ワタクシ、龍で御座います。   作:灯火011

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ワタクシ、龍で御座います。

 以前読んだ文庫に「鶴は千年亀は万年」という言葉が御座いました。『鶴は千年生きる、亀は万年生きると言われていることから縁起の良い言葉』という諺で御座います。
 ワタクシ、万年を超えて生きておりますので、諺になぞらえれば「縁起の良い龍」という事で御座いましょうか。

 しかしながら、万年以上を生きますと、どうしても物が増えてしまうのです。

改めまして、ワタクシ、龍で御座います。



掃除()

 またまた、お目にかかりました。ワタクシ、龍と申します。

 

 いやはや、エルフの来客以来こりゃいかんと思い立ちまして、我が家の整理整頓をしているわけで御座いますが、これがなかなか片付かないので途方に暮れている次第です。更に埋もれていた品物を掘り起こしていくと、懐かしい品が多数出てくるわけでございまして、思い出しながらあの方は何をしておるのか…などと物思いに耽ってしまうわけでありまして、更に整理整頓が遅れるわけで御座います。負の連鎖とはよく言った物。

 例えばで御座いますが、精霊のマーリンから頂いた数種類の剣はその筆頭で御座います。名前は確か…エクスカリバー、デュランダル、アロンダイト、クラレント…などなど多数の煌びやかな剣をいただいたので全部の名前は記憶してはおりませんが、すべてが懐かしい品でございます。そしてその時々にお会いしたアーサーやらモルドレッドといった人間は今頃何を…というか生きておられるのかもまた気になるところでございますな。ただ、間違いなくワタクシよりは短い生であります故、彼らが幸せに生きたことを祈るばかり。

 

 いかんいかん、こんな風に物思いにふけっていると時間を消費してしまうわけでありまして、…まぁまだまだワタクシには万年どころかそれ以上の時間はあるわけなのですが、それでも確実に寿命に向かってまっしぐらなわけで御座いますので時間は無駄にはしたくない所存でございます。改めていかんいかんと頭を振って思い出の品々を仕分けしているわけで御座います。

 

 ただ、ここで気をつけないといけない事が一つ御座います。俗にいう『曰くつき』という品物が世の中には御座いまして、人間やドワーフやエルフや精霊、はたまた同族の龍がどうにもこうにもならなくなった品物をワタクシに預けに来ることが御座います。実際、我が家はそこそこ広いわけでありまして、『預かるだけなら』ということで多数の『曰くつき』な品物が至る場所に置いてあるわけで御座います。

 

 例えば…エクスカリバーの下になっていたこの小さな箱。じっぽん…にほん…昔過ぎて思い出せぬわけでありますが、そんな国の人間が私のもとに来て置いて行った曰く付きで御座います。

 曰く『コトリバコ』という名前だそうで、呪いを封じ込めた箱、とのことでしたが、ワタクシこう見えても頑丈な龍であります故に、特に代り映えなく生活を営んでおります。ただ、以前ドワーフの子供がこれに触れた時は苦しんでおったので、それ以来はワタクシ以外に触らせないようにしております。

 

 あとはこちらのリョウメンスクナのみ…み…みい………なんていったか、思い出せぬ……近しいものでいえば、干物でございます。これも先のコトリバコと同じ国の人間から頂いたもので御座いますが、こちらはなかなかの曲者で御座いました。どの程度曲者かと申しますと、頂いてから数日、龍であるワタクシが動けなくなる程の曲者で御座いました。いやはや、曰くとはついて回るものです。

 実際、この干物は『国を滅ぼす呪い』というとんでもない曰くがついているそうで御座います。とはいえ、ワタクシは龍、つまりは頑丈でございますので、呪いに慣れてしまえばこちらの物。今では特になにも感じることはなく、現に『打ち出の小槌』の下になっていたのを救出した次第でございます。

 そういばこの『打ち出の小槌』もなかなかの曲者でございまして、ふればふるほどその者にとっての宝物、ワタクシの場合は文庫などがそれにあたるのですが、宝物を次々と出すことができる、一見すれば良いものに御座います。ですがこの『打ち出の小槌』で出たものは…こちらにあります鐘を鳴らしてしまうと幻へと姿を変えてしまうものでございます。一時の夢を見るには最適でございますが、夢を見すぎるというのもまた曲者でございます。

 

 ふむ。こう掃除を続けていますと改めて、ワタクシは持ち物が多いなと思う次第で御座います。これでも同族に『曰くが無い』様々なものを差し上げたり、エルフやドワーフに譲ったりと数を減らす努力をしているのでございますが、いかんせん集まる方の速度が上なのでございます。

 

 お、これは人化の薬。確か、月の姫とやらに頂いた逸品なのでございますが、ワタクシは普通の龍なので特に魅力を感じませぬ。ただ、同族の何名かに薬を譲った記憶があるのでございます。確か…土竜に渡した記憶がございますが、今では商人をやって人間でいうところの富豪になっているのだとか便りを頂戴したことも御座います。

 …いやまてよ、もしこれで人化すれば文庫を読み放題という奴ではないのか?しかしこの薬の副作用は龍に戻れぬという呪いのようなもの。いやいやいやそこまでして文庫を読みたいかというとそうでもなし。そもそも龍の姿で文庫を読むというのが夢。浪漫で御座いますな!

 

「おおい!龍神殿ぉ!ちょっと相談事があるんだが時間あるかねー!」

 

 聞こえてきたこの豪快なお声はドワーフ殿ではないか。なれば無下には出来ぬ。掃除は一旦止めにして出迎えなければ。

 

 あいやまたれいと一鳴きし、エルフ紙とドワーフペンをさっと取り出し…ぬ、はて、どこに仕舞ったか…。客人を待たせてはいかぬのは鉄則だが、意志が伝わらぬのは更にいかんわけでございます。片付けしているうちに何かの下に入ってしまったか?

 おっと、首筋に纏わりつくこの感じはリョウメンスクナ殿の呪いの感じ。どうされた?なになに?私の下に紙とペンがある?おお、これはリョウメンスクナ殿、感謝致す。…あぁ!そうでありますな!ミイラ、ミイラですな!確かに干物ではあまりにもと思ってはいたのですが、いやはやどうも物が多いと思い出せぬもので。ああ、これは申し訳ない。そうですな。客人を待たせてはなりませんな!

 

 

 

「久しいな龍神殿!壮健でなによりですわ!」

 

―ドワーフ殿も壮健で何より―

 

「それにしても後ろ散らかってますな!大丈夫ですかい?」

 

―物が多くなってきてて片づけをしていた。気にするな―

 

「ほー!いらねぇ物でもあったらまた頂けると助かりますや!龍神殿の持ってるもんは良い試金石になりますからな!」

 

―害のないものを見繕おう。して、相談事とは?―

 

「ああいけねぇ、いつもの癖で。実は鉱山で落盤事故がありましてな。幸い死人はおらなんだが」

 

―ふむ―

 

「腕と足を無くしちまった奴が多くてなぁ。我らドワーフは体が資本。何かこう、治せるもんをもってねぇかと思って足を運んだわけですわ」

 

―少々待たれよ。いいモノがあるやもしれぬ―

 

「おう。悪いな龍神殿」

 

―気にするな、ペンの礼がまだ返し切れて無いからな―

 

 

 さてさて。ドワーフ殿にはペンの他にも棚や寝床でお世話になっている分無下には出来ぬ。それにしても、腕や足を戻すものと来たか。以前からドワーフ殿に渡そうと思っていた因幡の妙薬は、生傷には効くと言われていたが流石に腕は生えぬだろう。しかし落盤事故ということであれば、生傷を負った者も多いであろうし、どちらにせよ渡すとして、うーむ、色々思い出してみてもなかなか腕や足を生やすものというのはてんで思いつかぬ。

 ううむ…これは行き詰まった。行き詰まった。龍的には腕を失おうが羽を失おうが勝手に生えてくるわけで、てんで気にしていないわけでございますが、龍以外にとってはそんなことはあり得ぬという事は当然の事。うーむ、うーむと頭をひねってみてもいいモノがてんで何も思いつかぬ。

 

 打ち出の小づち…では消えてしまうし、ペニシ・・・ペニシ・・・前にエルフに渡した薬は疫病には効くが傷に効くのかてんで判らぬ。アスラ族の酒は万病に効くとは言われるが、やはり…。

 

 ぬ?リョウメンスクナ殿。どうされた。今日はなかなかに絡んで参りますな。ワタクシがリョウメンスクナ殿を預かったあの日を思い出しますな!いやー!3日も動けぬようになるとは思いもしませんでしたな!ふむ…黒歴史?忘れてくれ?…あいわかった。して、どうされたのです?干物呼ばわりしてしまった事をまだ根にもっておられる?いやいや、本当に悪いと思っておるのですが…、そうじゃない?

 

 パラケルとかいう奴から貰ったエリクシルなら効くんじゃないか?

 

 …………ああ!ありましたな!ありましたな!曰く、手足欠損ですら直る万能薬と言っておられた!リョウメンスクナ殿、よく覚えておりましたな!いやいや、ともすればリョウメンスクナ殿を物置の片隅に置いておくなど畏れ多い。ぜひ入り口に…それは不要?ふむ。遠慮せずとも。…暗いところが好きと。あいわかった。であれば奥の部屋の棚など如何でしょうか。おぉ、ではればそこに!…コトリバコと一緒でございますか。構いませぬが…あぁ、同郷なのですね!それは失敬失敬。

 

 おっといけませぬ。ドワーフ殿を待たせておりますので一旦これで。

 

―待たせた。これらを持っていくといい―

 

「ほほお。これまた大量に。いいんですかい?」

 

―塗り薬は生傷に、飲み薬は手足を失ったものに飲ませるが良い―

 

「ありがとうございます。龍神殿。いやぁ!流石ですなー!」

 

―気にするな―

 

「ああ、それと、また龍神殿の鱗を頂けないですかい?溶かして鉄に混ぜると良い硬さになるんですわ!あと酒に浮かべてもいい味になるんですわ」

 

 ほほう、ワタクシの鱗にそんな効果があったとは!初耳でございますな。なんにしても、お世話になっているドワーフ殿です。

 

―構わん。好きなだけ持っていけ―

 

 意味を込めて一鳴き。いやはや、ワタクシにとって鱗とは生え変わるもの。いわば不要なものなのですが、エルフ殿やドワーフ殿には役に立っておるようで、何が役に立つのかわからんものですな。

 

 

 

「おおい!帰ったぞー!」

 

「族長!ご無事で!」

 

「ご無事ってお前龍神様んとこだぞ。あぶなかねぇよ」

 

「判ってはいるのですが、相手が龍神様となると…」

 

「あの人はそんな小さな器なモンか!!見やがれ!」

 

 ドワーフの族長が、大量の薬を掲げ、大音声を上げる。

 

「傷があるやつぁこいつを塗れ!手足無くなった奴はこいつを飲め!治るぞ!」

 

 そういって腕が無くなっているドワーフに、エリクシルを飲ませる。と、あっという間に腕がもとに戻っていた。驚くドワーフを尻目に、族長は更に言葉を続ける。

 

「治ったら龍神様から頂いたウロコで鍛冶仕事だ!やるぞテメェら!」

 

 そういって掲げた手には、龍の鱗が七色に輝いていた。それを見たドワーフたちの目の色が変わる。そして、声を合わせ、族長に負けぬ大音声で答えを返した。

 

「「「「応!」」」」

 

 ドワーフ族は龍神の薬により、落盤事故があったにもかからず、数日で元の活気を取り戻すに至る。ここは共和国辺境ドワーフ領。古の大樹「ユグドラシル」と、そこに住む龍神に見守られた奇跡の里である。

 




コトリバコ…女子供絶対呪い殺すマン
リョウメンスクナ…国滅ぼすマン。意識のようなものがあるらしい

龍…呪いなんて大概無効な万能龍。中身が俗物なのが玉に瑕

龍の鱗…即効性万能薬。死ななければ大体治る。コトリバコ程度の呪いなら即効である。実は体の欠損も治るのだが、誰もそのことを知らない

ドワーフ鋼:龍の鱗を溶け込ませた特殊鋼。龍のペンの材料でもある。硬度がダイヤモンドよりも固いのにも関わらず、しなやかさは竹以上のものがある。加工には技術が必要。ドワーフの里の特産であるが、ドワーフ鋼はエルフへしか取引されないため、人間の里で見ることは無い。

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