マクロスΔ 紅翼星歌〜ホシノツバサ〜   作:ハシタカノミコト

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Mission03 再会 フェイト II

アイシャの部屋を後にしたオレは、何となく風に当たりたくなった。

というか色んな情報を詰め込んだせいで頭がパンクしそうだ。少し冷やしたい。

 

アイテール甲板に出ると、ハリーやガイが抜けるような青空の下、オレたちデルタ小隊の〈VF-31〉の整備を行っているようだった。

その向こうではアラド隊長とメッサーが空を見上げている。

 

「アラド隊長、メッサー、何してるんだ?」

 

「今ウチの真っ直ぐ娘が新入りの願いを叶えてるところだ」

 

「願い?」

 

空を見上げればミラージュの〈VF-31C〉が飛行機雲を引きながら飛んでいた。

あれアクロバット飛行に交えて墜ちない程度に無茶苦茶なマニューバ組み込んでないか?

一体どんな願いなんだ……。

 

しばらく眺めているとミラージュ機が甲板へ戻ってくる。

ガウォーク形態で着艦し、ミラージュはあんな無茶苦茶なマニューバをした後だというのに、涼しい顔で降り立つ。

それに続くように、新入りことハヤテ・インメルマンが後部座席から落ちるように出てきた。

だが、ハヤテはまるで生まれたての子鹿のように足はガクガク震えており、えずいている。

 

「これで飛ぶってことがどういう意味かわかったでしょう」

 

いや……あれ飛ぶって言わねーだろ。

たぶんワルキューレのアクロバットでもあんな飛び方しないぞ。

ツッコミたい気持ちをグッと堪える。

 

「というわけでミラージュ。お前にハヤテ候補生の訓練教官を命じる」

 

「はぁ!?」

 

「ひと月で使えるようにしとけよ」

 

「待ってください!アラド隊長!」

 

そう言って隊長とメッサーは去っていった。

この場にはオレとミラージュ、そして今にも吐きそうなハヤテが残される。

 

「はぁ……」

 

「大変だな、ミラージュは」

 

「他人事だと思って……!」

 

キッと睨まれたので慌てて目を逸らす。

ついでに口笛も吹いて誤魔化しておこう。

 

「俺は……絶対……」

 

するとハヤテがヨタヨタと生まれたての子鹿のから酔っ払いの親父のような千鳥足でこちらへ向かってくる。

その顔は明らかに青くなってる。

いや、青を通り越して紫色だ。

 

「空を……うぇっぷ……」

 

「え?ちょっ、こっちにこな——」

 

ミラージュは逃げようとするが時すでに遅し。

ハヤテの胃から逆流したものを盛大にかぶった。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

その日、ラグナの空にミラージュの悲痛な叫び声が響き渡った。

あぁ、懐かしいなこの感じ、オレも新統合軍に入った時、こんなんだったなとつい思い出してしまった。

 

 

 

 

 

 

ゲロったハヤテを医務室に連行したオレは、〈マクロス・エリシオン〉を離れ、〈裸喰娘娘〉近くの浜辺に来ていた。

 

夜の海も綺麗だが、黄昏時の浜辺というのもまた新鮮だ。

波の音を聴きながら風に当たっていると、黒猫のような海猫が陸へ上がって来た。

上半身は猫、下半身がアザラシの、明らかに合成獣(キメラ)にしか見えないこの生物はラグナ特有の種族らしい。

下半身がアザラシみたいだが、実際のところは猫みたいなもので、バレッタシティでは至る所で見受けられる。

観光客にもそこそこ人気があるらしい。

 

「ほーれおいで〜」

 

呼んでみると意外と人懐っこい性格の奴だったらしくにゃーんなんて鳴きながら寄ってきた。うい奴めこのこの。

頭を撫でたり顎の下を撫でたりするとゴロゴロと気持ち良そうな声を上げる。

 

(何か持ってたかな……?)

 

ポケットをごそごそあさるが、あいにく何も入ってなかった。

 

「ありゃ悪いな。何にも持ってないわ」

 

魚肉ソーセージの一つでもあればよかったんだが、無い物はしょうがない。

 

「はいこれ」

 

「お、サンキュー」

 

後ろから魚肉ソーセージが差し出されたので、ありがたく受け取る。

ビニールを剥いて千切って……ん?

ちょっと、待て。誰がくれたんだ?

 

「……?」

 

背後を振り返ると、そこにはワルキューレの制服を着た美雲が立っていた。

 

「おわぁぁぁ!!」

 

いきなり背後に立たれたら驚くのは当然で、しかも音もなく現れたもんだから、前のめりになり、砂浜に顔面から突っ込んでしまった。

 

「ぷはっ!……いきなり登場しないでくれるか?」

 

ちょっと口に砂入った……ザラザラする。

海猫はオレなんか無視して魚肉ソーセージに夢中だし。

 

「声かけたわよ。今」

 

「そうじゃなくて」

 

できれば食べ物を差し出す前に声をかけて欲しかったという意味で言ったんだが……。

なんかさっきもこんなやり取りを別の奴とした気もするぞ。

 

「何してたの?」

 

「見ての通り、猫と戯れてた」

 

海猫はまだ魚肉ソーセージにお熱らしく、こちらには見向きもしない。

 

「……さっきまで戯れてた」

 

「フフッ、そう」

 

美雲はそのまま自然にオレの隣へ腰を落ち着ける。

また止める暇もなかった……。この人は古代日本の忍者の末裔なんだろうか。

 

「そういや今日新メンバーのオーディションだったんだろ?合格者は出たのか?」

 

「ええ、1人ね」

 

「ほほう」

 

と言うことは次からワルキューレは5人組のユニットとして活動するわけだ。

そういやアイシャと話したフレイアはどうなったんだろうか、あれっきり見かけてないけど。

 

「へぇ、なんて奴なんだ?」

 

「フレイア・ヴィオン」

 

「ふーん。……は?あの娘が?」

 

予想外、完全に予想外だった。

あの娘に悪いかもしれんが、正直合格するとは思ってなかった。

……そうか、合格したのか。

 

「あら、スバルは知ってるの?あの娘のこと」

 

「んー……アル・シャハルで少し会っただけだからな。でもまあ知ってるっちゃ知ってるのか」

 

魚肉ソーセージを食べ終えた海猫が再びこちらへ擦り寄ってくる。そしてそのまま膝の上に乗ってきた。

 

「どうやら懐いたみたいね」

 

「甘えれば餌をくれるって勘違いしてるだけだろ?」

 

まあ罪のない生き物を無下にするわけにもいかん。

さっきと同じように頭とかを撫でたりしてやるか。

 

「——あの娘の歌は私たちと同じ力がある」

 

「それって……」

 

確かフォールドなんとか因子がどうたらこうたらとか、フォールド波がどうたらこうたらって話か。

つまりアイシャの仮説は正しかったってわけだ。

 

「ちょっと期待外れだったけどね」

 

「ははっ、そっか」

 

美雲の評価は相変わらず辛い。

たぶん美雲はその人の本質的なものを見て、そういう評価をしているんだろう、きっと。

 

美雲と話していると、辺りはだんだん闇に飲まれ暗くなっていく。

水平線の彼方に太陽が沈み、心なしか気温も下がった気がする。

 

「そろそろ帰るか」

 

「そうね」

 

立ち上がり、服についた砂を払う。

さっきの海猫はオレの足に引っ付いたまま離れようとしない。

……参ったな。

 

「美雲の言う通り懐かれたのかこれ」

 

ナフッ!と返事のように咳をする海猫。

 

「またね、スバル」

 

「え!?」

 

あれ、美雲この状況無視?何も手伝ってくれないの!?

声をかける間も無くさっさと帰っていく美雲を止めることすらできず、浜辺に取り残されるオレと海猫。

 

「はぁ〜〜」

 

黄昏の空にオレの深いため息だけが溶けていった。

 

 

 

 

 

 

あの後、何度突っぱねても戻ってくる海猫をどうにかこうにか帰すことに成功し——帰り際すごく悲しそうな顔でこっちを見てて心が痛くなった——〈裸喰娘娘〉への帰路についていた。

 

「あの海猫に悪いことしたかな……」

 

若干オレ自身もさっきの海猫に後ろ髪を引かれつつトボトボ歩いていると、目の前を見覚えのあるモヒカンが歩いていることに気づいた。

 

「メッサー?」

 

「ん、スバルか」

 

やっぱりメッサーだった。

たぶんラグナ中探してもこの頭の男はメッサーだけだろう。

 

「メッサーは帰り道か?」

 

「そんなところだ」

 

「…………」

 

「…………」

 

無言。ただただ無言。

会話を続ける気がないのか、話したくないのかよくわからん。

この1週間模擬戦ばっかりやらされたせいで少しは仲良くなったつもりだったが、それでも足りないらしい。

 

「あの候補生……」

 

「ん?何か言ったかメッサー」

 

「お前はあの候補生をどう思う」

 

候補生って、ハヤテのことか?

どうって言われてもな……。

 

「アル・シャハルでの映像を見る限りは有望そうではあるが……あの様子じゃあな」

 

ありえない軌道のフライトだったとは言え、吐いてしまうようでは、可変戦闘機乗りとしてはまだまだ素人と言ってもいい。

おそらく本当の戦場も知らないんだろう。

 

「そういうお前はどうなんだ?」

 

「……俺にとっては誰であろうと関係ない。いずれ死ぬことに変わりはないからな。あの候補生もお前もな」

 

そう言うとメッサーは先に行ってしまった。

やれやれエースパイロットは言うことも手厳しいね。

 

オレは1人でどんどん進むメッサーを小走りで追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

〈裸喰娘娘〉に着くと、入り口付近で何やらしているチャックとカナメが見えた。

ハヤテとフレイアの姿もある。

 

「へっくし!」

 

ハヤテは桟橋の真ん中に座り込んでくしゃみを連発している。風邪のひき始めか?

パイロットは身体が資本なんだから体調管理も仕事のうちだぞ。

 

「邪魔だ」

 

道を塞ぐハヤテに向けてメッサーの短く鋭い抗議の声が発せられる。

 

「アンタは……」

 

立ち上がるハヤテの言葉を遮るように〈裸喰娘娘〉から黄色い声が飛んでくる。

 

「メッサー〜おかえりなさ〜い!スバルも〜〜!」

 

「お魚〜〜〜!」

 

やっぱりマリアンヌだった。

隣にはなぜか泣き崩れるマキナとスルメを齧るレイナがいる。

 

「何があったんだ一体……」

 

〈裸喰娘娘〉はいつも騒々しい。

いろんな意味で、良くも悪くもだけどな。

 

「スバルもいたのか。っておかえりなさい?……そっか、ルームメイトか」

 

「ちょうどよかった。メッサーくん、一緒にご飯食べていかない?」

 

「いえ、自分は済ませてきましたので」

 

カナメさんの誘いを二つ返事で断り、メッサーは先へ行ってしまう。

 

「そう。また今度ね」

 

メッサーのああいう所にカナメさんは慣れっこらしく、返事も手馴れていた。

 

「スバルくんは?」

 

「あ、じゃあご一緒しようかな」

 

オレはもちろんオーケーだ。

綺麗な人からの誘いを断るなんてナンセンスだぞメッサー。

それがアイドルならなおさらだ。

 

「じゃあ行こっか」

 

カナメさんが先導し、ハヤテ、フレイア、オレと続く。

この日は、カナメさんの奢りということで、夜遅くまでどんちゃん騒ぎだった。

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