たないお前よりも、切断用の武器を持つ俺が相手をした方が相性が良いナイトメアだった」
「あん?お前は俺のせいであいつを逃したって言いたいのかよ?」
「少なくともお前も一因ではあると俺は思っている」
「んだとこら!」
「だが、お前だけのせいとも言わん。もっともそんなことは彼らには関係無いだろうがな」
「は?」
そう言って流唯はトルネードの仮面の複眼を横に向けた。翔駒も彼に合わせて、視線を横向に変えた。
「お母さんっ!」
クモの糸で作られた繭で縛られた自分の母親へと懸命に声を掛け続ける幼い少年の姿がそこにあった。必死の呼びかけにも関わらず、女性からは全く反応が返ってこない。ライブ会場の犠牲者がそうだったように、女性もまた自我が崩壊してしまったのである。そして、レイコの言葉を信じるなら、治癒の手段は存在しない。つまり、あの少年はもう2度と母親と口がきけない。
「しっかりしてよ!ねえ!目を覚ましてよ!お母さん!」
目元から雫を伝わらせながら、反応の無い母親にすがる。それは救急隊員が母親をストレッチャーに乗せて運んでいく時も続いた。救急隊員の制止も振りほどいて、しがみつこうとする程に。
騒動を聞きつけて集まって来た人々の注目が集中する前に、翔駒達は変身を解除した。元の姿に戻った流唯は静かにその口を開く。
「あの母親はおそらく2度と目を覚まさないだろう。ナイトメアの被害者は誰1人として回復した試しは無いからな。そして、あのクモのナイトメアはこれからも人を襲い続ける。その時の被害者の家族に『俺が撃破できずに逃がしてしまったせいです』と言えるのか?」
「……」
被害を最小限に抑えるためのナイトメア撃破のチャンスをドブに捨ててしまった。その事実をを突きつけられた翔駒は何も言い返せない。
「逃がした俺達のせいでまた犠牲者が増えるんだ」
背を向けて中庭から去っていく流唯を直視出来ずにいた。
判明データ
仮面ライダートルネード
神村流唯が変身する仮面ライダー。アンダースーツは群青。
モチーフは西遊記の沙悟浄。
ヴァニラ/アイスクリームフレーバー
仮面ライダートルネードの基本形態。『貫通』の特性を有する『ヴァニラ・バッテリー』と制御用の『アイスクリーム・バッテリー』を並列に繋ぐことで変身可能となる。
アイスクリーム・バッテリーは本体の身体能力よりも武装への変換を重視している。そのため、正面の殴り合いをすればライトニングに劣るが、局所的な戦況では優位に立ち回ることも可能。ヴァニラ・バッテリーと組み合わせた場合、貫通力に優れた螺旋状の刃を備えた大槍『ヴァニランス』が形成されている。
装甲の色はクリーム色で、モチーフはバニラソフト。必殺技はヴァニランスにエネルギーを収束して一気に貫く『ヴァニラ・アイス・スクリーム』と冷気で拘束した後に貫く『ヴァニラ・エッセンス』、そしてライダーキックの『ヴァニラ・ツイスト』