ワタクシ、龍で御座います。   作:灯火011

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ワタクシ、龍で御座います。

人を襲ったりも致しますが、基本的には雑食です。
主食は熊やら牛やら、時折山菜で御座います。

趣味は文庫あさり。最近はファンタジーがマイブーム。
交友関係はドワーフにエルフに精霊族、あとは同族の龍で御座います。

ワタクシ、龍で御座います。


龍()

 あ、お初にお目にかかります。ワタクシ、龍などやっております龍と申します。

 

 あ、いやいや、龍という種族でありまして龍という名前ではありません。強いて言えば人間で言うところの「火を吹き、空を飛ぶ羽を持ったドラゴン」といった龍です。

 

 更に申すなれば、私はその「ドラゴン」という種族の中でも珍しい人語を理解し、人語の読み書きができる龍です。

 ワタクシ、人語を理解する龍ではありますが、実のところ人間を襲ったりもします。あ、いやいや、常に襲っているわけではありません。皆様もご存知の通り世界は「弱肉強食」であります故、どうしても餌が見つからない飢餓の時、あとは家に攻め入られた時などは生きるために致し方なく人間を丸呑みしております。

 

 …人間が描いた文庫などを読んでおりますと、ワタクシタチ龍は人間を襲い、村を襲い、街を襲い、ひどいときには国を一つ潰すなどと描いてある文庫もあります。

 

 が!ワタクシ一つ声を大にしていいたいことがございます。「人間の街」襲うような同族はまずおりません!

 

 そもそもワタクシとまではいかぬとも、ワタクシタチ龍は「人語」をある程度理解しております。例えるなれば人間に対する猿、チンパンジーのような関係と思っていただければいいでしょうか。そんな意思疎通がある程度可能な種族を襲うということは人間と同様、基本的には致しません。もう一度言いますが、例外としてはこちらが飢餓の時や、我が家に人間が攻め込んだ時には人間を襲う場合がございますが!

 

 いやはや、ファンタジーという書物では本当に常に龍が悪者であったりするもので、ついつい熱くなってしまいました。ただ、完全に人間を襲わないわけではないのでそこら辺から、話しが大きくなったのかなと自らの行動を恥じていたりするところです。

 

 しかし、ファンタジーが描いてある文庫という書物、あれは良いものでありますね。先の悪の龍というのはお引き取り願いたいところでございま・す・が!―龍を従える人間、冒険する龍と人間、伝説上の龍などなど龍がかっこよく描かれておる作品も多々ありますで龍としては嬉しい限りです。

 

 さて、ちょっとばかり前置きが長くなってしまいましたが。ワタクシ、今、人間の街の城壁に来ております。そして、手紙を一つ携えております。

 

『改めまして、ワタクシ、龍で御座います。ワタクシが人外の化け物であるというのは重々に承知しておるのですが、こちらの街の図書館の利用を許可していただけないでしょうか。ワタクシもっと文庫を読み漁りたいのです』

 

 

「…りゅ…龍殿…その、この手紙は一体」

 

 おや?人間に差し出した手紙の意味が通じてないようだ。これは困った。私はただ単に文庫が読みたいだけなのだが。どこか驚くところでもあったであろうか?

 私は単純に、家で手紙を書き、私の家の近くで最も大きい人間の街へと赴き、城壁の人間へと手紙を渡して本を読むという計画を思いついただけなのだが。

 うむ、思い返してみても、思いつきで行動したにしてはPerfectな計画だ。街に近づいた時になにやら弓や巨大な石で撃たれたような気がしたがそんなことよりも文庫が大切なのである。

 

 それにしても人間がワタクシの手紙を持ったまま固まってしまっているわけで、このままでは埒が明かぬのは明白である。どうしたものか。

 

「いや…しかし…図書館とは…」

 

 ふむ、未だに人間は戸惑っておられる。なぜだ。やはり龍では駄目なのか?いやいやそんなわけはない。親戚のワイバーンは人間に仕えてそこそこ旨い牛を食らっているという話であるし、人間に化けれる親戚も旅人ともに身銭を稼ぎ今では人間の間でもトップクラスの金持ちと聞いた。この間はその金でジャガイモとやらを買ってきてくれていたし。うむ、じゃがバターをまた食べたくなってきた所存。いやいや脱線しすぎである。

 …む?つまり思い返してみれば普通の龍では人間との交流が出来ないということなのか?いやいやまてまて、私は『人間の言葉を理解できるちょっと変わった龍』だぞ。

 …それであれば一つ、もう一筆描くとしよう。といっても目前の人間と直接文字をやり取りするわけだから「筆談」と言った方が良いか。

 

 こんなこともあろうかとワタクシ、しっかりと紙とペンを持参しているのだ。用意周到とはこのことである。

 

 ドワーフに作って頂いたペンはワタクシの指というか爪で握っても潰れず、エルフに作って頂いた紙はワタクシの筆圧でも破けぬ優れもの。水精印のインクはどこまでも滑らかに描ける特級品である。代償としてワタクシのウロコを何枚か提供したが、はたして何に使うのかテンで見当がつかぬ。とと、いかん、また話がずれた。

 

 人間の目の前にペンと紙とインクを出そうとしたが、未だに弓が飛んできていることにワタクシ流石に苛立ちを感じております。これではまともに筆談など出来ぬ。少し黙ってていてくれという意思を込めて、城壁の人間へと一鳴きする。効果はテキメンのようで弓が飛んで来ることは二度と無い。

 

 さて、これで落ち着いて筆談ができるわけだ。ということで早速。

 

―ワタクシ、手紙でも書きましたが人間の言葉が読み書きできる龍で御座います。ワタクシのこのすがたに人間である貴方様が驚いたのも無理はございません。そこで一つ、筆談など如何でしょう―

 

 筆記時間わずか1分。書き順等々も合っているはずである。ワタクシ文字には非常に自身が御座います。さて、ということで相手にペンと紙を渡してみる所存。

 

「ひつ、筆談?」

 

 そうですワタクシと筆談致しましょう。と意味を込めて軽く唸りながら首を縦に振ったわけですが、果たしてどう転ぶことやら。と思いましたら人間、さらっと文字を書いて紙をワタクシに突き返してきたではありませんか。

 

―目的は?―

 

―図書館を利用したいのです。ワタクシ、文字は読めるのですが、あいにく龍には文庫という文化も図書館という文化もございませんので…―

 

―難しいかと思われます―

 

 はうっ!?難しい、難しいと返されましたかこの人間!

 

―ナゼでしょうか?ワタクシ、そちらになにか規則があれば守りますし、本をなくしたり燃やしたりはしないと誓う所存ですが―

 

 ワタクシは誠心誠意お願いする所存です。ルールがあれば守りますし、守らせるのが本を読むものの使命だと思っております故に。

 

―人間は龍がコワイのです。時折人間を食らう龍を城壁の中に入れることは出来ません―

 

 帰ってきた紙には丁寧にお断りの言葉が書いてありました。

 

 ………なんたること!時折ちょっといいかなーと思って人間を襲っていたツケがここでまわって来るとは!ワタクシ、若かりし自分を殴りたい気分。ですが、やはりだめ押してもう一度聞くしかあるまい!私は文庫を読みたいのだ!

 

―どうしても?―

―駄目です―

 

 にべもない、というやつですな…。文庫が読めぬか…どうしたものか。うーむ。この街の中に無理やり押し入るか?いやいやいや、それでは押し入り強盗と一緒ではないか。そうすると結局、更に更にと文庫が読みにくくなってしまうではないか。ううむ。力技はいかん。いかんぞ。水龍も言っていたじゃないか『馬鹿はやるな』と。

 

 いやしかし図書館が使えぬか、使えぬか!流石にワタクシも落ち込む。龍だって感情があります故に落ち込むのだ。

 んおや?人間がなにやらサラサラと紙に文字を書いておるな。なんぞ?

 

―龍殿、今まではどのように文庫を手に入れ、読んでいたのですか?もしや、人を襲ったりしたのですか?―

 

 ふむ。そんなの決まっているだろうに。

 

―人間が不要として捨てていたものを拾って読んでいたのです。紐で一括りにして村の外に置いてあるものなどは不要物なのでしょう?―

 

 ワタクシ、文庫のために人を襲ったことはありませぬ。むしろ朽ち果てそうな物を頂いて我が家でちまちまと読んでいただけに過ぎぬ。時折ドワーフらやエルフらに修復して頂いたり、それを彼らに貸出したりもしているが、所詮は細々と集めたものである。故に、ワタクシは街でのんびりと大量の文庫をあさりたいのだ!

 

 とはいえ、今、その夢、潰えたわけだが。実にしょんぼりである。思わずため息が出る。といっても致し方あるまい!断られて力づくで解決するのは蛮族のやることであるからして、ワタクシ誇り高き龍というヤツですのでここは潔くタイサンすることと致しましょう。

 

「おい、龍殿。ちょっとまて、こいつを持っていけ」

 

 自慢の我が巨大な羽を開き城壁を後にしようとした瞬間、先ほど筆談した人間が一冊の本を持って来ていた。………お?もしやこれをくれるというのか!?

 

「こいつは今、この街で1番流行っている文庫の第一巻だ。俺が読んだものであるが、それでいいなら持っていってくれ」

 

 おお!これは僥倖である!思わず雄叫びをあげてしまう!あ、いかん。前に氷龍から言われたのだった。『お前の雄叫びは煩い』と。いかんいかんと慌てて人間を見てみれば、耳をふさいでしゃがみこんでしまっていた。これは失礼。

 

「嬉しそうに雄叫び上げやがって…ああ、ただそいつは貸しだ」

 

 貸し、であるか。いやしかし、いつ返せというのか。冷静になってみれば未だに周りの人間は弓とやらをこっちに向けているわけであるし…。

 

「読み終わったらまたここにこい。城壁の中に入れることは無理だが…城壁の外であれば俺が本を渡せる」

 

 おお!そういうことであればワタクシの願ったり叶ったりである!雄叫び…を思いとどまり一礼し、ワタクシは城壁を後にしたのである。文庫は指の間にしっかりと挟み込んでいるので問題ナシなのだ!

 

 

「ふぅ…すげぇ龍だったな」

「あぁ。でかかったなぁ…。城壁ぐらいあったよな、あれ」

 

 龍が飛び去った空を見上げて、城壁を守っていた衛兵はため息をついていた。

 

「それにしてもだ。びっくりしたな、いきなり龍が城壁に現れるなんてな」

「あぁ、死んだかと思った」

「俺もだ」

 

 衛兵達は城壁に座り込むと、タバコへと火をつける。

 

「それにしても…本を、しかも文庫を読みたい、ねぇ?」

「ああ、嘘かと思ったけどよ。俺から本を受け取った時の喜びようったらなぁ。軽く小躍りして雄叫びまで上げやがって」

「今頃城内は大騒ぎだろうな」

「全くだ」

 

 ふぅ、と衛兵達がタバコの煙を吐き出したその時、ワイバーンに乗った竜騎士達が男たちの頭上を通る。そして、その最後尾にいた竜騎士が衛兵の目の前に降りていた。

 

「竜騎士殿。ご苦労様です」

「うむ。衛兵諸君、いつも見回りご苦労。さて、今ここに銀炎龍が来ていたと思うのだが、詳しい話をお聞かせ願えるか?」

「銀炎龍…でありますか?」

「ああ。名前だけであれば諸君らも識っているだろう。我ら共和国を縄張りとする古代龍であり、我が騎士団のエンブレムにもなっている」

「いまのがそう、なのですか?」

「それを確かめにここに来たのだよ。衛兵諸君。あいにく銀炎龍と思わしき龍は飛び去った後であったがね」

 

 竜騎士はそう言いながら、城壁を見渡してた。すると、何かに気づいたのか腰を落とし、地面から何かを拾っていた。

 

「竜騎士殿、それは?」

 

 衛兵の言葉に、竜騎士は拾ったものを衛兵へと見せていた。その手に持っていたのは、銀色に輝く美しい薄い何かであった。

 

「…こいつは、おそらく銀炎龍の鱗さ。これ一枚で金貨100枚は下らん」

「金…金貨百枚!?」

「あぁ、鉄より軽く、金剛石より固く、銅よりも加工しやすいというとびっきりの素材だ。そしてなによりも持ち主に幸運を宿すとも言われている」

 

 竜騎士は更に腰をかがめると、同じような鱗を更にもう2枚拾っていた。

 

「ふむ…鱗が3枚か。こちらとしては証拠として1枚だけ必要であるからな」

 

 竜騎士は持っていた鱗のうち2枚を衛兵の2人へと押し付ける。そして、笑みを浮かべて言葉を発していた。

 

「衛兵諸君が獰猛な銀火龍に遭遇し生きていたという幸運に免じて、諸君にこれをやろう。お守り代わりにするも良し、売って財を成すも良し。では、私はこれで失礼する」

 

 竜騎士はそう言うと、ワイバーンに跨り城内へと踵を返していた。衛兵はその姿をただ見守るだけであったが、衛兵の片割れが重要な事実に気づいて龍に本を渡した衛兵に声をかけていた。

 

「あ、まずいぞ。銀炎龍ってお前の本を返しにまたここに来るんじゃ…?」

「………あ!竜騎士殿ォー!」

 

 だがしかし、衛兵の声は竜騎士には届かない。

 

「…と、とりあえず上に報告すればなんとかなるんじゃないのか?」

「いや…本好きな龍が銀炎龍で銀炎龍は人間の言葉理解してますって報告したら、俺の頭がおかしいと思われると思うんだよ」

「…確かに。しかし、報告せんわけにもいくまいよ」

「まぁなー…」

 

 本を銀炎龍に渡した衛兵は頭を抱えるのであった。




◆銀炎龍:共和国制定以前より、共和国の土地を縄張りとする古代竜。通常兵器は聞かず、竜騎士率いるワイバーン部隊でも歯が立たない。そして人間の街を時折襲うこともあるため『獰猛』で識られている。
 しかしながらその鱗は特級品で、鎧にしても良し、装飾品として飾っても良し。そしてなにより薬として煎じればどんな種族であろうとも病が忽ち治るという万能薬である。
 現存する鱗は共和国騎士に伝わる銀炎龍の鎧と、共和国首都の宝物庫のみであると言われている。ただ、時折エルフ族やドワーフ族の街から発見されることもあると言われている。


◆龍:銀炎龍の中の人。口から火を吹く典型的な西洋龍。実際強い。弓とか攻城兵器などの飛び道具は跳ね返してしまうし、魔法も殆ど無効化する。叫び声で城壁を壊すなんてお手の物。
 自分の家に侵入し、龍のコレクションを奪おうとしてきた人間の街を壊滅したことはあるが、基本的に大人しく、時間があれば書物を読み漁っている。
 自身の鱗の効能は一切把握していない。むしろ抜け落ちて邪魔なので勝手に持っていけの精神であるが、ドワーフやエルフ、精霊族は献上品を持って龍の元を訪れ、鱗を「頂戴」している。

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