ワタクシ、そこそこ年をとっておりまして、
それゆえにと申しますか、やはり、年の功というやつで
そこそこ、そこそこ交友関係が広いのです。
エルフ族、ドワーフ族、龍族、精霊族と多岐にわたる次第で御座います。
改めまして、ワタクシ、龍で御座います。
またお目にかかりました。ワタクシ、龍と申します。
いやはや、人間から貸して頂いた流行りの文庫を家に帰って熟読してみたところ、属に言う「別の世界に記憶を持ち越して生まれ変わる物語」、通称「神様転生」というジャンルの文庫でしたな!主人公は何やら死ぬと時間が巻き戻るという特異体質持ちであるとフムフム…。
ハッ、いかんいかん。ついつい熱中してしまうのは悪い癖でありますな!ちなみにワタクシ的には「神様転生」というジャンルは非常に好みでございます。
なぜかと申しますと、神様転生というジャンルにおきまして「龍」という種族が強弱は別として友好的に描かれている事が多いからでございます。
あとは神様転生で『龍に転生』するという作品も読んだことがございますが…突っ込みどころ満載ながらも楽しませていただいた記憶が御座いますな!ただし龍的に人間の女性の胸部や男性の筋肉に魅力を感じる事はありませんので、そこだけは訂正させていただきたい所存。
そもそもワタクシ的な意見を申しますと、大多数の龍は龍と子をなしますので人間と恋愛の挙句恋人関係などのラブコメディは突っ込みどころ満載なわけでありますな。少数派として人間に化けれる親戚は人間と子をなしたりしておりますが、あれはほんの一握りで御座います故に。
ととと、話が逸れましたが「神様転生」はワタクシ的には好みのジャンルで御座います。
ワタクシが言うの何なんですが龍は寿命がとてつもなく長く、ちょっとしたことでは傷すらつきませんし病気もしません。故に、『死んで転生する』という考え自体がワタクシタチ龍には無いのです。どちらかというと『長生きして好き勝手やって自然に帰る』という考え方が龍的一生の迎え方で御座います。
ただ、ワタクシは文学に触れております故に、一度は転生をしてみたいなどと思う生臭龍でございます。
「龍神殿、おられますか!」
ぬ?余計なことを考えていたら何やら来客の雰囲気。ワタクシの家に来る方々と言えば同族かエルフかドワーフか、はたまた精霊か。いずれにせよいつもお世話になっておりますので無下には出来ぬ。ということで「あいやまたれい!」という意味を込めて家の中から一鳴き。そしてペンと紙を持ち出して玄関まで急ぎ足で御座います。客人を待たせてはならぬ。
ちなみにここに来る皆様、なぜかワタクシを『龍神殿』と呼びますが、ワタクシは神などとは恐れ多い只の『龍』で御座います故に勘違いなされぬように。
◆
「龍神殿!また鱗を頂戴したく存じます。献上品は…その…申し訳ございません。また我が里特産品の紙ではあるのですが…」
来客はエルフの族長であった。そして、なんと我が筆談の肝である紙を持ってきて頂けたとのこと!
「…なんとか、なんとか龍神殿の鱗を分けて頂きたい!疫病が村に蔓延してしまってどうにもならぬのです!」
む、それは一大事。疫病によって人間の街が一晩で死の街になったという話も雷龍から聞いたことがある。今回の疫病がどの程度のものかは判らぬが、エルフの街が壊滅してしまえば、ワタクシの対話の生命線である紙が無くなる。それは御免被りたい所存。
というかエルフ以外にワタクシの力で破けない紙が作れないところにも問題があるようなないような。いやいや、そもそもワタクシの力が強すぎるのであろうか、龍だけに。
ともかくとして筆談である。
―疫病?―
「はい!里の半分が既に病に伏しております…。皆微熱が続き、動けなくなり、終いには血を吐き衰弱していってしまうのです。…幸いにして死人はまだ出ておりませんが、この状況では里が壊滅状態に…」
それは一大事。
―少し待って頂きたい―
さらりと紙に文字を描いてエルフへと手渡すとエルフはなんとも言えない顔でワタクシを見つめておりました。そんな顔しなさんな。ワタクシ、疫病に対する特効薬を所持しておるのです。
確か名前は………ぺに…ぺにし…ぺにしり……………思い出せぬ。前に土精霊から頂いた魔法薬があるのだ。
『お前には必要無いものだろうが珍しいから持っておけ』
と言われればワタクシのコレクション魂がうずくというもの。効能はまさに『流行り病の治療』、つまり疫病の特効薬という話であったはずだ。ワタクシの鱗なんかよりもよっぽど役に立つはずである。
えーとどこに仕舞ってあったか。そもそもあれは何年前に頂いたものだったか…。ううむ。お?これか?…違う、これはイナバの兎だかなんだかが持ってきた炎症止めとかの粉末ではないか。そういえばドワーフが生傷が絶えぬとか言っておった気がするので次に会ったら渡すとしよう。
いやいやいやそうではなくて、魔法薬だ。ええと…これではなくて、これでもなくて…ええい、寿命が長いとどうも物が増えてしまうな!一度家をひっくり返して掃除せねば。
…うーむ、どれであったかな?こいつか?いや、違うな。確かこれは精霊のアスラ族だかなんだかから頂いた酒のようなものであったはずだ。効能は忘れてしまったが確か万能薬的な物であったような…。だがこれでもない。
んー、はて、ワタクシどこにしまったものか。む、こんな場所に剣がある。危ない危ない。あぁ、そういえばこの剣の持ち主である精霊のマーリンは元気であろうか。胡散臭い語り口が好きだったのだが。ワタクシに剣を渡してからテンで姿をを見せぬなぁ。
いやいやいやいや、脱線しすぎである。………お?剣の下に何かあるぞい。…おお、確かこれだ、これである。この茶色の瓶。この中身を一粒飲めば疫病が治るという話であったはずだ。
と、いうことでエルフ殿お待たせ致しました!こちらをお受け取り下さい。という意味を込めて軽く一鳴き。
―これを皆に飲ませると良い。以前に精霊から頂いた品物で、疫病に効く魔法薬とのことだ―
「…おお!これは、ありがたく頂戴致します!ですが…」
エルフの顔は浮かない。んん?やはり、ワタクシの鱗が欲しいのか?
―ワタクシの鱗が欲しいと?―
「はい…駄目でしょうか」
ふむ、まぁ、減るものではないし。寧ろ生え変わるので増えるものであるからして。
―では好きなだけ持っていけ―
ワタクシ的には古い鱗を持って行ってくれるので願ったりかなったり。ということでその場でエルフに背中を見せて軽く一鳴き。毎度紙を持ってきて頂くのだ。エルフの頼みを断ることなどするわけがないのです。
「ありがとうございます!では、失礼致します」
なお、ワタクシの鱗、案外簡単に剥がれるようで鱗が欲しいという方々には、ワタクシの体から必要な分を直接取って頂いております。これがまたなんとも心地よい。
◆
「皆!龍神より霊薬を賜った!」
龍神様の住処より戻ったエルフの族長は、エルフの里の入り口で大声を上げる。
「お…おお!長!やりましたな!」
「あぁ…これで里が救われる!」
エルフの里の民はそう言いながら族長を囲む。それをみた族長は、袋一杯の龍の鱗を目の前に出していた。
「これだけあれば…疫病の者全員に霊薬を使用しても十分に事足りるであろう。さぁ、皆、疫病を里から追い出そうぞ!」
「「「おお!」」」
疫病に悩まされていたエルフの里は、龍神の霊薬により、わずか1週間で元の活気を取り戻すに至る。ここは共和国辺境エルフ領。古の大樹「ユグドラシル」と、そこに住む龍神に見守られた奇跡の里である。
◆銀炎龍(龍神)の鱗:即効性万能薬。寿命以外なら何でも治る。
◆龍神:共和国の辺境にある大樹「ユグドラシル」を住処とする古代龍。エルフやドワーフからの龍の呼び名。
◆エルフ:龍神を崇める種族。エルフ紙という希少な魔法紙を生産することができる。数百年たっても劣化することがない事から、国の最重要書類や有名貴族の絵画、後世へ残す技術資料などに使用されることが多い。だが、絶対数が少なく非常に高価で非常に希少。人間との交流も行われており、主にエルフの行商が人間の街で商売を行っている。
◆龍:龍神、及び銀炎龍の中の人。古代から大樹『ユグドラシル』をマイホームとする龍。マイペースの極み。実はおとぎ話や伝承に出てくる品物のオリジナルを相当数所持している。
◆大樹『ユグドラシル』:宇宙にまで届く生命力あふれる巨大な魔法樹。近くには強力な魔物や化け物が生息しているため人間は近寄ることができない。
樹液・樹皮・幹・葉・花・実といった大樹の各部位は貴重な高級素材として高値で取引されるため、ユグドラシルの近くに里を構えるエルフやドワーフの貴重な収入源の一つとなっている。
龍はユグドラシルの下部に空いた孔に、自らの家を構えている。孔の大きさは東京ドーム2個分ぐらい。