仮面ライダーライトニング   作:至高のオーバーロード

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今回は文字数の割に進みません。芸能活動要素の前振りと幹部登場です。


第3話・キケンな奴らにご用心

「はいっ!ワンツー!ワンツー!」

 

 手拍子と掛け声に合わせて、フローリング床をキュッキュと擦る音が鳴り響く。

 

「ちょっと翔駒君!あなたったらまたワンテンポ遅れてるわよ!」

 

「くっ!」

 

 口調は女でも野太い男の声でダメ出しされた翔駒は苛立ちを隠せず歯ぎしりする。そっと隣を流し見する。個人的にはいけ好かない先輩である流唯はやはり腹がたつ程涼しげな表情で、軽快かつ華麗なステップを素人目からも完璧なレベルで刻んでいた。特に翔駒がさっきから何度やっても上手くいかない部分では、新手の嫌がらせかと思う程に文句の付けようがない。

 

「さあ!ラストに一回転よ!」

 

 翔駒の額から冷や汗が滴り落ちる。このラストの一回転はレッスンを始めてから一度も成功させていない鬼門であった。何度やっても成功に近づくどころか、苦手意識ばかり蓄積されてむしろ逆にどんどん動きが悪くなっていっている気がする。

 しかし、目の前で手拍子を繰り返すトレーナー曰く、この程度は基本中の基本らしい。実際、流唯はお手本で何度も完璧な一回転を披露していた。つまり、それだけ彼と翔駒では実力に差があるということだ。

 

「くそっ!俺だって!」

 

 密か、というよりあからさまに対抗心を燃やしながら、翔駒は必死の形相で渾身の一回転に挑もうとするが……結果は無様な大転倒だった。トレーナーや同僚の前でみっともない姿を晒す羽目になった翔駒は腰をさすって痛みを和らげる。

 

「イテテテテ……」

 

「はーいストップ!」

 

 トレーナーである巨漢は体をクネクネさせながら旧式ラジカセの停止ボタンを押した。レッスン場から陽気なBGMが消えて静けさがやってくる。

 

「もー……またなの?翔駒君ったら、幾ら何でも転倒多すぎじゃない?」

 

「わ、悪い朱美ちゃん……次はちゃんと成功させるからさ。だからもう一回!」

 

「だーめ!」

 

 オネエ系キャラの巨漢ダンストレーナー渡辺朱美は腕でバツの字を作る。

 

「集中力が切れたってのに時間と回数だけ重ねても無意味よ。ひとまずは休憩しましょう」

 

 そういえば、トレーニング用のシャツなんてもはや汗びっしょりだ。まずは汗だらけの顔をタオルで拭う。

 ため息を吐きながら翔駒は自分のバッグに入れていたペッドボトルを取り出して、中に入っているスポーツドリンクを喉に流し込む。途中でチラリと視線だけを動かす。反対側の壁には流唯が寄りかかって淡々と水分補給を行なっていた。

 本当にただそれだけなのだが、反りの合わない相手の余裕綽々な態度は何故か気に障るのが人間の常である。それも自分にできないことを簡単にやってのけるなら尚更だ。ただの嫉妬や劣等感と言ってしまえばそれまでだが。

 

「神村の野郎、涼しい顔しやがって……」

 

 長身痩躯で顔立ちもやたら整っている流唯はその何気無い動作まで優雅さを帯びている。芸能界で生きていくと決めた以上、その振る舞いも伝授してもらう必要があるのだろうが、その相手が流唯だと思うとフラストレーションが急速に高まりそうだ。

 そんな翔駒の内心のモヤモヤを気づいているか怪しい、彼をこの世界に引き入れた張本人は相変わらずな能天気さ爆発の軽やかな足取りでレッスン場のドアを開けた。

 

「ヤッホー!朱美ちゃーん♪」

 

「あら、レイちゃーん♪どうしたの?レッスン場までわざわざ見に来るだなんて珍しいじゃなーい」

 

「無論、我がタチバナエンターテイメントの期待のスーパールーキー君の様子を拝見しにね!」

 

「はいはーい、そのスーパールーキー君なら今部屋の隅でくつろいでるわね。話があるならちょうどレッスン終わったとこだし、煮るなり焼くなり好きにして良いわよん♪」

 

 仁王立ちして、絶賛脱力中の翔駒を見下ろす。

 

「どうかしら?我がタチバナエンターテイメントのレッスンは?」

 

 お目当ての青年は緊張が解けたせいか、壁に背を預けてとても人様に見せられない程に脱力して緩みきっていた。さながら溶けたアイスクリームのようだ。本物のアイスクリームのライダーさんは未だ気力が残っているが。

 

「どうもなにも、毎日毎日レッスンばっかりで身も心もクタクタだっつーの。こんなんで本当にアイドルになれんのか?」

 

 翔駒がタチバナエンターテイメントに入社して早1週間。仮面ライダーとして戦うと決意したのとほぼセットの形でアイドルを目指すことになった彼に与えられた最初の試練が、このレッスンに次ぐレッスンの日々であった。それも基礎中の基礎。体力や動きのキレ、発声練習と地味なものばかり。

 最初は心臓を動悸させながらレッスンに挑んでいた翔駒だが、さすがに変わり映えせずにずっと同じ内容をひたすら続けていたらいい加減飽きもやって来る。アイドルらしいことを未だに体験していないだけに不安が少しづつこみ上げ始めるのも無理はなかった。

 

「仕方ないわ。だってあなたは今までアイドルのアの字もわからなかった丸っきりの素人だもの。まずは基本中の基本であるダンスや歌唱の技術を最低限身につけてもらわないといけないわ。売り出していく前に、まずはそこから♪」

 

 チッチッチと指を降って得意げに語るレイコ。最初は面食らっていた芝居掛かったボディランゲージにも、毎日のように見せつけられたら理解はできずとも多少なりとも慣れはする。

 翔駒は深いため息を吐きながら床に背中を預けて手足を伸ばす。

 

「でもさ。朱美ちゃんマジでスパルタ過ぎるぜ〜!最初は優しそうだから油断してたけど、こんなハードスケジュール毎日やってたら体がどうかしちまうんじゃねえの?」

 

「あらそう? 朱美ちゃんは一人一人の現時点での技量や体力に合わせて適切なスケジュールを組んでくれるのよ?」

 

 水分補給を終えたと思わしき流唯も頬の汗をタオルで拭き取りながら、口を開いた。

 

「渡辺氏のレッスンは他のトレーナーと比べてもハードではあるが、その分指導内容は的確で丁寧だ。彼の指導を受け続ければ、どんなに才能が無くてもある程度は物になるレベルまで成長できるだろう。逆を言えば、このレッスンに耐えられないようでは大成なんて到底無理だろうな」

 

「もう!流唯君ったら、意地でもアタシを朱美ちゃんって呼んでくれないのねえ!ずっとお願いしてるのにアイスクリームのように冷たいわ〜」

 

 朱美は事務所の人間に自身をちゃん付けで呼ばせることに強い執着を持っている。ちなみに最初こそ抵抗していた翔駒であったが、延々と視界内で体をクネクネし続ける朱美のしつこさに遂に折れている。

 

「まさかもうギブアップするつもりか?辞めるならいつでも構わないぞ。仮面ライダーの仕事は俺1人で構わないからな」

 

「んなわけねーだろ!」

 

「あら?まさかスルーしちゃうの?流唯君のイケズ!」

 

 流唯の挑発に完全に乗せられた翔駒は腕を使わずに足だけで立ち上がる。

 

「辞めるなんて冗談はよせよ!まだまだこの位、なんともないぜ!」

 

 ペットボトルに残っていたスポーツドリンクを一気に飲み干す。ついついがっつき過ぎるあまりにケホケホと咳をしつつ、そこでふと同期入社の少女の私物が入った棚が視界に入る。奇妙な縁を築いた彼女とは同じレッスンをまだ受けたことがない。

 

「なあ、ところで杏里沙の奴は?」

 

「彼女はこの前に怪我した足が万全じゃないからね。レッスンの前に現場の仕事のお勉強をしてもらってるの」

 

「へー」

 

「でも、そろそろ大丈夫だろうから、次からはちゃんと参加してもらうつもりだけどね」

 

 彼女も一緒に参加すれば、ムッツリ男とオネエ系だけのむさ苦しいレッスンから解放されるのだ。そう思うとほんの少しだけ気が楽になった気がした。

 そんな風に多少身も心もリラックスしきっていた時、レイコのスマートフォンがけたたましく鳴り響いた。

 

「もしもし、奏多?あら、どうしたの?今日はレコーディングについて作曲家の先生と打ち合わせしてるはずじゃ……なんですって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でさー。恭介の奴、社長の前でうっかりやらかしちまってさー」

 

 黒髪を逆立てて、ワイルドさを全開に押し出した青年がゲラゲラ笑いながら隣の線が細い少年の背中をバシバシと叩く。同時に、周辺からも大勢の笑い声が飛び交った。

 

「もー、それって結構昔の話だよね。恥ずかしいんだからあんまり言いふらさないでよ大吾!」

 

 黒髪の青年によって槍玉に挙げられていた少年は眉を八の字にしながら口をすぼめる。しかし、この抗議は全く意味を成さなかった。大吾と呼ばれた青年は一切悪びれている様子は見受けられない。

 

「別に良いだろ。今更顔赤くするような内容でもねえじゃんか。もう時効だよ、時効」

 

「いやいや、恥ずかしい思いするのは僕だからね!?お茶の間の皆さんに僕の秘密が白日の下に晒されちゃうよ!」

 

「もう遅えって。ほら、そこのお姉さん達なんてさっきからお前見てこっそり笑ってるじゃねーか」

 

 必死に首を振る姿に聴衆からもクスクスと笑い声が漏れる。どうやら少年の恥は上塗りされる羽目になってしなったようだ。そんな2人のやりとりを眺めていた、彼らと同じ白い服を着ている眼鏡の青年は呆れた様子で肩を竦めた。

 

「こらこら、今はカメラの前ですよ2人とも。あまりはしゃぎすぎてNG連発しないようにお願いします」

 

「マジか。そんじゃ今のはNGってことでよろ!」

 

「……これ編集されずにそのまんま放送される流れじゃない?」

 

 テレビ撮影特有のタイミングが合った笑い声がスタジオ中を飛び交う。そう、これは文字通り、バラエティ番組の撮影現場である。若い人気芸能人がゲストとして呼ばれる企画がウリのこの番組の視聴率は、番組開始以来この日過去最高を記録したという。

 それもそのはず、なにせ今回のゲストは現在の男性芸能人の中では圧倒的実力と人気を誇るアイドルグループ『TRY/D−THE・STAR』。ライブは常に満員、新曲を出せば必ずオリコン1位を数週間陣取り、なにかの番組出れば各家庭のテレビは彼らが大量に映し出される。

 ある意味お茶の間の支配者ではないかと揶揄される程の支持を受ける彼らが与える影響はもはやマクロ経済の域だろう。それはこの番組も例外ではなかったということだ。

 

「いやー、それにしてもトライディザスターのみんなは本当に仲が良いねえ。見ててこっちが羨ましくなるよ」

 

 司会の人気お笑い芸人が茶々を入れる。だが、青年達は案外にも真面目な顔で返した。

 

「まあ、古い仲だしな」

 

「私達の絆は既にユニットの域を超えて血の繋がり以上に硬い物となっていますから」

 

「なるほどねえ。さあ、そろそろ本日もエンディングが近づいてまいりました!それじゃあ、恭介君!リーダーとして最後に宣伝も兼ねて一言!」

 

「はい!僕が出演する映画が来月から全国ロードショー開始です!テーマソングも僕らトライディザスターによる新曲となっています!是非観に来てくださいね!」

 

 さっきまで大吾に弄られていたはずの恭介は、打って変わってハツラツとした表情でニッコリと笑う。同時に女性達の黄色い声があがった。締めくくりに満足した司会の男は、カメラに向かって手を振る。

 

「本日はトライディザスターの3人にお越し頂きました!それではまた来週!」

 

 収録が終了した3人は和気あいあいとした雰囲気を保ったまま、スタジオから離れていく。これから彼らは楽屋で着替えた後、またすぐに別の仕事場に向かう予定なのだという。人気を考えれば当然なのだろうが、相当なハードスケジュールである。

 

「あれが男性アイドルの頂点に君臨するトライディザスター……テレビ越しでも存在感が凄かったけど、本物はなんかこう……オーラバリバリ出まくりって感じですね!おまけにアドリブに臨機応変に対応してるし、3人の息もピッタリ!キャッチコピーの『三位一体の黄金比率』は伊達じゃないです!っていうか足長っ!翔駒君や流唯さんも相当長かったけど、あの3人はそれ以上かも!?背も高いのに顔はやたら小さくて、本当に同じ人間なんですかアレ!?」

 

 聴衆用の席では番組の一部始終を目にしていた杏里沙が興奮冷めぬ様で拳を強く握りしめていた。せっかく目立たないように他のギャラリーに合わせた格好をしているというのに、やけに鼻息を荒くしているせいで逆に悪目立ちして周囲の注目を集めつつある。

 

「おい、嬢ちゃん。言っとくが、俺達は遊びに来たわけじゃねーからな。イケメントリオを前にして興奮するのもいいが、今の内にしっかり現場の空気を掴んどけよ」

 

 そんな彼女に釘を刺すのは隣に座っている千堂だ。事務所に待機している時とは違い、キチンと整えられたスーツを見に纏い、体もちゃんと洗ったからかフケも落ちていない。もっとも肝心のボサボサ頭と無精髭は一向に改善されていないが、不潔を地で行っていた普段の姿に比べれば遥かにマシと言えた。

 

「わかってます!そのためにもこの杏里沙メモに逐一に記入してるんですよ!」

 

 このアイドル見習いの少女はフンフンとさらに鼻息を荒くしながら、一心不乱に何かをメモ帳にビッシリと書き込んでいく。杏里沙の奇行を千堂は生暖かい目で眺めていた。

 

「そうかい。それはずいぶんと熱心なことだな。やれやれ、社長も今回はまたずいぶんと変な奴を連れて来たもんだ」

 

 一方、千堂は無精髭やボサボサの頭のせいで、杏里沙以上に周囲の聴衆達から白い目で見られている。もし同僚達がいれば、お前が言うなと総ツッコミを入れられたことだろう。端から見れば両者とも充分『変な奴』である。

 

「……ん?」

 

「どうした?嬢ちゃん。まるで狐につままれたみたいな顔して」

 

「いえ……流石に気のせいかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。人間のフリしてアイドルやんのは疲れるぜ。スピリットを集めるためとはいえ、なんかまどろっこしくねえか?」

 

 人気アイドルグループ『トライディザスター』の一角を担う青年、牛島大吾は休憩室に入るなり、大股開きでソファーに腰掛けて大袈裟にため息を漏らす。

 そして、次の瞬間、厳しい角を頭部を備えた異形の怪人に変異した。猛牛を模したおぞましい怪物。グラヴィティやストリームと同じナイトメアそのものである。

 すぐに元の人間の姿に戻ったものの、瞳は人が持ち得ない程にギラついた輝きを宿し続けていた。

 

「そうボヤかないで下さい、ボルケーノ。家畜達が飢えて死なないように世話をするのも我々飼い主の仕事ですよ」

 

 同じくトライディザスターのメンバーである眼鏡が似合う長身痩躯の青年、真壁遼は愚痴をこぼすチームメイトを宥める。人気アイドル牛島大吾ではなく、バッファローナイトメアとしての本性を現した彼を前にしても一切動じない。なぜなら、遼もまた彼と同じナイトメアの一員だからだ。

 

「こちらは適度にパフォーマンスを披露して興奮と喜びを与え、あちらからは適度にスピリットを頂戴する。お互いに理想的な主従関係ではありませんか?」

 

 軽やかに一回転すると、鮮やかな色の羽を背負った鳥型の怪人へと姿を変える。優雅かつ何処か高圧的な印象を与えるその姿は孔雀を彷彿させる。

 

「ははっ!お前は案外楽しんでそうだな、ミラージュ」

 

「当然ですよ。これこそ私が求めていた『力』の1つの形なのですから」

 

 真壁遼、いや、真の名をミラージュと呼ぶピーコックナイトメアは人間の姿に戻ると、眼鏡を弄りながら窓の外を眺める。外に広がる大都会のビル群。ここに生きる全ての魂がいずれ自分達に従う運命にある。そう思うと支配欲の強いミラージュとしては歓喜が込み上げて仕方ない。

 

「武力による支配などもはや時代遅れ。これからは人心を掌握して世界を我が物のように操る時代です。その意味では老若男女問わず魅了するアイドルの力は興味深い。それとあなたこそ、口ぶりの割に今回の仕事はずいぶん張り切っていたようですが?」

 

「まあ、派手に暴れられねえ分、暇つぶしにはなるからな。お前はどうなんだ?イクリプス」

 

 イクリプスーーー表向きはトライディザスターのセンターにしてリーダー、九院恭介として名が知られている少年は、仕事中のあどけない表情からは想像出来ない程のゾッとするような冷たさを放つ悪魔のような微笑みを浮かべる。

 他の2人とは違って怪人態を見せていないにも関わらず、与える威圧感は彼ら以上だ。

 

「僕はいつもと変わらないよ。僕は与えられた役目、皆が望む役目を演じ続けるだけさ。今も、これからもね」

 

 壁に寄りかかったままおぞましい冷笑を浮かべる彼の姿を目にして、カメラの前での柔和さを知る一般大衆達は人気アイドルと同一人物だと信じられるだろうか。彼のその本性を知る数少ない同胞だけは平然としていた。

 

「あなたらしい返答ですね、イクリプス」

 

 静かに満足気に笑うミラージュ。だが、次の瞬間には冷徹な参謀役としての顔を覗かせる。

 

「しかし、それより問題なのは例の輩の方です。我らの同胞達を次々と屠る不届き者」

 

 途端、ボルケーノの表情が曇った。彼もミラージュの言う不届き者に対して同じく強い危機感を抱いていたからだ。

 

「噂の仮面ライダーって奴か。なんでも最近1人増えたらしいじゃねえか」

 

「ええ、立て続けにグラヴィティとストリームが倒されてしまいました。彼らは我々ナイトメアの中でも戦闘能力は最下級。ですが、本来ならそれでも普通の人間では全く相手にならないはず。どうやら彼らは着実に力を付けているようですね。まったく、面倒な奴らだ」

 

 ミラージュはいかにも困ったといった様子でため息を吐きつつ、メガネの位置を直す。そんな彼の様子をボルケーノはくすりと笑って眺めていた。

 

「よく言うぜ。本当はあんな奴ら屁でもねえって思ってるくせによお」

 

 ミラージュはああ言っているが、彼は本当はその気になれば仮面ライダーなど軽くねじ伏せれる戦闘能力を有していると評価されているし、その自負も抱いている。戦闘能力自慢をしてボルケーノのような脳筋キャラと一緒にされたくないだけだと、長年の親友には既に理解されているのだ。

 

「だが、今は俺達に遠く及ばなくても、このまま放っておいたらますます厄介になるかもな。どうするイクリプス?一発シメてやるか?なんなら俺が真っ先にカチコミかけてやっても構わねえぜ?」

 

「こらこら、火遊びは程々にしておかないとなりませんよ、ボルケーノ。貴方の悪い癖だ」

 

「良いじゃねえか。せっかく久々に大暴れ出来そうなんだしよ」

 

 人間に仇をなす怪物らしかぬ快活な笑みを見せるボルケーノ。戦いをこよなく愛する彼にとって、対等か少なくともあくなき闘争心を少しでも満たしてくれそうな新しい玩具の登場は願ったり叶ったりだ。

 

「そうだね。いずれ彼らにはキツいお灸が必要だ」

 

 見た者を戦慄させるような冷たい笑みを浮かべながら、イクリプスは椅子から立ち上がってアイドル衣装の埃をポンポンと払った。ボルケーノとミラージュも彼に付き従うように立ち上がった。

 遂に動き出した3つの禍が、仮面ライダー達に牙を向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーハッハッハ!逃げろ逃げろ逃げろお!」

 

 日が沈んで人気が無くなった公園を一体のナイトメアが駆け回る。狙いは仕事を終えて帰宅中だったスーツ姿のサラリーマンだ。ついさっきまでは帰宅後の家族サービスのことで頭がいっぱいだったはずの彼のアフターファイブは、理想とは真逆の地獄と化していた。

 逃げても逃げても、彼を追う悪魔の笑い声からは離れられず、むしろ地面に刻まれる刃の傷痕はどんどん距離を縮めていく。

 だが、恐怖心に駆られて考え無しに逃げ回った結果、気づけば逃げ道のない袋小路に追いやられていた。今まで姿を見せなかった狩人がとうとう現れる。

 

「ひぃっ!」

 

「さあ、とうとう追い詰めたぞ。遊ぶのも飽きてきた頃だし、そろそろお前のスピリットを頂くとしようか」

 

 ジャガー型のナイトメアが握りしめた両手の剣が街灯の輝きを反射してキラリと煌めく。それは男性の命の灯火を表しているかのように思えてならなかった。

 

「た、助け……」

 

 もはや絶体絶命。男性は死を覚悟した。

 

「待て待て待て!変身!」

 

《チョコレート/ヒャクパーセント!》

 

 ナイトメアの手が男性に届く寸前、ダークブラウンの手甲が割り込んで遮った。

 

「今の内に逃げろ!」

 

 仮面ライダーライトニングに変身した翔駒に一喝され、震える脚を我慢して一目散にの乱用げていく男性。ジャガーのナイトメアは獲物を逃してしまった怒りを爆発させ、悔しそうに地団駄を踏んだ。

 

「くっそお!せっかくのディナーの邪魔をしよってからに!」

 

 怒り心頭のようだが、人間を守るために戦っている翔駒にはむしろ痛快な気分だ。

 

「そいつは悪かったな!代わりに俺がとっておきのチョコレートをプレゼントしてやるよ!」

 

 ボゴッ!

 

「うぐっ!貴様っ!」

 

 翔駒はダークブラウンの装甲に覆われた拳でジャガーのナイトメアを殴り飛ばす。ライフバッテリーの力で強化された右ストレートをもろに受けてナイトメアは足をフラつかせる。

 しかし、仮面ライダー側の攻勢はこれだけで終わらない。

 

《ヴァニラ/アイスクリーム!》

 

「ついでにバニラソフトもどうだ?」

 

「うおおっ!?」

 

 背後から白のライダーが大槍で突き技を繰り出す。ジャガーのナイトメアは情けない声を漏らしながら慌てて2人から距離をとった。

 

「遅いじゃねえか神村。あやうく俺が先にあいつにトドメ刺しちまうとこだったぜ」

 

「お前こそ突出しすぎだ。それと俺達には表の顔での活動があるのだから、戦いの場では本名で呼ぶのをやめろ。変身中はトルネードと呼べ、ライトニング」

 

「へいへい。わかってますよトルネード先輩」

 

「き、貴様ら……」

 

 予期せぬ不意打ちを受けたジャガーのナイトメアは痛みが苛む背中を抑えながら、2人のライダーを怨みに満ちた眼差しで睨みつける。

 

「貴様らが例の仮面ライダーか!あいにくだが、俺はグラヴィティやストリームのような底辺ナイトメアとは格が違うぞ!」

 

「へっ!お前も口だけはずいぶん達者みてえだな。あの2匹も偉そうな口聞いてた割には、自分の身が危なくなった途端に泣き喚いてたぜ!」

 

 ナイトメアは人間ではなすすべが無いほどに強力な生命体ではあるものの、それゆえに自分達の力に驕ってしまい、結果ライダー達の力にはろくにも対処出来ずに敗れている。それが翔駒から見たナイトメアという存在の印象であった。

 しかし、このジャガーのナイトメアは、仲間が敗れたという事実を知っていてもなお怯む様子を全く見せていない。

 

「これを見てもそう言えるか!」

 

 次の瞬間、翔駒達の目の前からジャガーのナイトメアの姿が消失した。現代科学を遥かに超越するテクノロジーが積まれた仮面ライダーの頭部センサーの索敵能力を持ってしても、一切捕捉することが出来なかった。

 

「なにっ!?」

 

「何処行きやがった!?」

 

 一体何処へと消えたのか。慌ててナイトメアの姿を目で追いかけようとする2人だったが、次の瞬間には自身の体が突然宙を舞った。

 

「おわっ!なんだこ……くっ!」

 

 まただ捉える前に自分達が何者かに攻撃されてしまう。

 

「不意打ち!?あいつ遠距離から攻撃出来んのか!?それとも透明化の類か!?」

 

「いや、違う!おそらく奴は……ぐはっ!」

 

 全てを言い終わる前に流唯は武器を落として地面に叩きつけられる。

 

「白い奴の御察しの通りだ。俺の能力は高速移動!あまりにも速すぎて、お前達にはただ瞬時に移動しているようにしか見えないようだな!それがお前らと俺の実力差だ」

 

 今度は若干ながら動きを捉えた。消える直前、駆け足の構えをとっていた。

 

「速い!」

 

 僅かな空気の揺れに合わせて、流唯はヴァニランスによる突きを繰り出す。だが、それは虚しく宙を突くだけに終わった。挙句に、ジャガーのナイトメアが備えている双剣による手痛い反撃を浴びてしまう。

 

「くっ!」

 

「トルネード!この野郎!」

 

 火花を散らして膝を屈したトルネードの姿に動揺しつつも、自身も高速で周囲を駆け巡るナイトメアに拳を叩き込もうと右ストレートを放つ。それも空を切るだけだった。逆に翔駒の方が背中を切り裂かれ、ダークブラウンの装甲からぷすぷすと煙が立ち上った。

 

「うおっと!速すぎて目が追いつかねえ!」

 

 拳を握りしめて、必死に点滅するように時折捉える影を追い続けるが、反撃を仕掛ける機会は全く得られない。むしろ、一瞬の隙を突かれて逆に手痛い目にあってしまう始末だ。

 

「ハハハハハ!どうだ!鈍足の貴様らでは手も足も出るまい!いつの時代も迅速に獲物を仕留めるのが戦いの定石!つまりスピードこそが最強の武器!故にスピードを極めた俺が最強!」

 

 高笑い混じりの演説を披露しつつ、その驚異的なスピードでライダー達を容赦無くいたぶっていく。

 

「うわっ!」

 

「くっくっく!実に無様なもんだぜ」

 

 火花を散らして転がる翔駒を笑いながら、高速移動を一度やめて刃をぶつけ合い、チンチンと乾いた音を鳴らす。

 

「どんな恐ろしい相手かと思いきや、所詮は人間のナイトメアごっこか。さあ、覚悟しろ。このジャガーナイトメア『ソニック』様の音速を超えた剣撃によって、為すすべもなく一方的に刻まれて死んでいくがいい!」

 

 二本の刃が擦り合わされて耳をつんざく金属音が公園に響き渡る。さながら処刑執行人の死刑宣告に思えた。しかし、翔駒はなおも悠然と立ち上がる。

 

「なるほどな。確かにその速さは厄介だ。俺達じゃ全く追いつけそうにねえ」

 

「おや?ずいぶんと諦めが早いな」

 

「ばーか。俺がわざわざお前と同じ土俵に立ってやる義理はねえって意味だよ」

 

 ナッツ類のイラストが描かれたバッテリーを取り出し、ヒャクパーセント・バッテリーと交換する。

 

「一味変えていくぜ!」

 

《トッピング!ナッツ・グラヴィティ!》

 

《チョコレート/ナッツ!》

 

「それ!」

 

 翔駒が突き出した腕の動きに合わせて、周辺の土や石を固めて作り上げられた大岩が誕生した。

 

ガンッ!

 

「ぐはっ!」

 

 勢い余って大岩に正面衝突したソニックは鼻を押さえながら悶絶する。痛みがようやく引いたソニックが顔を上げると、目の前に広がる光景に度肝を抜かれてしまった。

 

「てめえ!この辺り一帯に障害物を!」

 

 公園中に大量の岩が設置されている。物体操作の力で岩の障害物を多数一定感覚で形成し、直線でしか加速できないソニックが能力を発揮できないように道を塞いだのである。

 

「ははっ!どうだ!これで自慢のスピードも大して出せねえだろ!」

 

「ちっ!まだだ!俺にはこの切れ味抜群の剣が残っている!」

 

 両手に固定された刃で岩をチーズのように細切れにしていくソニック。大の大人サイズはあったはずだが、一瞬にして粉々に砕け散ってしまった。

 

「しつけえ奴だな。ならそいつで切り刻みきれないくらいの岩をたっぷりプレゼントしてやるぜ!」

 

 ならば、と翔駒も対抗してナッツ・バッテリーの力を再び行使する。ソニックの刃で粉々に砕かれた岩の破片を再び集めて一個の大岩に戻す。

 

「くそっ!調子に乗りやがって!」

 

 ソニックが邪魔な岩を砕けば、翔駒はまたも盾代わりの岩をあちこちに用意してソニックの加速を妨害する。奇妙なイタチごっこが夜の公園で繰り広げられる。対抗意識を燃やしている翔駒は意気揚々とナッツ・バッテリーの力を振るい続けていた。

 

「まだまだだぜ!もう一丁……」

 

 バチバチバチッ!

 

 続けざまに物体操作を使用した翔駒はサーキットドライバーの異変で仮面の下の顔を青ざめさせる。資格を持ったはずの翔駒が使用しているにも関わらず、まるでレイコが無理に変身しようとした際のような高圧電流が発生した。

 

「な、なんだこれ!」

 

 動揺する翔駒は置いてきぼりを食らっている先輩ライダーの流唯に縋るような視線を送った。

 

「トッピングの時間切れだ。長時間のライフバッテリー使用を制御出来るのは特別製の疑似ライフバッテリーであるヒャクパーセントやアイスクリームとの並列接続だけだ。他の組み合わせでの長時間使用は不安定化した電力供給のせいでサーキットドライバーがいずれショートしてしまう」

 

「そういうのは早く教えてくれよ!」

 

 仮面の下で翔駒は冷や汗をボタボタと垂れ流していた。ショートが発生してしまったサーキットドライバーから流れ出る電流は翔駒の肉体を蝕んでいく。これでは戦いようが無いではないか。

 そんなピンチを前に動揺しきっている翔駒だが、何故か流唯は反対に落ち着きを払っていた。

 

「だが、お前のおかげで隙は作れた」

 

 そう言って一本のバッテリーをホルダーから取り出す。表面には板状のチューインガムの絵柄が描かれている。

 

「俺も一味加えるとするか」

 

《チューインガム・ストリーム!》

 

 スパイダーナイトメアの撃破によって入手した『チューインガム・バッテリー』をアイスクリーム・バッテリーと入れ替える。

 

《トッピング!チューインガム!》

 

《バニラ/チューインガム!》

 

 一瞬だけヴァニランスが光り輝くが、外見には特に変わった様子は無い。

 

「ふんっ!」

 

 ソニックとはそれなりに距離があるにも関わらず、流唯は軽く宙に向かってヴァニランスを振った。次の瞬間、白い刀身がまるでゴムのように伸びる。伸縮自在の鞭に変化した槍がソニックの首から下全体を覆い尽くす。

 

「なに!?なんだこりゃあ!?」

 

「『チューインガム・バッテリー』が持つ『伸縮』の特性をこの槍に付与した。今のヴァニランスは変幻自在の軌道でしなる鞭と化している。自慢のスピードも封じられてしまえば形無しだな」

 

「ぐぐぐ!動けねえ!」

 

 問題は鞭のスピードは決して速くはない点であったが、翔駒の操った岩による妨害によって若干の隙が生まれたのだ。おかげでソニックはまるでミノムシのような無様な姿を晒す羽目になった。

 

「そのままジッとしていろ」

 

 普段から使用している大槍を拘束ロープ代わりにして手がガラ空きになったが、何も必殺技はあれに限定されているわけではない。ライトニング用のベルトと同様に側部に設置されているスロット部に、バニラのライフバッテリーを装填した。

 

《ヴァニラ!エナジーチャージ!》

 

 白の閃光が螺旋状のうねりとなって、流唯の左足に収束していく。音声の発生と同時に、なおも拘束ロープと格闘しているソニックに向かって駆け出した。

 

《ブレイクタイム!》

 

「ヴァニラ・ツイスト!」

 

 地面を蹴って一気に跳躍。一撃必殺のエネルギーが充満した左足をソニックに向けて突き出す。そして、自らを竜巻に変えて急降下を開始した。

 このまま狙い通りに直撃すれば、ソニックは奔流するエネルギーを流し込まれて跡形も無く粉砕されるはず。

 そう思われた時だった。キックが命中する直前、流唯の体は突然の爆風と共に林の方へと弾き飛ばされた。

 

「ぐぅ!?」

 

 一体何が起きたのか?

 林の中を転がった流唯は慌てて仮面越しに攻撃が飛来してきた方角を睨みつけた。茂みの1つがガサゴソと動いている。

 

「ずいぶん苦戦してるようだな、ソニック」

 

 物陰から姿を現したのは、両手が巨大な銃口となっている亀のような姿のナイトメアだ。フッと銃口の煙を息で吹き飛ばすと、ノシノシと亀らしいゆったりとした動きでこちらに近づいてくる。

 

「アヴァランチ!」

 

 仲間のおかげで九死に一生を得たソニックは、自身を拘束していた鞭を力づくで引き剥がす。

 

「いやー、助かったぜ!ノロマな亀のお前にしては上出来だ」

 

「ノロマな亀は一言余計だ。まったく、助けて損した気分だな」

 

 バシバシと遠慮なくアヴァランチと呼ばれたトータスナイトメアの背中を叩くソニック。当のアヴァランチは呆れ果てた様子でため息を吐いた。

 

「ナイトメアがもう一体!?」

 

「複数のナイトメアによる連携だと……馬鹿な!こんなことは今まで……」

 

 肩で息をしながら次の攻撃に備えるライダー達を尻目に、アヴァランチはイラついた様子でソニックを小突いた。

 

「おい、ここは一旦引くぞ。お前は加速の乱用でせっかく溜めていたスピリットを消費しすぎた。これ以上こいつらと戦うのは少しばかりリスクが大きすぎる」

 

「ちっ!仕方ねえな。おい、てめーら!次に会ったら覚悟しておけよ!」

 

「こら、待て!」

 

「待てと言われて素直に待つ奴はいない」

 

 アヴァランチは冷たく切り捨てると、地面に向けて両手の大砲を発砲。大量の砂塵が巻き起こる。砂埃が落ち着いた頃、2体のナイトメアの姿は既にそこにはなかった。

 

「逃すか……」

 

 バチバチバチッ!

 

 がむしゃらに追いかけようとした翔駒を高圧電流が襲いかかる。もはや足を踏み出すのもままならない始末だ。

 

「深追いするな。その状態じゃロクには戦えないはずだ」

 

「くっそお!」

 

 諦めて変身を解除した2人は地面に膝を屈した。想像以上にダメージは大きい。正直言ってナイトメア達が撤退したのは2人にとっても僥倖だったようだ。しかし、だからと言って喜べるような状況ではなかった。

 

「完全に油断していた。あいつらが徒党を組むなど全く予想していなかった」

 

 行き場の無い戦士達の屈辱と怒りを夜の街は静かに包み込んでいった。




次回、もっと孫悟空っぽくなります。それと急展開。
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